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ドッペルゲンガーと人生を交換した話
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36 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:40:09.76 ID:EjVEnkhT.net
「そうか、悪かったな。詳しく話しておかなくて」
「でも、彼女ってわけではないんですよね?」
「当たり前だ。そんな関係の奴がいたら、入れ替わったりなんかしないさ」
「それもそうですね。それでも、一応聞いておいてもいいですか。七瀬さんのこと。今日もギリギリだったんですよ。バレないように話すの」
「ああ、そうだな、七瀬は……」
37 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:42:07.21 ID:EjVEnkhT.net
「それじゃあ、明日も頑張りましょう」
七瀬の話も終わり、椿が電話を切る合図の言葉を発した。
「ああ、じゃあな」
俺もそう言って電話を切った。
それから夕飯を食べて、今はもう寝るところだ。
「七瀬か……」
通話が終わってから、ずっと七瀬のことを考えていたせいか、そんな独り言が自然に口から出ていた。
帰ってきてから少し寝たため、全然眠くないので仕方なく、椿に話したことを思い出しながら、七瀬のことを考えることにした。
38 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:42:36.67 ID:EjVEnkhT.net
七瀬を、七瀬 千由を初めて意識したのは、小五の夏、教室でのことだった。
あの日俺は日直で、いつもより早く学校に行った。
誰もいないだろうなと思いながら教室に入ると、そこには七瀬がいた。
七瀬はその一ヶ月くらい前に、アメリカから転校してきたばっかで、俺は話したこともなかった。
ただ、その頃の俺はまだ、今よりはほんの少しだけ社交的だったんだな、教室にいた七瀬におはようと挨拶をしたんだ。今の俺からは考えられないな。
でも、返事は返ってこなかった。椅子に座っていた七瀬は、むすっとした顔で表情を変えずに、黙っていた。
39 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:44:08.09 ID:EjVEnkhT.net
あの頃の七瀬は少しクラスで浮いていた。
アメリカから来た帰国子女だ、それは小学生の俺たちには、異質なものだったんだと思う。
それに加えて七瀬には近寄りがたい雰囲気があった。それが一層、七瀬の孤立を深めんだろう。
いじめというわけではなかったが、七瀬 千由はとりあえず浮いていた。それで七瀬がとった行動が、あのむすっとした表情だったんだろう。
他人に弱みを見せないための盾。
そしてその顔に、少しだけ社交的な僕は意地になったんだろうな、その日から俺は七瀬にはしつこく話しかけた。七瀬をクラスに馴染ませようと思ったんだ。重ね重ね今の僕からは考えられないけどね。
「そうか、悪かったな。詳しく話しておかなくて」
「でも、彼女ってわけではないんですよね?」
「当たり前だ。そんな関係の奴がいたら、入れ替わったりなんかしないさ」
「それもそうですね。それでも、一応聞いておいてもいいですか。七瀬さんのこと。今日もギリギリだったんですよ。バレないように話すの」
「ああ、そうだな、七瀬は……」
37 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:42:07.21 ID:EjVEnkhT.net
「それじゃあ、明日も頑張りましょう」
七瀬の話も終わり、椿が電話を切る合図の言葉を発した。
「ああ、じゃあな」
俺もそう言って電話を切った。
それから夕飯を食べて、今はもう寝るところだ。
「七瀬か……」
通話が終わってから、ずっと七瀬のことを考えていたせいか、そんな独り言が自然に口から出ていた。
帰ってきてから少し寝たため、全然眠くないので仕方なく、椿に話したことを思い出しながら、七瀬のことを考えることにした。
38 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:42:36.67 ID:EjVEnkhT.net
七瀬を、七瀬 千由を初めて意識したのは、小五の夏、教室でのことだった。
あの日俺は日直で、いつもより早く学校に行った。
誰もいないだろうなと思いながら教室に入ると、そこには七瀬がいた。
七瀬はその一ヶ月くらい前に、アメリカから転校してきたばっかで、俺は話したこともなかった。
