逆転
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どんな悪知恵を思いついたのか?まさか男に教えられた通りに話そうなんて思っているのじゃないだろうな。興味の有るところではありますね。
私は書類を簡単に片付けて鍵を解放しました。
「貴方、何か勘違いしてないかしら。私から電話したのに嘘ついて悪かったわ」
寝室に入ってくるなり、そんな事を言い出します。
子供を育てた女は怖い物知らずです。あの初々しかった若き頃の妻は そこには居ません。
気性の荒い女ではありましたが、こんなには図々しくはなかった・・・
「残業を減らして欲しいと部長に頼んでいたの。
でも中々許可してくれなくて・・・・・・その結果がこれじゃない。
だから部長に どうしてくれるって文句の電話を掛けたの・・・・・
何か貴方に誤解されてるみたいだから、つい嘘をついちゃって・・・」
白々しい。
「そうか。そんな話をしていたのか。ちゃんと言ってくれればよかったのに」
私は薄ら笑いを浮かべながら、妻に興信所の封筒を渡しました。
何気なく受け取り、それが何を意味するのかを悟った妻の表情が凍り付いたのは言うまでもないでしょう。
嘘がばれたら極まり悪いのは誰しも同じです。ただこの嘘はたちが悪い。その位の感情は、幾ら厚顔無恥の妻でもあったみたいですね。
「中を見てみろよ。面白いぞ」
妻は封筒の中を見る事が出来ません。
当然その中から何が出て来るのかは分かっているでしょうから。
暫らくの沈黙の後、妻が問います。
「どうして?どうしてこんな事を?」
意味不明な言葉を口にしましたのは相当焦っているのでしょうね。
「どうしてって何が?どうもこうもないだろう。
疑っていたからに決まっているじゃないか。
まさか、俺が何も気付いていなかったと思ってるのか?俺は お前が思う程馬鹿じゃないよ。
自分からこんな不潔な事を止めてくれるのを待っていたんだぜ。
その時は、怒るだろうけど、しっかり話し合って、お前が望むのなら許してやろうと思っていた。
しかし、そんな日は来なかったな。
もう許す段階じゃない。
お前だって このまま終りにしたいと思ってるだろう?」
心にも無い言葉が口から出て来ました。私は初めから許してやろうなんて思っていません。
でもそんな事を言ってしまうと、あたかも本心のように思えて来るから不思議です。
私は、取引先の彼女の顔を思い浮かべていました。と言うより、いつも頭の中にいるのです。
彼女がその気があるのなら、今すぐ妻と別れて一緒に暮らしたいとも思っています。
それが実現すると、現実が幸せなのかどうなのか。私には分かりません。でも、この年になっても女は新しい方がいい。
惚れて惚れて結ばれた結婚ではありませんでした。将来を真剣に見詰ての結婚でもなかった。
世間知らずゆえ、自尊心を満足出来るものであれば誰でもよかったのかも知れません。
だからこそ、今は真剣に若気の至りを後悔してるのでしょうね。
おっとりとして優しい女を私は求めている。勝手ですが求めている。
あの人が今こんな状況だから恋しい。今だからこそ恋しく思える。
しかし、そんな事を告白した訳でもなく、私が勝手に思っているだけです。
私がそんな話しをしたなら、彼女は何と答えてくれるのか?『御免なさい』が関の山でしょう。単なる私の夢です。
勝手なものでこんな時は、子供達の立場等 眼中にありません。
そんな思いを心の中で思い巡らせている間にも、妻からの返答がないのです。
私は、いかにも悲しそうな態度で寝室を出ました。
--------------------
『さあ、これからどうやって苛めてやろうか』
悲しく等ありませんが、何故か嬉しくもありません。私はこんな面倒くさい時間が大嫌いなだけです。
しかし、今は悲しそうにした方がいいのでしょう。ドラマだって そんな描写をするはずです。
『我ながら上手い演技だ。怒り散らすのもいいが、この方が信憑性が沸くだろう』
私は作り笑いを浮かべました。
居間に行くと、何時2階の部屋から降りて来たのか、長女がソファーに座っています。
娘は私に小声で話し掛けます。
「お母さんは?」
「寝室だよ。もう直ぐここに来ると思うぞ」
「そうなの。それじゃぁ不味いわ。実はね、お父さんに話があるんだ。お母さんには聞かれたくないの。私の部屋に来てくれるかな」
何の話かは分かりませんが、娘に付き合わない訳には行きません。二人で階段を上がります。
滅多に入る事の無い娘の部屋は、思いのほか綺麗に整理されてます。この辺は私ではなく、妻に似たのでしょうね。
そこには次女も私を待っていました。二人でベッドに腰を下ろし、並んで座ります。
「どうして?どうしてこんな事を?」
意味不明な言葉を口にしましたのは相当焦っているのでしょうね。
「どうしてって何が?どうもこうもないだろう。
疑っていたからに決まっているじゃないか。
まさか、俺が何も気付いていなかったと思ってるのか?俺は お前が思う程馬鹿じゃないよ。
