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僕とオタと姫様の物語
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172 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/08/21(土) 16:36
メールは彼女からだった。

 >-今日も誘ってくれて嬉しかった。家に帰りたくないから、どこかホテル予約してもらえませんか?それから割引はなしで。

でも、ホテル代は その中から払ってもらっていいです。今夜もいっしょだね。楽しみ。


何度も読み返してしまうのは、本気で好きになりつつある証拠なんだろうか。コーヒーをすすりながらレスする。


 >わかった。探してみるね。

それから制服じゃなくてもいいよ。制服フェチは嘘。お姫様の好きな服で。


送信が終わると登録アドレスから、仕事柄よく使う都内のミドルクラスのホテルに電話する。

たまたま偶然にも友人本人が出てくれた。

正確には友人といえる仲じゃないけど、仕事で知り合って数年になるし年も近いせいで何度かいっしょに遊んだこともある。

嘘をつかず正直に話をして、予約を入れた。


向こうが電話を置くとき、「安心して利用してほしい」と言ってくれた。

明日には忘れるという意味だと思う。

持つべきものは友達。



174 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/08/21(土) 21:12
チェックインの時間までホテルのロビーで過ごした。

仕事を終えた友人が来てくれ、飯でも食おうということになった。

美味いチキンライスを出してくれる洋食屋があるというので、迷わずそこへ。


しかし 入れ込んだものだね。とスプーンの先をぼくに向けて友人は言った。経験あるし分からなくもない、と。

うん。とだけ言っておいた。

まあ、本気にならないこった。


会話の内容は、いつの間にか昔行ったビリヤードのスコアの話になり スコアが友人の勤務記録の話になり、仕事を変えたいっていう愚痴になり始めた頃オタがメールしてきた。

内容は 重く、あっさりとしたものだった。


 >アンフェタミン。意味わかるかい?

詳しく知りたかったら、まず そっちの情報教えろ。このファイルは どこで拾った?なぜ この内容を知りたがる?

とにかく全部話すこと。話はそれから。



嫌な予感がした。

友人に、部屋にPCが欲しいと頼んでみた。

構わないよ。ぼくのを使ってくれていい。と ふたつ返事で了解してくれた。すぐに部屋に運ぶよう、誰かに頼んでおくよ。


店の前で友人と別れ、ぼくは そのままホテルに戻った。

さすがにホテルのサービスらしく、ノートPCがベッド脇のサイドテーブルに早速 用意されてた。

彼女が来るまでに、面倒なことは済ませておこう。

メールをまとめるのに数分。

送信してからベッドに横になって すこし眠った。



175 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/08/21(土) 21:19
1時間もしないでオタからメール。


 >まずエクセルファイル。ここに載ってるのはストリートドラッグのリスト。ほとんどが合法なんだけど やばいのもある。でも、まあ そんな目くじら立てるほどじゃない。

ほんとうに やばいのは最下行のひとつ。βエンドルフィン。分かりやすく言うとモルヒネ。

たくさん地紋のように ならんでる数字は おそらく買い付け個数と支払った額と残高。

これは ただの推測だけど、このファイルのみで考えると このファイルの製作者は126万の未払いがある。


目が しょぼしょぼした。

なんでぼくは いつもこうなんだろう。関係ないことに首を突っこんで、面倒に巻きこまれる。


2通目が送信されてきた。


>テキストエディタの2通。

こっちは よくわからん。とにかく一見すると英語がネイティブで使える誰かが その家族に宛てた手紙。それ以上のことは何も書いてないようにとれる。

エクセルファイルに こじつけると中に書かれてある住所が特別な意味を持つとか。。。

もちろんエクセルファイルと因果関係は まったく無いのかもしれない。たまたま同じメディアに記録しただけとか。



しかし すごいな。

さすがオタ。医大出身の ひきこもりだけのことはある。

顔がキモイってだけでヲタ扱いされてた可哀想なオタ。

ぼくだけは愛してるよ。



179 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/08/23(月) 19:25
ありがとう。もうお腹いっぱい。それから助かった

と追加してオタにメールした。

送信と同時に、入れ替わりで3通目が送られてきた。


>ただ盗み見したいだけなら、もう充分だろ。そのくらいでやめとけ。

おまえがモテないのはよく知ってる。だからって誰でもいいと言うなら、心の底から軽蔑してやろう。

その手の女は やめとけ。おまえの手には負えない。

悲しいなら いっしょに飯食ってやるから。出すもの出して さっぱりして、すぐに帰ってこい。



ありがとう。オタ。

飯をいっしょするのは願い下げだけど気持ちはうれしいよ。


オタからの意外なメールに じ~~んとなってるとケータイが鳴った。彼女からのメール。


>-買い物してから向かいます。もうすこし時間かかるかも。


またオタから。


>書き忘れた。リストに日付があって、何度か変更されてる。

日付の変更といっしょに、数字がいくつか更新されてる。在庫を動かしたとか?

