僕とオタと姫様の物語
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348 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/08(水) 22:27
3通目
>エクセルファイル。
>
>嬢様は偽造旅券を使ってる。
>4年前に日本政府から発行された。ように見えるけど、
>実は1月前に新宿で偽造された。
>あるいは新宿で誰かに手渡された。
>
>その製作費用と必要な素材のリスト。
>驚くほど高いな。きっとほんものそっくり
>なんだろうな。効果まで。
>一度見てみたいよ。嬢様のそのパスポート。
>
>それから その他こまごまと、いろんな偽者の書類。
>預金とそのリスト。
>
>余談だけど、嬢様は過去にも何度か偽名で
>パスポートを作ってる。違う場所で。
>ご丁寧に その住所も載ってる。
>見ても仕方ないだろうけど、一応送り返した。
>
>
>
>テキストエディタ。
>
>これに関しては推測でしか言えない。前回のと同じだ。
>誰かが誰かに宛てた手紙。メールのコピー。
>おまえだって推理ドラマを見ながら、
>推理したことくらいあるだろう。
>そんな程度の説得力しかないけど
>嬢様は近いうちにインドへ旅行の予定。場所はデリー。
>
>もし嬢様が1週間近く消えることがあったら、
>おれも名探偵の仲間入りってわけだ。
>
>以上。
>
>
>たぶん これらは謎とかそんな複雑なことじゃなくて
>ファイル製作者は やるべきとこを当たりまえのように自然
>にやったんだ。
>覗き見してるおれたちが、よけいなことを考えすぎてしまった。
>
>美人の嬢様のせいで、なにか特別のことように扱っちまった。
>他になにかあれば送ってくれ。
>もう、そんなに難しいことじゃないと思う。
349 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/08(水) 22:29
ぼくは ときどき君が現実には存在しないんじゃないかと錯覚することがある。
君が話してくれた町も公園も絶対に訪れることのできない架空の地。
ほんとうにあるのかどうかもあやしい。
いまだって そうなのかもしれない。
ぼくは君のことは何も知らない。
名前さえ。
オタは間違いないと言ったけど、それは確認のプロセスでのことだ。誰も君の ほんとうの名を知りえない。
君は ぼくのすぐ手の届くところで眠っている。
柔らかい前髪が おでこのとこで いっせいにカーブして ちいさな背中へと流れる髪の本流へと消えてる。
それは見てとれる。
ぼくは それに触れることができる。そうしようと思えば、いつでも。
でも君の額の中にある脳は、まったく違う夢を見てるのかもな。
それこそ ぼくが永遠に知ることのない、異国の地、そこで過去に起きたいろんな出来事と悪夢。
なあ、姫様。
君が目覚めたら どこへ行こう。
今日も何も考えないで、はしゃいで飲もう。
君が望めば どこか遠くを目指してもいい。
ぼくじゃ役不足なのは承知してるけど それでも君が喜んでるとこがみたい。
君の笑ってる顔をしっかり覚えておきたいんだよ。
350 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/08(水) 23:04
オタからのメールにすべて目をとおして ぼくはしばらく考えてから、もういちどオタにメールした。
貼付するファイルはない。
気まぐれか ただの暇つぶしか たいして重要じゃないことのために、ぼくらは大量の文字を使う。
ぼくとお前は友人なんだと、だからいいじゃないかと、迷惑このうえない くだらない2バイトの羅列を突然送りつける。
オタは、たいていレスをくれた。それがどんなくだらない内容でも。
そんな仲でも、1年に数えるくらいは、おたがい真面目で相手を思いやるメールが届いたり届けられたりした。
これもそうなのだと思う。そんなときは どうしてもメールしたくて仕方ない。
>なあ、オタ。
>姫様はリッチなのに、なんでおれと遊んでるんだろうな。
>そうすることになんの意味があるんだろう。
たぶん思考力が ひどく落ちこんでたんだと思う。
オタも察してくれてたのか、いちもの罵詈雑言はくっついてこなかった。しかも素早いレス。
>嬢様の名を使ったからって、
>それが彼女のものだとは限らないだろう?
