逆転
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お前達と違うのは被害者だと言うだけだろう?
壊れるか壊れないかは向うが決める事だろうが。
俺も子供達も、お前達とは関係がないんだよ。
俺はまだしも、あの子達を傷つけて、関係のない人を傷つけるなとは、よく言えたものだ。
それに辛い思いをするのは私達だけとはどう言う意味だ。私達とは何なんだ!」
ただ妻を試すだけに言ったのですが、態度を見て気が変わりました。
何とか阻止しようとする妻に嫉妬とは違う複雑な感情を感じます。いや、それは嫉妬心なのかも知れません。
妻を払いのけ受話器に手を伸ばします。
電話の向うに聞こえる声は、おっとりとした優しそうなものでした。
その声に私は一瞬、躊躇してしまいましたが、今更引き下がれないでしょう。
「ご主人は帰られましたか。帰られていなければ奥様にお話ししていいのかどうか・・・・」
男はまだ帰っていないと言います。
もし帰って来ていのなら、まずは男と話を仕様と思ったのですが居ないのらしょうがありません。
これまでの経過をかいつ摘んで話をしました。
無言で聞いていた相手は静かな声を出しました。
「ご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした。主人が帰りしだい話をさせてもらいます。本当に申し訳ありませんでした」
私は自宅の電話番号と携帯の番号を教えて話しを終えました。
思いつきで掛けた電話は、後口の悪いものとなり後悔の念が湧き起ります。
男の妻は穏やかで静かな声で受け答えをしてくれました。きっと、大人しい人なのでしょう。
自分がした事のように謝るあの人に まだ聞かせるべきではなかったと反省してしまいます。
私が起こした問題ではありませんが、男の妻の起こした問題でもありません。そんな人を自分が傷付けてしまった気分です。
電話を切り振り返ると妻は呆然とへたり込んでいます。
「お前達のおかげで嫌な思いをした。俺ばかりじゃない。あの奥さんもショックだろうさ。可哀想に。もっと責任の重さを知るべきだ」
何で私がこんな思いをしなければならないのか。こいつら本当に腹の立つ奴らです。
私から妻には言葉をかけません。どんな行動を取るのか興味があったからです。
人事みたいな事を言いますが、私の心に そんな勝手な意地の悪い自分が存在します。
これが普通の夫婦なら、こんなふうには思えないのでしょう。想像するのもおぞましい修羅場が展開しているのだろうと思います。
でも、私達夫婦の間には そんな光景はありません。その代わりに冷たい空気が流れています。
その空気は、主に私が作り出しているものなのでしょうが・・・・・
本当は、修羅場を演じている夫婦の方が健全なのだろうと、また、人事みたいに醒めた脳が考えていました。
--------------------
そんな私にとっての楽しい時間がどのくらい流れたでしょうか。
妻の携帯から着信音が聞こえます。
久しぶりに聞く着信音は以前の聞き慣れたものとは違い一瞬何の音だかピンと来ませんでした。
携帯を取って相手を確認し慌てて部屋から出て行こうとする妻に相手が誰だかも知りました。
「此処にいるんだ!隠れる必要はない。此処で話しなさい」
その言葉に一瞬慌てたようです。
「はっ、はい」
素直に戻り話していますが、私の目を気にして辛そうです。
しかし、その内容からして会話の相手は、あの男なのは明白なものとなりました。
男は わざわざ妻の携帯に連絡して来たと言うのは、どんな魂胆があっての事なのか?
妻もどうしてはっきりと話せないのか?
