不思議な友人と暮らしたひと夏の想い出をぽつぽつ語る
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210 :M子 :2018/08/24(金) 20:22:26.18 ID:SY+9SeAEp.net
2人並んで横になって、いつもみたいに向かい合う。
ツチノコ「そういや、あのコミュニティ抜けるんだって?」
M子「あれ、聞いてた?そうなんだよね。同棲始める前日には全部消す予定。今までお世話になりました。」
ツチノコ「あーあ…M子って呼び方、結構気に入ってたんだけどな。」
そう。その日を境に、コミュニティに関する連絡手段を全て消すつもりだった。コミュニティを抜けることは、ツチノコとの直接的な繋がりを失う事を意味する。
ドラ子とは話せても、ツチノコに話し掛けるツールがなくなる。
――これが、わたしが選んださようならの形だった。
M子「もうそのあだ名で呼ばれることもなくなるね、呼んでたのツチノコだけだし。」
ツチノコはずっと、わたしの事を独特なあだ名で呼んでた。彼がわたしに初めて会った時につけてくれた名前。ややこしくなるからここまでM子で統一したけど。
ツチノコ「なんだっけ、前言ってたよな。呼ばれるといやだって名前。」
M子「あー、Mちゃん?なんかすごいちゃらーい感じに聞こえるから、そうやって寄ってきた人は基本警戒してるwww」
ツチノコ「えーむーちゃーんえむちゃーん。」
M子「やめて気持ち悪いwww」
ツチノコ「コミュニティで前付き合ってた子がいた時は、なんだっけ、なんて呼ばせてたんだっけ。」
M子「あー…舞?特別な人にしか呼ばせてないね、これは。でもツチノコには呼ばれたくないから結構です、気持ち悪いです。」
ツチノコ「なんでだよおいwwwwいいだろwww」
M子「嫌だ、ぜーったいやだwwwww」
けらけらと2人で笑い出す。ふと、腕の中に抱き寄せられる、額が触れる距離。馬鹿みたいに緩んだ顔が目の前にあった。
「舞。」
時間が、止まる。理解が出来ない。
今なんて……?
M子「だ、からやめてって言ったじゃんwww気持ち悪いってwwww」
ツチノコ「ええー、減るもんじゃねぇしいいだろ。」
止まった時間は、幻だったのかもしれない。でも、今でもちゃんとわたしの中に刻まれてる。君が呼んでくれたこと。その名前。
するりとツチノコの手が前髪を撫でる。額に、頬に、唇が触れて、絡まる指先。
この日、彼がわたしに痛みを与えることは無かった。ただひたすら、甘くて、消えてしまいそうな時が流れていった。狡い人だよ、本当に。
吐息に混ぜた″好き″が、どうか君に聞こえていませんように。
212 :M子 :2018/08/24(金) 20:44:33.41 ID:SY+9SeAEp.net
翌日の朝。
わたしはオフ、ドラ子は仕事。慌ただしく準備する彼女を、寝起きでぼやけた視界で見つめていた。
ドラ子「仕事、行きたくねえ。」
思い詰めた顔で割れたファンデーションを見詰める彼女の頭を、ベッドから手を伸ばして撫でてやる。ここからでも、泣いてるのがわかった。
ドラ子は時々、こうして朝に泣く。出会った頃から変わらない彼女の癖。
申し訳ないことに、仕事と昨夜の情事とでわたしの体は満身創痍だった。彼女を撫でながら二度寝してしまった。
次に目を開けると、出掛ける支度のできたドラ子がいた。相変わらず浮かない顔をしている。
M子「行ってらっしゃい。無理しちゃだめだからね。」
ドラ子「ん。もっとちゃんと過ごしたかったんに、これが最後なんかぁ。」
M子「……最後にひとつ、お願いしていい?」
どうしても、欲しかったもの。彼女といた証。
わたしのプライドが傷付こうが何しようが、言わないと後悔すると思った。
M子「肩を、噛んで欲しい。」
驚いた表情を見せたのは一瞬、すぐに体が引き寄せられる。肩口に痛みが走る。思わず漏れる声。ギリギリと食い込む痛みを、二度と忘れないように自分の中に刻み込む。
「足りねぇだろ、それじゃ。時間なくてごめん。」
ああ、ツチノコだ。そう思った。口調、声のトーン。雰囲気。全部あの人だった。
そのまま背を向けて、出て行った。
ベッドに身を沈めて、ぼんやり天井を眺める。
と、慌ただしい音と共にもう一度彼女の姿が。忘れ物……?
