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みんなの大好きな、みどりいろのあいつの話
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76 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:24:25.07 ID:B3HX2e5rO
いいよいいよー
77 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:29:39.99 ID:l7VywiqX0
「馬鹿馬鹿しい質問をひとつ、いいか?」
「なんでもきいてください、ますたー」
「ジュークは……ハツネなのか?」
「はつねは、じつざいしません」
「そりゃそうだ。分かった、質問を変えよう。
ジュークはなぜ、ハツネにそっくりなんだ?」
ジュークは左腕を差し出して、手首を回す。
途端、左腕に、髪と同じ色ボタンが複数現れる。
古いシンセサイザーのパネルを彷彿とさせるデザイン。
まるでヤマハのDX7みたいだな、とロックは思った。
78 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:35:43.09 ID:l7VywiqX0
「じゅーくは、ほんものの はつねではありません。
ただ、かぎりなくちかいものではあります。
そうなるように、からだをいじられたんです」
「弄られた?」ロックは顔をしかめる。
「さいしょは、じゅーくも ふつうのにんげんでした。
かみはくろくて、こえもふつうでした。
でも、むりやりはつねにさせられたんです。
といっても、きおくはけされちゃったから、
じぶんがどういうにんげんだったのかは、
おもいだすことができませんけどね」
いいよいいよー
77 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:29:39.99 ID:l7VywiqX0
「馬鹿馬鹿しい質問をひとつ、いいか?」
「なんでもきいてください、ますたー」
「ジュークは……ハツネなのか?」
「はつねは、じつざいしません」
「そりゃそうだ。分かった、質問を変えよう。
ジュークはなぜ、ハツネにそっくりなんだ?」
ジュークは左腕を差し出して、手首を回す。
途端、左腕に、髪と同じ色ボタンが複数現れる。
古いシンセサイザーのパネルを彷彿とさせるデザイン。
まるでヤマハのDX7みたいだな、とロックは思った。
78 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:35:43.09 ID:l7VywiqX0
「じゅーくは、ほんものの はつねではありません。
ただ、かぎりなくちかいものではあります。
そうなるように、からだをいじられたんです」
「弄られた?」ロックは顔をしかめる。
「さいしょは、じゅーくも ふつうのにんげんでした。
かみはくろくて、こえもふつうでした。
でも、むりやりはつねにさせられたんです。
といっても、きおくはけされちゃったから、
じぶんがどういうにんげんだったのかは、
おもいだすことができませんけどね」
80 :名も無き被検体774号+:2013/03/31(日) 23:50:37.31 ID:l7VywiqX0
「こりゃ傑作だ」とロックは手を叩いた。
「69と暮らす19は、本当は39だったわけだ」
ロックは笑った。ジュークは笑わなかった。
「正直、気がめいる話だ」とロックは額に手を当てた。
「そうか、ハツネグリーンの髪を黒くコーティングして喋れないふりをしてたのには、そういう理由があったのか。
たしかに今の時代、ハツネの姿と声で街を歩いてたら、いきなり拳銃で撃たれても不思議じゃないからな。
……肩の火傷は、誰かにやられたのか?」
「いえ、ここに、01ってかいてあったんですよ。それをけすために、ちょっとやいたんです」
ジュークは襟から肩を出して、その跡を見せた。
81 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:00:35.98 ID:GxPuxG5u0
いつの間にか、激しい雨が屋根を叩いていた。
「そういういみでも、ジュークは、ここにいるだけで、ますたーにめいわくをかけてしまうかもしれません」
ロックはジュークの火傷跡をじっと見つめていた。
「俺の喉にさわってみな」とロックが言った。
ジュークは おそるおそる手を伸ばした。
しばらく喉を撫でた後、ジュークは息をのんだ。
「つくりもの、ですか?」
「そう。つくりものだ」とロックはうなずいた。
「ロックンローラーの正体は、つくりものなんだ。
現役時代に無理をさせ過ぎて、もう使い物にならないが」
82 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:10:33.00 ID:GxPuxG5u0
ジュークは何回もロックの喉を触って、それが作り物であることを確かめた。
ますたーも、じゅーくのなかまなんだ。
うれしくなったジュークは、歌を口ずさみ始めた。
ジュークがうれしくて歌を歌うのは数年ぶりだった。
その古い古い歌を、ロックはよく知っていた。
