逆転
(8ページ目) 最初から読む >>
\ シェアする /
妻は私の前で深々と頭を下げ涙ぐみます。
「・・・・駄目だな。俺の許せる範疇を越えてる。
嘘をついて何か高価な買い物をしたのとは訳が違う。
子供達には悪いが、あの子らには これからの人生がある。
何時かは、この家を出て行く時が来るが、俺達はその後どうする。
俺は我慢できるとは思えない」
もしも妻を愛していたとしても、私は不倫を働いた女を許せないでしょう。
まして離婚願望の強い私には考える余地もありません。それにしても、あの子の気持ちを考えると・・・・
「そんな事言わないでもう少し考えて・・・・私に時間を下さい・・・」
妻が食い下がります。
私は妻に意地の悪い仕打ちを仕掛けました。
「お前、あいつは会社で降格位で済むと言ってたな。それは都合がよすぎる。
それも一時的な降格だろう?そんなに世の中甘くはないよ。
社会的制裁がどう言うものか教えなければならないな。
まずは、あいつの家庭からはじめようか。
あいつの家の電話番号を教えろ。奥さんにちゃんと話をしよう。
奥さんに罪はないが、知っておいた方が今後の為だろう。可哀想だが仕方がないさ」
「それは止めて。それは堪忍して。奥さんには何の罪もないの」
相手の奥さんに自分達のした事が分かるのが怖いのか、それとも男を気遣っているのか分かりませんが、それでは妻も甘いでしょう。
男に気持ちを残しているのだとしても、私には関係がないと思っていました。
でも私にも意地はあるのです。
「あいつを庇うのか?庇っているんなら、あいつにまだ気があるんだな。まあいいさ。
お前が教えなくても俺は知っているんだよ。
どんな態度を取るか試しただけだ」
立ち上がり電話に近づくと妻がその前に立ちふさがります。
「辛い思いをするのは私達だけでいいじゃない。関係のない人まで巻き込まないで!あの人の家庭を壊さないで!」
必死の形相でまた無神経な言葉を口にしました。
「大丈夫か?頭が可笑しくなっていないか?
関係のない人じゃないだろう。充分に関係者だ。
お前達と違うのは被害者だと言うだけだろう?
壊れるか壊れないかは向うが決める事だろうが。
俺も子供達も、お前達とは関係がないんだよ。
俺はまだしも、あの子達を傷つけて、関係のない人を傷つけるなとは、よく言えたものだ。
それに辛い思いをするのは私達だけとはどう言う意味だ。私達とは何なんだ!」
ただ妻を試すだけに言ったのですが、態度を見て気が変わりました。
何とか阻止しようとする妻に嫉妬とは違う複雑な感情を感じます。いや、それは嫉妬心なのかも知れません。
妻を払いのけ受話器に手を伸ばします。
電話の向うに聞こえる声は、おっとりとした優しそうなものでした。
その声に私は一瞬、躊躇してしまいましたが、今更引き下がれないでしょう。
「ご主人は帰られましたか。帰られていなければ奥様にお話ししていいのかどうか・・・・」
男はまだ帰っていないと言います。
もし帰って来ていのなら、まずは男と話を仕様と思ったのですが居ないのらしょうがありません。
これまでの経過をかいつ摘んで話をしました。
無言で聞いていた相手は静かな声を出しました。
「ご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした。主人が帰りしだい話をさせてもらいます。本当に申し訳ありませんでした」
私は自宅の電話番号と携帯の番号を教えて話しを終えました。
思いつきで掛けた電話は、後口の悪いものとなり後悔の念が湧き起ります。
男の妻は穏やかで静かな声で受け答えをしてくれました。きっと、大人しい人なのでしょう。
自分がした事のように謝るあの人に まだ聞かせるべきではなかったと反省してしまいます。
私が起こした問題ではありませんが、男の妻の起こした問題でもありません。そんな人を自分が傷付けてしまった気分です。
電話を切り振り返ると妻は呆然とへたり込んでいます。
「お前達のおかげで嫌な思いをした。俺ばかりじゃない。あの奥さんもショックだろうさ。可哀想に。もっと責任の重さを知るべきだ」
何で私がこんな思いをしなければならないのか。こいつら本当に腹の立つ奴らです。
私から妻には言葉をかけません。どんな行動を取るのか興味があったからです。
人事みたいな事を言いますが、私の心に そんな勝手な意地の悪い自分が存在します。
これが普通の夫婦なら、こんなふうには思えないのでしょう。想像するのもおぞましい修羅場が展開しているのだろうと思います。
でも、私達夫婦の間には そんな光景はありません。その代わりに冷たい空気が流れています。
その空気は、主に私が作り出しているものなのでしょうが・・・・・
本当は、修羅場を演じている夫婦の方が健全なのだろうと、また、人事みたいに醒めた脳が考えていました。
--------------------
そんな私にとっての楽しい時間がどのくらい流れたでしょうか。
妻の携帯から着信音が聞こえます。
久しぶりに聞く着信音は以前の聞き慣れたものとは違い一瞬何の音だかピンと来ませんでした。
携帯を取って相手を確認し慌てて部屋から出て行こうとする妻に相手が誰だかも知りました。
「此処にいるんだ!隠れる必要はない。此処で話しなさい」
その言葉に一瞬慌てたようです。
「はっ、はい」
素直に戻り話していますが、私の目を気にして辛そうです。
しかし、その内容からして会話の相手は、あの男なのは明白なものとなりました。
男は わざわざ妻の携帯に連絡して来たと言うのは、どんな魂胆があっての事なのか?
