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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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410 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/14(月) 12:12:14.49 ID:R20nqEHV.net
もちろん、当時の俺は大まじめだった。

いまなら呆れるようなこのリストを、大まじめに考えて、丁寧にノートに書き付けたのだ。

それは、目標が目標だから、あまり褒められたもんじゃないことは確かだ。

でも、このリストを見るたび、俺は あのころを思い出す。

そして、少し懐かしいような、微笑ましいような、それでいて、息苦しくて胸が締め付けられるような、そんな気持ちになる。

これは、俺の過去の姿そのものだった。

それも とんでもなくリアルで、ありのままの。

ここには、まだ、あのときの俺がいる。14歳の少年の、あまりに純粋な闇がここに息づいている。

俺はそれを感じて、どうしようもなく胸が締め付けられるんだ。



411 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/14(月) 15:33:16.14 ID:R20nqEHV.net
けど、そのときの俺は、未来の俺からの視線なんて知るよしもなかった。

俺は自分では前向きに進んでいるつもりでいながら、その肝心の未来のことなんて、これっぽっちも考えていなかったんだ。

Aを殺す、という目標の後も続くだろう、自分の未来のことを。


俺の思考は、Aの殺害で止まっていた。

そして、その先は真っ白だった。

Aを殺して、それで自分が逮捕されなければ、それでいいんだと思い込んでいた。

物語のように、映画のように、画面に現れたエンドマークが、すべてを丸く収めてくれるんだと思ってた。


けど、それは違うんだって、〈現実〉では そんなことがあり得ないんだってことが、いまならわかる。

そして、それこそが、レイが本当に言いたかったことなんだってことも。

だから、俺が考えるべきは、目標の先のことだった。あのときは まだ白いままの、俺の未来のことだったんだ。



416 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 03:15:33.63 ID:TczQQdCb.net
俺は考え得る限りの品物をノートに記した。

それから、時間が来るとノートを閉じ、Aの観察に出かけた。

足音を忍ばせて、親の寝室の前を通り過ぎながら、俺はあと何回、こうして出かけることになるんだろう、そう思った。


筋トレ分、飯の量は増えている。

炊飯器の米がなくなってるんだから、親も俺の変化に気づいてないことはないだろう。

この夜の外出も、気づかれるのは時間の問題かもしれない。俺は初めて危機感を覚えた。


もし、外出に気づかれたそのあとに、A殺害のニュースが流れたら??

そうしたら、親は俺を疑うだろうか?

疑って・・・・・・どうする?

警察に洗いざらいしゃべるだろうか??




417 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 03:20:00.74 ID:TczQQdCb.net
悪夢のような想像が ぐわっと俺を鷲掴みにしようとした。

だめだ、考えるな!

俺は すんでのところで、その凶悪な指先から逃れた。

考えるな。何も、考えるな。

そう言い聞かせながら、窓を開けた。

いつもよりも慎重に、静寂の底を這うように。


418 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 03:28:41.56 ID:TczQQdCb.net
それは普段と変わらない闇だったのかもしれない。

けど、俺の心持ち一つで、それは何か恐ろしいものを秘めているように見えた。

『こんな夜中に どこへ行くんだ』

すぐ先の角から親が出てきて、俺を止めるんじゃないか、警察に声をかけられるんじゃないか、まさか、俺の魂胆を知ったAがナイフを構えてるんじゃないか。

挙動不審に陥った俺は、いまでは完璧に見切っていたはずの人感センサーに片足を引っかけた。

ぱっと明るい光が、闇から俺を洗い出した。


419 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 03:36:37.53 ID:TczQQdCb.net
やばい。

