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浪人生の俺が図書館で声をかけた女の子のこと
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28 :タクロウ:2012/10/13(土) 15:51:33.21 ID:xb55BC3Y0
なんとなく居づらくなって二人で図書館の外のベンチに座った。一度話しだすと、まだまだ話していたくて

俺:「ああ、ちょっと飲み物買ってくるわ、なんか要る?」

チサト:「いや、大丈夫だよ。俺君勉強に戻らなくていいいの?」

俺:「あ、俺は大丈夫。ごめんね。これからどっか行くとこだった?」

チサト:「まあ、どこっていうのもないんだけどね。」


29 :タクロウ:2012/10/13(土) 15:52:44.69 ID:xb55BC3Y0
なんかココまでの会話で引っかかるものを感じていた。

質問への答えがいつも曖昧なのだ。


だが、この時の俺はそれに気づかなかった。

いや、気づかないことにしたのだ。

目の前に話し相手になってくれる絶好のチャンスがあったから。

俺:「じゃあ、ちょっと話していこうよ。」

チサト:「(クスクス笑いながら)うん。まあ、今日はけっこう暇だし。」


30 :タクロウ:2012/10/13(土) 15:53:22.03 ID:xb55BC3Y0
それから夢中で喋った気がする。何を話をしたかはハッキリ覚えてないけど、

高校時代のクラスメイトのうわさ話とか、行事の思い出とか話題はいくらでもあった。

とにかく俺は会話に飢えていた。

気がつくと周りはすっかり日が落ちて図書館には閉館の曲が流れていた。


31 :タクロウ:2012/10/13(土) 15:54:47.71 ID:xb55BC3Y0
急いで荷物を取りに行くと彼女は申し訳なさそうに

「ごめんね。勉強の邪魔しちゃったんじゃないかな?」と聞いてきた。

俺:「いや、こんなに人と話せたのは浪人始まって以来初めてだよ。あ、そうそう。この図書館よく来るの?」

また、話がしたいって思ったんだ。




32 :タクロウ:2012/10/13(土) 15:55:36.48 ID:xb55BC3Y0
チサト:「うん。最近よく来るかな。そういう時期だし。」

なんか今ひとつ理解できなかったが、彼女がこれからも図書館に来る可能性があることに俺は狂喜した。

その日は家に帰ってからも何だか嬉しくて眠れなかった。


次の日、俺は期待して図書館に出かけたが彼女はいなかった。

勉強を15分おきぐらいに中断しては図書館中を徘徊して彼女を探した。

いない。


33 :タクロウ:2012/10/13(土) 15:57:23.54 ID:xb55BC3Y0
それから2週間ほど経ったある日の夕方いつもの用に徘徊していた俺は彼女を見つけた。

俺:「おお、また会ったね。」

チサト:「俺君、本当に図書館に毎日来てるんだね。」

俺:「他に行くとこないしな。」

チサト:「あたしも似たようなものかも・・・」

俺:「え?」

チサト:「ああ、にしないで」

その頃からだ。

何か彼女の影を感じ始めたのは。

会話の端々に現れる違和感。


35 :タクロウ:2012/10/13(土) 15:59:09.21 ID:xb55BC3Y0
最後のチサトの言葉は

「ああ、気にしないで」

でした。ごめんなさい。


36 :タクロウ:2012/10/13(土) 16:00:10.57 ID:xb55BC3Y0
それから僕らは図書課の近くの公園のベンチで話し込むのが日課になっていた。

季節は夏に向かっていた。

初夏のベンチで缶コーヒーを飲みながら僕らは日が暮れるまで話続けた。

その晩、ケータイの番号とメールアドレスを交換して別れた。

ケータイは浪人した時に買った。アドレス帳に登録してある名前を見ると友達がいるって実感できて安心した。


37 :タクロウ:2012/10/13(土) 16:01:45.40 ID:xb55BC3Y0
ケータイで連絡取り合うようになってから彼女と会うのは楽になった。

俺メール:「今日も図書館来る?」

チサトメール:「今日は18:00くらいに行くかな」

もう、夕方から夜まで公園のベンチで話すのは日課になっていた。

雨の日はコンビニの軒下や公共施設で話し込んだ。


38 :タクロウ:2012/10/13(土) 16:02:59.15 ID:xb55BC3Y0
しかし、彼女について俺はあまりにも知らないことが多いことに気がついた。