>逆におれが触ったファイルのすべてが、
>彼女に関係したことなのかどうかも証明できない。
>嬢様は譲様だよ。
>おれから見れば、まあ、美人はすべて妖精みたなものだけどさ。
>そこにいるのに手に取ることはかなわん。
>実在しないのといっしょだ。
>しかし おまえから見れば また事情も違うだろう。
似たようなものさ。ぼくもオタも。
ぼくはひとりごちた。
358 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/10(金) 00:33
昼過ぎに目覚めた。
姫様といっしょにベッドの上でまるまって 2匹の猫みたいに寄り添い、窓を通過して差しこんでくる暖かい陽射しにくるまって いつまでもだらだら眠り続けた。
先に起きたのは ぼくのほうだった。
ベッドからすべるように落ち、一回転して走ってトイレへ。
それからシャワーを浴びた。頭はすっきり爽快。
バスタオルで濡れた頭をごしごししながら、姫様を揺り起こす。
そのとき頭のなかでカチっと音がした。
ぼくの脳にモードが変更されたようなあからさまな変化があって自分でもあらがうことのできない強い衝動が、体中に沸き起こった。
ふつうの男がそうやるように、ぼくは姫様を求めた。
彼女はちょっと驚いたような顔をした。抵抗はなかった。優しく抱きとめられた気がする。
そのあとはよく覚えてない。
姫様がバスルームに消えたあと ぼくは彼女のために何かしてあげたいと真面目に考えはじめた。
ぼくにしかしてあげれないような特別な何か。できれば あまり大袈裟じゃないほうがいい。彼女がそうとは気づかない程度の何か。
359 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/10(金) 00:34
姫様は例によって ちょっとした用事のため渋谷に戻ると言い ぼくはゆっくり食事してから、彼女の後を追った。
待ち合わせは東京駅。
あのあと ぼくは彼女にこう提案した。
バスルームから出てきた彼女をつかまえ、髪を乾かすとか化粧とか そんなことをはじめる前に、彼女にぼくの提案を聞いてもらった。
ぼくは君が昔いた公園は遠いのかと尋ねた。
つまり、弟と過ごした、君にとっては特別な意味のあるあの場所。
彼女は最初、あそこへ行くことに なにか意味があるとは思えないとか なにかそんな意味合いのことを言ったように記憶している。
でも、そのすぐあとで、ぼくの嘘のない真剣な表情を見てとると ありがとう。と言った。
ほんとうは何度も ひとりで行こうと考えた、と彼女は言った。あそこを訪れるのが怖かった。と。
ヒロがよければ、ぜひ行きたい。
彼女は最後に、わたしをそこへ連れて行ってほしいと言った。
東京駅はひろい。いつ来てもそう思う。
規模だけなら新宿駅のほうが上な気がするけど東京駅はやけに広くて、大きい気がする。
遠いどこかと どこかを結ぶ、その拠点として考えてしまうからだろうか。
まあ、たしかに新宿駅で感傷的な気分になったりはしないよな。
せいぜい気をつけることだ。
そんな気分は あまりいい結果を生まないことを、ぼくは経験則から知っている。
思い起こしてみると、説明のつかない奇怪な行動や思わず赤面しそうな言動の元凶になってる場合が多い。
そんなわけで、ぼくは早くも芽生えた感傷的な気分を頭から追い出して姫様がやってくるのを待った。
急がないと。
あまりゆっくりしてられるほど時間が残ってなかった。戻ってくるのは深夜になるかもしれない。
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3通目
>エクセルファイル。
>
>嬢様は偽造旅券を使ってる。
>4年前に日本政府から発行された。ように見えるけど、
>実は1月前に新宿で偽造された。
>あるいは新宿で誰かに手渡された。
>
>その製作費用と必要な素材のリスト。
>驚くほど高いな。きっとほんものそっくり
>なんだろうな。効果まで。
>一度見てみたいよ。嬢様のそのパスポート。
>
>それから その他こまごまと、いろんな偽者の書類。
>預金とそのリスト。
>
>余談だけど、嬢様は過去にも何度か偽名で
>パスポートを作ってる。違う場所で。
>ご丁寧に その住所も載ってる。
>見ても仕方ないだろうけど、一応送り返した。
>
>
>
>テキストエディタ。
>
>これに関しては推測でしか言えない。前回のと同じだ。
>誰かが誰かに宛てた手紙。メールのコピー。
>おまえだって推理ドラマを見ながら、
>推理したことくらいあるだろう。
>そんな程度の説得力しかないけど
>嬢様は近いうちにインドへ旅行の予定。場所はデリー。
>
>もし嬢様が1週間近く消えることがあったら、
>おれも名探偵の仲間入りってわけだ。
>
>以上。
>
>
>たぶん これらは謎とかそんな複雑なことじゃなくて
>ファイル製作者は やるべきとこを当たりまえのように自然
>にやったんだ。
>覗き見してるおれたちが、よけいなことを考えすぎてしまった。
>
>美人の嬢様のせいで、なにか特別のことように扱っちまった。
>他になにかあれば送ってくれ。
>もう、そんなに難しいことじゃないと思う。
349 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/08(水) 22:29
ぼくは ときどき君が現実には存在しないんじゃないかと錯覚することがある。
君が話してくれた町も公園も絶対に訪れることのできない架空の地。
ほんとうにあるのかどうかもあやしい。
いまだって そうなのかもしれない。
ぼくは君のことは何も知らない。
名前さえ。
オタは間違いないと言ったけど、それは確認のプロセスでのことだ。誰も君の ほんとうの名を知りえない。
君は ぼくのすぐ手の届くところで眠っている。
柔らかい前髪が おでこのとこで いっせいにカーブして ちいさな背中へと流れる髪の本流へと消えてる。
それは見てとれる。
ぼくは それに触れることができる。そうしようと思えば、いつでも。
でも君の額の中にある脳は、まったく違う夢を見てるのかもな。
それこそ ぼくが永遠に知ることのない、異国の地、そこで過去に起きたいろんな出来事と悪夢。
なあ、姫様。
君が目覚めたら どこへ行こう。
今日も何も考えないで、はしゃいで飲もう。
君が望めば どこか遠くを目指してもいい。
ぼくじゃ役不足なのは承知してるけど それでも君が喜んでるとこがみたい。
君の笑ってる顔をしっかり覚えておきたいんだよ。
350 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/08(水) 23:04
オタからのメールにすべて目をとおして ぼくはしばらく考えてから、もういちどオタにメールした。
貼付するファイルはない。
気まぐれか ただの暇つぶしか たいして重要じゃないことのために、ぼくらは大量の文字を使う。
ぼくとお前は友人なんだと、だからいいじゃないかと、迷惑このうえない くだらない2バイトの羅列を突然送りつける。
オタは、たいていレスをくれた。それがどんなくだらない内容でも。
そんな仲でも、1年に数えるくらいは、おたがい真面目で相手を思いやるメールが届いたり届けられたりした。
これもそうなのだと思う。そんなときは どうしてもメールしたくて仕方ない。
>なあ、オタ。
>姫様はリッチなのに、なんでおれと遊んでるんだろうな。
>そうすることになんの意味があるんだろう。
たぶん思考力が ひどく落ちこんでたんだと思う。
オタも察してくれてたのか、いちもの罵詈雑言はくっついてこなかった。しかも素早いレス。
>嬢様の名を使ったからって、
>それが彼女のものだとは限らないだろう?
