私の脳裏に母と娘が手を取り合って、必死に暮らしている姿が浮かんだ。
しかし私にも大事な娘がいる。
「自分の娘の幸せのために、私の娘達を犠牲にするのか!」
彼女は人目も憚らずに泣き崩れる。
「せめて誰に頼まれたのかだけでも教えてくれ」
彼女は散々迷った末、小さな声で言った。
「青山さん・・・・・・これ以上は許して下さい」
妻の身近にいる人間で、青山という名の、他人の娘の留学を援助できるだけの自由になるお金を持っている男。
私にはそれだけで十分だった。
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家に帰ると11時を過ぎていたが、妻はまだ帰っていない。
今日も青山に抱かれているのか。
相手が分かると私の怒りは更に増し、嫉妬で狂いそうになる。
どうしてこんな事に。
帰って来た妻は、何も言わずにバスルームに向かう。
私が後を追って入っていくと、既に夫婦では無いと言わんばかりに、妻はタオルで前を隠して身体を硬くした。
「どういうつもり!早く出て行って!」
「洗ってやる!俺が洗ってやる!」
私は嫌がる妻の腕を痕が残るほど強く掴み、身体が赤くなるほど強く擦った。
「やめて!私に触らないで!」
私の目から涙が毀れたが、妻もまた涙を流していた。
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妻は今の会社に5年前から勤め出したが、娘がまだ小学生だった事から最初は4時までのパートだった。
しかし、下の娘が中学に上がった2年前、運良く正社員として採用してもらう。
私は今まで、それは妻の真面目な勤務態度が認められたからだと喜んでいたが、今回の事で少し違うのではないかと思えてきた。
妻は社長の青山に気に入られて、正社員になれたのではないかと。
私は直接会った事はないが、青山の事は妻の話によく出ていた。
時々仕入先などに付き合わされている事も知っている。
パートを合わせても社員20人ほどの小さな会社で、いくら仕事だと言っても社長が連れ回すのはおかしいと思った事もあり、二人の仲を嫉妬した事もあったが、今までの妻は何でも私に話してくれて、仕事以外の付き合いは無い事が分かっていた。
仮に青山に誘われたとしても、妻に限って誘いに乗ることなど無いと確信していた。
何より妻は私を愛してくれていて、私を裏切る事などあり得ないと思っていたが、その妻が私を裏切って青山に抱かれている。
いったい何があったのだ。
私は青山との関係を問い質したかったが、今の妻が素直に認める事は考えられず、下手をすれば逆に私の女性関係を責められて、罵倒し合って更に関係が拗れるだけだろう。
言い逃れ出来ない証拠を得たいと思った私は、あえて封筒に書かれていた、私を調べた興信所に行ってみた。
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「誰に依頼されて調べたかは言えません」
「言えないと言う事は、頼みに来たのは妻ではないのですね?青山という男ではありませんか?」
見たところ50歳前後の、ここの所長だと名乗る男は困った顔をした。
「ご主人を調べた経緯は話せませんが、仕事ですから奥様の調査は させて頂きます」
調査費用の事もあり、毎日のように会っているので、3日も調べてもらえば十分だと思って依頼すると、やはり妻は青山と二人だけで会っていた。
最初の日は帰って来たのが午前様だったので、青山と会っているのは分かっていたが、報告書を見るとやはり青山と会って食事をして、その後ラブホテルに行っている。
次の日は早く帰っていて何事も無く、最後の日も早く帰ってきて夕食の支度をしていたので安心していたが、この日の妻は午前中に会社を出て仕入先に出向き、昼に青山と落ち合って食事をした後、有ろう事か昼間から郊外のラブホテルに入っている。
それも4時間も。
「これはどうなっているのですか?」
所長は不思議そうな顔をする。