妻もどうしてはっきりと話せないのか?
それは、私に聞かれたくない内容だからに他ありません。
此処に及んで どんな悪知恵を働かせたところで、何の役にも立たないのに。私も舐められたものです。
相手の会社に乗り込んで、あんな行動に出たのに、まだ私の本質に気付かないのは、妻が私の事を よほど見下して相手に話していたのかと思えるのです。
確かに事なかれ主義を通して来たのは私ですから、とやかく言えない立場でもありますが腹が立つのを抑えられません。
「業とらしく聞くけど誰からなの?」
「・・・・・・・・・・」
「誰からなのか聞いているんだよっ!」
こんな時は、穏やかにと思ってはいたのですが、苛立っている心を隠せず声に怒気をおびてしまいました。
別に穏やかに接するのが得策な訳でもないのでしょうが、格好を付けたがる私の癖です。
その声に妻が素直に応えたのは、本音ほど相手に伝わるものはないと言う事なのでしょう。
「・・・・岸部部長から・・・・」
口ごもるのは誤魔化したかったからなのでしょうが、出来る訳がないのに。
「お前に何の用事だ?また、お誘いか?お前達は懲りないな」
「そんなのじゃないわ・・・・・」
訴えるような眼差しを投げかけてきますが、岸部は何の用で電話をしてきたかくらいは私も想像が出来ます。
そんな事はどうでもよく、少し意地が悪くなっていたのです。
「ふ〜〜ん。じゃあ何の相談なのかな?
もしも、俺が奥さんに言ったのにクレームを付けているのなら お門違いだと言ってやれ。
お前だって、あいつの思う通りには出来ないよな。
文句があるなら俺に言え。
くだらない男だな、まったく」
「・・・くだらない人だなんて・・・こんな場合は誰だって・・・・」
私達夫婦が どうなるかは成り行きまかせ。そんな投げやりな気持ちでも、決して愉快な立場にいる訳でもないので、その言葉にカチンときたのです。
この期に及んで相手を庇うような態度に出るのは、とっさの事とは言え妻の本音なのでしょう。
「おいおい、立派な男が人の妻に手を出して尻拭いも出来ないのは何故だ!
お前に話す前に、俺に詫びるのが順番なんじゃないかっ!何が、くだらない人じゃないだ!勝手な事を言いやがて!
