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みんなの大好きな、みどりいろのあいつの話
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46 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:03:49.73 ID:l7VywiqX0
ロックが立ち止まったそこは、かつてロックがジュークを購入した店だった。
「俺がここでジュークを買ったあの日から、今日でちょうど100日目だ」とロックは言った。
ジュークは『そうなんですか』と無邪気に笑う。
「これは、最初から決めてたことなんだ」
ロックは自分に言い聞かせるように言う。
「この病気が治ろうと治るまいと、100日きりで、もう、こういう空しいことはやめにしようって。ジュークを買ったその日から、決めてたことなんだよ」
ロックはジュークの肩に右手を置く。
「ジューク、今日限りで俺は、マミーを卒業するよ」
47 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:19:09.53 ID:l7VywiqX0
ジュークは表情を固めたまま黙りこんでいたが、全てを受け入れるまで、そう長くはかからなかった。
ロックに向かってぺこりと頭を下げると、ジュークは自分から店に向かって歩いていった。
このきおくは、すぐにけしてしまおう。ジュークはそう思った。
扉の手前でジュークはふと振り返り、自分の衣服や髪留めを指差して言った。
『これ、おかえしします。ますたーのしょゆうぶつですし』
48 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:27:47.14 ID:6zo50D2A0
辛い…ハッピーエンドお願いします!
50 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:32:38.89 ID:l7VywiqX0
ロックは「ああ、たしかにそうだ」と言うと、ジュークに歩み寄り、小さな体をひょいと抱え上げた。
腕の中で目を丸くしているジュークに、ロックは言った。
「でもジュークは、何か勘違いしてるみたいだな。
それを言うなら、ジュークだって、俺の所有物なんだ。
マミーはもう、いらない。
でもだからと言って、ジュークが俺のところから出て行っていいという理由にはならない。
高い買い物だったんだ。二百年は使わないと割に合わない」
『えっと』とジュークはしどろもどろの手話で返した。
『わたし、すてられないってことですか?』
「そうさ。残念だったな」とロックはいたずらっぽく笑った。
ロックが立ち止まったそこは、かつてロックがジュークを購入した店だった。
「俺がここでジュークを買ったあの日から、今日でちょうど100日目だ」とロックは言った。
ジュークは『そうなんですか』と無邪気に笑う。
「これは、最初から決めてたことなんだ」
ロックは自分に言い聞かせるように言う。
「この病気が治ろうと治るまいと、100日きりで、もう、こういう空しいことはやめにしようって。ジュークを買ったその日から、決めてたことなんだよ」
ロックはジュークの肩に右手を置く。
「ジューク、今日限りで俺は、マミーを卒業するよ」
47 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:19:09.53 ID:l7VywiqX0
ジュークは表情を固めたまま黙りこんでいたが、全てを受け入れるまで、そう長くはかからなかった。
ロックに向かってぺこりと頭を下げると、ジュークは自分から店に向かって歩いていった。
このきおくは、すぐにけしてしまおう。ジュークはそう思った。
扉の手前でジュークはふと振り返り、自分の衣服や髪留めを指差して言った。
『これ、おかえしします。ますたーのしょゆうぶつですし』
48 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:27:47.14 ID:6zo50D2A0
辛い…ハッピーエンドお願いします!
50 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:32:38.89 ID:l7VywiqX0
ロックは「ああ、たしかにそうだ」と言うと、ジュークに歩み寄り、小さな体をひょいと抱え上げた。
腕の中で目を丸くしているジュークに、ロックは言った。
「でもジュークは、何か勘違いしてるみたいだな。
それを言うなら、ジュークだって、俺の所有物なんだ。
マミーはもう、いらない。
でもだからと言って、ジュークが俺のところから出て行っていいという理由にはならない。
高い買い物だったんだ。二百年は使わないと割に合わない」
『えっと』とジュークはしどろもどろの手話で返した。
『わたし、すてられないってことですか?』
「そうさ。残念だったな」とロックはいたずらっぽく笑った。
51 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:39:07.85 ID:6zo50D2A0
完?
52 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:40:43.76 ID:l7VywiqX0
いえ、半分くらいですね。
53 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:42:13.41 ID:fIz/CV3r0
素敵だなおい
54 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:45:14.93 ID:l7VywiqX0
帰り道の半分くらいまで来ても、ジュークは自分に起こったことが信じられず、これは自分が廃棄されている最中に見ている都合の良い幻覚なんじゃないかと思っていた。
だがロックが小声で口ずさむ歌を聴いたことで、ようやく「ああ、これ、げんじつなんだ」と気づき、慌ててロックの胸を叩いて地面に下ろしてもらって、あらためてロックに礼を言った後、遠慮がちに抱きついた。
ロックも直前までは、本気でジュークを捨てる気でいたのだ。
でも自分から姥捨て山に歩いていくジュークの背中を見て、ふとロックは思った。
あれを手放すわけにはいかない、と。
55 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:49:08.72 ID:6zo50D2A0
まだ半分なんや!楽しみ!
