誤解の代償
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妻は俯いたまま頷きました。
「僕は許すつもりは無いんだ。チャンスを与えるつもりも無かった。だけど、いろんな想いは確かに有る。
志保、これからお前は相当辛い思いをするだろう。それでも許せるとは限らない。
良いのか?耐えられるか?それなら、考えない事も無いが、あくまで離婚するのを延ばすだけだ。」
私は結論を先送りしてしまいましたが、何か安堵感を感じたのも事実でした。
「貴方ありがとう。ありがとう。」
これからが、本当の『戦い』です。
--------------------
佐野との話の中で、妻は会社を辞める事になりましたが、
“相手の男を追い詰めるのは返って危険な事にならないか?切り札的なものとして取って置いても良いのではないか?”
それは私的に納得出来ない部分も有りましたが、男の奥さんの言っていた事も含めて 納得するのも一理有るかなと思いました。
翌日、奥さんに電話を入れると、午前中に来るとの事でした。
佐野夫婦が帰ってから、一言も口を利いていない私に妻は腫れ物にでも触るかの様に接していますが、そんな態度にもイライラしてしまいます。
「何をビクビクしてるんだ。これから奥さんが来るぞ。昨日は黙ったままで謝りもしなかっただろう。今日は僕に恥を掻かすなよ。」
「・・・ごめんなさい。きちんとします。」
妻との離婚を思い留まったのが、どうい言う結果になるのか、正しい選択だったのかは、まだ迷っていましたが、そう結論を出したからには前に進むしか有りません。
進む事を選んだので有れば、私には知っておかなければならない事が山ほど有ります。
「なあ、あいつと関係を持つ様になってから どの位になる?」
「・・・初めの1ヶ月は何も無かったから・・・・」
「7ヶ月か。随分と騙し続けてくれたもんだな。ばれなかったら どうするつもりだった。まだ続けてはいただろうが、僕と別れるつもりだったか?」
「・・・続いていたと思います・・・・。でも、貴方と別れるつもりは無かった。ただ・・・。」
「ただ何だ?その内に分から無くなったかもしれないか?」
「いいえ、そんな事は無いわ。・・・ただ、そんな事をしていたとは、貴方に言えないから騙し続けただろうと思って・・・」
「それがどうした?僕が浮気をしていると思っていたんだから、別に気が咎める事も無かっただろう?勝手な言い分かも知れないが、男と女の浮気は本質的に違うと思う。
こんな考え方は もう古いのか知れない。でも、男は欲求を満たすだけに女を抱く事が出来る。だから、その為だけの店も山ほど有るんじゃないのか?
だけど女はどうだ?今の若い奴らなら どうかは分からないけど、僕ら達位になると、そうは行かないんじゃないだろうか?
お前は、あいつが既婚者だから、僕と別れる事を考えなかっんじゃ無いのか?」
「そんな事は無いです。あの人は奥さんと、もう別れる事になるだろうと言っていたし、もし、別れなくても私には、それなりの収入が有るし、そんな気持ちなら貴方と別れる方を選んでいます。」
「そんなものかな?理解出来ないな。良く分から無いよ。ただこれからは、お前の収入は無くなるからな。もう勝手な事は出来ないぞ。」
本当は、あいつとのセックスはどうだったのか?どんな事をしたのか?それも知りたかったのですが、言い出せませんでした。
それらの事を知ったからと言って、何の役に立つ訳でも有りませんが、どうしても気になってしまいます。
それらの事は、もう少し気持ちの整理が出来てから聞こうと思いました。
そうこうしている内に田中夫婦がやって来ました。
「お電話有難う御座いました。ご主人のお気持ちは決まりましたでしょうか?」
リビングに入ると、前日と同じく床に正座した奥さんは私に はっきりとした言葉で尋ねて来ました。何も人に後ろ指をさされる事の無い人間は堂々としています。
妻も こんな事が無ければ この様にしていられたのでしょう。何処に出しても恥ずかしく無い自慢の妻でした。それが今はオドオドして俯いている姿を見ていると、本当に情けなくなってしまいます。
「あのぅ奥様、この度は大変ご迷惑をお掛けしまして申し訳有りませんでした。なんとお詫びすれば良いのか・・・。本当に申し訳御座いません。」
妻は床に頭を付けて、絞り出すような声で言うと、
「貴方に謝って貰わなくても結構です。」
明かに私に対する態度とは違う、冷たい中に怒りをあらわにした言葉で制止ました。
当然な事だと思いましたが、その毅然とした態度に、この人の性格の強さが伝わります。
「ええ。決めました。この人には仕事を続けて貰いましょう。それから、私達は離婚を見合わせる事にしました。」