自分からこんな不潔な事を止めてくれるのを待っていたんだぜ。
その時は、怒るだろうけど、しっかり話し合って、お前が望むのなら許してやろうと思っていた。
しかし、そんな日は来なかったな。
もう許す段階じゃない。
お前だって このまま終りにしたいと思ってるだろう?」
心にも無い言葉が口から出て来ました。私は初めから許してやろうなんて思っていません。
でもそんな事を言ってしまうと、あたかも本心のように思えて来るから不思議です。
私は、取引先の彼女の顔を思い浮かべていました。と言うより、いつも頭の中にいるのです。
彼女がその気があるのなら、今すぐ妻と別れて一緒に暮らしたいとも思っています。
それが実現すると、現実が幸せなのかどうなのか。私には分かりません。でも、この年になっても女は新しい方がいい。
惚れて惚れて結ばれた結婚ではありませんでした。将来を真剣に見詰ての結婚でもなかった。
世間知らずゆえ、自尊心を満足出来るものであれば誰でもよかったのかも知れません。
だからこそ、今は真剣に若気の至りを後悔してるのでしょうね。
おっとりとして優しい女を私は求めている。勝手ですが求めている。
あの人が今こんな状況だから恋しい。今だからこそ恋しく思える。
しかし、そんな事を告白した訳でもなく、私が勝手に思っているだけです。
私がそんな話しをしたなら、彼女は何と答えてくれるのか?『御免なさい』が関の山でしょう。単なる私の夢です。
勝手なものでこんな時は、子供達の立場等 眼中にありません。
そんな思いを心の中で思い巡らせている間にも、妻からの返答がないのです。
私は、いかにも悲しそうな態度で寝室を出ました。
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『さあ、これからどうやって苛めてやろうか』
悲しく等ありませんが、何故か嬉しくもありません。私はこんな面倒くさい時間が大嫌いなだけです。
しかし、今は悲しそうにした方がいいのでしょう。ドラマだって そんな描写をするはずです。
『我ながら上手い演技だ。怒り散らすのもいいが、この方が信憑性が沸くだろう』
私は作り笑いを浮かべました。
居間に行くと、何時2階の部屋から降りて来たのか、長女がソファーに座っています。
娘は私に小声で話し掛けます。
「お母さんは?」
「寝室だよ。もう直ぐここに来ると思うぞ」
「そうなの。それじゃぁ不味いわ。実はね、お父さんに話があるんだ。お母さんには聞かれたくないの。私の部屋に来てくれるかな」
何の話かは分かりませんが、娘に付き合わない訳には行きません。二人で階段を上がります。
滅多に入る事の無い娘の部屋は、思いのほか綺麗に整理されてます。この辺は私ではなく、妻に似たのでしょうね。
そこには次女も私を待っていました。二人でベッドに腰を下ろし、並んで座ります。
何か若い頃の妻が隣に座っているような感じでがします。当然ですよね。この子は妻が産んだ子供なのですから。
そんな娘が窓の方を見詰ながら話し出しだしました。
「お父さんとお母さん大丈夫なの?」
「大丈夫って何が?」
私は妻の帰りが遅いのを、娘達の前で愚痴らなかったと思います。
また、夫婦の言い争いも子供達の居るところでは避けていたつもりですが、それなりに伝わってしまうものなのでしょう。
娘達の話しの内容は、私よりも早く帰宅した時等よく電話をしているが、どうも相手が男のようである。
またその内容を娘達には聞かれたくない様子である事。
決定的に疑われたのは、私が出張の時は必ずと言っていい程に妻も外泊をしていると言う事がでありました。
娘達には『私もたまには羽を伸ばしたいの。お友達のところに行って来る』と、お決まりの台詞を言うようです。
私は家に電話を余程必要がある時以外は入れないのです。電話が来ない事をいい事に好き放題です。
妻にとって、この子達がまだ幼い子供なのでしょう。しかし、私達が思う以上に充分な大人になっています。
上手く誤魔化したつもりでも、もうそんな事では通じません。
『そうか、外泊までしていやがったか』
ここのところ出張がなかったので、興信所の報告書にも そこ迄は記入されていませんでした。
私は無関心過ぎました。無関心だったから こうなったのかもしれませんね・・・・・
妻もこんな事をしていれば、流石に娘達にも疑われると言う事ぐらいは考えるべきでした。
そんな理性も働かないほど、男と一緒に居たいと言う事か・・・・・
「言い難いんだけどさぁ、お母さんに男の人が出来ちゃったんじゃないのかなぁ。もしよ、もしそうだったらお父さん、どうする?離婚する?」
「お父さんと、お母さんが別れたらどうする?」
「・・・・・私達は嬉しくはないけど、お父さん達が決めた事ならしょうがないと思うしかないわ・・・・」
そう言って寂しそうに俯いている表情に、妻の面影が漂います。
「お父さん。もっとしっかりしないと駄目よ」
明るく笑って言いましたが、その笑顔は自然に湧き出たものとは違います。
