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みんなの大好きな、みどりいろのあいつの話
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22 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 16:59:24.62 ID:l7VywiqX0
ロックが寝息を立て始めたのを確認して、ジュークはそっとベッドから出ようとした。

するとロックの手がジュークの腕をつかんだ。

「マミー、ここにいてくれ」

ジュークはしぶしぶ毛布に潜り、27歳児の抱き枕として一晩中機能した。

ますたー、わたしがここにくるまで、どうやってせいかつしてたんだろう?


24 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 17:04:49.40 ID:l7VywiqX0
次の日も、その次の日も、ジュークはロックに嫌われる努力をした。

掃除機で真空管アンプをがんがんやったり、高級な革ジャンを洗濯機に入れて洗ったり、灰皿の中身をミキサーにぶちまけたり。

ロックはその度に嬉しそうに困っていた。

ジュークに困らせられるのが好きらしかった。

まいったなあ、とジュークは思った。

どうすれば きらいになってくれるんだろう?


あまり露骨に反抗の意志を見せると、記憶を消されるだけに終わる恐れがあった。

あくまで自然に嫌われる必要があるのだ。

「こいつは使えない」と思わせる、とか。


25 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 17:12:01.95 ID:l7VywiqX0
自分をなまけものに見せる狙いで、ジュークは倉庫に隠れて昼寝をしてみた。

そこにはウッドストックの人形があって、ジュークはそれを枕にして横になった。

「ジューク、どこ行った?」とロックが呼んだ。

ジュークは目を閉じて、寝たふりをした。

倉庫のドアを開けたロックは、変な体勢で寝ているジュークを見つけた。

ジュークはどきどきしながら怒られるのを待っていたが、ロックはジュークを身長に抱えあげると、寝室まで運んでベッドに寝かせた。


26 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 17:16:24.26 ID:l7VywiqX0
窓から差し込む日差しがあったかくて、ジュークは本当に寝入ってしまった。

『あしたこそ、きらわれてやるぞ』、と決意しながら。

その日、ジュークはおいしい夕食を作った。


ちなみに。ジュークは知るよしもなかったが、ロックがジュークを大事にするのは、始めっから手放すつもりでいたからだ。

どうせなら、元値に近い値段で売れるように、丁寧に扱おうと思っていたのだ。

電化製品には、よくある話。




28 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 17:31:17.88 ID:l7VywiqX0
購入からちょうど100日たったその日、ジュークの記憶を消して、売り飛ばそう。

そうロックは考えていた。

ある意味では、ジュークとロックの利害は、最初から一致していたのだ。


32 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 18:21:49.99 ID:l7VywiqX0
ロックは外に出るたび、しょっちゅう喧嘩をしてきた。

警察に捕まって、三日くらい帰ってこないこともあった。

そして家に帰ると涙目でジュークに抱きついて、「マミー、また喧嘩しちゃったよ」と言った。

その度ジュークはロックの怪我をみたり、しばらくロックを慰めたりしなければならなかった。

なくくらいならけんかしなきゃいいのに。

『ますたー、ほんとはけんかきらいなのに、どうしてそんなに けんかばっかりするんですか?』

ラグビー選手と喧嘩してきて傷だらけのロックに皮膚スプレーを吹き付けながら、ジュークは聞いた。


33 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 18:25:41.23 ID:l7VywiqX0
ロックの答えは、こんなものだった。

「マミー、俺は、無法者を演じなきゃならないんだ。

ロックンローラーの俺が、何もできない皆の代わりに、法律を破って、暴言を吐いて、喧嘩しなきゃならないんだ。

つまり、俺は必要悪で、必要バカで、必要クズなんだよ。

俺みたいな成功者が大人げなく社会に反抗するのを見て、勇気を与えられている人がたくさんいるんだ」


そう言うと、正座したジュークのひざに頭を乗せ、ロックはそのままぐっすりと眠り込んでしまった。

ろっくんろーらーというやつはたいへんなんだな。


35 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 19:05:41.68 ID:l7VywiqX0
家の中では四歳児みたいに甘えるロックだが、一歩家の外に出ると、態度は急変して、ジュークを娘のように扱うのだった。

