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バイト帰りに出会った女子高生との数年間の話
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308 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 23:43:07.43 ID:Q5UKg1qg.net
…いや、そんな、まさか。

聞こえてくる歌声はどこか、耳に懐かしい。

トゲのない声で、バラードの曲がよく合う。

俯き加減で演奏する姿。

俺の位置から顔は確認できない。

しかし彼女の手の中で奏でられている、街頭の光が良く映える赤いギター。

見間違える訳なんて無かったのだ。

ここ何年かで一番見てきた異性だった。

動悸がする。息苦しさを覚える。

現実を受け止めきれない俺の頭と目の前にしかし厳然としてある事実を噛みしめて反芻し、また混乱する。

「…どうもありがとうございました!」

気付けば曲が終わった。

どうやら最後の曲らしく数人のギャラリーはささやかな拍手を送ると誰ともなしに散っていった。

俺を残したまま。呆然とする。

棒立ちのままギターを片付ける彼女を見ていると気づいたように顔を上げ、眼鏡越しの彼女と視線が絡む。

「…うそ…」

彼女の―白石の手が止まった。

途端、動いたのは俺の方だった。

弾かれるように足が動き踵を返して駅の方に向かい始める。



309 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 23:46:06.55 ID:Q5UKg1qg.net
「ま、まって!」

声が聞こえる。

待てない。

待てるわけがない。

何故?

分からない。

ただ、会っちゃいけないと俺の中の何かが本能的に告げている。

改札まであと数メートルと言ったところで袖口を掴まれた。

まるで縫い付けられてようにそこから動けなくなった。

「ま、待って、って言ってるじゃん…」

振り向けない。振り向いて、彼女の顔を見て、どんな表情で、何て言えば良い。

何事もないような顔でもして見せればいいのか?

振り返る瞬間のそんな考えからだろうか、振り向きつつ俺は至って普通な顔をして見せた。

「おー白石!久しぶりだな!元気だった、か…」

何だ。出来るではないか。まるで何もなかったかのように。

そう思って、振り向いて。

口元まで出かかっていた言葉を無くす。

今にも泣きそうな白石の顔を見て、それ以上声が出なかった。



310 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 23:49:28.97 ID:Q5UKg1qg.net
「お、おい?どうしたんだよ!?」

「ひっく、お、おにいさ、ご、ごめ、ごめん…」

「え、あ、ちょ!」

挙動不審に辺りを見回す。何か通りがかっていく人の視線がすごく痛い。

というか写メを取られたり「修羅場!?」とかいう嬉々とした女性同士の声が聞こえたりするのが一番つらい!

「と、とりあえずこっち…!」

白石の手を引いて再び駅から出ていく。駅員からしたらいい迷惑だろうが俺は俺で人にかまっている余裕はない。

白石は抵抗らしい抵抗を見せないで俺に手を引かれたまま先程の白石の演奏場所までついて二人で座る。

未だに鼻を啜る白石。

間が持たなくなりそうで俺は考えなしに白石をその場に残して自動販売機まで走った。

「…ほれ…」
「…ありがと…」

買ってきたのがブラックと微糖の缶コーヒーの二択だったあたり、どうやら俺も混乱しているらしい。

本来甘党の白石がブラックコーヒーを受け取って、口をつけてから

「苦ぁ…」と呟いたあたり白石も動揺はしていると見た。



312 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 23:52:32.47 ID:Q5UKg1qg.net
そこから数分は何を言えば良いか互いが考える時間になった。