この子達も、何時かは好きになった人と結婚して子供を産むのでしょう。その時は、私達のような夫婦でなければいい。
それでも長い生活のには晴れもあれば雨の日もある。そんな経験を積んで、今の私達の関係も理解できるのかも知れません。
しかし、今はまだ若い。そこ迄は理解出来ないのが当たり前です。私達の子供としての目で見ているのです。
私には、この子達が居るんだなぁ。自分の事しか考えていなかった。いっぱしの大人面をしていましたが、私は子供なのです。
私達の行動が、この子らの心に不安を与えてしまった。
まだ浅い不安であろうその傷を、埋めてやるのが親としての努めなのか? 大人って責任を持たなければいけない生き物だって、せつないですね。
--------------------
「こんな時間に誰かしら?」
長女の言葉に我に返ります。
私は きっとあの男が来たのだろうと推測しました。職場に来られるのは厄介な事でしょう。
幾ら子供の私でも、その事が何を意味するのかは分かります。もしあの男で有るのなら、男は会社での立場が大切なのです。
奥さんと離婚する気があるのか、ないのか迄は分かりませんが、社員との不倫が知れると不味いと思っているのでしょう。
おそらくは、離婚なんて考えていないのだろうな。
妻との愛を貫き通すつもりなら、男なら男として貫き通さなければならない誠意があります。
全てを失っても、守らなければならないものがあるのです。
>>次のページへ続く
そんな娘が窓の方を見詰ながら話し出しだしました。
「お父さんとお母さん大丈夫なの?」
「大丈夫って何が?」
私は妻の帰りが遅いのを、娘達の前で愚痴らなかったと思います。
また、夫婦の言い争いも子供達の居るところでは避けていたつもりですが、それなりに伝わってしまうものなのでしょう。
娘達の話しの内容は、私よりも早く帰宅した時等よく電話をしているが、どうも相手が男のようである。
またその内容を娘達には聞かれたくない様子である事。
決定的に疑われたのは、私が出張の時は必ずと言っていい程に妻も外泊をしていると言う事がでありました。
娘達には『私もたまには羽を伸ばしたいの。お友達のところに行って来る』と、お決まりの台詞を言うようです。
私は家に電話を余程必要がある時以外は入れないのです。電話が来ない事をいい事に好き放題です。
妻にとって、この子達がまだ幼い子供なのでしょう。しかし、私達が思う以上に充分な大人になっています。
上手く誤魔化したつもりでも、もうそんな事では通じません。
『そうか、外泊までしていやがったか』
ここのところ出張がなかったので、興信所の報告書にも そこ迄は記入されていませんでした。
私は無関心過ぎました。無関心だったから こうなったのかもしれませんね・・・・・
妻もこんな事をしていれば、流石に娘達にも疑われると言う事ぐらいは考えるべきでした。
そんな理性も働かないほど、男と一緒に居たいと言う事か・・・・・
「言い難いんだけどさぁ、お母さんに男の人が出来ちゃったんじゃないのかなぁ。もしよ、もしそうだったらお父さん、どうする?離婚する?」
「お父さんと、お母さんが別れたらどうする?」
「・・・・・私達は嬉しくはないけど、お父さん達が決めた事ならしょうがないと思うしかないわ・・・・」
そう言って寂しそうに俯いている表情に、妻の面影が漂います。
「お父さん。もっとしっかりしないと駄目よ」
明るく笑って言いましたが、その笑顔は自然に湧き出たものとは違います。
この子達も、何時かは好きになった人と結婚して子供を産むのでしょう。その時は、私達のような夫婦でなければいい。
それでも長い生活のには晴れもあれば雨の日もある。そんな経験を積んで、今の私達の関係も理解できるのかも知れません。
しかし、今はまだ若い。そこ迄は理解出来ないのが当たり前です。私達の子供としての目で見ているのです。
私には、この子達が居るんだなぁ。自分の事しか考えていなかった。いっぱしの大人面をしていましたが、私は子供なのです。
私達の行動が、この子らの心に不安を与えてしまった。
まだ浅い不安であろうその傷を、埋めてやるのが親としての努めなのか? 大人って責任を持たなければいけない生き物だって、せつないですね。
--------------------
「こんな時間に誰かしら?」
長女の言葉に我に返ります。
私は きっとあの男が来たのだろうと推測しました。職場に来られるのは厄介な事でしょう。
幾ら子供の私でも、その事が何を意味するのかは分かります。もしあの男で有るのなら、男は会社での立場が大切なのです。
奥さんと離婚する気があるのか、ないのか迄は分かりませんが、社員との不倫が知れると不味いと思っているのでしょう。
おそらくは、離婚なんて考えていないのだろうな。
妻との愛を貫き通すつもりなら、男なら男として貫き通さなければならない誠意があります。
全てを失っても、守らなければならないものがあるのです。
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