電話する時間を迎えるにつれ、こんなことするのなんか意味が
あるのかどうか分からなくなってくる。
知らんほうがいいこともあるのに。
でも、昨日彼女には何があったのか知りたいという気持ちは大きくて
同時に自虐的かつ、彼女を問い詰めることを喜ぶ残酷な気持ちもあった。
11時少し過ぎて電話。すぐに彼女が出た。
「・・・おす。あのな昨日ちょっとA子をいやな気持ちにさせたよね、ごめんな」
「いや、わたしが悪いから。わたしこそごめん」
と謝り、一旦話を昨日のことからわざとそらす
「ちょっと電話するの遅かったよね。明日学校は朝から?」
「うん1日みっちり授業とレッスンがあるよ・・・」
また昨日のことを責められると思ってたんだろう。
会話が昨日のことに触れなくてすむと饒舌になった。
学校が朝からなら起きるのは七時半くらい。
彼女は睡眠時間をたっぷり取る方なので
午前0時頃には寝る予定だろう。
「あまり今日は遅くまで話せないだろ?もう寝る薬のんだら」
「うん…。ちょっと飲んでくる受話器ちょっと置くね」
「うん」
戻ってきた彼女としばらく学校や仕事の話、楽器の話などをしていると
結構な時間が経っていた。
で、彼女の声も眠たげになってきた。
時計を見るとすでに0時過ぎている。
「もう寝る?」
「いやいいよもうちょつと話したい」と彼女。
でもう少し時間稼ぐために彼女の親友のNちゃんの話を振ったりする
その友達は彼とのことでちょっと間抜けな悩みがあり、
彼女は楽しそうにその話をする。
ひとしきり話をしていると
「そういえばね・・・」とすでに以前聞いた事のある
親友Nちゃんの失敗談を笑いながらしだした。
その話を俺も笑いながら聞いていて(実際何度聞いても笑えるのだが)
もういいか、俺は思った。
同時にすごい罪悪感も。
「あのさ、昨日の話なんだけど」
「うん?昨日?」
「ほら学校の先輩とさボーリング行ってきたって…」
「あぁーうん。スコア全然ダメだったよ。あ、話したか」
声の様子を受話器に耳をあてて伺う。
「昨日ねほら、Hな話で盛り上がったって言ってたじゃない?」
「あぁ!そうそう詳しく話してなかったよね」
「うん」
「それがねー一緒にいた女のコの友達でさ・・・」
と念の為、話を引き伸ばす。
彼女の口調がどんどんゆるくなってきた。
で、今日の昼に考えたことを実行に移す。
「昨日A子さ、その学校のK川って先輩に誘われたって話したよね?」
「・・・うん」
流石に声が緊張する。
「俺さ昨日その話聞いてショックだったよ」
「うん」
「でもね、俺A子信じるよ」
「うん。ありがとう」
今夜の電話ではまだ問い詰めたりはしない。
あくまでも明日の夜のための、前振りだ。
そのK川に関してのどうでも良い話をする。
じつはそんな会話の中身自体にはあまり興味はなかった。
ただ彼女に今夜、K川に誘われた事について電話で俺と話したって
ことだけがうっすら記憶に残ってくれれば良かった。