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大卒だがまた大学に入る事を決心させた出来事
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683 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 10:34
次の日、バイト先の忘年会兼クリスマスパーティが開催されると告知があった。

年に一度の大騒ぎらしく、古株連中は浮いている。よほど楽しいらしい。


僕はタカコとのそんな件があったので すっかり落ちていたので、当初は そんな催し物に参加する気は さらさらなかった。

それよりもまず、僕は顔を始め全身あざだらけ。周りにそっちの言い訳をするのに難儀した。


それから数日経っても、タカコは全然バイト先に顔を出さない。

バイト仲間に聞くと、一度シフトが入っていたんだけど、体調不良で休んだらしい。

「体調不良」の理由をバイト仲間の中で唯一知っている僕は、そんな痛ましい彼女を思い、胸が締め付けられていた。



684 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 10:40
いても立ってもいられなくなった僕は、あの日の記憶を頼りに、彼女の家の近くまで行ってみた。

とはいうものの、覚えているのは5人組に袋にされたあの公園まで。

そこから先、タカコの家は どこにあるのかわからない。

でも僕は なんだかひらめくものがあって、その方面に向かって歩き出した。


冬の夕刻の話だから、歩き出すとすぐにあたりは暗くなってくる。

ああでもないこうでもないと道に迷いながら、おぼろげながら覚えている道の特徴をつかんでその公園に向かう——きっとあの公園だ。

あの日の忌まわしき事件がフラッシュバックする。頭がキリキリする。

全身ピリピリさせながら公園のゲートをくぐると、すっかり漆黒の闇になってしまった公園のベンチに誰か座っている。


タカコだった。



685 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 10:48
……!! 彼女だ!!

駆け寄りたいのをグッと我慢して、さもたまたま通りがかったように振舞う。

「アレ? どうしたのこんなところで。偶然だね」

何を言っているんだ、僕は。でもこの間のことには言及したくなかった。


「……ミノル君……私……あの、私……」

マズイ、泣いてしまう。

「もうミノル君とは——」

「あのさ! こんどバイト先でパーティがあるんだよ! タカコちゃんも行くよな!?」


もう必死だった。彼女をとどめられるなら、手段を選ばなかった。




686 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 10:54
参加できないの一点張りの彼女。でもここで諒解してしまうと、僕は彼女となんだか ここでお別れのような気がしていた。

必死の説得、実に2時間。冬の寒空の中、体が凍りそうなのも忘れて、やっと僕はタカコをパーティに参加させる約束をさせた。


そのパーティ当日。古株連中が前々から浮かれていた通り、ムチャクチャな内容で、会は大いに盛り上がった。

タカコもなんだか楽しそうだった。時折見せる笑顔がうれしかった。


そういえばタカコをいじめていた■が今日は顔を出していない。

友人にそのことを尋ねると、「ああ、アイツ? 辞めたよ」とのこと。

なんでも、タカコに対するいじめがエスカレートしたのに対し、周りが引き始めて墓穴を掘ったらしい。そんな状況の中、■はバイトを辞めざるを得なかったそうだ。

そう言われて始めて気がついたが、タカコの周りにも数人、楽しそうに話し掛けている女の子がいる。



687 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 10:59
大盛況の中、パーティはお開き。連中は三々五々、余韻にひたりながらバラバラと散っていく。

僕はタカコを必死に探した。女の子数人の中に彼女はいた。マズイな、声をかけづらい。


「あ、ミノル君。タカコちゃんは ここだよ」


そのうちのひとりが僕に声をかけてきた。頭が混乱する。

タカコは真っ赤な顔をして下を向いている。どうやら僕も真っ赤らしい。

いつの間にやら、バラバラになっていた連中がひとかたまりになって、僕らふたりをニヤニヤ見ている。

そんな気まずい雰囲気の中、友人が、

「ホラ、ミノル。送っていってやれよ!」

その声をきっかけに、僕らふたりは連中の冷やかしと祝福の中、タカコの家に向かってリリースされた。



688 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 11:10
ふたりであの日と同じ道を同じ時間帯に歩く。

しばらく沈黙が続く。でもちょっとだけ違うのは、僕らが手をつないでいたこと。どっちからって感じでもない。いつの間にか、自然にお互いが手を取り合っていた。

例の公園の前に来てしまった。僕は思わず彼女の顔を見ると、「ミノル君、ウチに来てくれる?」と言われた。



689 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 11:40
公園からタカコの家までは程近く、すぐに着いた。あのときは気が付かなかったけど、かなりの老朽ぶり。

華奢なカギを開けて、僕はタカコの部屋に通された。

狭く、圧迫感のある部屋だった。すえたような臭いがあたりに漂い、明らかに環境は悪い。こんな部屋にひとりで住んでいるのか。


「ゴメンね、こんなに古い部屋で」と、彼女はお茶をいれてくれた。一緒に出てきたのは漬物。

「こんなものしかなくて……」と恥ずかしそうにする彼女を見て、僕はギューッとなり、

「タカコちゃん、僕と付き合ってください」

と思わず口に出していた。



690 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 11:48
いきなり告白されたタカコは、しばらく きょとんとしていたけど、すぐに寂しそうな顔に戻り、「私はダメ」と口を開いた。

