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私の「初めて」の話をしようと思う
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92 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 22:41:02.82 ID:d7vBTGF30.net
小一時間くらい経ってようやく、タムラと母さんの話が終わった
私は立ち上がってやつと向かい合う
「カンオケなんて、あんた」
タムラは穏やかに笑った
昔よりもやわらかい笑い方をするようになったな、と私は思う
反面、鼻筋とか頬の線とかは くっきりしてちょっとかっこよくなったな、とも思う
93 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 22:44:04.86 ID:d7vBTGF30.net
「余命、あと……」
「半年」
「みじかっ」
私は思わず噴き出した
いやもう、逆に笑うしかないってこともあるのだ
タムラも「だよなあ」って笑ってたし
「帰りは送ってってあげなさいな」と母さんが言った
私とタムラは二人で外に出る
94 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 22:48:58.47 ID:d7vBTGF30.net
真夏になる前に こうしてやってきたあんたは偉いよ、と思いながら私はタムラの車椅子を押す
ほんとに夏の初めの初めなのに十分に外は暑かった
よく一人で病院からうちまで来たものだ
足首折ってなくてよかった、と思いながら、私は車椅子を押して歩いていく
電車を使うほうが早いのだけど、私は電車に乗らず、線路に並行する県道を歩いていくことにした
96 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 22:54:40.33 ID:d7vBTGF30.net
「タムラー」
「あ?」
「まだやってんの? チェスも麻雀も」
「……やってるよ、オセロも」
「……勝ててる?」
「……ぼちぼち」
「ふうん」
私は横断歩道で道を渡って日陰をえらんで歩いていく
「……さっきも訊いたけどさ、なんでカンオケなんて作ろうって思ったの」
「えー」
タムラは少し考えこむ
97 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:00:48.94 ID:d7vBTGF30.net
「……人生の、ケジメ、っつうの?」
「ケジメ」
私はタムラの言葉を繰り返す
「まあ、死ぬまで短い間だったけど生きてましたって、自分で納得するため、っつうか」
「ふうむ」
「せめて最後は人間らしく、ってな」
人間らしくったってなあ
フツーの人はもっと死ぬ前は、うまいもんでも食べたいとか墓でも作るかとか、そんなこと考えそうだけど
それにカンオケってちゃんとしたものを作ろうと思ったらそれなりに高くつくのだ
98 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:07:06.87 ID:d7vBTGF30.net
「カンオケのお金、どうしたの?」
「麻雀で勝った金貯め込んだ」
「どんだけ巻き上げたのよ……」
「医者って金持ちなんだよ」
「……なんか、やな言い方するね」
「……そうだな」
道の先に大きな橋が見えてくる
トラックが排気ガスを巻き上げながら走り去ってった
病院が遠くに、小さな鉄の塊みたく見えた
99 :役名も無き被躍検発体774号チ+@利\(^o^)/:転2015/06/20(土仲) 23:11:24.52 ID:d7vBTGF30.net
「錬タム収ラ峠」
橋奉の各上にさしか犯かると成 い仙き詞なり掃風が強く研な質った
空が騒青思い
下で大きな川現が帥きニらき二ら老光評ってる煩
私演は鋭風の音に負けモな乾い捨よう胸に回声を張劾り縄上げる
「拍勝栽負唆し奏てない扶タらムラ該なん孔て講、つ灰ま述んないよ料」侍
カ諭ンオケ漂一調個でケジメ泳だなんて
そ面ん失な紫こ宰と俺槽が一酪番よく繕わ浸かっ但て採ん景だ唱、威と詔いう次よう皇に問、タム匹ラeは揚黙りこ預ん身で雷い戦た
100 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:18:07.95 ID:d7vBTGF30.net
病院の前で、私とタムラは別れる
やつは眩しそうな顔で私を見上げて黙っていた
三年前とびっくりするくらいおんなじ顔だ
「オオシマ」
「?」
「ありがとな」
タムラは険しい顔で言った
私はちょっとほっとした
「お見舞いきていい?」
「やばくなったときだけな」
