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神様の仮宿になっていた話をしたい
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26 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 20:35:59.64 ID:SIXK8Eoj.net
寂れた小さな神社だけれど、とある節句の時はわりと大掛かりなお祭りをしていた。

初詣よりも縁日よりも、節句のお祭りは派手。

神輿も出て神楽も催される。

それでも御神体は、本殿の奥は公開されなかった。





27 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 20:40:08.17 ID:SIXK8Eoj.net
屋上から本殿の中を見たことを話した上で、「あの石像がまた見たいんです」と頼んでみる。

「それは無理だねぇ」。一蹴される。

「本家の人間なら立ち入られるから、うちの養子になりなさいな」。

帰宅後、母親にあーちゃん家の養子になると言ってみるけれど、「馬鹿言ってないで宿題しなさい」の一言で話は終わる。






28 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 20:45:56.38 ID:SIXK8Eoj.net
それからずっと、あの石像を見ることは叶わなかった。

木を登ってみてもずり落ちて傷が出来るだけ。

窓から身を乗り出してみても先生に見つかって叱られるだけ。



欲求が溜まるまま、高学年になって転校をすることになった。

引越し先はそんなに離れているわけではないけれど、別の町に行くと神田神社に行くことはなくなった。思い出すことも少なくなった。

けれど他の神社に立ち入る度に、あの白さを思い出した。

あそこほど綺麗な場所には出会えなかった。






29 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 20:52:25.47 ID:pGyepl4e.net
それから大分年を取って、高校を出て一人暮らしを始めた。

それと同時に実家は以前の地元近くに戻ることになった。

それでも一人で住んでいる場所から実家まで1時間もかからなかったので、実家に帰ることはなかった。

なので神田神社に行くこともなかった。

地元に立ち入ることはなかったけれど、思い出すことは多くなった。







30 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 20:57:30.47 ID:pGyepl4e.net
一人で暮らし始めて6年ほど経った頃、2・3日実家に帰ることになった。

その頃働いていたお店のお客さんがタチが悪く、大分しつこくされていた。

教えていない携帯番号に連絡が来たり、住んでいる地域を特定されたりということが続いた。

少し、疲れていた。実家で少し気を休めるべきだと。

実家でインコのぴーちゃんに癒されていると、姉が神田神社の話を聞かせてくれた。

市内の神社に放火されるという事案が続いていて、神田神社もその被害にあったと。






31 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 20:58:43.62 ID:pGyepl4e.net
近くに消防署があったお陰で全焼はしなかったけれど、被害はそこそこ大きかったらしい。

私はそれはもう憤った。

あんな綺麗なものを燃やそうだなんてどうかしている。

憤った後、悲しくなった。

あの白さが損なわれてしまったかもしれない、という現実が辛かった。







32 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 21:04:43.83 ID:HpS+dltw.net
話を聞いた次の日、姉と一緒に以前住んでいたところに行ってみることになった。

駅から歩き、変わったところや以前通りのところを見かける度にわくわくした。

以前住んでいた家も、あーちゃんの家の立派さもなにも変わっていなかった。

小学校も殆ど変化がなかった。

神田神社だけが、変わっていた。





33 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 21:07:45.17 ID:HpS+dltw.net
大鳥居も御神木もそのまま。本殿もぱっと見は以前通り。

なのに子供の頃からあんなに焦がれ、中を見たいという欲求を阻んでいた外壁が、真っ黒になっていた。

外壁の一部は焼け落ちて、あんなに見たくて仕方なかった白い世界がだだ漏れだった。

外壁は真っ黒だけれど、中は子供の頃見た時のままに真っ白で、変わらず綺麗だった。

だからこそ悲しい。

白い世界を汚す黒さが、ただただ悲しかった。

あんなに見たくて仕方なかったのに、こんな見方をしたかった訳じゃない。






34 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 21:11:07.79 ID:HpS+dltw.net
崩れ落ちたところから身を乗り出して中を覗き込むことは憚れた。

まじまじと見ることは失礼に感じたからだ。

その日は手を合わせて、帰宅した。

なんとも言えない気持ちがもやもやと広がって、なんだか毎日がうまくいかない気がした。

お客さんは相変わらずしつこかったし、街を歩けば犬に吠えられる。

猫カフェに行けば全ての猫に威嚇される。

心が折れた。





36 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 21:24:48.51 ID:HpS+dltw.net
実家から通えない距離ではないし、そろそろ家も特定されそうだったので、いい機会だから実家に戻ろうかと思った。