そう出るなら此処から叩き出すぞっ!」
自分でも思っていなかったような大声を出して、携帯を取り上げていました。
「冷静になってちょうだい!私が悪かったのっ!私が悪かったんです・・・・」
妻も必死なようです。
「違うな。お前だけが悪いんじゃない。お前達二人とも悪いんだよ。聞こえてるかい、・・・岸部さん」
おもむろに岸部に問いかけました。
「・・・・・貴方には申し訳ない事をしてしまいましたが、何も妻にまで話さなくても・・・・・」
相手はボソボソと答えてきます。
こんな時の人間の気持ちが分からない訳ではないのですが、随分と勝手な言い分です。
「俺達が壊れるのはいいが、自分達が壊れるのは嫌ってか。甘いな、おっさん。
奥さんには何の恨みもないが、あんたのやった事を知る権利はあるだろう。
聞きたくない話だろうが、今後の為にも知っておいた方がいいと思ったのさ。
妻を払いのけ受話器に手を伸ばします。
電話の向うに聞こえる声は、おっとりとした優しそうなものでした。
その声に私は一瞬、躊躇してしまいましたが、今更引き下がれないでしょう。
「ご主人は帰られましたか。帰られていなければ奥様にお話ししていいのかどうか・・・・」
男はまだ帰っていないと言います。
もし帰って来ていのなら、まずは男と話を仕様と思ったのですが居ないのらしょうがありません。
これまでの経過をかいつ摘んで話をしました。
無言で聞いていた相手は静かな声を出しました。
「ご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした。主人が帰りしだい話をさせてもらいます。本当に申し訳ありませんでした」
私は自宅の電話番号と携帯の番号を教えて話しを終えました。
思いつきで掛けた電話は、後口の悪いものとなり後悔の念が湧き起ります。
男の妻は穏やかで静かな声で受け答えをしてくれました。きっと、大人しい人なのでしょう。
自分がした事のように謝るあの人に まだ聞かせるべきではなかったと反省してしまいます。
私が起こした問題ではありませんが、男の妻の起こした問題でもありません。そんな人を自分が傷付けてしまった気分です。
電話を切り振り返ると妻は呆然とへたり込んでいます。
「お前達のおかげで嫌な思いをした。俺ばかりじゃない。あの奥さんもショックだろうさ。可哀想に。もっと責任の重さを知るべきだ」
何で私がこんな思いをしなければならないのか。こいつら本当に腹の立つ奴らです。
私から妻には言葉をかけません。どんな行動を取るのか興味があったからです。
人事みたいな事を言いますが、私の心に そんな勝手な意地の悪い自分が存在します。
これが普通の夫婦なら、こんなふうには思えないのでしょう。想像するのもおぞましい修羅場が展開しているのだろうと思います。
でも、私達夫婦の間には そんな光景はありません。その代わりに冷たい空気が流れています。
その空気は、主に私が作り出しているものなのでしょうが・・・・・
本当は、修羅場を演じている夫婦の方が健全なのだろうと、また、人事みたいに醒めた脳が考えていました。
--------------------
そんな私にとっての楽しい時間がどのくらい流れたでしょうか。
妻の携帯から着信音が聞こえます。
久しぶりに聞く着信音は以前の聞き慣れたものとは違い一瞬何の音だかピンと来ませんでした。
携帯を取って相手を確認し慌てて部屋から出て行こうとする妻に相手が誰だかも知りました。
「此処にいるんだ!隠れる必要はない。此処で話しなさい」
その言葉に一瞬慌てたようです。
「はっ、はい」
素直に戻り話していますが、私の目を気にして辛そうです。
しかし、その内容からして会話の相手は、あの男なのは明白なものとなりました。
男は わざわざ妻の携帯に連絡して来たと言うのは、どんな魂胆があっての事なのか?
妻もどうしてはっきりと話せないのか?
それは、私に聞かれたくない内容だからに他ありません。
此処に及んで どんな悪知恵を働かせたところで、何の役にも立たないのに。私も舐められたものです。
相手の会社に乗り込んで、あんな行動に出たのに、まだ私の本質に気付かないのは、妻が私の事を よほど見下して相手に話していたのかと思えるのです。
確かに事なかれ主義を通して来たのは私ですから、とやかく言えない立場でもありますが腹が立つのを抑えられません。
「業とらしく聞くけど誰からなの?」
「・・・・・・・・・・」
「誰からなのか聞いているんだよっ!」
こんな時は、穏やかにと思ってはいたのですが、苛立っている心を隠せず声に怒気をおびてしまいました。
別に穏やかに接するのが得策な訳でもないのでしょうが、格好を付けたがる私の癖です。
その声に妻が素直に応えたのは、本音ほど相手に伝わるものはないと言う事なのでしょう。
「・・・・岸部部長から・・・・」
口ごもるのは誤魔化したかったからなのでしょうが、出来る訳がないのに。
「お前に何の用事だ?また、お誘いか?お前達は懲りないな」
「そんなのじゃないわ・・・・・」
訴えるような眼差しを投げかけてきますが、岸部は何の用で電話をしてきたかくらいは私も想像が出来ます。
そんな事はどうでもよく、少し意地が悪くなっていたのです。
「ふ〜〜ん。じゃあ何の相談なのかな?