唐突な言葉に、男はチラリと私に視線を向けました。
「その代わり、まずは念書を書いて貰います。何時から不倫を続けたのか はっきりとさせて貰います。
妻は仕事を辞めさせますが、これから二人に何か有ったら、その時は会社に行かせて貰います。
ですから、妻が辞めた後から、関係を持ったと言われては、会社的にも処遇に困るでしょうから。
それと慰謝料ですが、妻が仕事を辞めた分の金額を娘が大学を卒業する迄の3年間払って貰います。
それが法律的に妥当なのかどうかは分かりません。
もし異存が有れば、それはそれで構いませんが、それなら会社に行かせて貰います。
妻もその内に仕事を始めるでしょうから、そうなればその分、支払う金額も減らして貰って構いません。
その事は、誓約書にお互い きちっと書きましょう。
それと非常識な辞め方になると思うが、こいつには明日辞表を提出させる。
本来で有れば引継ぎ等色々しなければならないだろう、あんたの口利きで明日で終わりにして貰おう。良いな。」
男は「分かりました。」と家に来て初めて口を利きました。
「良いのね?貴方の責任で処理できるわね?そうさせて頂きます。
私達も離婚するかどうか、もう一度良く話し合う事にしました慰謝料の方もそれで結構です。
小遣いも遣りませんので、何とか出来ると思います。本当に有難う御座いました。」
奥さんの言葉に妻は男に視線を向けたのを、私は見逃しませんでした。
--------------------
私は日曜の夕方に家を出て赴任先に戻り、妻も月曜の夜には こちらに来ました。
「ただ何だ?その内に分から無くなったかもしれないか?」
「いいえ、そんな事は無いわ。・・・ただ、そんな事をしていたとは、貴方に言えないから騙し続けただろうと思って・・・」
「それがどうした?僕が浮気をしていると思っていたんだから、別に気が咎める事も無かっただろう?勝手な言い分かも知れないが、男と女の浮気は本質的に違うと思う。
こんな考え方は もう古いのか知れない。でも、男は欲求を満たすだけに女を抱く事が出来る。だから、その為だけの店も山ほど有るんじゃないのか?
だけど女はどうだ?今の若い奴らなら どうかは分からないけど、僕ら達位になると、そうは行かないんじゃないだろうか?
お前は、あいつが既婚者だから、僕と別れる事を考えなかっんじゃ無いのか?」
「そんな事は無いです。あの人は奥さんと、もう別れる事になるだろうと言っていたし、もし、別れなくても私には、それなりの収入が有るし、そんな気持ちなら貴方と別れる方を選んでいます。」
「そんなものかな?理解出来ないな。良く分から無いよ。ただこれからは、お前の収入は無くなるからな。もう勝手な事は出来ないぞ。」
本当は、あいつとのセックスはどうだったのか?どんな事をしたのか?それも知りたかったのですが、言い出せませんでした。
それらの事を知ったからと言って、何の役に立つ訳でも有りませんが、どうしても気になってしまいます。
それらの事は、もう少し気持ちの整理が出来てから聞こうと思いました。
そうこうしている内に田中夫婦がやって来ました。
「お電話有難う御座いました。ご主人のお気持ちは決まりましたでしょうか?」
リビングに入ると、前日と同じく床に正座した奥さんは私に はっきりとした言葉で尋ねて来ました。何も人に後ろ指をさされる事の無い人間は堂々としています。
妻も こんな事が無ければ この様にしていられたのでしょう。何処に出しても恥ずかしく無い自慢の妻でした。それが今はオドオドして俯いている姿を見ていると、本当に情けなくなってしまいます。
「あのぅ奥様、この度は大変ご迷惑をお掛けしまして申し訳有りませんでした。なんとお詫びすれば良いのか・・・。本当に申し訳御座いません。」
妻は床に頭を付けて、絞り出すような声で言うと、
「貴方に謝って貰わなくても結構です。」
明かに私に対する態度とは違う、冷たい中に怒りをあらわにした言葉で制止ました。
当然な事だと思いましたが、その毅然とした態度に、この人の性格の強さが伝わります。
「ええ。決めました。この人には仕事を続けて貰いましょう。それから、私達は離婚を見合わせる事にしました。」
唐突な言葉に、男はチラリと私に視線を向けました。
「その代わり、まずは念書を書いて貰います。何時から不倫を続けたのか はっきりとさせて貰います。
妻は仕事を辞めさせますが、これから二人に何か有ったら、その時は会社に行かせて貰います。
ですから、妻が辞めた後から、関係を持ったと言われては、会社的にも処遇に困るでしょうから。
それと慰謝料ですが、妻が仕事を辞めた分の金額を娘が大学を卒業する迄の3年間払って貰います。
それが法律的に妥当なのかどうかは分かりません。