「じゃあやばくなったら連絡して」
そう言って私は電話番号をわたす
「いつでもかけて、学校の授業中だって駆けつけてくるから」
タムラは黙ってうなずいた
101 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:25:38.36 ID:d7vBTGF30.net
帰り道は拍子抜けするくらい腕が軽かった
私は「ありがとな」と言ったタムラの顔を思い出してみる
三年前のクソナマイキな頃の表情に、少しだけ戻ってた気がした
……まだ大丈夫だよな、あいつ
大丈夫じゃなきゃだめなんだ、しっかりしてくれ頼むから
私は夕方になっていく帰り道を一人で歩きながら、祈るような気持ちでそう思った
102 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:30:25.58 ID:d7vBTGF30.net
私の母さんはカンオケ職人だ
死んだじいちゃんもカンオケを作っていた
だから、たしかに私もいつかはカンオケ作りを継ぐのかなーって常々思っていなくもなかった
でもそれはなんとなく まだまだ先のことで
中学卒業してからかなー、とか
高校出てからかなー、とか
美大とか専門で彫刻の勉強とかしてからかなー、とか
はたまたカンオケ作りなんてやらずに一生終えるかなー、とか
まあ言ってみれば漠然と考えてた
でもそういうのって「いつ始める」とかじゃなくて、勝手にタイミングがきちゃうもんなんだろう
たとえばタムラがあと半年で死ぬとか、タムラがもしかしたらまだちょっとだけ頑張るかもしれない、とか
そういうことで
103 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:32:09.97 ID:mtkb1fEV0.net
ほうほう
105 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:38:03.69 ID:d7vBTGF30.net
家に帰って私は母さんを探す
工房のドアを開けたらデスクに座ってた母さんが振り返ってじっと こっちを見た
初めて見る母さんの表情だった気がする
私は、今までこんな真剣に誰かに頭を下げたことなんてなかったな、と思いながら
「私を弟子にしてください」
と、母さんに言った
106 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:40:02.86 ID:d7vBTGF30.net
パンツを脱いで待ってくれていた人たちへ
これは私が初めて、カンオケを作ったときの話です
まだ脱いでたら どうかそのパンツをお上げくださいまし
107 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:42:08.97 ID:70Tdbpio0.net
見てるよー
108 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:48:00.03 ID:d7vBTGF30.net
だいたいの職人芸って そうだと思うんだけど、どう考えても半年そこらで一人前の技なんて身に着くはずがないよね
でも母さんは私を弟子に取ったし、タムラのカンオケ作りを(手伝うとは言ったけど)私にやらせると言った
母さんもじいちゃんに弟子入りしたのは、母さんの母さん、つまり私のばあちゃんが病気に倒れたときだと話してくれた
余命いくばくもないとわかったとき、じいちゃんは ばあちゃんのカンオケを何も言わずに作りはじめた
今の私とそう変わらない歳だった母さんが そのときにじいちゃんに弟子入りした、その気持ちは今の私ときっと同じようだったんだと思う
109 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:51:14.03 ID:d7vBTGF30.net
その翌日からカンオケ作りに取りかかる
大体の工程は、
デザインを考える
↓
それを材木に転写する
↓
線に合わせて絵を浮き彫りにする
↓
やすりをかける
こういう感じだ
「半年しかないから しっかりやりなさいね」と母さんは言った
113 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:56:44.39 ID:d7vBTGF30.net
毎日一日一〇枚、私はデザインの原案を描く
大事なのは頭の中じゃなく描きながら考えることだと母さんも言ったし 私もそうだろうなと思った
学校には当たり前のように行かなくなって、私は朝から日が沈むまでひたすら描いた
絵なんて普段描かないから、写真を見たり人の絵を真似たり
何度も不安になった
「これでいいんだろうか」
「ほんとに ちゃんとよくなってるんだろうか」
