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ドッペルゲンガーと人生を交換した話
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34 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:38:57.28 ID:EjVEnkhT.net
家に帰ると、一日気を張って過ごしたせいか、疲れていたみたいで気づくと眠りに落ちていた。

目が覚めたのはもう夜、携帯が鳴る音でだった。

「こんばんは、どうでしたか僕の生活は」

電話に出ると聞こえたのは椿の声だった。

当たり前か。携帯は壊れたことにしているしな。

「ああ、お前の言う通り充実したスクールライフだったな。お前が普段どれだけ学校生活を満喫しているか、よくわかったよ。一体お前はこれの何が不満なんだか、ますますわからないな」

「それはもう言ったじゃないですか。飽きちゃったんですよ。それより、貴方にもわりと親しい人いるじゃないですか。七瀬さん、昨日聞いたよりもずいぶん関係は深いようですが」



35 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:39:42.89 ID:EjVEnkhT.net
突然出てきた、七瀬という名前に俺の心はざわついた。

「あいつはそんなんじゃないさ。ただ昔から知っているだけだ」

「とてもそんな風には思えませんでしたけどね」

椿の口調が少し強くなっていた。七瀬のことを黙っていたのを怒っているんだろうか?

「本当に違うんだ。まぁ、黙っていたのは悪かった。言う必要はないと思ってたんだ。最近はそんなに話してなかったしな。それより七瀬の名前が出るってことは、あいつと何かあったのか」

「いえ、別に、特に何かあったわけではないんですが、ただ昨日の貴方の話では、今日僕が学校に行っても、誰にも話しかけられないと思っていたんで、七瀬さんの方から話しかけられて、少しびっくりしただけです」

七瀬から話しかけた、か。一体七瀬はどんな話をしたんだろうか。

すごく気になったが、それを椿に聞くのは少し癪だったので、聞かないことにした。



36 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:40:09.76 ID:EjVEnkhT.net
「そうか、悪かったな。詳しく話しておかなくて」

「でも、彼女ってわけではないんですよね?」

「当たり前だ。そんな関係の奴がいたら、入れ替わったりなんかしないさ」

「それもそうですね。それでも、一応聞いておいてもいいですか。七瀬さんのこと。今日もギリギリだったんですよ。バレないように話すの」

「ああ、そうだな、七瀬は……」



37 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:42:07.21 ID:EjVEnkhT.net
「それじゃあ、明日も頑張りましょう」

七瀬の話も終わり、椿が電話を切る合図の言葉を発した。

「ああ、じゃあな」

俺もそう言って電話を切った。

それから夕飯を食べて、今はもう寝るところだ。

「七瀬か……」

通話が終わってから、ずっと七瀬のことを考えていたせいか、そんな独り言が自然に口から出ていた。

帰ってきてから少し寝たため、全然眠くないので仕方なく、椿に話したことを思い出しながら、七瀬のことを考えることにした。




38 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:42:36.67 ID:EjVEnkhT.net
七瀬を、七瀬 千由を初めて意識したのは、小五の夏、教室でのことだった。


あの日俺は日直で、いつもより早く学校に行った。

誰もいないだろうなと思いながら教室に入ると、そこには七瀬がいた。

七瀬はその一ヶ月くらい前に、アメリカから転校してきたばっかで、俺は話したこともなかった。

ただ、その頃の俺はまだ、今よりはほんの少しだけ社交的だったんだな、教室にいた七瀬におはようと挨拶をしたんだ。今の俺からは考えられないな。

でも、返事は返ってこなかった。椅子に座っていた七瀬は、むすっとした顔で表情を変えずに、黙っていた。



39 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:44:08.09 ID:EjVEnkhT.net
あの頃の七瀬は少しクラスで浮いていた。

アメリカから来た帰国子女だ、それは小学生の俺たちには、異質なものだったんだと思う。

それに加えて七瀬には近寄りがたい雰囲気があった。それが一層、七瀬の孤立を深めんだろう。

いじめというわけではなかったが、七瀬 千由はとりあえず浮いていた。それで七瀬がとった行動が、あのむすっとした表情だったんだろう。

他人に弱みを見せないための盾。

そしてその顔に、少しだけ社交的な僕は意地になったんだろうな、その日から俺は七瀬にはしつこく話しかけた。七瀬をクラスに馴染ませようと思ったんだ。重ね重ね今の僕からは考えられないけどね。



40 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:44:40.17 ID:EjVEnkhT.net
そしてとある事件があって、俺は初めて七瀬とちゃんとした会話を交わすことに成功した。

それどころかあの時、七瀬は俺に笑いかけたんだ。あの顔は一生忘れないと思う。この世の綺麗を全部集めたような顔だった。

それからは、元々は明るい性格だったんだろうな、七瀬はクラスに馴染んでいった。

聡明で、気が強くて、でも本当は寂しがりやで、七瀬 千由はそんな少女だった。



41 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:47:15.84 ID:EjVEnkhT.net
その後小学校を卒業するまで、七瀬と俺はわりとよく一緒に行動したんだ。