ドラ子「…………っ、行ってきます!」
突然抱き着かれて思い切り抱き締められた。その後向けられた、弾けるような笑顔。わたしが大好きな彼女の笑顔。
M子「行ってらっしゃい。ドラ子。」
しっかり抱き締め返して、今度こそ彼女を見送った。
2人並んで横になって、いつもみたいに向かい合う。
ツチノコ「そういや、あのコミュニティ抜けるんだって?」
M子「あれ、聞いてた?そうなんだよね。同棲始める前日には全部消す予定。今までお世話になりました。」
ツチノコ「あーあ…M子って呼び方、結構気に入ってたんだけどな。」
そう。その日を境に、コミュニティに関する連絡手段を全て消すつもりだった。コミュニティを抜けることは、ツチノコとの直接的な繋がりを失う事を意味する。
ドラ子とは話せても、ツチノコに話し掛けるツールがなくなる。
――これが、わたしが選んださようならの形だった。
M子「もうそのあだ名で呼ばれることもなくなるね、呼んでたのツチノコだけだし。」
ツチノコはずっと、わたしの事を独特なあだ名で呼んでた。彼がわたしに初めて会った時につけてくれた名前。ややこしくなるからここまでM子で統一したけど。
ツチノコ「なんだっけ、前言ってたよな。呼ばれるといやだって名前。」
M子「あー、Mちゃん?なんかすごいちゃらーい感じに聞こえるから、そうやって寄ってきた人は基本警戒してるwww」
ツチノコ「えーむーちゃーんえむちゃーん。」
M子「やめて気持ち悪いwww」
ツチノコ「コミュニティで前付き合ってた子がいた時は、なんだっけ、なんて呼ばせてたんだっけ。」
M子「あー…舞?特別な人にしか呼ばせてないね、これは。でもツチノコには呼ばれたくないから結構です、気持ち悪いです。」
ツチノコ「なんでだよおいwwwwいいだろwww」
M子「嫌だ、ぜーったいやだwwwww」
けらけらと2人で笑い出す。ふと、腕の中に抱き寄せられる、額が触れる距離。馬鹿みたいに緩んだ顔が目の前にあった。
「舞。」
時間が、止まる。理解が出来ない。
今なんて……?
M子「だ、からやめてって言ったじゃんwww気持ち悪いってwwww」
ツチノコ「ええー、減るもんじゃねぇしいいだろ。」
止まった時間は、幻だったのかもしれない。でも、今でもちゃんとわたしの中に刻まれてる。君が呼んでくれたこと。その名前。
するりとツチノコの手が前髪を撫でる。額に、頬に、唇が触れて、絡まる指先。
この日、彼がわたしに痛みを与えることは無かった。ただひたすら、甘くて、消えてしまいそうな時が流れていった。狡い人だよ、本当に。
吐息に混ぜた″好き″が、どうか君に聞こえていませんように。
212 :M子 :2018/08/24(金) 20:44:33.41 ID:SY+9SeAEp.net
翌日の朝。
わたしはオフ、ドラ子は仕事。慌ただしく準備する彼女を、寝起きでぼやけた視界で見つめていた。
ドラ子「仕事、行きたくねえ。」
思い詰めた顔で割れたファンデーションを見詰める彼女の頭を、ベッドから手を伸ばして撫でてやる。ここからでも、泣いてるのがわかった。
ドラ子は時々、こうして朝に泣く。出会った頃から変わらない彼女の癖。
申し訳ないことに、仕事と昨夜の情事とでわたしの体は満身創痍だった。彼女を撫でながら二度寝してしまった。
次に目を開けると、出掛ける支度のできたドラ子がいた。相変わらず浮かない顔をしている。
M子「行ってらっしゃい。無理しちゃだめだからね。」
ドラ子「ん。もっとちゃんと過ごしたかったんに、これが最後なんかぁ。」
M子「……最後にひとつ、お願いしていい?」
どうしても、欲しかったもの。彼女といた証。
わたしのプライドが傷付こうが何しようが、言わないと後悔すると思った。
M子「肩を、噛んで欲しい。」
驚いた表情を見せたのは一瞬、すぐに体が引き寄せられる。肩口に痛みが走る。思わず漏れる声。ギリギリと食い込む痛みを、二度と忘れないように自分の中に刻み込む。
「足りねぇだろ、それじゃ。時間なくてごめん。」
ああ、ツチノコだ。そう思った。口調、声のトーン。雰囲気。全部あの人だった。
そのまま背を向けて、出て行った。
ベッドに身を沈めて、ぼんやり天井を眺める。
と、慌ただしい音と共にもう一度彼女の姿が。忘れ物……?
