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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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309 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 04:24:50.06 ID:3y8Xfu8b.net
「でも、それと どういう関係があるの?」


「塾通いがわかったのは大きな成果」

「でも、それが毎日なのかはわからない」

「引き続き観察が必要」

「それに春休みに入って、行動パターンが変わる場合もある」


・・・・・・なるほど。

頭の回転の早さに、俺は感心した。



310 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 04:29:22.22 ID:3y8Xfu8b.net
「じゃ、機会があるうちに さっさと計画を実行した方がいいのかな」

打ち込みながら、手がぞわっとした。


計画。

実行。

簡単に言っちゃってるけど、俺、Aを殺そうとしてるんだよな・・・・・・。

やれるのか?

興奮と不安が入り混じったような気持ちが、腹の底から ぐうっとこみ上げた。


「まだよ」

しかし、レイはそんな俺をたしなめるように言った。


「言ったはず」

「まだ観察が足りない」

「塾通いも、毎日じゃないかもしれない」

「あなたは完璧を期す必要がある」

「そうでしょう?」



311 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 04:35:32.18 ID:3y8Xfu8b.net
完璧を期す。

このレイの台詞は、俺の厨二心を捉えた。

そうだ、俺がやろうとしてるのは完全犯罪だ。

完璧じゃなきゃ、捕まっちまうんだから。

そう思うと、毎日の観察という一見億劫そうなことも、なんとなくやり遂げられそうな気がした。

完全犯罪のための忍耐。

それって、何だか かっこよくないか?



312 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 04:43:17.01 ID:3y8Xfu8b.net
「それじゃ、いってらっしゃい」

唐突にレイが言った。


「そろそろ時間よ」

時計を見上げると、確かにそんな時間だった。


「・・・・・・頑張るよ」

ついさっきカッコイイと思ったことを忘れて、面倒くさいなと俺は思った。

けど、レイの手前、行かないわけにもいかなかった。

それに、いつもの取り巻き連中がいないという事実は、俺に少し勇気を与えていた。


「行ってきます」

俺は打ち込んだ。


「行ってらっしゃい」

レイはもう一度、そう言ってくれた。

レイが見送ってくれてると思うと、こそばゆいような気持ちがした。



313 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 04:57:44.43 ID:3y8Xfu8b.net
俺はそれから一週間ほど、レイに見送られてAの観察に出かけた。

玄関から出入りしてると、いずれ親に気づかれるような気がして、俺は一階の裏窓から出入りすることにした。

窓の外は隣家との狭い隙間になっていて、誰にも気づかれる心配はないし、物音も立てずに済む。

俺は秘密兵器のカバンを背負って、毎晩そこから出入りした。

けど、幸いなことに、この時間帯は人に遭うことも滅多になく、たまに遭ったとしても、疲れてるのか、俺には無関心な人たちばかりだった。



314 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 04:59:36.75 ID:3y8Xfu8b.net
それに、もし呼び止められたとしても、俺には格好の言い訳があった。

秘密兵器のカバンだ。

そこには俺が持ってる、ありったけの教材が詰めてある。

「○○塾の帰りなんです」

そう言って、その中身を見せれば、うまくごまかせるはずだ。

何たって、ほかにも塾帰りの中学生がうろついてるんだから。

けど、そんな心配をよそに、俺は呼び止められるようなことは一度もなかった。



315 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 05:10:15.96 ID:3y8Xfu8b.net
習うより慣れろ、とはよく言ったもので、初めは心臓ばくばくだった夜の外出も、そのうち大分慣れ、俺は、胸を張って歩けるようになっていた。

とはいえ、〈自分のことが何より大切〉とレイに言わしめた俺が、その自分大好き根性を すぐに手放せたわけじゃなかった。

外にどうしても出られない、繊細で敏感で可哀想な俺、そんな役割を演じて、引きこもりたい衝動に襲われるのは、毎度のことだった。

厨二って人と違うことに命をかけたくなるだろ?

それが どんなに不幸なことかも想像せず、隻眼カッコイイ!とか、天涯孤独カッコイイ!とか。

普通なんて かっこわるい。

二十歳まで生きられなくてもいいから、天賦の才が欲しい。

そんなことを思っていた時期が、俺にもありました・・・・・なんて、茶化せないくらい、何だかどうしようもない話だ。



316 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 05:15:53.80 ID:3y8Xfu8b.net
別に成長過程で、それに憧れる、くらいならいいんだと思う。

けど、俺は かっこわるく それをこじらせた。

それが問題だった。

自意識過剰で ぶくぶく精神を太らせた俺は、「今日は無理かも・・・・・・」的なことを言って、何度もレイに絡んだ。


「昨日もいったから疲れちゃったよ」

「どうせ俺にはできないよ」

「もうやだ」

「やめて、一生引きこもろうかな」



317 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 05:21:37.35 ID:3y8Xfu8b.net
すべては、

「そんなことないよ」「あなたはよくやってると思う」「頑張ってると思う」

レイにそう言われたいがための誘い水だった。

けど、いま思えば有り難い話で、レイはどんなときも揺らぐことがなかった。


「とにかく行動すること」

「頭の中で考えていても、〈現実〉には何の影響もない」

「記録があなたの努力を可視化する」


レイは淡々といままでの言葉を繰り返した。

けど、むやみに俺に はっぱをかけるだけじゃなかった。


「疲れたなら休めばいい」

「読みたい漫画があるなら、読めばいい」

「ただし、それを怠けてるとか、俺はできないやつだ、と思わないで」

「そんなことを考えることに意味はない」



318 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 05:27:39.56 ID:3y8Xfu8b.net
レイは同時にそう言って、俺を否定することはしなかった。

ただ、

「何でもいいから、答えを探して」

そう言われたときのように、最初のうち、俺はその言葉を素直に受け取ることはできなかった。

読書感想文の「蜘蛛の糸」の話と同じだ。

休めばいい、そう言われて素直に休んだら、皮肉を言われる。

・・・・・・それがいままでの俺の環境だったから。

まあ、でもそれは俺だけじゃない、きっとほとんどの人が経験したことがある、本音と建て前ってやつだとは思うけど。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, 修羅場・人間関係, ためになる話, これはすごい, ためになる話, ちょっといい話,
 


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