「元気だったか。」「久しぶり。」「調子は?」

聞きたいことも聞き方も、二人ともおそらく幾らでもあったと思う。

空いてしまった二年という時間は少し長すぎたらしい。

「白石、眼鏡なんかかけるんだな。」

こんなどうでもいいことを一番最初に口に出した。

「…去年あたりから…」

「そっか…」


再び沈黙。

話題を考えはするものの、似つかわしくなさ過ぎて口を噤む。駅からここまで ろくに顔も見ていない。

「こっち、来てたんだね。」

「あ、ああ。」

三度、間が空く。だが三度目の間はすぐに消えた。

「あ、あのさ!」

意を決して出した俺の声が予想外にデカく、白石が驚いて跳ねるのが判る。

顔を背けたまま俺は続ける。

「この際だから聞いておくけどさ、結局…俺が何か悪かった…?」

今更なのは分かっている。それでも聞いておきたかった。きっと白石から踏ん切りをつけられないのもそこに要因があるのではないかと思う。



313 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 23:54:41.51 ID:Q5UKg1qg.net
「……」
「……」

白石は何も語らない。

それでも俺は追及はしない。強く聞いても仕方ないところだ。

幾らでも待つつもりだった。



そんなとき突然電話が鳴った。

「あ、っと、わり!ちょっと!」

白石から離れて画面を見る。

戸田さんだ。

「…お疲れ様です…」

『あ、お疲れ〜!小島君今日大丈夫かな?小島君の家の近くで飲んでたんだけど このまま小島君の家よろうかと思って〜』

何ともない言葉だった。

それなのに、その言葉に心の一部が疼いて、どこかに後ろめたさを感じてしまった。

「あー、すみません。今は家に居なくて…」

『あ、いいよ別に、12時過ぎとかに行っていい〜?』

「…分かりました。じゃあその時間に…」

電話を切る。

「…誰から?」

ぽつりと、白石がこぼすように俺に問う。

「…会社の同僚…」

嘘は言っていないのに、良心が痛む。果たして俺は誰のことを考えてこのことを言ったのだろう。戸田さんなのか、白石なのか。それとも…



314 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 23:56:18.14 ID:Q5UKg1qg.net
ずる賢くなったものだ。自虐的にそんなことを考えるのすらおこがましいと自戒する。

「すまん、今日は用事で来たからこれで…」

鞄を持って立ち上がり歩調も速く白石から遠ざかる。

「お、お兄さん!」

背後から呼ばれて驚きとともに振り返る。

「また、ここに来る…?」

初めての時と同じように、今度は聞く側が逆になって、白石は俺を見てそういった。

「…分かんねぇけど、ここで演奏してたらまた会えるかも。」

そう言って俺の方が耐えきれなくなって歩き出した。



316 :1 ◆Rvi/ZSmlcg @\(^o^)/:2016/09/10(土) 23:59:43.90 ID:Q5UKg1qg.net
俺の帰宅直後に戸田さんも我が家に到着した。

「ただいま〜!」

「いや、あなたの家ではないんですが…」

「いいじゃな〜い!別荘みたいなものよ〜!」

それなら俺にとって戸田さんの家は別荘になるのだろうか。

馬鹿なことを考えてるうちに戸田さんは居間のソファーに横になった。

「あーあー、皺になりますよ?ほら、脱いでくださいって。」

「やーん!脱がせたいの?ww」

「酔っぱらいを襲う趣味はありません…水持ってきますね」

「んー」

「あー寝ないでくださいって…ダメか…」

少し目を離していると安らかな寝息が聞こえ始めた。

弱ったな…ホントに皺になるし うちには戸田さんの部屋着みたいなものはないに等しい。

「…脱がせるのか…」

誰ともなしに呟く。正当な理由を得ても微妙に後ろめたい。

出来るだけ見ないようにしながら下着だけ残して脱がせ、ベッド迄運ぶ。

流石に二人で寝るには少々手狭で仕方ないと電気を消してソファーで眼を閉じる。



瞳の裏側に映ったのは先程目の端で捉えた戸田さんの下着姿ではなく、数年ぶりに会った白石の泣き顔だった。

そう言えば初めてだった。白石が泣いているところを見たのは。あれだけ一緒に居たのに一度も見たことがなかった。

見せないようにしていたのかな。無理してたのかな。

違う。おそらく無理をさせていたのだ。

色々と考えて思考がグルグルと渦を巻き始め意識が そのままその渦に巻き込まれていった。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春, すっきりした話, 純愛,
 


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