まあ、どうでもいいか。



彼女から

>-ね。淡いグリーンと白と どっち好き?


ルール違反は わかってるけど声を聴きたいから ほんとうのケータイ番号を教えて欲しいと彼女にメールした。

あっさり一蹴されるだろうと思ってたのに彼女からすぐに電話がかかってきた。

ぼくはホテルの名と場所を教え、早く会いたいと言い、どっちかっていうと白かな。って馬鹿丸出しで答えた。


ごめんなオタ。



180 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/08/23(月) 19:27
フロントから連絡があり、来客とのこと。

部屋へ通してほしいと伝えると、間もなく彼女が やってきた。

たくさんの紙袋を肩から下げたまま第一声は

「綺麗なホテルだね。こんなとこはじめて」

気に入った?と尋ねると、うんうんと うなずく。

口からチュッパチャプスの白いスティックが飛び出してて首の動きに合わせて大きく上下する。


ぼくは最初に話しておこうと考え、手をとり ふたつあるベッドのひとつに彼女を座らせた。

この頃になると、ぼくは完全に彼女に魅了されていて 離れることが考えられなかった。

お金のことは どうでもいいとさえ思った。貯金すべてを失うわけじゃなし、そのうちの何割かで、美しい思い出を買うのだと自分に言い聞かせ しかもその言い訳を本気で信じさえした。


話があると言った。

きょとんとして、ぼくを覗きこむ彼女。チュッパチャプスのスティックの動きが ぴたりと止まる。

「ぼくの休みは6日まで。あと3日だね。その間ずっと君といっしょにいたい。場所は このホテルかな。実は もう6日までキープしてあるんだ」



181 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   sage 投稿日:04/08/23(月) 19:31
彼女の視線が宙を泳ぐ。

スティックの先を小さな指先でつまんで紫色のキャンディーを口から引っこ抜いて彼女は言った。

「うん。いいよ。お家に帰りたくないから、泊まる場所探そうって思ってた。このホテルなら最高。ヒロとも いっしょにいれるし」


ほっとするぼく。

じゃあ、そんなわけで値段交渉なんだけど…

ベッドから彼女をひきずり下ろし、後ろから抱きとめるようにして ちょっとシリアスに彼女とふたりで彼女の残り3日間の値段を決めた。

結局、ぼくが考えていた範囲の最大値で彼女はOKをくれた。「よゆー」と言って笑ってくれた。


あと3日。

その間、全部忘れようと思った。仕事とか、友達とか、ぼくのまわりのこと全て。

彼女のことだけ考えよう。


彼女の着ていた黒のノースリに顔をくっつけると新品の匂いがした。買い物って これだったのか。よくみると上から下まで新調したらしい。

制服はコインロッカーへ?家には帰らなかったんだね。

用事って あのフロッピィを誰かに渡すことだったのかな。

ああ。まあいいや。考えるのはやめよう。彼女を抱きしめていよう。



227 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/02(木) 04:12
いまさら こんなことを言っても誰も信じないだろうけど、これは体験談です。

当時の時間の流れたままを小説ぽく書いています。

なぜ、そうするかというと、照れもなくなく自分じゃないように書けるからです。

いくつかは もう忘れてしまっていて曖昧で、もちろん脚色もあります。

例えば彼女の口調とか。

実際には もっと今っぽくて、簡潔で、手短で、もっともっと可愛いかった。

ぼくの筆力なんて たかが知れてるので こんな風にしかまとまりません。

メールも ここに書いた何倍もの量を、彼女と そしてオタの間で交わしました。


ありがとう。>>223

じゃあリスタートします。



228 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/02(木) 04:16
「お腹すいてない?」

「ぺこぺこ。何か食べないと死んじゃう」

おーけい。

ホテルから ちょっと歩くけど、すごく美味しいイタ飯がある。

あたかも詳しいそぶりで説明する。でも実は仕事で何度か行ったことがあるだけ。

店に向かう途中、母から電話があった。食事を作ってるのに父さんまで消えたと抗議の電話。

仕事で6日まで戻れないと手短に説明すると、ため息と空電のノイズ。

良心がちくちくしたから、母の電話を切ったのち弟に

 >母さんが風邪。倒れたみたいだ。すぐ帰ってくれ

とメールしておいた。


弟は晦日から彼女の部屋に入り浸り。

ぼくは お金で彼女の側にいれる可哀想な やもめ。

労働と賃金は平均化されるべきなんだよ。弟よ。

ぼくと弟では すさまじい不平等にあるからね。


彼女がニヤニヤしながら、ぼくを見てた。

それから「いいよね。お母さん優しくてさ」と言った。



229 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/02(木) 04:21
ぼくと彼女の つかの間の仲じゃ当然かもしれないけれど ぼくは彼女の家庭とか いつも暮らしてる環境を知らない。