ただ、その頃の俺はまだ、今よりはほんの少しだけ社交的だったんだな、教室にいた七瀬におはようと挨拶をしたんだ。今の俺からは考えられないな。
でも、返事は返ってこなかった。椅子に座っていた七瀬は、むすっとした顔で表情を変えずに、黙っていた。
39 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:44:08.09 ID:EjVEnkhT.net
あの頃の七瀬は少しクラスで浮いていた。
アメリカから来た帰国子女だ、それは小学生の俺たちには、異質なものだったんだと思う。
それに加えて七瀬には近寄りがたい雰囲気があった。それが一層、七瀬の孤立を深めんだろう。
いじめというわけではなかったが、七瀬 千由はとりあえず浮いていた。それで七瀬がとった行動が、あのむすっとした表情だったんだろう。
他人に弱みを見せないための盾。
そしてその顔に、少しだけ社交的な僕は意地になったんだろうな、その日から俺は七瀬にはしつこく話しかけた。七瀬をクラスに馴染ませようと思ったんだ。重ね重ね今の僕からは考えられないけどね。
40 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:44:40.17 ID:EjVEnkhT.net
そしてとある事件があって、俺は初めて七瀬とちゃんとした会話を交わすことに成功した。
それどころかあの時、七瀬は俺に笑いかけたんだ。あの顔は一生忘れないと思う。この世の綺麗を全部集めたような顔だった。
それからは、元々は明るい性格だったんだろうな、七瀬はクラスに馴染んでいった。
聡明で、気が強くて、でも本当は寂しがりやで、七瀬 千由はそんな少女だった。
41 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:47:15.84 ID:EjVEnkhT.net
その後小学校を卒業するまで、七瀬と俺はわりとよく一緒に行動したんだ。
でも、中学生になって学校が離れて、最初の頃はたまに会ってたけど、徐々にそれも少なくなって、疎遠になった。
42 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:47:45.39 ID:EjVEnkhT.net
それで、社交的な俺が段々消えていって今の俺になった頃、俺は七瀬と再会した。
二ヶ月前のことだ。高校の入学式で七瀬は久しぶりと言って、俺に話しかけてきた。
面食らったよ、もう七瀬には会うことはないと思ってたからね。
正直、嬉しかった。七瀬とまた会えたのが。
だけど同時に俺は怖かったんだ。変わってしまった自分を見られるのが。だから俺は七瀬と距離を置いた。
43 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:48:53.92 ID:EjVEnkhT.net
それからはすれ違ったら挨拶をするくらいで、特に話すことはなかった。
それで一ヶ月くらい過ぎた頃かな、下校中同じ制服を着た奴が他校の生徒に絡まれてるなと思ったら、七瀬だった。
いつもの俺なら無視して立ち去るんだけど、何故か俺は、七瀬の手を掴んで走っていた。ヒーローになったつもりだったんだろうか。
違うな、七瀬だけが俺を特別にするんだ。
44 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:49:48.34 ID:EjVEnkhT.net
その後、お礼を言われて、また少しだけ話す関係に戻った。
昔みたいにはいかなかったけど、たまに話して、それが俺にとってはとても楽しいことだったんだ。
と、一部分だけを話すと、まるで俺がドラマチックに生きている主人公みたいだが、そんなことはない。椿に話した時も、「十分、主人公みたいなことしてるじゃないですか」と言われたが、全くもって的外れだ。
こんなのは、多かれ少なかれ、誰にだってあるようなことだと思う。みんなそれに気づいてないだけで、同じようなドラマを持っているだろう。
むしろ、俺がみんなと同じように、ドラマチックな経験をしていることが、奇跡なくらいだ。
それに、今の俺の高校生活が、地味で暗いものということには変わりないしな。
45 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:50:45.15 ID:EjVEnkhT.net
そんなことを考えていると、もう深夜だった。明日も俺は椿として学校に行く。
本当にこれで良かったのだろうか。考えても仕方がないので俺は寝ることにした。
入れ替わり二日目の学校も特に問題なく終わった。
大体の人間関係がわかったのと、椿が元々良い友人関係を築いていたからだろう。