頑張って!
56 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:53:10.14 ID:l7VywiqX0
ありがとうー
57 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:53:19.28 ID:N0PfJtHU0
追いついた
素敵な話だな
58 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 21:57:39.23 ID:l7VywiqX0
帰宅後、夕飯の支度を終えたジュークは、譜面とにらめっこするロックを見て、その横におそるおそる座ってみた。
「もっと近くにこい」とロックは命令した。
言われた通り、ジュークはそばに寄った。
ジュークはロックのきれいな金髪を見ていた。
「ところでジューク」とロックは口を開いた。
「”19”ってのは、シリアルナンバーか何かか?」
ジュークはちょっと迷ってから、こう答えた。
『じゅーくぼっくすの”じゅーく”なんですよ、ゆらいは』
59 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:03:40.78 ID:l7VywiqX0
「ジュークボックスとお前に、何の関係があるんだ?」
『んーと、わたし、むかしは、こえがでたんですよ。それで、ちょっとだけ、うたをうたうのがとくいだったんです』
「歌が得意だった?」ロックは訊きかえす。
『はい。もちろん、ますたーほどじゃありませんけどね。
でも、たのまれれば、どんなきょくだろうと うたってました。
そういういみで、じゅーくぼっくすの”じゅーく”なんですよ』
「なるほど。別に18とか20がいるわけじゃないのか」
ロックはちょっと残念そうに言った。
60 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:10:10.54 ID:l7VywiqX0
ロックは自分の書いた譜面を指差して、言った。
「歌の経験があるなら、ジュークも分かるだろう?
見ろよ、本当にきれいな譜面だ。いい曲は譜面まで美しい。
さっき、なかなかいい曲を書いちまったんだよ、俺は。
全盛期の俺以外歌えないような広音域なのが問題だが」
そう言って、ロックはジュークに五線紙を手渡した。
ジュークはロックの書いた曲の譜面を、ラブレターでも読むみたいな表情で読んだ。
こういうの、なつかしいなあ。
ジュークは頭の中でそうつぶやいた。
62 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:15:12.16 ID:l7VywiqX0
音符に集中しているジュークの形の良い頭頂部を、ロックは穏やかな目で見つめていた。
「100日目にしてようやく気づいたんだが、ジュークの髪、黒でコーティングされてるだけで、本当の色はエメラルドグリーンなんだな」
ロックはそう言ってジュークの髪に触れる。
ジュークは くすぐったそうに顔をかたむける。
「いや――正確には、ハツネグリーンか。
なあジューク、この色名の由来を知ってるか?
“ハツネ”っていうのは、ちょうど百年くらい前に、日本から生まれたディーヴァの名前なんだ」
65 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:26:34.12 ID:bw9cuV0wO
色弱だから水色にしか見えないんだけどミクさんて緑なの?
67 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 22:44:57.25 ID:OHNGIijb0
>>65
yes
74 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:14:07.00 ID:l7VywiqX0
「”ヴォーカロイド”って言葉くらい知ってるだろう?
現状からするとちょっと信じがたい話だが、三十年くらい前までは、人間の歌ったものより、ヴォーカロイドの歌ったもの方が人気があったんだ。
まあ、ヴォーカロイドに人気があったというよりは、商業音楽が自滅した、っていう方が近いのかもしれない。
あんまりにもあらゆる権利を主張し過ぎたんだな。
反動で一時期同人音楽が大流行したんだが、その流行を支えたのが、ヴォーカロイドの存在だったんだ。
今でこそ同人音楽の一切が禁止されて日の目を見なくなったヴォーカロイドだが、全盛期は、本当に世界中を熱狂させてたんだよ。
ヴォーカロイドの中でも特に絶大な人気を誇ったのはハツネグリーンの由来となった『ハツネ』なんだ。
歌は上手くなかったんだが、キャラクターが受けて……」
75 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:19:25.89 ID:l7VywiqX0
ジュークは立ち上がり、五線紙をロックに返した。
そして部屋の隅にあるシンセサイザーの前に座り、先ほどの譜面を、正確過ぎるほど正確に弾き語ってみせた。
「ますたーのいうとおり、わたしは、うたがうまくないです」
演奏を終えたジュークは、そう言ってはにかんだ。
ロックはしばらく黙り込んでいた。
「ジューク、お前……声が出せたのか?」
「はい。このとおり、ぎこちないですけどね」
まるで、百年前の機械の合成音みたいな声。
そしてコーティングに隠れたハツネグリーンの髪。
完璧すぎる音程、広すぎる音域。
まるで”そのもの”じゃないか、とロックは思う。
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