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喪失
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「いいじゃないか。旦那はまだ帰ってくる時刻じゃないだろ。それよりどうなの? きょうはパンティ履いてる?」
「・・・・・」
「おれが店に入っているときは、寛子にはいつもノーパン、ノーブラの格好で仕事をやらせてたよな」
「もうやめて・・・終わったことです」
「寛子は見た目と違ってスケベだからな〜。
おれが耳たぶとか胸とかちょっと触ってるだけで、顔を真っ赤にして興奮してたよな・・・
一度なんか、娘さんを幼稚園へ迎えに行く時刻だってのに、おれにしがみついてきて『抱いてぇ〜、抱いてぇ〜』なんて大変だったじゃないか」
勇次はにやつきながら、妻の近くへ寄りました。
わたしはその場へ飛び出そうとしました。
そのとき、勇次がこんなことを妻に聞いたのです。
「あのときはあんなに燃えて、おれに好きだとか愛してるとか言ってたじゃないか。
あれは嘘だったのか? 寛子はただ気持ちよくなりたいだけで、おれと付き合っていたのか?
おれのことはもう嫌いになったのか?」
妻はじっとうつむいて、何か考えているようでした。それから、おもむろに口を開き、信じがたいことを言いました。
「嫌いになったりは・・・してません」
・・・わたしは頭をがつんと殴られたようなショックを受けました。
いまでも嫌いじゃない?
わたしたち夫婦をあれほどまでに苦しめた勇次を?
わたしがそこで聞いていることも知らず、妻は言葉を続けました。
「・・・ですが、いまは主人と子供が何よりも大切です・・・あなたとは・・・もう」
「嫌いじゃないなら、寛子はおれにまだ未練があるんだな。おれだってそうさ。お前のことが忘れられないんだ。お前が好きなんだよ。なあ、いいだろ、寛子。自分の気持ちに正直になって、もう一度おれとさ」
谷底に蹴り落とされたような気分のわたしの目に、勇次の手がすっと寛子の顔へ向かうのが見えました。
その瞬間、わたしはふたりのもとへ飛び出していきました。
突然、家の中から現れたわたしを見て、妻は喉の奥からかすれるような悲鳴をあげました。
その怯えた表情が、わたしを無性に苛立たせました。
勇次もさすがにぎょっとしたようでしたが、すぐに落ち着きを取り戻したようで、じろりとわたしを睨みました。
「またあんたか・・・・」
「何が『またあんたか』だ。ここはわたしの店だぞ・・・さっさと出て行け。いつまで未練がましく、妻につきまとってるんだ」
「未練がましく?」
わたしの言葉を、勇次はふんと鼻で笑いました。
「未練が残っているのは、あんたの奥さんのほうもだよ」
「うるさい!」
「おれはあんたよりも寛子のことが分かってるよ。だいたい、あんたとの生活に満足してたら、おれと浮気なんかしなかっただろ? 寛子はあんたじゃ物足りなかったんだよ」
わたしは勇次を睨みつけながら、ちらりと妻の顔を見ました。
消えいりたげな様子で身体を縮こませていた妻は、顔を歪めながら必死に首を横に振りました。
「・・・ちがう・・・」
「何がちがうんだ、寛子。おれとやってたときの悦びよう、忘れたわけじゃないよな。
おれはたぶん旦那よりも多く、寛子の可愛いイキ顔を見てるぜ。
寛子はセックスが大好きだし、イクときはもう激しくて激しくて、イってから失神することもよくあったよな〜。
いつかなんか気持ちよすぎてションベンまで」
「言わないで・・・」
「あのときは、おれが恥ずかしがって泣く寛子のあそこをきれいにしてやったよな。
そうしているうちにまた興奮してきちゃって、おれにしがみついてせがんできたのは誰だったけな?」
続けざまに吐かれる勇次の下衆な言葉に、妻はしくしく泣き出してしまいました。
「いいかげんにしろ!」
わたしは怒鳴りました。怒りがありました。しかし、それよりもおおきくわたしの心を支配していたのは、救いようのない脱力感でした。
「・・・いますぐに出て行かなければ、警察を呼ぶ・・・ここはわたしの店なんだ・・・お前を営業妨害で」
「わかった、わかった」
勇次は小馬鹿にしたような態度で、わたしに背を向け、店の出入り口へ歩き出しました。
途中で振り向きました。
そして、なんとも形容しがたい厭な笑みを浮かべて、こう言ったのです。
「ああ、そうそう。藤田と村上がまたお前に会いたいってさ、寛子」
そのとき妻があげた、身も凍りつくような悲鳴は、いまでも忘れられません。
勇次はわらいながら、店を出て行きました。
「・・・ですが、いまは主人と子供が何よりも大切です・・・あなたとは・・・もう」
「嫌いじゃないなら、寛子はおれにまだ未練があるんだな。おれだってそうさ。お前のことが忘れられないんだ。お前が好きなんだよ。なあ、いいだろ、寛子。自分の気持ちに正直になって、もう一度おれとさ」
谷底に蹴り落とされたような気分のわたしの目に、勇次の手がすっと寛子の顔へ向かうのが見えました。
その瞬間、わたしはふたりのもとへ飛び出していきました。
突然、家の中から現れたわたしを見て、妻は喉の奥からかすれるような悲鳴をあげました。
その怯えた表情が、わたしを無性に苛立たせました。
勇次もさすがにぎょっとしたようでしたが、すぐに落ち着きを取り戻したようで、じろりとわたしを睨みました。