帰りたくない。と何度か聞いた彼女のセリフを すぐに思い出した。

何かあるんだろうな、と憶測しながらも聞けないしあれこれ考えてから「白と緑って何だったの?」と間抜けな質問をしてしまった。

彼女は笑いながら、「うん。白と淡いグリーン」

ニヤニヤ笑いを浮かべたまま、今夜のお楽しみだと言った。

あ、なるほど、そうか。だったら緑だったのにな。


ぼくの前を走ったり、いきなり腕を組んだり せわしなく歩く彼女を見つめる。

ローライズのデニムに小さい紙のタグが残ってるのに気づいたから彼女の腰に手をまわして、バリっと剥ぎ取ってあげた。

ん?と訝る。

タグ残ってたよ。とぼく。

小さな紙切れには「ミスシックスティーン」と英文で書かれたロゴがピンクの文字で印刷されてた。

16歳ね。


彼女は実際には20くらいなのかもな。妙に大人びてたりするけど15だったりして。

真実は闇の中。最後まで ぼくは彼女の年を知る機会がなかった。



231 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/02(木) 04:24
店は意外にも人が多かった。

はぁ。予約しといて正解だった。3日だから。という理由は都心じゃ関係ないのか。


席に案内されると、コートを店員に渡した彼女が

「ヒロってさ。実は すごく遊んでるでしょ」

と言った。

これには笑った。

実は、と彼女が言ったのには、見かけと違ってというニュアンスが強く含まれてて喪男なのに なんでこんなとこ知ってるの?と言いたげだった。

「いや、仕事でさ」と正直に答える。

でも、彼女には それが真実とは伝わらないだろうな。

ぼくは彼女の頭の中で ちょっぴり再構築され、彼女の男を見る目が やや改善される。

そんな馬鹿げたことを想像して笑ってしまった。

ぼくは姫様が推測するままの男。

食卓には高そうな分厚い刺繍のクロスが2枚かけられてて店員が運んできたパンをぼくが いくつか選ぶと直接クロスに無造作に並べられた。


彼女が好奇心に溢れた子供っぽい熱い視線で、給仕の手の動きを追う。

「食べてもいいのかな?」

「もちろん」とぼく。


「コーヒーとか先に もらう?」

「ん~。お酒飲みたい」


「好きなワインとかある?」

「よくわかんない」


ぼくもよく分からないから、給仕に選んでもらった。

パンを千切る彼女の手の動きは子供みたいに元気で蝋燭の明かりと飲めないお酒で ぼんやりしながら ぼくは彼女の指先から肩華奢な鎖骨から首すじ そして唇が上下する様を見つめてた。

綺麗だよ。姫様。ここで食べたいよ。



234 名前:70 ◆DyYEhjFjFU   投稿日:04/09/02(木) 07:37
メインが運ばれてきたあたりから ふたりとも無口になって、それこそ食事に夢中になった。

なにしろ飢えてたし、こんな美味いとこ滅多に来れないし。


食事の後 ぼくはエスプレッソ

彼女は飲み続け、デザートに手をつけないで そこからワインを もう1本空けた。

彼女がテーブルに だらっと、でも心地よさげに投げ出した手を握った。

閉じていた目をさっと開いて「どうしたの?」と小声で言う。

「綺麗だな。と思ってさ」

彼女の唇が左右へ引っ張られて、柔らかな笑顔、形のいいハイフンが作られると彼女は突然テーブル越しにヘッドバッドしてきた。

彼女は美味しい食事を心の底から楽しんでて こういう店で みょうに かしこまったり、ぎくしゃく上品に振舞ったりしないで気後れすることもなく、ぼくといることを 仕事と割り切ってないように見え しかもリラックスしていた。


やばいな。ほんとうに やばい。

好きになってしまいそうだ。心底。

彼女は、はたと自分の前に置かれたケーキに気づいたかのように それを しげしげと眺め、それから つつっとぼくの方へ押し出した。

「どうした?」

「ケーキ嫌い」

と彼女。


「甘いの嫌いなの?」

「甘いの好きだけど、ケーキは嫌い」

しめたとばかりに2つめのケーキを頬張るぼく。

2杯目のエスプレッソを飲み出したあたりで ぼくは だしぬけに気づいた。

彼女の首筋とか衣類にかすかに残った あの香り。

バニラエッセンス。

すると彼女の実家は菓子屋なんだろうか。いや、それにしてもバニラエッセンスの匂いって そんな強いのか?

バニラエッセンスの匂いだけ付着するものなのか?

彼女は菓子屋を経営する両親と上手く折り合ってない?だからケーキが嫌い?

「さきっちょだけ かじらせて」

そう言って手を伸ばした彼女の一言で、ぼくの推理は跡形もなく消し飛んだ。



>>次のページへ続く
 
 


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