ドラ子「…………っ、行ってきます!」
突然抱き着かれて思い切り抱き締められた。その後向けられた、弾けるような笑顔。わたしが大好きな彼女の笑顔。
M子「行ってらっしゃい。ドラ子。」
しっかり抱き締め返して、今度こそ彼女を見送った。
213 :M子 :2018/08/24(金) 20:45:35.85 ID:SY+9SeAEp.net
ご飯の時間だよ(´・ω・`)
今日は鮭だよ(´・ω・`)
214 :名も無き被検体774号+ :2018/08/24(金) 20:49:41.16 ID:NCvKq7i70.net
せ、せつねーーーーっ!
215 :名も無き被検体774号+ :2018/08/24(金) 20:52:02.65 ID:52Oj2jYEd.net
やだもう切なすぎるわー(´;ω;`)
色々思い出して辛いでござる
216 :ムッシュ【】 :2018/08/24(金) 21:06:26.22 ID:Lp4sFCLcM.net
今は吐き出すだけ吐き出して!!
そしたら、少しは楽になるのでは?
217 :M子 :2018/08/24(金) 21:13:40.98 ID:SY+9SeAEp.net
――ああ、この部屋、こんなに静かだっけ。
ベッドに寝転がって、辺りを見渡すと、過ごした時間が巻き戻るような気がした。
『肉じゃが作ったでー!一緒に食べようなぁー。』
『お前、バカ何お茶こぼしてんだよちょ、びしょびしょじゃねーかwww』
『ん?ノート書いたら寝るけん、M子ちゃん先寝とってええよ?』
『他の奴に傷付けさせんのは、あんま、いい気しねぇんだよな。」
『ここにきて、M子ちゃんに会えて、良かった。」
2人の姿が鮮明に浮かんで、滲む。
この部屋は。想い出が余りに多過ぎる。
彼のいない部屋で、彼女のいない部屋で、ひとり声を上げて泣いた。
218 :M子 :2018/08/24(金) 21:14:43.22 ID:SY+9SeAEp.net
みんなが優しいから、ほろほろしてきた(´;ω;`)
もう少しだけ、がんばる。
219 :M子 :2018/08/24(金) 21:23:19.45 ID:SY+9SeAEp.net
鍵はちゃんと、ポストに返した。
これでこの家ともお別れ。すごく近くにいるのに、こんなにも遠い。たった一駅なのにこんなに距離があるんだなぁ、なんて他人事みたいに思ってた。
それから、彼女の家には行ってない。
相変わらずドラ子からは電話がくる日々。お互いに仕事のことやくだらない事を話して眠りに着くのは変わらなかった。
わたしがコミュニティを去る前日。同棲直前。
M子「そう言えばあの時急に肩噛んで、なんて言ったからあの人びっくりしたんじゃないかな。」
ドラ子「……ん?それ、わたしやったで。わたしでええんかなぁって思いながら、噛ませて貰ったけど。痛くなかったと?あ、えと、痛くないと意味ないんやっけ…」
M子「え?……でも雰囲気はツチノコだった、よ?」
ドラ子「うーん、なんか、混ざっとったかもしれん。最近、ツチノコ出て来んのよな。もうずっとみてない。気配がせんのよ。」
……気配が…しない?
>>次のページへ続く
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