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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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99 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:22:54.17 ID:MmTYItc1.net
「そこから出ても出なくても同じ」

しかし、レイはそっけなかった。

「あなたは自分の世界に引きこもってる」「頭の中の世界」「そこであなたを攻撃している他人は、現実には存在しない」「その他人は あなたが創り出した幽霊にすぎない」


一気に言うと、レイは少し黙った。

それから、ぽつり、と言った。

「本物を、現実だけを、見てみて」



100 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:31:55.89 ID:MmTYItc1.net
〈現実を見ろ〉

夢見がちな人間にこそ言われる言葉を、俺は反芻した。

俺は夢なんか見ていない。第一、夢ってのは、もっと楽しくて明るい未来のことだ。

こんな苦しくて暗い夢なんか、見ろと言われてもお断りだ。

こんな、辛い夢なんか・・・・・・


そう思ってから、俺はふと部屋を見渡した。

現実。本物。俺の頭の中以外の、確かなもの。

窓にかかった、古くさい柄のカーテン。

床に散らばった漫画本。

ほこりの積もった教科書に、ゴミために埋もれた学生鞄。

まっすぐに垂れ下がった首つりヒモ。



101 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:39:13.20 ID:MmTYItc1.net
しんと静まりかえった夜からは、俺を罵倒する声も聞こえないし、いじめっ子たちが家の前で騒いでるわけでもない。

もっと言えば、俺が不登校になったその瞬間から、あいつらとの縁は切れている。

クソ教師は家に電話もして来やしないし、クラスメイトが訪ねてくるわけでもない。

この部屋に俺は一人きりで、それを邪魔する人間は誰もいない。


あれ、どうして俺はそこまで追い詰められてたんだ?

一瞬、俺は心底不思議にそう思った。

どうして壁に穴を開けてまで、ヒモをつるしたのかさえ、わからなくなった。



102 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:43:21.56 ID:MmTYItc1.net
けど、それは〈現実〉から目をそらせば、すぐに思い出せることだった。


だって、俺はいじめられている。

不登校をしている。引きこもっている。

不当な扱いを受けている。

だから、自殺を考えて当然だ。俺は自殺して、あいつらに復讐したいんだ。


自分だけに焦点を当てれば、それは当たり前の成り行きだった。




103 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 12:54:21.78 ID:MmTYItc1.net
それは気づいてみれば、簡単なことだった。

自己憐憫から抜け出して、自分以外に目を向ける。

そうすると、いまの状況は そんなに悪いものでもないようにも思える。

だって、親がどう思ってるにしろ、俺は結果的には引きこもることが許され、嫌な環境から逃げていられるんだから。


・・・・・・ということを、レイは言いたいんだろう。



104 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 13:02:29.55 ID:MmTYItc1.net
「わかった?」

見計らったかのように、レイは短く訊いた。


「それとも、理解しても まだその世界の中で生きていたい?」

嫌な質問だった。理屈ではなく、感覚的に、俺は逆らおうとした。

「俺は引きこもりを満喫してるわけじゃない」「いまは こうしていられたって、いつまでも してるわけにはいかないし」

言い訳みたいにそう言ううちに、引きこもりの高齢化みたいなニュースを連想した。

「このまま ずっと引きこもってるより、自殺した方が親だって楽だし」「俺だって、おっさんになってまで引きこもりたくないし」

しゃべり続けるうちに、自殺の理由も曖昧になった。



105 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 13:14:38.96 ID:MmTYItc1.net
「許されれば、あなたは一生引きこもっていたいの?」

ふと、レイが言った。

「そうじゃないけど・・・・・・」

話を引きこもりをした挙げ句の孤独死まで進めていた俺は、どきりとした。

「あなたは どうでもいいことばっかり考えるくせがあるのね」

これも なんとなくの気配だが、呆れたようにレイが言った。

「いまから老後を心配? むしろ、そこまで健康で長生きできるつもりなの?」

「いや、それは・・・・・・」

「自分の価値との引き合いに、アメリカ大統領まで出してくるし」「身の程をわきまえたほうがいいと思う」

「・・・・・・」



106 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 14:18:01.39 ID:MmTYItc1.net
「でも、それも現実が見えていない証拠ね」

「頭の中だけで生きてるから、そんな見当違いの心配ばかりするのよ」

レイは なかなか辛辣だった。

「脳みそで考えられることなんか、限られてるのに」

「じゃあさ」

あんまりな言われように、俺は考えるのを放棄したくなった。

「俺は どうすればいいの? 考えるのをやめたって、俺の〈現実〉は変わらないだろ」


「当たり前でしょ」「そこまで馬鹿なの?」


強烈なカウンターパンチを食らってしまった。



107 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 14:26:19.29 ID:MmTYItc1.net
「ここまでは前提よ」「問題解決のための」「算数で言えば、足し算や引き算の記号の解説をしただけ」

