「好みの女性のタイプ」という自分の持ってるイメージの遥か斜め上を行ってた店員さん
(2ページ目) 最初から読む >>
映画を見て、食事をして、少し一緒に歩いた。(こういうとき、京都は便利だ)
彼女は、いろいろなことを話してくれた。
俺も、いろいろなことを話した。
俺自身、あんまり女性に対して口が上手いほうでも、話題が豊富なほうでもないけど、いろいろと話をした。
別れ際に「今日は、ありがとう。来てくれて、うれしかった」と俺は言った。(こんなことを女性に言ったのは、多分初めてだった)
そして、
「付き合っている人がいるんなら、キッパリ諦めるけど、また誘ってもいいかな。よかったら、付き合って欲しい」
といったようなことを(心臓バクバクで)言った。(二度と言えん)
彼女は、俺のほうをまっすぐ見ていた。
しばらく、彼女は何も言わなかった。
(あっ、行かないと悪いと思って、彼氏がいるのに来てくれたのか。と、その時俺は思った。それでも、これまで遠くから見ることしか出来なかった彼女と今日一日一緒にいられて、嬉しかったなと、同時に思った)
そして、彼女は、俯いてしまった。
顔が見えなくなった。肩が小さく震えているように思った。
思わず「すまない。ゴメン」と言いそうになった。手を繋いだこともないし、肩に手を掛けていいものかどうか、わからなかった。
戸惑ったままの俺に、顔を上げると、少し、彼女は泣いていたように見えた。
振られたなあ。と、彼女を見て思った。こんなに困らせなきゃよかった。とも思った。
かなり気まずい時間だった。
どうしたらいいのか、経験がほとんどない俺にはわからなかった。
すこし間をおいて「うん」と、彼女は言った。(「うん」?。え、「うん」って言ったの?。)
「ありがとう」と言って、彼女は、また、泣いたみたいだった。
「嬉しい。そう言ってくれて」
顔を上げて、彼女はそう言った。
「?。いいの?」と、俺が訊いた。
「うん」もう一度そう言って、彼女はお辞儀をするように頷いた。
そういわれても、「まさかなあ」というのが、俺の正直な気持ちだった。
まさか、OKしてくれるなんて、どう考えてもありえない結末だった。
「ゴメンね。泣いたりして」と、彼女は言った。
「でも、あなたからそう言ってくれて、本当に嬉しかったの」
そういわれた俺も すっかり舞い上がってしまって、その後 何を話したのか、よく覚えていない。
電話番号だけ交換して、その日は別れた。
その日に、電話をした。(携帯なんて無かった頃だから、家族共有の固定電話だった)
「本当にいいの?」と俺は聞いたと思う。(なんて情けない質問だろう)
「うん」と彼女は言った。
そして「ずっと、そう言ってくれるのを待ってた」と言って、電話口の向こうで泣いていた。
えぇ〜!。
言葉が出なかった。驚天動地の驚きだった。
まさか、そんなことを彼女が俺に言ってくれるとは、ほとんど その時は信じられなかった。
その日は、相当遅くまで電話で話をした。(彼女が俺と同い年だと言うことも、家族三人で、親父さんの早期退職に伴って念願の喫茶店を始めたことも、彼女が中高一貫教育の短大を卒業していたことなど、いろいろとその時に聞いた)
そして、彼女と俺が結婚したのは、それから5年後だった。
京都と東京の遠恋や、結婚してからの田舎ゆえの苦労など、彼女を泣かせたことや、苦労させたことは一杯ありすぎて、とても書ききれないけど、彼女は、今では、母であり、妻であり、そして綺麗な女性でもあり続けている。
一度だけ、初めて誘ったときのメモ用紙は あの時どうしたの?と比較的最近になって、なにかの拍子に聞いたことがあった。
俺は、てっきりそんなものは、とうに捨ててしまったと思っていた。
けれど、彼女は「取ってあるけど、あなたにも、他の誰にも絶対に見せない。私が死んだら、中を見ずにお棺に入れてもらうよう、子供が大きくなったら、そう頼んでおくの。私の宝物だから」と、あの頃と少しも変わらない、綺麗な笑顔で言ってくれた。
これで終わりです。
長いのに、たいして面白くない話につきあってもらって、ありがとう。
脚色とか、フィクションとかは、全くないです。(運がよかったと思ってます)
それでは。
カテゴリー:男女・恋愛 | タグ:青春, 胸キュン,
関連記事
easterEgg記事特集ページ