でも、中学生になって学校が離れて、最初の頃はたまに会ってたけど、徐々にそれも少なくなって、疎遠になった。



42 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:47:45.39 ID:EjVEnkhT.net
それで、社交的な俺が段々消えていって今の俺になった頃、俺は七瀬と再会した。

二ヶ月前のことだ。高校の入学式で七瀬は久しぶりと言って、俺に話しかけてきた。

面食らったよ、もう七瀬には会うことはないと思ってたからね。

正直、嬉しかった。七瀬とまた会えたのが。

だけど同時に俺は怖かったんだ。変わってしまった自分を見られるのが。だから俺は七瀬と距離を置いた。



43 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:48:53.92 ID:EjVEnkhT.net
それからはすれ違ったら挨拶をするくらいで、特に話すことはなかった。

それで一ヶ月くらい過ぎた頃かな、下校中同じ制服を着た奴が他校の生徒に絡まれてるなと思ったら、七瀬だった。

いつもの俺なら無視して立ち去るんだけど、何故か俺は、七瀬の手を掴んで走っていた。ヒーローになったつもりだったんだろうか。

違うな、七瀬だけが俺を特別にするんだ。




44 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:49:48.34 ID:EjVEnkhT.net
その後、お礼を言われて、また少しだけ話す関係に戻った。

昔みたいにはいかなかったけど、たまに話して、それが俺にとってはとても楽しいことだったんだ。

と、一部分だけを話すと、まるで俺がドラマチックに生きている主人公みたいだが、そんなことはない。椿に話した時も、「十分、主人公みたいなことしてるじゃないですか」と言われたが、全くもって的外れだ。

こんなのは、多かれ少なかれ、誰にだってあるようなことだと思う。みんなそれに気づいてないだけで、同じようなドラマを持っているだろう。

むしろ、俺がみんなと同じように、ドラマチックな経験をしていることが、奇跡なくらいだ。

それに、今の俺の高校生活が、地味で暗いものということには変わりないしな。



45 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:50:45.15 ID:EjVEnkhT.net
そんなことを考えていると、もう深夜だった。明日も俺は椿として学校に行く。

本当にこれで良かったのだろうか。考えても仕方がないので俺は寝ることにした。

入れ替わり二日目の学校も特に問題なく終わった。

大体の人間関係がわかったのと、椿が元々良い友人関係を築いていたからだろう。



46 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:51:41.80 ID:EjVEnkhT.net
そして、今日は放課後、桐島達とボウリングに行くことになった。俺が桐島達のノリについていけるか不安だったが、心配はいらなかった。

どうやったかは知らないが、本物の椿も、社交的ながら、わりと静かな方だったらしい。

そのおかげであまり喋らなくても、特に怪しまれることはなかった。



47 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:52:38.82 ID:EjVEnkhT.net
俺は友人とボウリングに行くなんて初めてのことだったが、桐島達の良い人柄もあって、正直楽しかった。

こんな毎日を過ごしているなんて、椿が本当うらやましいよ。

夜の電話で椿に同じようなことを言ったら、「貴方の生活もじきにそうなりますよ」と言われた。向こうも順調らしいが、本当なのだろうか。

まぁ、椿の今までの人間関係を見るに、本当にうまくいってるんだろうな。

素直に尊敬するよ、俺に対しての好感度を上げるなんて、相当難しいだろうからね。



48 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:53:03.56 ID:EjVEnkhT.net
それと、この二日で感じたことなんだけど、俺と椿はどうやら性格も似ているらしい。

表面的には、社交的な椿と内向的な俺は別人に見えるだろう。


ただ根本的なものは同じみたいなんだ。

この二日俺は、椿を演じることに違和感を感じなかった。

これはつまり、俺にも椿みたいに可能性があったってことなのかもしれないな。

だとしたら、俺と椿を決定的に違う存在にしたのは何なのだろう。

一人の少女の顔が浮かんだがそれは忘れることにして、目を閉じた。

入れ替わり二日目はこんな感じで終わった。



49 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/02/27(土) 20:53:46.68 ID:EjVEnkhT.net
それから五日間、特に問題は起きなかった。

俺も椿として学校に馴染めていたと思うし、何より桐島達といるのは楽しかった。

椿も話を聞く限りでは、うまくやっているようだ。



そして、入れ替わってから七日目、学校が終わり、今俺は、椿の家からも俺の家からも離れた公園に向かっていた。俺の家と椿の家は三駅離れているが、そこからさらに二駅超えたところにある寂れた公園だ。

ここで椿と会う約束になっている。同じ顔が二人いると目立つので、人気のない公園にしたと椿は言っていた。

まぁ、最悪人がいても、双子ってことにすればいいわけだが。




>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:オカルト・ホラー,
 


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