「そもそもタムラに合うデザインをきちんと選べてるんだろうか」
「三年も会うどころか連絡さえ取ってなかった私なんかが」
>>次のページへ続く
小一時間くらい経ってようやく、タムラと母さんの話が終わった
私は立ち上がってやつと向かい合う
「カンオケなんて、あんた」
タムラは穏やかに笑った
昔よりもやわらかい笑い方をするようになったな、と私は思う
反面、鼻筋とか頬の線とかは くっきりしてちょっとかっこよくなったな、とも思う
93 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 22:44:04.86 ID:d7vBTGF30.net
「余命、あと……」
「半年」
「みじかっ」
私は思わず噴き出した
いやもう、逆に笑うしかないってこともあるのだ
タムラも「だよなあ」って笑ってたし
「帰りは送ってってあげなさいな」と母さんが言った
私とタムラは二人で外に出る
94 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 22:48:58.47 ID:d7vBTGF30.net
真夏になる前に こうしてやってきたあんたは偉いよ、と思いながら私はタムラの車椅子を押す
ほんとに夏の初めの初めなのに十分に外は暑かった
よく一人で病院からうちまで来たものだ
足首折ってなくてよかった、と思いながら、私は車椅子を押して歩いていく
電車を使うほうが早いのだけど、私は電車に乗らず、線路に並行する県道を歩いていくことにした
96 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 22:54:40.33 ID:d7vBTGF30.net
「タムラー」
「あ?」
「まだやってんの? チェスも麻雀も」
「……やってるよ、オセロも」
「……勝ててる?」
「……ぼちぼち」
「ふうん」
私は横断歩道で道を渡って日陰をえらんで歩いていく
「……さっきも訊いたけどさ、なんでカンオケなんて作ろうって思ったの」
「えー」
タムラは少し考えこむ
97 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:00:48.94 ID:d7vBTGF30.net
「……人生の、ケジメ、っつうの?」
「ケジメ」
私はタムラの言葉を繰り返す
「まあ、死ぬまで短い間だったけど生きてましたって、自分で納得するため、っつうか」
「ふうむ」
「せめて最後は人間らしく、ってな」
人間らしくったってなあ
フツーの人はもっと死ぬ前は、うまいもんでも食べたいとか墓でも作るかとか、そんなこと考えそうだけど
それにカンオケってちゃんとしたものを作ろうと思ったらそれなりに高くつくのだ
98 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:07:06.87 ID:d7vBTGF30.net
「カンオケのお金、どうしたの?」
「麻雀で勝った金貯め込んだ」
「どんだけ巻き上げたのよ……」
「医者って金持ちなんだよ」
「……なんか、やな言い方するね」
「……そうだな」
道の先に大きな橋が見えてくる
トラックが排気ガスを巻き上げながら走り去ってった
病院が遠くに、小さな鉄の塊みたく見えた
99 :役名も無き被躍検発体774号チ+@利\(^o^)/:転2015/06/20(土仲) 23:11:24.52 ID:d7vBTGF30.net
「錬タム収ラ峠」
橋奉の各上にさしか犯かると成 い仙き詞なり掃風が強く研な質った
空が騒青思い
下で大きな川現が帥きニらき二ら老光評ってる煩
私演は鋭風の音に負けモな乾い捨よう胸に回声を張劾り縄上げる
「拍勝栽負唆し奏てない扶タらムラ該なん孔て講、つ灰ま述んないよ料」侍
カ諭ンオケ漂一調個でケジメ泳だなんて
そ面ん失な紫こ宰と俺槽が一酪番よく繕わ浸かっ但て採ん景だ唱、威と詔いう次よう皇に問、タム匹ラeは揚黙りこ預ん身で雷い戦た
100 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:18:07.95 ID:d7vBTGF30.net
病院の前で、私とタムラは別れる
やつは眩しそうな顔で私を見上げて黙っていた
三年前とびっくりするくらいおんなじ顔だ
「オオシマ」
「?」
「ありがとな」
タムラは険しい顔で言った
私はちょっとほっとした
「お見舞いきていい?」
「やばくなったときだけな」
「じゃあやばくなったら連絡して」
そう言って私は電話番号をわたす
「いつでもかけて、学校の授業中だって駆けつけてくるから」
タムラは黙ってうなずいた
101 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:25:38.36 ID:d7vBTGF30.net