>逆におれが触ったファイルのすべてが、
>彼女に関係したことなのかどうかも証明できない。
>嬢様は譲様だよ。
>おれから見れば、まあ、美人はすべて妖精みたなものだけどさ。
>そこにいるのに手に取ることはかなわん。
>実在しないのといっしょだ。
>しかし おまえから見れば また事情も違うだろう。
似たようなものさ。ぼくもオタも。
ぼくはひとりごちた。
358 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/10(金) 00:33
昼過ぎに目覚めた。
姫様といっしょにベッドの上でまるまって 2匹の猫みたいに寄り添い、窓を通過して差しこんでくる暖かい陽射しにくるまって いつまでもだらだら眠り続けた。
先に起きたのは ぼくのほうだった。
ベッドからすべるように落ち、一回転して走ってトイレへ。
それからシャワーを浴びた。頭はすっきり爽快。
バスタオルで濡れた頭をごしごししながら、姫様を揺り起こす。
そのとき頭のなかでカチっと音がした。
ぼくの脳にモードが変更されたようなあからさまな変化があって自分でもあらがうことのできない強い衝動が、体中に沸き起こった。
ふつうの男がそうやるように、ぼくは姫様を求めた。
彼女はちょっと驚いたような顔をした。抵抗はなかった。優しく抱きとめられた気がする。
そのあとはよく覚えてない。
姫様がバスルームに消えたあと ぼくは彼女のために何かしてあげたいと真面目に考えはじめた。
ぼくにしかしてあげれないような特別な何か。できれば あまり大袈裟じゃないほうがいい。彼女がそうとは気づかない程度の何か。
359 名前:70 ◆DyYEhjFjFU 投稿日:04/09/10(金) 00:34
姫様は例によって ちょっとした用事のため渋谷に戻ると言い ぼくはゆっくり食事してから、彼女の後を追った。
待ち合わせは東京駅。
あのあと ぼくは彼女にこう提案した。
バスルームから出てきた彼女をつかまえ、髪を乾かすとか化粧とか そんなことをはじめる前に、彼女にぼくの提案を聞いてもらった。
ぼくは君が昔いた公園は遠いのかと尋ねた。
つまり、弟と過ごした、君にとっては特別な意味のあるあの場所。
彼女は最初、あそこへ行くことに なにか意味があるとは思えないとか なにかそんな意味合いのことを言ったように記憶している。
でも、そのすぐあとで、ぼくの嘘のない真剣な表情を見てとると ありがとう。と言った。
ほんとうは何度も ひとりで行こうと考えた、と彼女は言った。あそこを訪れるのが怖かった。と。
ヒロがよければ、ぜひ行きたい。
彼女は最後に、わたしをそこへ連れて行ってほしいと言った。
東京駅はひろい。いつ来てもそう思う。
規模だけなら新宿駅のほうが上な気がするけど東京駅はやけに広くて、大きい気がする。
遠いどこかと どこかを結ぶ、その拠点として考えてしまうからだろうか。
まあ、たしかに新宿駅で感傷的な気分になったりはしないよな。
せいぜい気をつけることだ。
そんな気分は あまりいい結果を生まないことを、ぼくは経験則から知っている。
思い起こしてみると、説明のつかない奇怪な行動や思わず赤面しそうな言動の元凶になってる場合が多い。
そんなわけで、ぼくは早くも芽生えた感傷的な気分を頭から追い出して姫様がやってくるのを待った。
急がないと。
あまりゆっくりしてられるほど時間が残ってなかった。戻ってくるのは深夜になるかもしれない。
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