通りがかりの人がいたというだけだ。

何もやばいことなんてないだろう。

だというのに、俺は思わず小走りになった。

何かに追いかけられるように足は止まらなくなり、そのまま公園まで俺は走った。

日々の筋トレのせいだろうか。レイと約束をしたあの日、便所サンダルで走った道を、俺は あのときとは比べものにならないほど軽々と走り抜けた。


けど、その成果を嬉しく思えるような精神状態にはなかった。

怖い。

怖い。

怖い。

何をそう感じるのかわからないまま、俺は走り続けた。


420 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 03:51:16.57 ID:TczQQdCb.net
その日は火曜で、Aが塾にいるはずの日だった。

だから、俺は塾の前の通りを歩き、Aの自転車の位置を確認しておこう、そう思っていたはずだった。

けど、なぜか俺は そうしなかった。

俺は、観察するうちに判明したAの帰路を一通り歩き、それから引き返して、殺害予定場所に佇んだ。

そこは街灯の切れ間にできた暗がりで、俺が潜むのにおあつらえ向きなゴミ捨て場から少し進んだ場所だった。

周囲の家は高い壁で囲まれていて、人目も気にならない。


ここで、Aが倒れる。


そのときの想像をし、俺は黒い道路を見下ろした。

俺のナイフが、Aの腹に刺さっている。

Aは仰向けに倒れ、瞳孔の開いた目で俺を見上げている。

お前か? お前に俺は殺されたのか?

そんな、驚いたような表情で。

ぽかんとバカみたいに口を開けて。


421 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 03:58:09.55 ID:TczQQdCb.net
そのとき、路地を風か吹き抜けて、俺は身震いをした。

ぬるい春風だ。

だから、寒かったわけじゃなかった。

けど、風に追いやられるように、俺は踵を返した。


角を曲がり、犯行予定地が完全に見えなくなるそのときまで、死んだAが俺の背中をじっと見ているような、そんな気がした。




422 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 04:12:26.16 ID:TczQQdCb.net
足取り重く、俺は家にたどり着いた。

そして、いつもなら始める筋トレをすっ飛ばしてベッドに潜り込んだ。

明日の昼間、ナイフを買いに出かける。

俺は それをまるで与えられた任務のように頭にたたき込むと、目を閉じた。

それから思いついて、埃を被った目覚まし時計に手を伸ばした。

いつかの誕生日に、親にもらったロボット型の目覚ましだ。

「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝デスヨ」

電子音代わりに、そんな音声の入ったものだ。

不登校になる前は、ずっと使っていた。


423 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 04:21:18.50 ID:TczQQdCb.net
俺は この目覚ましが案外気に入っていた。

親がくれた他の誕生日プレゼントなんて、何をもらったか、それをどこにやったのか、なんてあまり覚えてもいないが、これだけは好きで使い続けていた。

だって、「オハヨウゴザイマス、地球ハ朝デスヨ」なんて、なんか夢がないか?

そんなわけあるはずないけど、このロボットは宇宙と交信ができて、いろんな星々に朝を伝えてるんだ、俺はそんな想像を膨らませていた。

火星の真っ赤な朝や、木星の煙った朝、それから、太陽からずっと離れた星の、誰も知らない星の朝・・・・・・


424 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 04:24:34.12 ID:TczQQdCb.net
そんな朝が、地球にも来る。

ロボットは それを俺に教えてくれる。

今日も始まる地球の朝。

輝きに満ちた新しい朝。

目覚ましを午後二時に設定しながら、俺は思った。

俺の朝は いつから来なくなってしまったんだろう。


425 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/15(火) 04:29:56.76 ID:TczQQdCb.net
Aを殺す。

再び目を閉じ、俺は強く思った。

Aを殺して、俺は自由になる。

そして・・・・・・俺の朝を取り戻す。

そのためにはナイフを買いに行かなくてはならない。

できるだけ早く、誰にも気づかれないうちに、事を済ませてしまわなければならない。

Aを殺さなければならない。

Aを殺す、Aを殺す、Aを殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す・・・・・・

つぶやきながら落ちた眠りは浅かった。

けど、それは逆に良かったのかもしれない。

こんなふうに高ぶった神経のままでなきゃ、俺は任務を成功させる自信がなかったから。



>>次のページへ続く
 
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