もしも、俺が奥さんに言ったのにクレームを付けているのなら お門違いだと言ってやれ。
お前だって、あいつの思う通りには出来ないよな。
文句があるなら俺に言え。
くだらない男だな、まったく」
「・・・くだらない人だなんて・・・こんな場合は誰だって・・・・」
私達夫婦が どうなるかは成り行きまかせ。そんな投げやりな気持ちでも、決して愉快な立場にいる訳でもないので、その言葉にカチンときたのです。
この期に及んで相手を庇うような態度に出るのは、とっさの事とは言え妻の本音なのでしょう。
「おいおい、立派な男が人の妻に手を出して尻拭いも出来ないのは何故だ!
お前に話す前に、俺に詫びるのが順番なんじゃないかっ!何が、くだらない人じゃないだ!勝手な事を言いやがて!
そう出るなら此処から叩き出すぞっ!」
自分でも思っていなかったような大声を出して、携帯を取り上げていました。
「冷静になってちょうだい!私が悪かったのっ!私が悪かったんです・・・・」
妻も必死なようです。
「違うな。お前だけが悪いんじゃない。お前達二人とも悪いんだよ。聞こえてるかい、・・・岸部さん」
おもむろに岸部に問いかけました。
「・・・・・貴方には申し訳ない事をしてしまいましたが、何も妻にまで話さなくても・・・・・」
相手はボソボソと答えてきます。
こんな時の人間の気持ちが分からない訳ではないのですが、随分と勝手な言い分です。
「俺達が壊れるのはいいが、自分達が壊れるのは嫌ってか。甘いな、おっさん。
奥さんには何の恨みもないが、あんたのやった事を知る権利はあるだろう。
聞きたくない話だろうが、今後の為にも知っておいた方がいいと思ったのさ。
声だけしか聞いていないが、おとなしそうな感じのいい人じゃないか。
あんたみたいな男と一緒になったのが可哀相だよ。
奥さんの為にも男としての責任をきちんと取って出直すんだな。
俺は、あんたが思っているほど甘くないぞ。覚悟しておけや。
これからは何か用事があったら俺にしてこい。携帯の番号は奥さんが知ってる。
雅子と一緒になるのが、責任の取り方だと言うんなら話は別だがな」
相手の奥さんに話してしまったのは成り行きでしたが、妻と、この男が一緒になるのを反対はしません。
内心は快くはないでしょうが、別れる手間が省けるとも心の何処かで思うのです。
離婚するにしても、そんな方法が私のこれからの人生にプラスにならないのは百も承知です。
でも、このまますんなりと事が運べば、どんなに楽だろうと思ってしまうのです。
--------------------
携帯を切ってから何か言いたそうな妻を無視して新聞を見ている振りをどれくらい続けていたでしょうか。
家のインターフォンが来客を告げました。
妻が立とうとするのを制しモニターを見ると、岸部が立っています。
わざとらしく問いかけます。
「どちら様ですか」
「岸部です。夜分申し訳ありません」
「誰に用事だ?俺にか?雅子にか?」
「お二人に話があります」
来るだろうとは思っていましたが、いざ来られると面倒臭いものですね。しょうがなく今回は中に入れました。
リビングのソファーに座る男から言葉が発せられません。
ただ俯いたままです。こいつ何をしに来たのか。
そんな時、岸部の携帯が鳴りました。その着信音は妻のものと同じです。
男が何気なく出したタバコも妻のと同じです。
この馬鹿嫁は、岸部にどれほど感化されてしまったのか?私も疲れてしまいます。
「・・・・分かった・・・帰ってから話し合おう・・・」
相手は奥さんなのだと思います。何を話し合うのかは分かりませんが関係ないのです。
私はこの状況を早く終わらせて、さっさと眠りたいと思っています。
うつむきながらも深刻な表情で話し出さない男に焦れてしまいました。
「岸部さん、用事があって来たのでしょう?
まさか私の顔を見たかったなんて言わないでしょうね?
黙っていたってしょうがないでしょうが。
せめて貴方を好きになった家内の前では男らしく行きましょうや」
私の言葉に岸部は視線を上げました。
しかし、何か言うかと思っても言葉を発しません。
自分に都合のよい言い訳を考えているのか、男の妻に話した私に恨み事でも言い出そうとしているのか?