「なんでダメなの? 俺のことは好きじゃないの?それならあきらめるけど」

「!! そうじゃないの。私、こんな体だし愚図だし、ダメな女だから——」


バチン!! と部屋に破裂音が響き渡る。無意識に、僕はタカコの頬を平手打ちしていた。


「ダメじゃない! 君はダメじゃない! ダメじゃないんだよ!」

と言い続けながら、僕は思わず泣いてしまった。

彼女の手を取り、引き寄せて抱擁する。冷たくって細い。気が付くと、タカコも泣いていた。

そうすること1時間程、僕らはやっと付き合うことになった。




692 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 11:57
ムチャクチャ幸せだった。文字どおり、毎日がばら色。あちこち行き、いろんなものを見て、さまざまなものを食べた。

とにかく一緒にいたかった。片時も離れたくなかった。お互いひとり暮らしだったこともあって、数日一緒のことも多かった。


付き合うことになったあの日から数日後、タカコとキスをした。

彼女は小さく震えていた。何度も蹂躙されてきたから無理もない。

僕は折れるほどにタカコを抱きしめた。

「苦しいよ」「うん」

「でも気持ちいい」「うん」

その晩、僕らはセックスをした。



693 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 12:04
幸せは長く続かなかった。

1カ月も経った頃だったか、いつもかかってくるタカコからの電話が途切れた。

(今日は具合でも悪いのかな。まあ連日だったしな)と僕は思い、じりじりしながらもその日はがまんした。

しかしその次の日も、その翌日も連絡はなかった。

さすがに僕はおかしいと思い、タカコの家に向かった。


アパートの前についたとき、ゾワッと嫌な感じが体を通り抜けた。

悪い予感がする。部屋に着く前に通るポスト、タカコの102号室分に無造作にチラシが何枚も入れられている。数日触っていないらしい。

あわててタカコの部屋のドアを叩く。返事はない。何度も叩く。


「ンだよ、うるせえなァ」と、隣の部屋の住人が顔をのぞかせた。

「あ、スミマセン。ここにいた女の子は——」

と僕が聞き終わる前に、その人はこう言った。


「数日前に引っ越したよ」



694 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 12:10
いろいろ手を当たった。

自分の家のポストはもちろん、その無造作に突っ込まれていたタカコのポストや、果ては不動産屋に頼んでタカコの部屋を開けてもらって調べもした。

だけど部屋の中はがらんとしていて、何も残っていなかった。


そこから1カ月間。僕は荒れた。天国から地獄とはこのこと。

なんの連絡もなく、タカコは僕の前から消えた。そう思うとたまらなくすべてが嫌になり、僕は酒浸りの毎日だった。

体重が激減し、だれから見てもボロボロだった。ひとりになると、思い出すのはタカコとの楽しい日々ばかり。ただひたすら辛かった。数回、死のうかとも思った。



695 名前:ミノル ◆SH9TJIMw 投稿日:02/06/04 12:24
そんな傷もやっと癒えた数年後、見慣れない手紙が届いた。

知らない人……でもなんだか見たことのある文字列。

タカコと同じ苗字だ。何かに取り付かれたように封を開ける。


=============
ミノルさん

タカコの母です。そちらにいた頃、あの子にとても楽しい思い出を授けてくれて本当にどうもありがとう。

今日はあなたに悲しいお知らせをしなければなりません。


タカコは3日前、なくなりました。

長い間患っていた白血病が原因です。

あの子の左腕のことはご存じだと思います。

タカコはあなたに「交通事故で」といっていたようですが、あれは骨髄ガンによる切断だったんです。


ある日、タカコが急に帰郷してきました。

具合が悪いというので、私は ついにその日が来たかと覚悟し、看病を続けました。

数日後、やっとあの子が口を開き、それまでたまっていた思いを一気に話し始めました。

楽しかったミノル君との思い出。今でも愛していること。

でもあの日、大量の吐血をしてしまい、もうダメだと思ったこと。

今からでもすぐにあなたのもとに行きたいこと。


タカコは病床で、最期まであなたの名前を呼んでいました。

私が謝ってもなんの解決にもなりませんが、あの子を許してあげてください。


あなたのような人に出会えて、幸せだったとタカコは言っていました。



僕は泣き崩れた。子供のように泣いた。どれくらい泣いたか覚えていない。

タカコは世界中を捜しても、もういない。その辛く重い現実が僕にのしかかった。

初めて、愛しい人を亡くした僕は、どうしていいかわからなかった。


そして僕は、学校を卒業後、また学校へ行くことを思い立った。

月並みで恥ずかしくはあるけど、ガンの研究をしたかった。

タカコの命を奪ったガンを根絶するために、がんばろうと思った。

まだまだ道は長く、出口はまったく見えないけど、きっと完遂できる。


最後に恥ずかしいけど、

タカコ、僕も君と出会えてとても幸せだったよ。





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カテゴリー:男女・恋愛  |  タグ:泣ける話, 青春, 純愛,
 

 
 
 
 

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