アルミ缶の上に
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44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 20:29:19.94 ID:sUR+JIhz0
少年は困ったように頭を掻いた。
駄々をこねる子供にしては様子が深刻だ。
「よし,ウインナーだけじゃ体に悪いからな。俺今日はバイト12時で上がるんだ。ほら,向かいに公園があるだろう? そこで待ってな。レストランにでも連れてってあげるからさ」
うつむいていた少女の顔が上がる。
相変わらず笑顔は無いけれど,その瞳が輝いている気がした。
少女は長い髪を揺らし,スーパーを出て行った。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 20:34:01.99 ID:sUR+JIhz0
少年の言ったとおり,スーパーの向かいには公園があった。
少女の住んでいたアパートの側にあった,ちゃちな遊具が数点あるだけの広場ではなく,緑が多く大きな池もある立派な公園だ。
少女はスーパーが見える位置のベンチに腰掛け,足をブラブラさせていた。
母親はもう帰ってきただろうか。
土曜日の休日に家にいない自分に気づくだろうか?
父親を問い詰めるだろうか?
自分を探してくれるだろうか?
しかし,いくら考えても,少女の脳裏に浮かぶのは男に絡みつく『女』の母親の姿だけだった。
少年は困ったように頭を掻いた。
駄々をこねる子供にしては様子が深刻だ。
「よし,ウインナーだけじゃ体に悪いからな。俺今日はバイト12時で上がるんだ。ほら,向かいに公園があるだろう? そこで待ってな。レストランにでも連れてってあげるからさ」
うつむいていた少女の顔が上がる。
相変わらず笑顔は無いけれど,その瞳が輝いている気がした。
少女は長い髪を揺らし,スーパーを出て行った。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 20:34:01.99 ID:sUR+JIhz0
少年の言ったとおり,スーパーの向かいには公園があった。
少女の住んでいたアパートの側にあった,ちゃちな遊具が数点あるだけの広場ではなく,緑が多く大きな池もある立派な公園だ。
少女はスーパーが見える位置のベンチに腰掛け,足をブラブラさせていた。
母親はもう帰ってきただろうか。
土曜日の休日に家にいない自分に気づくだろうか?
父親を問い詰めるだろうか?
自分を探してくれるだろうか?
しかし,いくら考えても,少女の脳裏に浮かぶのは男に絡みつく『女』の母親の姿だけだった。
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 20:44:12.59 ID:sUR+JIhz0
「お待たせ」
少年はエプロンをはずした普段着で少女の前に現れた。
時刻は12時を回ったところ。
少女のお腹はグゥと音を鳴らした。
「はは,じゃあ行こうか。近くにファミレスがあるから,そこでいい?」
少女はうなずいた。
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 20:52:15.51 ID:sUR+JIhz0
ファミレスの中はガヤガヤと騒がしかった。
休日のお昼とあって,親子連れが多い。
少女と少年は4人がけの席に座った。
「好きなの頼んで良いよ」
少女はカラフルなメニューに目を走らせる。
目がチカチカしてきた。
「オレはハンバーグ定食にすっかな・・・。君は?」
少女は相変わらずメニューのあちこちに目を走らせている。
「こんなところ来るの初めてだから・・・分かんないの」
少年はパチパチと瞬きをした。
「初めてなの?」
少女はこくりとうなずいた。
あの男が来る前にも,母親には恋人がいた。
今よりも もっと幼かった少女を置いて,母親はよく男の元に出かけた。
最低限の食事は用意されていたものの,家族でレストランに行き,和やかな時間を過ごす,などということは少女にとっては夢のまた夢だった。
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 20:59:56.95 ID:sUR+JIhz0
「じゃあオレが勝手に決めちゃうよ?」
少年はウエイトレスを呼び,メニューを指しながら注文をした。
「オムライスとシーザーサラダ。それとハンバーグ定食。あ,ドリンクバーも」
「かしこまりました」
ウエイトレスが去っていくと,少年は席を立ち,少女を促した。
「飲み物取りに行こう」
少女は少年の後についていく。
コップを渡され,初めてのドリンクバー。
機械の操作が いまいち分からずメロンソーダを溢れさせてしまい,少年に笑われた。
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 21:03:46.70 ID:sUR+JIhz0
注文した料理が運ばれてくる。
少女はトロトロのオムライスに ごくりとのどを鳴らした。
外食よりも母親の手料理の方が良いという意見も多いはずだが,少女にとっては このオムライスが何倍ものご馳走だった。
「ほら,野菜も食べな」
シーザーサラダをすすめながら,少年は笑った。
料理を一通り平らげ,少年は少女に聞いた。
「なんで,家に帰れないの?」
少女の満腹のお腹がキュッと痛んだ気がした。
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 21:09:19.62 ID:sUR+JIhz0
「お母さんは家にいるの?」
多分,もう帰っているだろう。それに土日は休みだ。
少女は小さくうなずいた。
「お父さんは?」
ズキンと胸が痛む。
本当の父親は少女が生まれる前に亡くなっている。
あの男は『父親』ということになるのだろうか?
嫌だ。
あんなの『お父さん』じゃない。
少女は首を振った。
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 21:15:33.59 ID:sUR+JIhz0
「お母さんがお家にいるなら,ちゃんと帰らなきゃ。心配してるよ」
少女は首を振った。
母親が心配をしているところが想像できない。
男の視線から逃れるため,頼ってきた母親。
しかし もう少女の中では頼れる存在ではなくなっていた。
「学校も行かなきゃいけないだろ?お家から通わなきゃ」
少女はまた首を振った。
少年は困ったような顔をした。
「お家はどこ?オレが付いていくから」
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 21:20:18.86 ID:sUR+JIhz0
「いや!」
少女は強く言った。
「いい加減にしろ!」
少年も強めに返した。
今まで穏やかだった少年に少しおびえたのか,少女は びくっと肩を揺らした。
「イヤイヤじゃあダメだ。いつまでも外でウロウロする訳にもいかないだろう。ほら,帰るよ」
少年は伝票を取り,席を立った。
少女は涙を流しながら嗚咽を漏らしていた。
少年に怒られたことと,そして あの男の家に戻らなければいけないことに絶望して。
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 21:27:11.57 ID:sUR+JIhz0
少年はファミレスを出てから,少女と手をつないでいた。
放っておくと逃げ出してしまいそうだったからだ。
少女の足取りは重かった。
(帰りたくない)
結構な距離があるが,2人はひたすら歩いた。
少女の歩みは遅いが,少年は根気強く付き合った。
家への距離が縮まるほど,少女の表情は暗くなる。
(そう言えば この子は一度も笑ってないな)
少年がふと思ったとき,繋いだ少女の手がブルブルと震えだした。
少女の瞳は20メートルほど先にある古いアパートを見ている。
「やっぱり嫌!」
少女は少年の手を振り解き,今まで来た道を駆け出していった。
「あ!こら!」
少年は少女を追いかけようと思ったが,アパートの前で言い争いをしている男女を見て,足を止めた。
>>次のページへ続く
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