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私が初恋をつらぬいた話
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140 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:20:53.64 ID:+beSXCVE0
久々の実家。

玄関の扉を開けると、ツンとお酒の臭いが鼻に付いた。

何だか嫌な予感がしながら、リビングに入る。

出て行った時のまま荒れ果てているその部屋で、母が横になってテレビを眺めていた。

酒瓶やビールの缶が、母の周りを取り囲んでいた。

「…お母さん。」

私が声をかけると、母はだるそうにこちらを見た。

そして声をかけたのが私だという事に気がつくと、ラリった様にニヤ〜っと笑ってフラフラしながら立ち上がる。

「なぎぃ〜〜♪」

母は倒れこむように私に抱きついた。

「なぎぃ〜おかえりぃ〜♪」

息がむせ返るように酒臭い。

「…なにしてるの?」

「なぎが帰ってこないからぁ〜テレビ見てたのお〜」

母はテレビの方を指差し、突然ギャハハと笑い始めた。

何がおかしいのか、まったくわからない。


141 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:22:50.65 ID:+beSXCVE0
「あいつ等はドコに行ったの…?」

私がそう聞くと、母はぐしゃっと顔を歪ませて今度は大声で泣き始めた。

「なぎぃい〜あんたはドコにも行かないよねぇ?行けないよねぇ?」

私にすがり付いて、泣きじゃくる。母は壊れている……どこか他人事のように、私は思った。

「行かせないからねぇ…逃げようとしたら殺してやる…あんたを殺して私も死んでやるんだぁ」

何故かふと、昨日の先生の苦しそうな顔が頭をよぎる。私の中で、何かがガラガラと崩れていく感じがした。

「…行かないよ……」

思っても無い事を口に出した。

私がそう言うと母はにっこりと微笑んで、私の体を今度は優しく抱きしめた。

私はもう、何も考えるのが嫌になってしまっていた。




143 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:25:33.35 ID:+beSXCVE0
夏休みが終わり、また学校が始まる。

先生とはあの日以来、連絡をしていない。


これから就職活動が本格的に忙しくなるからと、私はずっと続けてきたバイトを辞めた。

学校が終わると友達と出かけることも無く、ただ家で飲んだくれている母の世話だけをして過ごした。

毎日コロコロと機嫌が変わる母に翻弄されながら、それでも特に苦痛は感じずに、毎日が淡々と過ぎていった。

私の心は、あの日から何も感じなくなっていた。



高校最後の文化祭が終わった頃。

夏休み中に訪問した5社のうち2社から、その気があるなら席は空けて置くという、内定通知の様な連絡が届いた。

大手デパート内の飲食店と、中規模の一般企業。

私は内心、稼げればどちらでもいいや…という気持ちでその報告を聞いていた。

「まだまだ時間はあるから、ゆっくり考えて」という担任の言葉に従って、私はすぐに返事を返さなかった。


144 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:27:27.38 ID:+beSXCVE0
時間だけが気だるく過ぎていった。

ただ そんな中でも漠然と、私の人生は元に戻ったんだな……なんて考えたりしていた。


2学期の終業式の後、私は担任に呼び出された。

いつもの様に職員室ではなく、会議室に呼ばれた事を疑問に感じながら扉をノックする。

会議室に入ると、なにやら担任が険しい顔で座っていた。

「あの…何ですか?」

何か悪い事したっけな?…そう思いながら質問をする。

先生は私を椅子に座るよう促すと、より一層険しい顔で話し始めた。

「…内定が取り消しになった。2社ともだ。」

「え!?」

頭が真っ白になる。

愕然としてる私をチラリと見た先生は、大きく溜め息をついた。


145 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:27:30.33 ID:LUqPOmqkP
つらい…

書き溜めだろうけど、書いてて辛くなったりしてないか?だいじょぶ?