「またあんたか・・・・」
「何が『またあんたか』だ。ここはわたしの店だぞ・・・さっさと出て行け。いつまで未練がましく、妻につきまとってるんだ」
「未練がましく?」
わたしの言葉を、勇次はふんと鼻で笑いました。
「未練が残っているのは、あんたの奥さんのほうもだよ」
「うるさい!」
「おれはあんたよりも寛子のことが分かってるよ。だいたい、あんたとの生活に満足してたら、おれと浮気なんかしなかっただろ? 寛子はあんたじゃ物足りなかったんだよ」
わたしは勇次を睨みつけながら、ちらりと妻の顔を見ました。
消えいりたげな様子で身体を縮こませていた妻は、顔を歪めながら必死に首を横に振りました。
「・・・ちがう・・・」
「何がちがうんだ、寛子。おれとやってたときの悦びよう、忘れたわけじゃないよな。
おれはたぶん旦那よりも多く、寛子の可愛いイキ顔を見てるぜ。
寛子はセックスが大好きだし、イクときはもう激しくて激しくて、イってから失神することもよくあったよな〜。
いつかなんか気持ちよすぎてションベンまで」
「言わないで・・・」
「あのときは、おれが恥ずかしがって泣く寛子のあそこをきれいにしてやったよな。
そうしているうちにまた興奮してきちゃって、おれにしがみついてせがんできたのは誰だったけな?」
続けざまに吐かれる勇次の下衆な言葉に、妻はしくしく泣き出してしまいました。
「いいかげんにしろ!」
わたしは怒鳴りました。怒りがありました。しかし、それよりもおおきくわたしの心を支配していたのは、救いようのない脱力感でした。
「・・・いますぐに出て行かなければ、警察を呼ぶ・・・ここはわたしの店なんだ・・・お前を営業妨害で」
「わかった、わかった」
勇次は小馬鹿にしたような態度で、わたしに背を向け、店の出入り口へ歩き出しました。
途中で振り向きました。
そして、なんとも形容しがたい厭な笑みを浮かべて、こう言ったのです。
「ああ、そうそう。藤田と村上がまたお前に会いたいってさ、寛子」
そのとき妻があげた、身も凍りつくような悲鳴は、いまでも忘れられません。
勇次はわらいながら、店を出て行きました。
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さて・・・勇次が去ってからも、しばらくは時がとまったようでした。
ふと見ると、通りすがりのひとが数人、店の中を覗き込んでいました。先ほどのわたしの大声が聞こえたようです。
わたしは黙って、店の戸を閉めました。
それから妻を促して、家の中へ入りました。
居間に入ると、それまで悄然とうなだれていた妻が、いきなりその場へ土下座しました。
声も出ないようで、肩がわずかに震えているのが見えました。
「この前、おれは勇次との間にあったことはすべて話してほしいといった・・・」
妻の身体がぴくりと動きました。
「寛子はすべておれに打ち明けてくれた・・・そうおもっていた・・・」
「あなた! わたしは・・・わたしは」
「まだ話していないことがあったんだな・・・」
抑えがたい怒気のこもったわたしの声に、妻は怯えた顔でわたしを見つめました。
妻は両手を胸の前で合わせ、まるで神仏に祈るときのような格好で頭をさげました。
「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい・・・・でも悪気はなかったんです・・・ただ言えなくて・・・それだけなんです」
「言えないとはなんだ。後からこんな形で、お前に問いたださなければならないおれのほうが、よほど惨めだろ・・・」
妻は顔をくしゃくしゃに歪めて、いっそう強く祈るようにわたしへ頭をさげました。
「許して・・・許して・・・・」
「なら、いますぐはなせ! 藤田と村上というのは誰だ!」
妻が涙で頬を濡らしながら、嗚咽混じりに話した内容はわたしをさらに深い奈落に突き落とすものでした。
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妻と勇次がまだ付き合っていた頃のことです。
ある日、妻は買い物へ行くとわたしに偽って、勇次の家へ向かいました。
しかし、その日は先客がいたのです。
それが藤田と村上でした。
勇次は、いやがる妻を引っ張ってきて、「これが自分と付き合っている人妻の寛子だ」とふたりへ紹介したそうです。
藤田と村上は興味津々といった様子で、妻を見つめました。
妻は、不倫を犯している自分を、ひとの目にさらされるのが厭で、顔をうつむけていました。
「ほんとだ、このひと、結婚指輪してるわ。おいおい、人妻と付き合ってるって本当だったのかよ」
「だから言っただろ」
そのとき、勇次は得意げに言ったそうです。
しばらくして、か弱げな妻の様子にふたりは図に乗って、様々な質問を投げかけてきました。
いわく、勇次とはどうしてこうなったのか、勇次を愛しているのか、旦那のことはどうおもっているのか———。
さらにふたりの質問はエスカレートし、卑猥なことまで聞いてくるようになっていきました。
勇次とのセックスはどうか、若い男に抱かれるのはやっぱりいいのか、どんな体位が好きなのか———。
屈辱的な質問に、妻はもちろん答えるのをいやがったのですが、勇次がそれを許さなかったといいます。
>>次のページへ続く
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