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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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261 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 12:36:51.75 ID:s7iJPSG6.net
「他人に認められない努力もある」

「他人は所詮他人。あなたじゃないから」

「だから、それは仕方がないこと」

「あなたの努力は、あなた自身が一番認めてあげるべき」

「その努力は あなたを裏切らない」

「あなたの中で着実に積み上がっていく」

「例え、誰もそれに気づかなくても」


珍しく、レイの言葉からは熱のようなものが感じられた。だから、俺は言い出すことができないでいた。

でも、俺は認めて欲しい。俺じゃなく、他人に。・・・・・・というよりも、君に。

そんなことを言ったら、甘えてるみたいでかっこわるいと思った。



262 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 12:44:13.64 ID:s7iJPSG6.net
でも、そんな俺の気持ちを察してくれたのはレイだった。黙ってる俺に、レイはこう言った。

「あなたの努力を認めない、そう言ったけれど」

「私は あなたのことを信じてる」

「あなたは努力して部屋から出た」

「そして、公園に来てくれた」

「会えなかったけど、私はそう信じてる」


「だから」

「私も証拠を残してきた」

「ブランコから見て右の植木の根元」

「土に埋まった青い小瓶」

「探してみて」


それだけ言うと、レイはチャットから消えた。



263 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 14:21:50.75 ID:s7iJPSG6.net
レイは本当に来てくれたんだ。


俺は驚いて、何度もその言葉を読み返した。

信じてなかったわけじゃない。

でも、まさか、本当に・・・・・・・・・・・


「それから」

そのとき、突然文字が現れて、俺は覗き見されたようにびくりとした。

もちろん、言葉の主はレイだ。


「忘れないで」

「今回の外出は目標への第一歩」

「あなたがしなければならないのは、彼の観察」

「記録をつけて」

「その記録が、あなたの努力を可視化する」

「それじゃ」


一方的に言うと、今度こそレイは画面から消えた。

俺が口を挟む暇なんて、少しもなかった。



265 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 03:30:58.18 ID:cSmjjL1b.net
その言葉で、レイの優しさ?に浮かれてた俺の気持ちは、途端に引き締まった。

俺は目先のことに一喜一憂して、すぐに目標を忘れてしまうところがあって、このときも その状態だった。

そうだった。

とりあえず、レイの〈証拠〉は置いておいて、俺はごくりと唾を飲み込んだ。

俺は、Aを殺すために行動を起こしたんだ。



266 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 03:35:06.83 ID:cSmjjL1b.net
そう考えると、何だか不思議な気分だった。


俺は部屋をゆっくりと見回した。

そして、思った。

俺は、ここから出たんだ。


それは俺にとって本当に不思議なことだった。

だって、俺はここから出られないと思ってたんだ。

出られるわけがないと、出たら死ぬってくらいの勢いで。


けど、俺は出た。ここから出たんだ。



267 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 03:39:50.28 ID:cSmjjL1b.net
〈あなたの努力は、あなた自身が一番認めてあげるべき〉

レイの言葉が、いまさら胸を熱くした。


俺、できたんだよな。

やり遂げたんだよな。


大げさかもしれないけど、ガッツポーズしたいような気分がこみ上げた。

けど、そのときだった。


「ホント、大げさね」

誰かが俺の中でくすりと笑った。

俺が勝手に創り上げた、頭の中のレイだった。



268 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 03:47:51.92 ID:cSmjjL1b.net
「部屋から出たくらいで、なにそんなに喜んでるわけ?」

頭の中のレイは嘲笑した。

「引きこもりが部屋から出て、醜態さらして、それの一体どこが偉いわけ? 努力なわけ?」

「あなたの姿なんて誰も見たくないのよ」

「気持ち悪いったらありゃしない」

「ああ、ホント気持ち悪い」


頭の中のレイは俺を見下すように嫌な目で見た。彼女の目論み通り、身体を強ばらせた俺を。



269 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 03:54:03.71 ID:cSmjjL1b.net
〈気持ち悪い〉

その台詞は容易に俺を麻痺させた。

レイのおかげで暖かくなった胸は、すぐに熱を失い、俺は光じゃなくて暗闇に目を向けた。

こそこそ、ひそひそと囁き合う他人でひしめいた、暗闇を。

「みんなそう思ってるわよ」

頭の中のレイはそうささやいた。

「みんな、みんなそう思ってる」

「みんな、世界中の人たちが、あなたのことをそう思ってる」



270 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 04:00:19.38 ID:cSmjjL1b.net
「みんな、すべての人が、よ」

暗闇の他人がわらう。俺のことを指さして、わらっている。

「みんな・・・・・・」

俺はつぶやいた。足はもう膝まで暗闇に飲み込まれていて、それはすぐに全身を覆うだろうと思われた。それが常だった。

そうして、前向きになろうとする俺は、いつも暗闇に消えてしまうんだ。

そして、再び後ろ向きになって そこから吐き出される。

二度と立ち上がれないように、、二度と希望なんか持てないように、徹底的に刻み込まれて。



271 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 04:07:26.04 ID:cSmjjL1b.net
〈あなたの努力は着実にあなたを変えていく〉


レイはそう言った。

けど、変わってないよ。

俺は ずぶずぶと闇に飲まれながら、そう思った。

それとも、やっぱり俺の行動は認めるに値しないちっぽけなもので、それくらいじゃ なにも変わらないっていうのか?



272 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 04:26:45.37 ID:cSmjjL1b.net
けど、そのときだった。

何からの連想かわからないが、俺は ふとレイの最後の言葉を思い出した。

〈記録をつけて〉

記録。記録って?

わからないまま、俺は引き出しからノートを引っ張り出した。

暗闇は その腕まで絡め取ろうとする。けど、俺はそれを振り切るように、ページを開くと そこに殴り書きをした。


『今日。久しぶりに部屋を出て、公園へ行った。レイとの約束のため。』


ぱっと今日の日付がわからなかったから、少し変な書き付けになったが、その後 日付を調べて、書き足した。


『3/9』

そうか、もう三月なんだ、なんて驚いたことを覚えてる。



>>次のページへ続く
 
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