母の問い掛けにも答えずに寝室に行くと、彼に車で送ってもらったのか、すぐに妻が入って来ました。
「あなた、ごめんなさい。許して下さい」
妻は泣きながら土下座しましたが、許せるはずが有りません。
「許す?許せる訳が無いだろ。今有る通帳と印鑑、キャッシュカードを全て出せ」
「許して下さい。お願いですから、話を聞いて」
「まずは俺の言った事を先にしろ」
私は妻が出してきた物全てをポケットに入れました。
「これは財産分与として俺が貰っていく。お前のような女の家族に、今まで散々金を使ってきたから、文句は無いな?それと子供達はアパートが見付かり次第迎えに来る。
お前のような淫乱な女に育てられては、子供達もまともには育たない。
それと慰謝料は1千万。
おまえの得意なセックスで稼げる、風俗にでも勤めれば軽く払える額だ。
不服が有るなら裁判をする。じゃあ」
「待って。話だけでも聞いて」
その時、心配で立ち聞きしていたのか、母が血相を変えて飛び込んできました。
「哲也さん、待って。いったい何が有ったの」
「裕子と相手の男に聞いて下さい」
「相手の男?裕子!あなた、まさか」
妻は一層激しく泣き出し、母は何も言えずに立ち尽くしていました。
私はこのまま家を出てホテルにでも泊まろうと思いましたが、母が私の足にしがみ付いて放しません。
「哲也さん、ごめんなさい。私からも謝りますから、裕子の話を聞いてやって。お願い。お願い」
母を足蹴にするわけにもいかずにその場に座りましたが、妻は泣いていて何も話せません。
「裕子!泣いていないで、何か言いなさい」
「あなた、ごめんなさい。でも彼とは身体の関係は無いの。確かにあなたに嘘を吐いて2人で会っていました。でも私はあなたが好き。彼とは恋愛ゴッコをしてしまったの」
「恋愛ゴッコ?でも確かに彰君が好きと言っていたよな?」
「彼は真面目だから、逆にそうでも言わなければ何をされるか分からない」
「さすが30歳を過ぎて大学に合格した秀才。言い分けまで考えて有ったのか?それなら先週の旅行は、誰と行ったのか言ってみろ。全て聞いたぞ」
「それは・・・・・・・」
「2人だけで旅行に行って、身体の関係はないなんて、よく言えるものだ。それを俺に信じろと言うのか?30歳を過ぎた女と、20歳を過ぎた男が一夜を共にして、何も無かったと言うのか?」
「でも本当に身体の関係は無いの。それだけは信じて。お願い、信じて」
「俺が若い女と旅行に行ったら、裕子は信じられるか?」
「信じられないかも知れない。でも本当に何も無かったの。お願い、信じて」
「それなら、どうして旅行など行った?」
「別れる為に・・・・・・」
「別れる為に旅行に行った?意味が分からん。奴との事を、最初から詳しく話してみろ」
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入学して1ヶ月もすると皆それぞれ友人が出来て、何人かで連れ立って昼食をとる様になりました。
しかし、妻は それを羨ましく思っても、歳が違う事もあって、すぐには皆に溶け込めずに、いつもベンチで一人パンを齧っていたそうです。