それは、私に聞かれたくない内容だからに他ありません。
此処に及んで どんな悪知恵を働かせたところで、何の役にも立たないのに。私も舐められたものです。
相手の会社に乗り込んで、あんな行動に出たのに、まだ私の本質に気付かないのは、妻が私の事を よほど見下して相手に話していたのかと思えるのです。
確かに事なかれ主義を通して来たのは私ですから、とやかく言えない立場でもありますが腹が立つのを抑えられません。
「業とらしく聞くけど誰からなの?」
「・・・・・・・・・・」
「誰からなのか聞いているんだよっ!」
こんな時は、穏やかにと思ってはいたのですが、苛立っている心を隠せず声に怒気をおびてしまいました。
別に穏やかに接するのが得策な訳でもないのでしょうが、格好を付けたがる私の癖です。
その声に妻が素直に応えたのは、本音ほど相手に伝わるものはないと言う事なのでしょう。
「・・・・岸部部長から・・・・」
口ごもるのは誤魔化したかったからなのでしょうが、出来る訳がないのに。
「お前に何の用事だ?また、お誘いか?お前達は懲りないな」
「そんなのじゃないわ・・・・・」
訴えるような眼差しを投げかけてきますが、岸部は何の用で電話をしてきたかくらいは私も想像が出来ます。
そんな事はどうでもよく、少し意地が悪くなっていたのです。
「ふ〜〜ん。じゃあ何の相談なのかな?
もしも、俺が奥さんに言ったのにクレームを付けているのなら お門違いだと言ってやれ。
お前だって、あいつの思う通りには出来ないよな。
文句があるなら俺に言え。
くだらない男だな、まったく」
電話を切り振り返ると妻は呆然とへたり込んでいます。
「お前達のおかげで嫌な思いをした。俺ばかりじゃない。あの奥さんもショックだろうさ。可哀想に。もっと責任の重さを知るべきだ」
何で私がこんな思いをしなければならないのか。こいつら本当に腹の立つ奴らです。
私から妻には言葉をかけません。どんな行動を取るのか興味があったからです。
人事みたいな事を言いますが、私の心に そんな勝手な意地の悪い自分が存在します。
これが普通の夫婦なら、こんなふうには思えないのでしょう。想像するのもおぞましい修羅場が展開しているのだろうと思います。
でも、私達夫婦の間には そんな光景はありません。その代わりに冷たい空気が流れています。
その空気は、主に私が作り出しているものなのでしょうが・・・・・
本当は、修羅場を演じている夫婦の方が健全なのだろうと、また、人事みたいに醒めた脳が考えていました。
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そんな私にとっての楽しい時間がどのくらい流れたでしょうか。
妻の携帯から着信音が聞こえます。
久しぶりに聞く着信音は以前の聞き慣れたものとは違い一瞬何の音だかピンと来ませんでした。
携帯を取って相手を確認し慌てて部屋から出て行こうとする妻に相手が誰だかも知りました。
「此処にいるんだ!隠れる必要はない。此処で話しなさい」
その言葉に一瞬慌てたようです。
「はっ、はい」
素直に戻り話していますが、私の目を気にして辛そうです。
しかし、その内容からして会話の相手は、あの男なのは明白なものとなりました。
男は わざわざ妻の携帯に連絡して来たと言うのは、どんな魂胆があっての事なのか?
妻もどうしてはっきりと話せないのか?
それは、私に聞かれたくない内容だからに他ありません。
此処に及んで どんな悪知恵を働かせたところで、何の役にも立たないのに。私も舐められたものです。
相手の会社に乗り込んで、あんな行動に出たのに、まだ私の本質に気付かないのは、妻が私の事を よほど見下して相手に話していたのかと思えるのです。
確かに事なかれ主義を通して来たのは私ですから、とやかく言えない立場でもありますが腹が立つのを抑えられません。
「業とらしく聞くけど誰からなの?」
「・・・・・・・・・・」
「誰からなのか聞いているんだよっ!」
こんな時は、穏やかにと思ってはいたのですが、苛立っている心を隠せず声に怒気をおびてしまいました。
別に穏やかに接するのが得策な訳でもないのでしょうが、格好を付けたがる私の癖です。
その声に妻が素直に応えたのは、本音ほど相手に伝わるものはないと言う事なのでしょう。
「・・・・岸部部長から・・・・」
口ごもるのは誤魔化したかったからなのでしょうが、出来る訳がないのに。
「お前に何の用事だ?また、お誘いか?お前達は懲りないな」
「そんなのじゃないわ・・・・・」
訴えるような眼差しを投げかけてきますが、岸部は何の用で電話をしてきたかくらいは私も想像が出来ます。
そんな事はどうでもよく、少し意地が悪くなっていたのです。
「ふ〜〜ん。じゃあ何の相談なのかな?