46 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:51:41.80 ID:EjVEnkhT.net
そして、今日は放課後、桐島達とボウリングに行くことになった。俺が桐島達のノリについていけるか不安だったが、心配はいらなかった。
どうやったかは知らないが、本物の椿も、社交的ながら、わりと静かな方だったらしい。
そのおかげであまり喋らなくても、特に怪しまれることはなかった。
47 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:52:38.82 ID:EjVEnkhT.net
俺は友人とボウリングに行くなんて初めてのことだったが、桐島達の良い人柄もあって、正直楽しかった。
こんな毎日を過ごしているなんて、椿が本当うらやましいよ。
夜の電話で椿に同じようなことを言ったら、「貴方の生活もじきにそうなりますよ」と言われた。向こうも順調らしいが、本当なのだろうか。
まぁ、椿の今までの人間関係を見るに、本当にうまくいってるんだろうな。
素直に尊敬するよ、俺に対しての好感度を上げるなんて、相当難しいだろうからね。
48 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:53:03.56 ID:EjVEnkhT.net
それと、この二日で感じたことなんだけど、俺と椿はどうやら性格も似ているらしい。
表面的には、社交的な椿と内向的な俺は別人に見えるだろう。
ただ根本的なものは同じみたいなんだ。
この二日俺は、椿を演じることに違和感を感じなかった。
これはつまり、俺にも椿みたいに可能性があったってことなのかもしれないな。
だとしたら、俺と椿を決定的に違う存在にしたのは何なのだろう。
一人の少女の顔が浮かんだがそれは忘れることにして、目を閉じた。
入れ替わり二日目はこんな感じで終わった。
49 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:53:46.68 ID:EjVEnkhT.net
それから五日間、特に問題は起きなかった。
俺も椿として学校に馴染めていたと思うし、何より桐島達といるのは楽しかった。
椿も話を聞く限りでは、うまくやっているようだ。
そして、入れ替わってから七日目、学校が終わり、今俺は、椿の家からも俺の家からも離れた公園に向かっていた。俺の家と椿の家は三駅離れているが、そこからさらに二駅超えたところにある寂れた公園だ。
ここで椿と会う約束になっている。同じ顔が二人いると目立つので、人気のない公園にしたと椿は言っていた。
まぁ、最悪人がいても、双子ってことにすればいいわけだが。
50 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:54:12.07 ID:EjVEnkhT.net
公園に着くと椿はブランコの周りの柵に腰掛けていた。
「こんにちは。久しぶりですね」
俺も隣に腰をかけて返事をした。
「ああ、いつ見てもやっぱりそっくりだな」
「そうですね」
ここ何日かで俺の、椿に対する敵対心はなりを潜めていた。
それは椿になってみて、椿が今までどんな人間関係を築いてきたかで、椿の人柄の良さがわかったからだろうか。
とにかく椿に対する嫌悪感はほぼなくなっていた。
52 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:55:28.05 ID:EjVEnkhT.net
「それでどうですか、僕の生活は」
「ああ、電話でも話したと思うが正直、楽しいよ。クラスメイトはいい奴ばっかで、あいつらと遊ぶのも楽しい」
「それは良かった」
「お前の方はどうなんだ」
俺になるのが楽しいとは、とても思えないが。
「僕も楽しいですよ。段々みんなからの好感度も上がってきています。後一週間で必ず成功させてみせますよ」
「それは楽しみだ」
53 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:55:55.53 ID:EjVEnkhT.net
俺の心は段々、椿に肯定的になっていた。
こいつにだったら、すべてを任せられるという気持ちがあった。
「それで提案なんですけど、七瀬さんに告白しませんか」
突然でできた名前に、俺の心はまたざわついた。
「どうして」
つい反射的に、強い口調で聞き返す。
「どうしてって、彼女を作っておいた方が、より幸福な人生に近づくのではないかなと思いまして」
「それはダメだ」
「どうしてですか?」
「とにかくダメだ」
「わかりました。不利益になることはしないって約束ですしね」
「ああ、悪いな」
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