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アルミ缶の上に
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26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 19:30:24.07 ID:sUR+JIhz0
玄関に散らばっていたサンダルを一組掴み,体当たりするようにドアを開けた。

足の裏に小石が食い込む。

しかし今は止まってはいけなかった。

後ろを振り向く余裕は無い。

さっきまで背中に張り付いていた男の体温はまだ生々しく残っている。

男が今この瞬間も すぐ後ろにいるのではないだろうか。

少女はサンダルを掴んだ手を必死に振り,街頭の下を駆け抜けた。


ようやく立ち止まった少女は,血まみれの足の裏に気づき,サンダルを履いた。

ずいぶん遠くまで来た。

走ってこれたのが不思議なほどだった。

男の姿は無い。



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 19:38:12.07 ID:sUR+JIhz0
住宅街のはずれにある寂れた商店街。

日中でもシャッターを下ろした店が多い上,今の時間では殆どの店が閉まっていた。

少女は明かりを求めさまよった。

一際まぶしく白い光を放つ建物が少女を招き寄せる。

コンビニだった。

(寒い・・・)

少女は肩を震わせながら,コンビニへと入った。

温かい空気。

レジには湯気を立てるおでん。

ふわふわの肉まん。

少女は空腹だった。

しかし,お金を持っていない。



29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 19:44:26.50 ID:sUR+JIhz0
(お腹すいた)

家の冷蔵庫にはサンドイッチが入っていた気がする。

でも,戻ることは出来ない。

家には男がいる。

恐らく,あの鬼のような形相で少女を待ち構えているのだろう。

腰に当たっていたあの硬いもので,何をされるのか,少女には想像がついた。

2時間ほど,コンビニの中をウロウロした。

他のお客もほとんどいなくなった頃,店員が少女に声をかけた。

「小学生?もう遅いからお家に帰らなきゃ。お父さんかお母さんは?」

「あ,あの・・・」

少女は緊張で体が固まり,店から逃げ出した。

途端に身にしみる寒さ。

他のお店に行こう・・・。

少女はトボトボと歩き出した。

住宅街の電気は殆ど消えている。

等間隔に並ぶ街灯の明かりだけが頼りだった。



31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 19:51:32.43 ID:sUR+JIhz0
(警察に,行くべきなのかな)

少女は300メートルほど離れた場所に またコンビニを見つけ,その前に座り込んでいた。

もう夜遅いため,1人ではいると さっきのように店員が何か行ってくるかもしれない。

警察に駆け込んだところで,やはりあの家に戻されるのだろうか。

男が待つあの家に,自分を見ずに,男の気を引こうと躍起な母親が帰ってくるあの家に。

「帰りたくないよ・・・」

少女は泣きそうな声でぽつりと呟いた。



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 19:57:27.63 ID:sUR+JIhz0
気が付くと,朝だった。

体は冷え切っている。

コンクリートに座り込んでいたため,お尻が痛い。

胃が痛い。

空腹を通り越していた。

ふと気づくと,自分を指差してなにやらボソボソ放している人のかたまり。

少女は立ち上がり,その場から離れた。

膝がポキポキと音を立てた。

しばらく歩くと,大きなスーパーを見つけた。

お金は無いが,寒さから逃れるために入ってみる。

ざわざわとした喧騒に,店内のBGMが自分の置かれている状況とは似つかない、

しかし,スーパーの人ごみの中にまぎれた少女に違和感を覚える者は1人としていなかった。



33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 20:04:46.67 ID:sUR+JIhz0
いいにおいがする。

ハム・ウインナーの売り場からだった。

ホットプレートの上でジュージューと音を立てて焼かれるウインナー。

少女は ふらふらとひかれていった。

ホットプレートの上で油と絡まるウインナーを少女が凝視していると,爪楊枝に刺さったウインナーが少女の目の前に差し出された。

「はい,どうぞ」

少女が顔を上げると,18,9くらいの少年こちらをみてにっこり笑っていた。

三角巾を頭に巻き,エプロンと言う格好で,ウインナーを焼いている。試食コーナーのアルバイトらしかった。

少女はウインナーを受け取り,あっという間に食べきった。



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 20:10:04.92 ID:sUR+JIhz0
足りない。

すぐにそう思った。

少年に『ありがとう』と言うべきなのだろうが,なぜか少女は笑って その言葉を言うことが出来なかった。

じっと,ウインナーを見つめる。

「もっと食べる?」

少年は少女に聞いた。

無言で少女はうなずいた。

少年がウインナーを爪楊枝にさして差し出すと,少女は奪い取るようにしてそのウインナーを食べた。

少年は少し驚いたようだった。

「朝ごはん,食べてないの?」

また,少女は無言でうなずく。

「お母さんは?」

少女は首を振った。



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 20:17:16.90 ID:sUR+JIhz0
「う〜ん」

少年は腰に手を当て,うなった。

少し考えてから,大き目の紙皿に焼いたウインナーをぽんぽんと並べていく。

そして爪楊枝を一本刺して,少女にその皿を差し出した。

「ほら,全部食べちゃいな。今 店長出て行ってるから,内緒な。」

シーっと人差し指を口元にあてて,少年はいたずらっぽく笑った。

少女は大きな目をまん丸にして,少年を見つめ返した。

口元がプルプルと震える。

『ありがとう』その言葉が出てこない。

せめて,笑い返したい。

なのに顔の筋肉は すっかり強張って,泣きそうな顔しか出来なかった。



42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/02(日) 20:24:32.76 ID:sUR+JIhz0
「あ〜泣かないで泣かないで;ほら おばちゃんが見てるからさ」

少年は あわてた様に手を振った。

そして新たなウインナーの袋を開封してホットプレートの上で逆さにし,ボトボトとウインナーを落としていく。

「それ食べたらお家帰りなよ?」

少年の言葉に,少女は今度こそ本気で泣きそうな顔をした。

「・・・帰れないの・・・」

少女はうつむき,肩を震わせた。



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カテゴリー:読み物  |  タグ:ちょっといい話, 泣ける話,
 


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