もしも、俺が奥さんに言ったのにクレームを付けているのなら お門違いだと言ってやれ。
お前だって、あいつの思う通りには出来ないよな。
文句があるなら俺に言え。
くだらない男だな、まったく」
「・・・くだらない人だなんて・・・こんな場合は誰だって・・・・」
私達夫婦が どうなるかは成り行きまかせ。そんな投げやりな気持ちでも、決して愉快な立場にいる訳でもないので、その言葉にカチンときたのです。
この期に及んで相手を庇うような態度に出るのは、とっさの事とは言え妻の本音なのでしょう。
「おいおい、立派な男が人の妻に手を出して尻拭いも出来ないのは何故だ!
お前に話す前に、俺に詫びるのが順番なんじゃないかっ!何が、くだらない人じゃないだ!勝手な事を言いやがて!
そう出るなら此処から叩き出すぞっ!」
自分でも思っていなかったような大声を出して、携帯を取り上げていました。
「冷静になってちょうだい!私が悪かったのっ!私が悪かったんです・・・・」
妻も必死なようです。
「違うな。お前だけが悪いんじゃない。お前達二人とも悪いんだよ。聞こえてるかい、・・・岸部さん」
おもむろに岸部に問いかけました。
「・・・・・貴方には申し訳ない事をしてしまいましたが、何も妻にまで話さなくても・・・・・」
相手はボソボソと答えてきます。
こんな時の人間の気持ちが分からない訳ではないのですが、随分と勝手な言い分です。
「俺達が壊れるのはいいが、自分達が壊れるのは嫌ってか。甘いな、おっさん。
奥さんには何の恨みもないが、あんたのやった事を知る権利はあるだろう。
聞きたくない話だろうが、今後の為にも知っておいた方がいいと思ったのさ。
声だけしか聞いていないが、おとなしそうな感じのいい人じゃないか。
あんたみたいな男と一緒になったのが可哀相だよ。
奥さんの為にも男としての責任をきちんと取って出直すんだな。
俺は、あんたが思っているほど甘くないぞ。覚悟しておけや。
これからは何か用事があったら俺にしてこい。携帯の番号は奥さんが知ってる。
雅子と一緒になるのが、責任の取り方だと言うんなら話は別だがな」
相手の奥さんに話してしまったのは成り行きでしたが、妻と、この男が一緒になるのを反対はしません。
内心は快くはないでしょうが、別れる手間が省けるとも心の何処かで思うのです。
離婚するにしても、そんな方法が私のこれからの人生にプラスにならないのは百も承知です。
でも、このまますんなりと事が運べば、どんなに楽だろうと思ってしまうのです。
--------------------
携帯を切ってから何か言いたそうな妻を無視して新聞を見ている振りをどれくらい続けていたでしょうか。
家のインターフォンが来客を告げました。
妻が立とうとするのを制しモニターを見ると、岸部が立っています。
わざとらしく問いかけます。
「どちら様ですか」
「岸部です。夜分申し訳ありません」
「誰に用事だ?俺にか?雅子にか?」
「お二人に話があります」
来るだろうとは思っていましたが、いざ来られると面倒臭いものですね。しょうがなく今回は中に入れました。
リビングのソファーに座る男から言葉が発せられません。
ただ俯いたままです。こいつ何をしに来たのか。
>>次のページへ続く
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