しあわせなシンセサイザの歌。
歌がコーラスに差し掛かったところで、ロックはシンセサイザーの前に立ち、ジュークの歌に合わせて伴奏を弾きはじめた。
83 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:21:35.52 ID:GxPuxG5u0
演奏を終えると、ロックはジュークの手を取った。
「ジューク、早くもお前の新しい仕事が決まった。俺は楽器なら何でも弾けるが、肝心の歌が歌えない。だがジュークなら、俺の作る歌の音域にも対応できる」
ジュークは目を瞬かせながらロックの顔を見た。
「でも、どうじんおんがくは、きんしされてるのでは?」
「ああ。加えて音響兵器の脅威によって、今や音楽なんて ほんの一部の物好きのためだけのものになってしまっている。
でもジューク、俺は一度でいいから、自由に音楽をやってみたいんだ。
皆が耳を塞いだ、音楽の弱った時代で、だからこそ革命を起こしたいんだ」
84 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 00:39:45.58 ID:GxPuxG5u0
「また、うたえる」とジュークは目を閉じて微笑み、
ソファーの上で三角座りして、うれしそうに体を揺らした。
「うまく ちょうきょうしてくださいね、ますたー」
「調教? ……ああ、調律のことか。任せな」
「そうしたら、ジュークは、ますたーをいっぱいほめます」
「そうしてくれ。俺は褒められるのが大好きなんだ」
それからというもの、二人は楽器だらけの部屋にこもり、朝も夜もなく、ひたすら曲作りに打ちこんだ。
自分の本当の役目を果たしているという実感は、ロックを薬や喧嘩から遠ざけていった。
87 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 12:07:15.10 ID:GxPuxG5u0
二か月かけてアルバムを二枚作り終えたところで、ロックの中にあった焦燥感のようなものが、ふっと去って行った。
ひとまず最低限やりたかったことはやれたな、とロックは思った。
無駄とは知りつつも、ロックはそれらをウェブにアップロードした。
お祝いにフランス料理を食べにいった、帰りのことだった。
焦りから解放されたロックは、隣を歩くジュークを見て、ふと、自分がこの少女について何も知らないことに気付いた。
「ジュークは、昔のことで、覚えてることはないのか?」
ジュークはしばらく考え込んでいた。
「おぼろげですけど……なかまがいたきがします」
「仲間? ひょっとして、ヴォーカロイドの?」
「たぶん、そうですね。あとはおもいだせません」
他にもジュークみたいな子がいるのだろうか、とロックは思った。
88 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 12:38:05.89 ID:GxPuxG5u0
「はっきりとした記憶は、どこから始まるんだ?」
「それは、そうこからはじまりますね。じゅうでんきにつながれて、ぼうっとしてました」
「充電器? 食事とかはどうしてたんだ?」
「じゅーく、いちおう、でんきだけでもいきてけるんです」
「そうか……倉庫では、どんな風に毎日を過ごしてたんだ?」
「いえ、ですから、じゅうでんきにつながれてました。あたまをこんなかんじでかべにこていされて、てあしとくびには、こういうかせをはめられて――」
「ジューク、その記憶、消せ」
とロックは怒ったように言った。
「俺と出会う直前までの記憶は、全部消しちまえ」
89 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 12:54:12.96 ID:GxPuxG5u0
ジュークは とまどったような顔で言った。
「でも、このきおく、じぶんのたちばをしるうえでは、すごくわかりやすくて、じゅうようなきおくなんです」
「立場なんて忘れちまえ。ジューク、よく考えてくれ。
ジュークがそれを当然のように話すのは、おかしいんだ。
それはロボットにとっては当然の状態かもしれないが、ジュークにとっては地獄だったはずなんだよ。
くそったれ、あの店主ジュークが人間だってことは知ってたんだろ?」
「んー、でもだいじょうぶなんですよ」とジュークは笑う、
「じゅーく、なんかもう、きかいみたいなものですし」
90 :名も無き被検体774号+:2013/04/01(月) 13:21:00.86 ID:GxPuxG5u0
ロックは立ち止まり、ジュークに視線の高さを合わせて、言った。
「ジューク、確かに、自分を機械だと思えば、
自分を人間だと思ってるよりは、ずっと楽に生きられる。
そう思わないと耐えられない時期があったのも分かる。
でも、ジュークは間違いなく、人間なんだよ。
一緒に暮らしてる、俺が断言するんだ。
ジュークにはこれから、普通の生活を送ってほしい。
幸い、俺には自由にできる金がいくらでもある。
そう、できることなら、どうにかしてジュークを、ハツネになる前の姿に戻したいとも考えてるんだ。
そうすれば、学校だって通えるだろう?」
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