「・・・妻は離婚も視野に入れると言われました。
私もこの年まで女性関係が何もなかったとは言いませんが、妻に知られたのは今回が初めてです・・・・
信じていた分ショックが大きかったのだと・・・・」
重い口を開き始めましたが、また黙ってしまいました。
今の電話は、最後通達を突きつけられたものだったのでしょうか?この男の家庭の内情に興味なんてありません。
「相当うまく遊んでいたんでしょうな。羨ましいかぎりです。
私は、妻と一緒になってから一度もそんないい思いはしてないな。
そりゃぁ奥さんショックだったでしょう。
それでも冷静になれば許してくれるかもしれないですよ。
何せ、貴方は、人の妻をその気に出来るくらいに魅力がある人だ。奥さんも貴方には惚れているんでしょう。
子供さんもまだ小さいし、離婚はないと思いますよ。
でもね、ばれたのが今回でよかったと思うよ。俺はさぁ、あんたから慰謝料を貰おうなんて思ってないですし。
そんなもの日本じゃ幾らにもならないのは知っていますよ。
それに会社での立場も大した事ないって、こいつから聞いてるしね。本当にうまくやってるよな。
痛かったのは奥さんに知れてしまったくらいか。俺も世渡り上手になりたいな。
まぁ、岸部さんも少しは困ってるようだから、一矢は報いたか」
私の妻も俯いて座っていますが、ときどき男に視線を送っています。
会社での雰囲気と違い情けない男に、母性本能をくすぐられ守ってやりたくなったのか、女の複雑な感情は分かりかねます。
この二人を見ていると、私が岸部の立場なら何を思っているのだろうかと考えてしまします。
妻に密告されて来るつもりもなかった家に来たのは何故でしょう?
会社での立場は もう決まっているのですから、この場合は、男の妻との関係修復に少しでも有利な事柄がないかと思って来たのではないでしょうか?
私は鎌を掛けてみました。
「俺に金を払わなくてもいいが、責任は取ってもらよ。
あんたの家庭がどうなろうと知った事じゃないが、雅子は引き取ってもらう。
離婚になれば本妻にすればいいし、そうじゃなかったら二号さんにでもしたらいい。
あんたの責任は、こいつをちゃんと食わせて行く事だ。それも今日からね。
俺の言いたいのはそれだけかな。
雅子、支度をして来い。
岸部さん、後は任せたよ」
これは思いのほか効いたようで、黙りこくっていた岸部が慌て始めました。
「そっそんな事は出来ない!私にも生活がある!貴方は無責任じゃないのかっ!」
「そうだよ。無責任さ。
俺は高級車には乗れないが、それでも中古車を買った事がないよ。他人の手垢の付いた物は嫌なんだ。
こいつは、初めから中古みたいな物だったが、俺には新車だったよ。
だけど、あんたが手垢を付けたんだ。それだけで俺は嫌なんだよな。
下取りに出すよ。大切に乗ってやってくれや。
中古だが只で手に入るんだ。文句を言われる筋合いはないと思うがな」
岸部と妻の顔色が変わっています。
>>次のページへ続く
あんたみたいな男と一緒になったのが可哀相だよ。
奥さんの為にも男としての責任をきちんと取って出直すんだな。
俺は、あんたが思っているほど甘くないぞ。覚悟しておけや。
これからは何か用事があったら俺にしてこい。携帯の番号は奥さんが知ってる。
雅子と一緒になるのが、責任の取り方だと言うんなら話は別だがな」
相手の奥さんに話してしまったのは成り行きでしたが、妻と、この男が一緒になるのを反対はしません。
内心は快くはないでしょうが、別れる手間が省けるとも心の何処かで思うのです。
離婚するにしても、そんな方法が私のこれからの人生にプラスにならないのは百も承知です。
でも、このまますんなりと事が運べば、どんなに楽だろうと思ってしまうのです。
--------------------
携帯を切ってから何か言いたそうな妻を無視して新聞を見ている振りをどれくらい続けていたでしょうか。
家のインターフォンが来客を告げました。
妻が立とうとするのを制しモニターを見ると、岸部が立っています。
わざとらしく問いかけます。
「どちら様ですか」
「岸部です。夜分申し訳ありません」
「誰に用事だ?俺にか?雅子にか?」
「お二人に話があります」
来るだろうとは思っていましたが、いざ来られると面倒臭いものですね。しょうがなく今回は中に入れました。
リビングのソファーに座る男から言葉が発せられません。
ただ俯いたままです。こいつ何をしに来たのか。
そんな時、岸部の携帯が鳴りました。その着信音は妻のものと同じです。
男が何気なく出したタバコも妻のと同じです。
この馬鹿嫁は、岸部にどれほど感化されてしまったのか?私も疲れてしまいます。
「・・・・分かった・・・帰ってから話し合おう・・・」
相手は奥さんなのだと思います。何を話し合うのかは分かりませんが関係ないのです。
私はこの状況を早く終わらせて、さっさと眠りたいと思っています。
うつむきながらも深刻な表情で話し出さない男に焦れてしまいました。
「岸部さん、用事があって来たのでしょう?