もし異存が有れば、それはそれで構いませんが、それなら会社に行かせて貰います。
妻もその内に仕事を始めるでしょうから、そうなればその分、支払う金額も減らして貰って構いません。
その事は、誓約書にお互い きちっと書きましょう。
それと非常識な辞め方になると思うが、こいつには明日辞表を提出させる。
本来で有れば引継ぎ等色々しなければならないだろう、あんたの口利きで明日で終わりにして貰おう。良いな。」
男は「分かりました。」と家に来て初めて口を利きました。
「良いのね?貴方の責任で処理できるわね?そうさせて頂きます。
私達も離婚するかどうか、もう一度良く話し合う事にしました慰謝料の方もそれで結構です。
小遣いも遣りませんので、何とか出来ると思います。本当に有難う御座いました。」
奥さんの言葉に妻は男に視線を向けたのを、私は見逃しませんでした。
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私は日曜の夕方に家を出て赴任先に戻り、妻も月曜の夜には こちらに来ました。
私は完全に口を利きません。
これからどの様な展開が待ち受けているのかは分かりません。
佐野達の意見を受け入れる形にはなりましたが、それは私の気持ちの中に まだ踏ん切りが付かない部分が有っただけで、その辺の整理が出来れば結論は決まっています。
佐野からの電話も頻繁に入りましたが、私は特別伝える事は有りませんでした。
そんな或る日、また彼女が出張でやって来ました。
「次長、来月はまた同じ職場でご一緒出来ますね。楽しみにしています。今日も何か食事の用意をして上げましょうか?お口に合えばの話ですが。」
「有難う。気持ちが嬉しいよ。この前造ってくれたのは本当に美味しかった。またお願いしたい所なんだけれど、今、家のが来てるんだよ。」
「えっ、奥様が・・・。仕事の方はお休みですか?」
「仕事は辞めたんだ。だからこっちに来てるんだけど・・。君が来てくれるんだったら、あいつは連れて来るんじゃ無かったよ。」」
「何を言ってるのですか。仲の良いご夫婦は本当に羨ましいですわ。私もそんな家庭を造りたかった。奥様は幸せだわ。」
彼女の表情は何時も通り明るく、辛い気持ちでいる私の心が少し和んだのは言うまでも有りませんが、現実に変わりは有りません。
こんな時ですから、私は彼女を女として意識してしまいました。ただ どうなる事も無いのでしょう。
妻とお互いが信じ合えていると思えている時には、それ程意識する事も無かったのですが、今は何か心の寄り所に思えてしまいます。
そんな気持ちでマンションに帰ると、沈んだ表情の妻がいます。
何がこんなに暗くさせるのか、私への贖罪の気持ちからか、今の立場の辛さからなのか、男と逢えないもどかしさなのか知る余地も有りません。
ただ彼女の事が、私の気持ちに余裕を持たせてくれていました。
「貴方、お食事は?」
「要らない。」
私は無愛想に言うと勝手に風呂に入り、外出の用意をしました。
「出かけるんですか?」
「ああ。」
行き先が有る訳で無いのですが、勝手に彼女の事を考えていました。
泊まっているホテルへ電話を入れると、まだ食事前だと言うので一緒に食べる事にしました。
「あら、お一人ですか?奥様は宜しいんですか?」
ホテルの部屋から出て来た彼女は、言葉とは裏腹にウキウキしている様です。
「うん、気にしなくて良いんだ。それより良い店を知っているから行こう。」
店に入ってお酒も進むと、仕事をしている時とは違う彼女がいます。
屈託の無い明るさで色々話してくれて楽しい時間を過せました。
妻とも仕事帰りに待ち合わせて この様な時を良く持ちましたが、これからは2度と無いのかもしれません。その時は、そんな事すら思い出しもしませんでしたが・・・。
ホテルに送って行くと何か言いたそうでしたが、あの男の様に器用でない私は何も出来ませんでした。それで良かったのでしょう。
彼女に その気が有ったのかどうかは分かりませんが、もしそうだとしても関係を持ってしまうと、単に他に逃げ道を求めるだけで その先は見えています。
マンションに帰ると、妻は酔っていました。
「お帰りなさい。どこで飲んで来たの?女の人と一緒だったんでしょう?」
「ああ、そうだよ。何か悪いか?一緒に飲むくらいで、とやかく言われる筋合いは無いだろう?何も疚しい事はしていないしな。お前とは違うよ。」
睨む様な視線を送って来ましたが、それ以上の事は何も言いませんでした。
あの日、以来初めて妻が求めて来ましたが、男との痴態を見てしまった私には、それに答える事等当然出来ません。
「今迄、散々拒んで来て、良くそんな事が出来るな。どんな神経をしてるんだ?信じられねぇよ。」
「辛いの。貴方に嫌われる事をしてしまったし、私が悪いのは分かっているけれど・・・・。でも辛いの。」
