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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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468 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:30:59.84 ID:tUla2ho3.net
「どうかしてるのは、あなたよ」

もう一度、同じ台詞が画面に現れた。

そのまま、再びレイは黙った。


どうかしてるのは、・・・・・・俺?

のぼっていた蜘蛛の糸が、ぷつり、どこかで切れたような音がした。

なんだ? どういう意味だ? なぜレイは そんなことを言う?

糸はまだ完全には切れていない。そこにしがみついたまま、俺は自問した。

あと少しで、お釈迦様の待つ天上だ。

そこに咲き乱れているという蓮の香りが漂い、目にはその美しい風景が映ろうとしている。だというのに。なぜだ。

糸にしがみつく俺の中に、小さな空虚が生まれた。それは じわじわと身体の内部を侵食し、俺を虚ろにしようとした。



469 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:34:58.64 ID:tUla2ho3.net
「どういう意味?」

俺はやっと そう打ち込んだ。

「わからない?」

今度は すぐに文字が現れた。

「わからない」

俺は答えた。

「全然わからない」

「どうして計画を中止しなきゃならない?」

「理由を教えてくれ」

ありったけの力を込めて打ち込んだ。



470 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:39:13.99 ID:tUla2ho3.net
「それは・・・・・・言えない」

しばらく待つと、文字が現れた。

俺は その言葉が信じられず、何度もそれを読み返した。

言えない?
言えない、だって?
あの、レイが?
あの、何でも淡々と言葉にしてしまうレイが??




471 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:42:02.59 ID:tUla2ho3.net
「言えないって、どういうことだよ」

俺は急いで打ち込んだ。俺は混乱していた。慌てていた。

だって、わけがわからない。これまで積み上げてきた計画を中止しろ、だなんて。そう言いながら、中止の理由も説明できないなんて。

「もしかして、俺のことが信用できない?」

わけがわからないまま、俺はそう聞いた。

「いざとなったら できないんじゃないかって、そう疑ってるの?」



472 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:47:51.01 ID:tUla2ho3.net
「疑ってなんかない」「信じてる」「信じてるからこそ、言ってるの」

レイは言った。それから、彼女らしくもなく、言葉を翻した。

「いいえ」「そうじゃなくて」「あなたは間違ってる」「だから、やめて欲しいの」


「間違ってる?」

計画を根本的に否定され、俺はさらに混乱した。間違ってるってどういうことだよ?

そもそも、Aを殺せって言ったのは、ほかならぬレイだろ??



473 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:54:54.57 ID:tUla2ho3.net
「ちゃんと説明してくれよ。じゃないとわからない」

俺は懸命にキーボードを叩いた。

このときばかりは、レイが画面の向こうにいることがうっとうしくて仕方がなかった。

だって口で言った方が遙かに早くて楽なことも、キーボードじゃ もたついて、うまく伝わらない。

「俺の命と、Aの命、どっちが消えるのが正しいかって、君は初め、そう言っただろ」

〈あなたには生きる価値がある〉

レイはそう言ってくれた。その言葉を土台に、俺はここまで立ち上がれたんだ。

いまさら、その土台が崩れ落ちるなんて、想像もしたくない。



474 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:59:55.87 ID:tUla2ho3.net
「言ったわ・・・・・・」

レイはそう認めた。

けど、それはあんまりにも彼女らしくない、弱々しい言葉だった。

「けど、それは そういうつもりで言ったんじゃないの」

「そういうつもりじゃない?」

それはあまりに理不尽で無責任な台詞だった。現実なら、俺は叫んでいただろう、そんな勢いで俺はキーを叩いた。

「じゃ、どういうつもりだったっていうんだよ!!!!」



475 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 05:13:33.11 ID:tUla2ho3.net
ガシャン、勢いよく手を上げた勢いで、生姜焼きの皿が吹っ飛んだ。茶色い色をした汁が そこらに飛び散った。

「なんなんだよ!!!」

俺は思わずリアルに叫び、パソコンをティッシュで乱暴に拭いた。腕や足についた汁も拭った。その延長で床も拭って・・・・・・

同じく汁に染まった紙切れに目を止めた。それは またしても、新聞記事の切り抜きだった。親がわざわざ切り抜いて、当てつけのように皿の下にでも置いたんだろう。

苛立っていた俺は八つ当たりをするように、それをぐちゃぐちゃに丸めかけて・・・・・・

・・・・・・ふと、その手を止め、シワになったそれを伸ばした。切り抜きに並んだ小見出し。

その文字が俺を引きつけたのだ。




477 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 10:57:37.19 ID:tUla2ho3.net
「私の言葉を思い出して欲しい」

「私が求めていたのは、あなたの〈答え〉」

「あなたがこれからどう在りたいのか」

「私はそう聞いたはず」


画面の中のレイが、俺に語りかけていた。

俺は ぐちゃぐちゃになった切り抜きを、しばし惚けたように見つめ、それから、ゆっくりとキーを叩いた。

「俺はAを殺したい。それが〈答え〉だ」

いろいろな感情が渦を巻き、本当は自分が何を考えているのか、あまりよくわかっていなかった。

「Aを殺す。もう決めたんだ」



478 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:13:33.51 ID:tUla2ho3.net
「違う」「あなたはまだ〈答え〉を出していない」


レイの答えは、いままでと同じくらい早かった。

けれど、その無感情な台詞は、いままでにないくらいの悲壮感をまとっていた。


「あなたは その憎しみを糧に外へ出た。出ることができた。

努力をした。計画を立て、目標に進むことを知った。

素直に現実を見て、行動を積み重ねた。

あなたはもう――」


「もう、何だよ?」

たたきつけるように俺はエンターキーを押した。レイの言葉が、俺の言葉でぶつ切りになった。



479 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:14:15.91 ID:tUla2ho3.net
「あなたはもう――」

それでも、レイは続けた。

振り絞るように、声を上げた。



480 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:22:31.94 ID:tUla2ho3.net
きっと本来なら、その言葉は俺たち二人にとって祝福になるはずだった。

幸せな門出の言葉として、笑顔で言いあうべきものだった。

もしも、場面が違ったら。

俺とレイが、言い争いにならなかったら。

きっと、そうなっていただろう。

けど、現実はそうならなかった。

だから。


その言葉を口にしたレイは、まるで涙でしおれた花だった。

「あなたはもう、一人で立ち上がることができたのよ」

「おめでとう」

「あとは〈答え〉を見つけるだけ」

「あなたの〈生きる目的〉を」




>>次のページへ続く
 
 


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