「記号の解説・・・・・・」

「そう」「あなたが理解できたかどうかは別として、私は説明したつもり」

「じゃ、これから本題ってこと?」

「まだよ」「一番大切なことを聞いてない」

「一番大切なこと?」

「そう」「これだけは、私も教えることはできない」

「あなたが出すべきもの」



108 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 14:35:50.55 ID:MmTYItc1.net
「俺が?」

何だか嫌な予感がした。

だいたい、俺は自分の意見を出すというやつが大の苦手なのだ。

班になっての話し合い、とか、学級会での発言、とか、読書感想文だって うまく書けたためしがない。

だって、一学期のクラス目標だなんて俺は何だっていいし、本の感想なんて、ほぼ面白いか つまらないの二択だ。

それを何でも良いから発言しろとか、何でも良いから書けとか言われても、困るだけだ。



109 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 14:47:39.98 ID:MmTYItc1.net
それに、その「何でも良いから」って教師の台詞がトリッキーだ。

そうだろ?

あれ、その言葉を鵜呑みにして本当に思ったことを言ったりなんかした日には、冷たい視線と最悪の待遇が待ってる。

小学校の頃、思ったことを素直に書けと言われた読書感想文で、

「蜘蛛の糸一本だけ地獄に垂らしてみせて、やっぱりムカついたから切るだなんて、お釈迦様はひどい人だと思いました」

って書いて、むちゃくちゃ怒られた俺が言うんだから間違いない。




110 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 14:56:20.36 ID:MmTYItc1.net
「そんなに身構える必要はないわ」

珍しく柔らかい口調でレイは言った。

「言ったはずよ」「私はあなたの手伝いはするけれど、それがあなたを助けることになるかはわからない」「だから、あなたは何も気にせず、自分の答えを出せば良い」

「・・・・・・それで、俺は何を答えれば良いの?」


「それは、あなたの答え」「あなたがこれからどう在りたいかの、答え」


「どう在りたいか?」「何になりたいとか、進路とか、そういうこと?」


「違う」

レイはきっぱりと言った。



111 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 15:05:19.70 ID:MmTYItc1.net
「あなたにもわからない、漠然とした遠い未来のことじゃない」

「つまり・・・・・・〈現実〉?」

そう聞き返すと、なぜかレイが微笑んだような気がした。


「そう。〈現実〉」「あなたの手が届くくらいの、近い未来」「そのとき、あなたは どういう状態で在りたいのか」「それを はっきりさせることが必要」


「なぜ?」

俺は聞いた。けど、レイは答えなかった。


「答えは本当に何でも良い」「引きこもりの生活をしていたい、でも構わない」「どうしても自殺したい、でも」「明日また私は ここに来る」「そのとき決まっていなかったら、またその明日」「考えてみて」「それじゃ」



112 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/05(土) 15:10:49.62 ID:MmTYItc1.net
怒濤のようにそう言うと、レイの気配はなくなった。

窓の外には また朝が来ていた。

俺はレイの言葉を繰り返しながら、ベッドにもぐった。そうしながら、明日という日に期待している自分に気がついた。

〈明日、また私はここに来る〉

それは約束に違いなかった。そして、それは同時に俺が失ってしまった人とのつながりに違いなかった。



113 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 03:43:14.22 ID:vhmrIwJ8.net
とはいっても、その〈つながり〉は、細く頼りないものだった。

明日来る、レイはそう言ったけれど、本当に来る保証なんてどこにもない。

すべての主導権を握っているのは、レイだった。

彼女は ほんの気まぐれ一つで、俺の前から消えることもできるのだ。

俺を、この白い画面の前に放置したまま・・・・・・

眠った後の、ぼんやりとした頭で考えたのは そんなことだった。

「蜘蛛の糸」で例えるなら、レイはお釈迦様で、俺は地獄の亡者なんだ。



114 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 03:49:25.68 ID:vhmrIwJ8.net
だから亡者の俺は、遙か天上にいるお釈迦様が糸を切らないように、少しずつ少しずつ、その顔色をうかがいながら上っていくしかない。

〈あなたの本当の答えなら、何でも良い〉

レイは昨夜、消える前に確かにそう言った。

だというのに、俺はもう それを忘れかけていたんだ。



115 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/06(日) 03:55:50.81 ID:vhmrIwJ8.net
俺はそれからレイが現れるまでの時間、〈答え〉を探すことに夢中になった。

レイが気に入りそうな〈答え〉。

レイを満足させる〈答え〉。

レイをあっと驚かせるような〈答え〉。


それは簡単なことじゃなかった。

だって、俺はレイを知らない。

・・・・・・いや、この二日間で、俺は今までできた友達の誰よりレイと話しているから、知らない、というのは間違ってる。

けど、あの無表情キャラの向こう側にいる〈本当のレイ〉は、あれだけ話したというのに見えてこなかった。






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