まさか私の顔を見たかったなんて言わないでしょうね?
黙っていたってしょうがないでしょうが。
せめて貴方を好きになった家内の前では男らしく行きましょうや」
私の言葉に岸部は視線を上げました。
しかし、何か言うかと思っても言葉を発しません。
自分に都合のよい言い訳を考えているのか、男の妻に話した私に恨み事でも言い出そうとしているのか?
「・・・妻は離婚も視野に入れると言われました。
私もこの年まで女性関係が何もなかったとは言いませんが、妻に知られたのは今回が初めてです・・・・
信じていた分ショックが大きかったのだと・・・・」
重い口を開き始めましたが、また黙ってしまいました。
今の電話は、最後通達を突きつけられたものだったのでしょうか?この男の家庭の内情に興味なんてありません。
「相当うまく遊んでいたんでしょうな。羨ましいかぎりです。
私は、妻と一緒になってから一度もそんないい思いはしてないな。
そりゃぁ奥さんショックだったでしょう。
それでも冷静になれば許してくれるかもしれないですよ。
何せ、貴方は、人の妻をその気に出来るくらいに魅力がある人だ。奥さんも貴方には惚れているんでしょう。
子供さんもまだ小さいし、離婚はないと思いますよ。
でもね、ばれたのが今回でよかったと思うよ。俺はさぁ、あんたから慰謝料を貰おうなんて思ってないですし。
そんなもの日本じゃ幾らにもならないのは知っていますよ。
それに会社での立場も大した事ないって、こいつから聞いてるしね。本当にうまくやってるよな。
痛かったのは奥さんに知れてしまったくらいか。俺も世渡り上手になりたいな。
まぁ、岸部さんも少しは困ってるようだから、一矢は報いたか」
私の妻も俯いて座っていますが、ときどき男に視線を送っています。
会社での雰囲気と違い情けない男に、母性本能をくすぐられ守ってやりたくなったのか、女の複雑な感情は分かりかねます。
この二人を見ていると、私が岸部の立場なら何を思っているのだろうかと考えてしまします。
妻に密告されて来るつもりもなかった家に来たのは何故でしょう?
会社での立場は もう決まっているのですから、この場合は、男の妻との関係修復に少しでも有利な事柄がないかと思って来たのではないでしょうか?
私は鎌を掛けてみました。
「俺に金を払わなくてもいいが、責任は取ってもらよ。
あんたの家庭がどうなろうと知った事じゃないが、雅子は引き取ってもらう。
離婚になれば本妻にすればいいし、そうじゃなかったら二号さんにでもしたらいい。
あんたの責任は、こいつをちゃんと食わせて行く事だ。それも今日からね。
俺の言いたいのはそれだけかな。
雅子、支度をして来い。
岸部さん、後は任せたよ」
これは思いのほか効いたようで、黙りこくっていた岸部が慌て始めました。
「そっそんな事は出来ない!私にも生活がある!貴方は無責任じゃないのかっ!」
「そうだよ。無責任さ。
俺は高級車には乗れないが、それでも中古車を買った事がないよ。他人の手垢の付いた物は嫌なんだ。
こいつは、初めから中古みたいな物だったが、俺には新車だったよ。
だけど、あんたが手垢を付けたんだ。それだけで俺は嫌なんだよな。
下取りに出すよ。大切に乗ってやってくれや。
中古だが只で手に入るんだ。文句を言われる筋合いはないと思うがな」
岸部と妻の顔色が変わっています。
>>次のページへ続く
\ シェアする /
関連記事
easterEgg記事特集ページ