親に話すと大喜びだったので、そこからは早かった。

そんなに好きな実家ではなかったけれど、戻ると決めたら1日でも早く帰りたくなった。

実家に戻ってからは大分気持ちも落ち着いた。

神田神社はその時点でも修復はされてなかった。

寄進が足りなくて修復出来ないままらしい。

次の節句の祭りでは寄進が集まるから、修復はその後になると教えてくれたのはあーちゃんだ。







37 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 21:27:43.55 ID:HpS+dltw.net
話は変わるが、私はとあるバンドが好きで割と全国を歩き回っている。所謂おっかけだ。

実家に帰ってからというもの生活に回す出費が減ったので、以前よりも遠征が多くなった。

開場時間までの空き時間、会場の近くを歩き回るのが常だ。

全国各地の御朱印を貰うのも好きなので、基本は神社を見て回るようにしている。

その活動の中、東北のとある県に行った。

霧雨が降る中、いつも通り近くの神社に行った。寂れた神社だった。





38 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 21:31:24.11 ID:HpS+dltw.net
参拝客もいない神社なので朱印がない可能性が高かったけれど、一応念の為に社務所らしき建物に訪いを入れた。

おっさんが出てきた。小豆色のジャージを着たおっさんだった。

おっさんは私の顔を見ると凄い驚いた顔をしてから、上から下まで全身を眺め回す。失礼なおっさんだった。





39 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 21:32:27.61 ID:HpS+dltw.net
「御朱印頂けますか?」

「うちはそういう面倒なのやってないんだよね」

ジャージだもんな。

期待してなかったのもあって早々に立ち去ろうとすると、「まぁお茶でも飲んでいきなよ」と軒下に置いてある木の縁台を勧められた。

ジャージのおっさんにナンパされる日が来ようとは。

この県が嫌いになりそうになる。

私は相当嫌そうな顔をしていたんだと思う。

おっさんは慌てて、いやそういうんじゃなくてと取り繕う。

「白い狐に心当たりはないか?」

神田様だ。すぐにそう思った。






40 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 21:36:59.64 ID:HpS+dltw.net
おっさんから貰った缶コーヒーを飲みながら、縁台で話をした。

おっさんと書くには少々失礼なので便宜上、小豆さんとする。

ここは代々小豆さん家が管理している神社で、一応神職の資格は持っているけれど本職の方がメインだから最低限の管理しかしていない。

「御朱印でも始めれば参拝客も増えて金になるんかねー」と言う小豆さんはとっても俗っぽい人だった。

それでも神田様の事は何一つ話してないのに、小豆さんは神様と断定する。





41 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 21:39:07.09 ID:HpS+dltw.net
「最初に見た時の白い狐がやってきたと思った。よく見たら人間だったけど、神さんが来るなんてどういうことかと混乱した。信仰しているところのお狐さんかな?」

私自身、特に神田神社を信仰しているわけではない。

どちらかといえば限りなく浅ましい欲求のみで神田神社のことを思っている。執着以外で表せる言葉が思い浮かばない。

その事も含めて、ざっと小豆さんに説明した。

子供の頃の神田神社への思い入れ、放火されたこと、焼け落ちた外壁が悲しかったこと。あの白さがどれほど美しく寂しいものなのか。

私の話を聞き終えた小豆さんは「探してるんかな」と呟いた。





42 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2015/12/24(木) 21:41:53.79 ID:HpS+dltw.net
「君に付いて回って犯人を探してるんじゃないかなぁ」

「取り憑かれてるってことですか」

「そこまで大層なことじゃなくてね、社が燃えたなら修復されるまで居心地悪いだろうし、君を仮宿にしてるって状態だと思う」

「私処女じゃないですよ?」

思ったことを口にすると小豆さんは大爆笑した。

巫女さんは処女が務めるものだと思っていたし、生贄なんかも基本は生娘という知識があった。処女じゃなくとも清廉潔白な人間が、神仏と関わるものだと。

当時の仕事も清らかなものではないし、生活は自堕落極まりない。

欲望と損得勘定で成形された私に、神様が付くとは到底信じられなかった。





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