家族構成、住んでる所、昼間なにをして過ごしているのか自分のことは一切話そうとしなかった。


39 :タクロウ:2012/10/13(土) 16:04:16.71 ID:xb55BC3Y0
だんだん、話す時間が長くなって22時を過ぎても話し込んでた。

不審に思った俺の親から携帯に電話があって

母:「お夕飯冷めてるよ。図書館閉まったでしょ?何やってるの?」

俺:「ああ、ちょっと友達と会ってさ。久しぶりだから遅くなる。夕飯は温めて食べるよ。」

親は俺が他人と話したくてノイローゼ気味になってたの知ってたから友達と話してるって言ったら急に優しくなった。

で、その時ようやく気づいたのだ。

彼女の親は心配しないのかと・・・




40 :タクロウ:2012/10/13(土) 16:05:33.63 ID:xb55BC3Y0
俺:「あのさ、最近毎日話してるけど、家の人さん心配しないの?」

チサト:「さあ、どうなんだろ。(笑顔)」

俺:「まあ、引き止めてる俺が悪いんだけどさ。あんまり遅くならない方がいいね。俺、送って行くよ。」

チサト:「ああ・・・気にしないで。大丈夫。ホント。」

俺:「でも・・・家、遠いの?」

チサト:「いいから、いいから。本っ当に大丈夫だから。俺君も早く帰らないとお母さん心配するよ。」


41 :タクロウ:2012/10/13(土) 16:07:05.07 ID:xb55BC3Y0
その日俺は一人でとぼとぼ帰った。

彼女の家には何か問題がある。

鈍感な俺でも薄々気づいてきた。


42 :名も無き被検体774号+:2012/10/13(土) 16:07:54.69 ID:LtRrKX+40
ふむ


43 :タクロウ:2012/10/13(土) 16:08:55.15 ID:xb55BC3Y0
8月。

世間はお盆休み真っ盛りだったが、無職自宅浪人の俺は そもそも毎日夏休みなので実感が湧いてなかった。

チサトと話していたある夕方だった。

高校のクラスの問題児だったヤツの話に盛り上がっている時に気が大きくなっていた俺は

「普通の家は両親が揃ってるもんじゃん。あいつは片親だからさ。」

と、普段だったら決して口にしないような発言をした。


44 :タクロウ:2012/10/13(土) 16:09:34.22 ID:xb55BC3Y0
言葉にした途端。その言葉が凍りついて目の前に落ちてきたような気がした。

俺とチサトの間が一瞬凍りついたのだ。

チサトは笑顔で「ああ、そうだね〜」とか言っていた。

でも、目が悲しそうで、寂しそうだった。


45 :タクロウ:2012/10/13(土) 16:10:39.93 ID:xb55BC3Y0
俺はとっさに謝った。

「あ、ごめん・・・その・・・俺の家庭がスタンダードみたいな言い方は良くないよね。」

チサトは一瞬息を吸い込んで

「俺君は謝らなくていいと思う。幸せな人は幸せのままでいいと思う。」

俺:「・・・」

チサト:「・・・」

その時だった。


46 :タクロウ:2012/10/13(土) 16:12:28.49 ID:xb55BC3Y0
俺はチサトの手首に切り傷を見つけた。

一瞬だったが、彼女は俺の視線を見逃さなかった。

ぱっと彼女が動くのと、俺が彼女の腕を掴むのが同時だった。

俺:「この傷は・・・」

チサト:「俺君は・・・知らない方が良い。」

俺:「でも・・・」

チサト:「世の中にはね、俺君みたいな幸せな人は知らないことがいっぱいあるの。とにかく私は大丈夫だから。」

彼女はその日は足早に帰っていった。



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カテゴリー:男女・恋愛  |  タグ:青春, 相手の過去,
 


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