「だって恥ずかしいだろ?」とロックは言った。

「母親と歩いてるところを見られるのは嫌だろ」

ちゅうがくせいみたい、とジュークは思った。

ただ、ジュークとしては、母親のように扱われるより、娘のように扱われる方が楽しかった。

ロックに抱っこされたり、頭を撫でられたりすると、不覚にもふわふわした気持ちになった。


36 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 19:10:13.50 ID:l7VywiqX0
ジュークがロックの家に来てから70日目、ロックはジューク用のベッドを買ってきた。

『ますたー、もうひとりでねれるんですか?』

ジュークはシーツを張りながらロックに聞いた。

「わからない」とロックは肩をすくめた。

「でも、徐々にそういうのに慣れていかないとな。

いつまでもマミーと寝ているわけにもいかない」

これが”おやばなれ”というやつか、とジュークは思った。


37 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 19:17:22.05 ID:l7VywiqX0
その夜、ジュークは初めて一人で寝ることになった。

きょうは ちょっとさむいな、とジュークは思った。

頭まで毛布に潜ってみたが、やっぱり寒かった。


翌日も、その翌日も、やっぱり寒かった。

ジュークは それを毛布のせいだと思った。

このもうふがいけないんだ。うすいから。

ますたーのベッドのもうふと、なにがちがうんだろう?

そう考えたジュークは、ロックのベッドに潜りこみ、ロックに抱きついて、「ああ、なるほど」と納得し、体が温まるまではそうしていようと決め、結局、そのまま眠り込んでしまった。




39 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 19:38:02.23 ID:l7VywiqX0
目を覚ましたロックは、隣でジュークが寝ているのを見て、「寝ぼけた俺が連れ込んだのかな?」と思った。


それ以後、ジュークは毎日ロックのベッドに潜りこんだ。

しかも以前はロックがジュークに抱きつくだけだったのに、今ではジュークの方からロックに抱きつくようになっていた。

五日目の朝、ロックはジュークに言った。

「そうか。ジュークも、パピーが欲しいんだな?」

『えっと……そういうわけじゃないんです』とジュークは答えた。

『なんか、ひとりでねてると、さむいんです』


40 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 19:49:49.04 ID:QZ/IcpR0P
面白い


41 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 19:59:01.83 ID:g7ay/0Smi
心がぽかぽかしてくる


42 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 20:03:13.52 ID:l7VywiqX0
ロックはジュークの言葉を無視した。

「じゃあ、俺がジュークのパピーになればいいんだ」

『でも、わたしは ますたーのマミーなんでしょう?』

「ああ。そして俺はお前のパピーだ、ジューク」

『なんかおかしいですよ。へんです』

「おかしくない。パピーとマミーが一緒にいる。自然だ」

『……そのいいかただと、”ふうふ”みたいですね』

そう言った後、ジュークはちょっと照れた。

わたしはなにをいっているんだ!


43 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 20:30:18.30 ID:l7VywiqX0
100日目。

ロックはジュークにきれいな服を着せた。

そうした方が綺麗に見えて、高く売れるからだ。


ロックはジュークを連れて外に出た。

ジュークはその服が気に入っていて、いつになく機嫌がよかった。

『マミーとてをつなぎましょう』とジュークは言い、ロックの手を引いて、ちょっと楽しそうに歩いた。

自分がこれから売り飛ばされることには、まったく気付いていない様子だった。


44 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 20:37:41.57 ID:l7VywiqX0
気付けばジュークは、あんまりロックに嫌われたいとは思わなくなっていた。

ますたー、わたしがなにをしてもおこらないし、わたしのぱぴーになってくれるし、あったかくてだきごこちがいいから、ますたーにきらわれるの、やめにしよう。

そうジュークは思った。



>>次のページへ続く
 
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