帰り道は拍子抜けするくらい腕が軽かった
私は「ありがとな」と言ったタムラの顔を思い出してみる
三年前のクソナマイキな頃の表情に、少しだけ戻ってた気がした
……まだ大丈夫だよな、あいつ
大丈夫じゃなきゃだめなんだ、しっかりしてくれ頼むから
私は夕方になっていく帰り道を一人で歩きながら、祈るような気持ちでそう思った
102 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:30:25.58 ID:d7vBTGF30.net
私の母さんはカンオケ職人だ
死んだじいちゃんもカンオケを作っていた
だから、たしかに私もいつかはカンオケ作りを継ぐのかなーって常々思っていなくもなかった
でもそれはなんとなく まだまだ先のことで
中学卒業してからかなー、とか
高校出てからかなー、とか
美大とか専門で彫刻の勉強とかしてからかなー、とか
はたまたカンオケ作りなんてやらずに一生終えるかなー、とか
まあ言ってみれば漠然と考えてた
でもそういうのって「いつ始める」とかじゃなくて、勝手にタイミングがきちゃうもんなんだろう
たとえばタムラがあと半年で死ぬとか、タムラがもしかしたらまだちょっとだけ頑張るかもしれない、とか
そういうことで
103 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:32:09.97 ID:mtkb1fEV0.net
ほうほう
105 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:38:03.69 ID:d7vBTGF30.net
家に帰って私は母さんを探す
工房のドアを開けたらデスクに座ってた母さんが振り返ってじっと こっちを見た
初めて見る母さんの表情だった気がする
私は、今までこんな真剣に誰かに頭を下げたことなんてなかったな、と思いながら
「私を弟子にしてください」
と、母さんに言った
106 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:40:02.86 ID:d7vBTGF30.net
パンツを脱いで待ってくれていた人たちへ
これは私が初めて、カンオケを作ったときの話です
まだ脱いでたら どうかそのパンツをお上げくださいまし
107 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:42:08.97 ID:70Tdbpio0.net
見てるよー
108 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:48:00.03 ID:d7vBTGF30.net
だいたいの職人芸って そうだと思うんだけど、どう考えても半年そこらで一人前の技なんて身に着くはずがないよね
でも母さんは私を弟子に取ったし、タムラのカンオケ作りを(手伝うとは言ったけど)私にやらせると言った
母さんもじいちゃんに弟子入りしたのは、母さんの母さん、つまり私のばあちゃんが病気に倒れたときだと話してくれた
余命いくばくもないとわかったとき、じいちゃんは ばあちゃんのカンオケを何も言わずに作りはじめた
今の私とそう変わらない歳だった母さんが そのときにじいちゃんに弟子入りした、その気持ちは今の私ときっと同じようだったんだと思う
109 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:51:14.03 ID:d7vBTGF30.net
その翌日からカンオケ作りに取りかかる
大体の工程は、
デザインを考える
↓
それを材木に転写する
↓
線に合わせて絵を浮き彫りにする
↓
やすりをかける
こういう感じだ
「半年しかないから しっかりやりなさいね」と母さんは言った
113 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/06/20(土) 23:56:44.39 ID:d7vBTGF30.net
毎日一日一〇枚、私はデザインの原案を描く
大事なのは頭の中じゃなく描きながら考えることだと母さんも言ったし 私もそうだろうなと思った
学校には当たり前のように行かなくなって、私は朝から日が沈むまでひたすら描いた
絵なんて普段描かないから、写真を見たり人の絵を真似たり
何度も不安になった
「これでいいんだろうか」
「ほんとに ちゃんとよくなってるんだろうか」
「そもそもタムラに合うデザインをきちんと選べてるんだろうか」
「三年も会うどころか連絡さえ取ってなかった私なんかが」
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