146 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:29:36.78 ID:+beSXCVE0
>>145
大丈夫ですよ。お気遣い、ありがとうございます。


内定取り消し…正確にはまだ正式に内定通知書が来ていた訳ではないが、本来なら もうすぐ2社から届くはずだった。

ところが先日、2社から内定通知書は送付できないと相次いで電話が掛かってきたそうだ。

1社だけならまだしも、立て続けにこんな連絡が入るのはおかしい。

そう思った担任は、担当者に掛け合ってみた。

すると2社とも、私の素行がかなり悪いという密告の様な電話が掛かってきたのだと、そう言った。

具体的にどういう事を言われたかまでは教えてもらえなかったが、とにかくそんな人物を採用する事は出来ない…そう言われたそうだ。


話し終えると担任は「すまない…」と悔しそうに言った。

私は呆けつつも、黙って頷いた。



帰り道で色々考える。

一体誰がそんな電話をしたんだろう?

友人?私を嫌いな誰か?…まったくわからない。

これから先…どう生きていけばいいんだろう…

ただ漠然とした不安を抱えながら、私は家の玄関を開けた。




148 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:31:31.62 ID:+beSXCVE0
リビングに入ると、母はいつものように酒を飲みながらテレビを見ていた。

「お母さん。」

母がかったるそうに「ん」と返事をする。

「…就職、ダメになった。」

母の後姿が一瞬固まる。

でもその次の瞬間には物凄く嬉しそうな笑顔で、バッとこちらに振り向いた。

「あ〜そお〜?残念だったねぇ〜困っちゃったね〜アハハハハ」

妙に上機嫌だ…何かがおかしい。

私はハッとして自室に駆け上がり、机の引き出しを開けた。

「………」

入れていた筈の、2社から渡された封筒と担当者の名刺は、綺麗に無くなっていた。


様々な点が繋がる様に、私の疑問が結ばっていく。

私は脱力していく体を引きずる様に、階段を降りた。


149 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:33:45.15 ID:+beSXCVE0
「…お母さん。」

母は鼻歌を歌いながら、「なぁに?」と笑顔で返事をする。

「…何したの?私の部屋に勝手に入って、何をしたの?」

母が笑顔のまま固まる。

「机の引き出し開けたよね?中に入ってる物、どうしたの?何をしたの!!!」


私は思わず怒鳴りつけていた。

長いこと忘れていた怒りの感情が、ジワジワと沸いて来る。

母はしばらく目を右往左往させていたが、急に顔を歪ませ、何やら泣き叫びながら私にしがみついてきた。

「だってぇ!だってあの紙なんて書いてあったと思う!?」

「紙?」

「そうだよ!あの紙!!!!!!寮って書いてあったんだよぉ?寮って寮でしょぉおお!?」

意味が解らない。

「だったら何なのよ!!!」

「許さない!!!!ここを出て行くなんて許さない!!!!許さないんだからああああ!!!!!!」


血走った母の目が、私を睨みつけている。スーッと怒りが抜けていく感じがした。

この人から逃れるなんて、私には出来ない事だったんだな……

悔しさと絶望で、私の思考はまた止まって行った。


150 :名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 17:35:36.79 ID:+beSXCVE0
絶望に打ちひしがれていても、時間だけは あっという間に過ぎていった。

3学期が始まり2月に入ると、3年生は徐々に登校日は少なくなっていく。

そんな中で周りの生徒達は、確実にある未来に目を輝かせ、キラキラしている。

私にはそれが眩し過ぎて、その数少ない登校日にも学校に行くことが少なくなっていった。


何も考えられず、何もやる気が起きず、私はいつの間にか笑うことも話すことも殆ど無くなっていた。

友人達は心配してくれていたが、でもそんな状態の私に どう接していいのか解らなかったらしい。

少しずつ少しずつ、私から離れていくのが解った。

私の人生はこれでいい。

これでようやく元に戻ったんだ……

毎日毎日、ただひたすらそんな事を考えて暮らしていた。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, これはすごい, 胸キュン,
 


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