そう言うと、妻は自分の部屋に戻って行きました。
たまには優しくと思っても出来る程 時間が癒してはくれていません。
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私生活は相変わらず悶々としたものですが、仕事は私の事情を考慮してはくれません。くたくたになるまで仕事に追われました。その方が余計な事を考え無くても良い唯一の時間です。
>>次のページへ続く
これからどの様な展開が待ち受けているのかは分かりません。
佐野達の意見を受け入れる形にはなりましたが、それは私の気持ちの中に まだ踏ん切りが付かない部分が有っただけで、その辺の整理が出来れば結論は決まっています。
佐野からの電話も頻繁に入りましたが、私は特別伝える事は有りませんでした。
そんな或る日、また彼女が出張でやって来ました。
「次長、来月はまた同じ職場でご一緒出来ますね。楽しみにしています。今日も何か食事の用意をして上げましょうか?お口に合えばの話ですが。」
「有難う。気持ちが嬉しいよ。この前造ってくれたのは本当に美味しかった。またお願いしたい所なんだけれど、今、家のが来てるんだよ。」
「えっ、奥様が・・・。仕事の方はお休みですか?」
「仕事は辞めたんだ。だからこっちに来てるんだけど・・。君が来てくれるんだったら、あいつは連れて来るんじゃ無かったよ。」」
「何を言ってるのですか。仲の良いご夫婦は本当に羨ましいですわ。私もそんな家庭を造りたかった。奥様は幸せだわ。」
彼女の表情は何時も通り明るく、辛い気持ちでいる私の心が少し和んだのは言うまでも有りませんが、現実に変わりは有りません。
こんな時ですから、私は彼女を女として意識してしまいました。ただ どうなる事も無いのでしょう。
妻とお互いが信じ合えていると思えている時には、それ程意識する事も無かったのですが、今は何か心の寄り所に思えてしまいます。
そんな気持ちでマンションに帰ると、沈んだ表情の妻がいます。
何がこんなに暗くさせるのか、私への贖罪の気持ちからか、今の立場の辛さからなのか、男と逢えないもどかしさなのか知る余地も有りません。
ただ彼女の事が、私の気持ちに余裕を持たせてくれていました。
「貴方、お食事は?」
「要らない。」
私は無愛想に言うと勝手に風呂に入り、外出の用意をしました。
「出かけるんですか?」
「ああ。」
行き先が有る訳で無いのですが、勝手に彼女の事を考えていました。
泊まっているホテルへ電話を入れると、まだ食事前だと言うので一緒に食べる事にしました。
「あら、お一人ですか?奥様は宜しいんですか?」
ホテルの部屋から出て来た彼女は、言葉とは裏腹にウキウキしている様です。
「うん、気にしなくて良いんだ。それより良い店を知っているから行こう。」
店に入ってお酒も進むと、仕事をしている時とは違う彼女がいます。
屈託の無い明るさで色々話してくれて楽しい時間を過せました。
妻とも仕事帰りに待ち合わせて この様な時を良く持ちましたが、これからは2度と無いのかもしれません。その時は、そんな事すら思い出しもしませんでしたが・・・。
ホテルに送って行くと何か言いたそうでしたが、あの男の様に器用でない私は何も出来ませんでした。それで良かったのでしょう。
彼女に その気が有ったのかどうかは分かりませんが、もしそうだとしても関係を持ってしまうと、単に他に逃げ道を求めるだけで その先は見えています。
マンションに帰ると、妻は酔っていました。
「お帰りなさい。どこで飲んで来たの?女の人と一緒だったんでしょう?」
「ああ、そうだよ。何か悪いか?一緒に飲むくらいで、とやかく言われる筋合いは無いだろう?何も疚しい事はしていないしな。お前とは違うよ。」
睨む様な視線を送って来ましたが、それ以上の事は何も言いませんでした。
あの日、以来初めて妻が求めて来ましたが、男との痴態を見てしまった私には、それに答える事等当然出来ません。
「今迄、散々拒んで来て、良くそんな事が出来るな。どんな神経をしてるんだ?信じられねぇよ。」
「辛いの。貴方に嫌われる事をしてしまったし、私が悪いのは分かっているけれど・・・・。でも辛いの。」
そう言うと、妻は自分の部屋に戻って行きました。
たまには優しくと思っても出来る程 時間が癒してはくれていません。
--------------------
私生活は相変わらず悶々としたものですが、仕事は私の事情を考慮してはくれません。くたくたになるまで仕事に追われました。その方が余計な事を考え無くても良い唯一の時間です。
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