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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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471 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:42:02.59 ID:tUla2ho3.net
「言えないって、どういうことだよ」

俺は急いで打ち込んだ。俺は混乱していた。慌てていた。

だって、わけがわからない。これまで積み上げてきた計画を中止しろ、だなんて。そう言いながら、中止の理由も説明できないなんて。

「もしかして、俺のことが信用できない?」

わけがわからないまま、俺はそう聞いた。

「いざとなったら できないんじゃないかって、そう疑ってるの?」


472 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:47:51.01 ID:tUla2ho3.net
「疑ってなんかない」「信じてる」「信じてるからこそ、言ってるの」

レイは言った。それから、彼女らしくもなく、言葉を翻した。

「いいえ」「そうじゃなくて」「あなたは間違ってる」「だから、やめて欲しいの」


「間違ってる?」

計画を根本的に否定され、俺はさらに混乱した。間違ってるってどういうことだよ?

そもそも、Aを殺せって言ったのは、ほかならぬレイだろ??


473 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:54:54.57 ID:tUla2ho3.net
「ちゃんと説明してくれよ。じゃないとわからない」

俺は懸命にキーボードを叩いた。

このときばかりは、レイが画面の向こうにいることがうっとうしくて仕方がなかった。

だって口で言った方が遙かに早くて楽なことも、キーボードじゃ もたついて、うまく伝わらない。

「俺の命と、Aの命、どっちが消えるのが正しいかって、君は初め、そう言っただろ」

〈あなたには生きる価値がある〉

レイはそう言ってくれた。その言葉を土台に、俺はここまで立ち上がれたんだ。

いまさら、その土台が崩れ落ちるなんて、想像もしたくない。




474 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 04:59:55.87 ID:tUla2ho3.net
「言ったわ・・・・・・」

レイはそう認めた。

けど、それはあんまりにも彼女らしくない、弱々しい言葉だった。

「けど、それは そういうつもりで言ったんじゃないの」

「そういうつもりじゃない?」

それはあまりに理不尽で無責任な台詞だった。現実なら、俺は叫んでいただろう、そんな勢いで俺はキーを叩いた。

「じゃ、どういうつもりだったっていうんだよ!!!!」


475 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 05:13:33.11 ID:tUla2ho3.net
ガシャン、勢いよく手を上げた勢いで、生姜焼きの皿が吹っ飛んだ。茶色い色をした汁が そこらに飛び散った。

「なんなんだよ!!!」

俺は思わずリアルに叫び、パソコンをティッシュで乱暴に拭いた。腕や足についた汁も拭った。その延長で床も拭って・・・・・・

同じく汁に染まった紙切れに目を止めた。それは またしても、新聞記事の切り抜きだった。親がわざわざ切り抜いて、当てつけのように皿の下にでも置いたんだろう。

苛立っていた俺は八つ当たりをするように、それをぐちゃぐちゃに丸めかけて・・・・・・

・・・・・・ふと、その手を止め、シワになったそれを伸ばした。切り抜きに並んだ小見出し。

その文字が俺を引きつけたのだ。


477 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 10:57:37.19 ID:tUla2ho3.net
「私の言葉を思い出して欲しい」

「私が求めていたのは、あなたの〈答え〉」

「あなたがこれからどう在りたいのか」

「私はそう聞いたはず」


画面の中のレイが、俺に語りかけていた。

俺は ぐちゃぐちゃになった切り抜きを、しばし惚けたように見つめ、それから、ゆっくりとキーを叩いた。

「俺はAを殺したい。それが〈答え〉だ」

いろいろな感情が渦を巻き、本当は自分が何を考えているのか、あまりよくわかっていなかった。

「Aを殺す。もう決めたんだ」


478 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:13:33.51 ID:tUla2ho3.net
「違う」「あなたはまだ〈答え〉を出していない」


レイの答えは、いままでと同じくらい早かった。

けれど、その無感情な台詞は、いままでにないくらいの悲壮感をまとっていた。


「あなたは その憎しみを糧に外へ出た。出ることができた。

努力をした。計画を立て、目標に進むことを知った。

素直に現実を見て、行動を積み重ねた。

あなたはもう――」


「もう、何だよ?」

たたきつけるように俺はエンターキーを押した。レイの言葉が、俺の言葉でぶつ切りになった。


479 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:14:15.91 ID:tUla2ho3.net
「あなたはもう――」

それでも、レイは続けた。

振り絞るように、声を上げた。




480 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:22:31.94 ID:tUla2ho3.net
きっと本来なら、その言葉は俺たち二人にとって祝福になるはずだった。

幸せな門出の言葉として、笑顔で言いあうべきものだった。

もしも、場面が違ったら。

俺とレイが、言い争いにならなかったら。

きっと、そうなっていただろう。

けど、現実はそうならなかった。

だから。


その言葉を口にしたレイは、まるで涙でしおれた花だった。

「あなたはもう、一人で立ち上がることができたのよ」

「おめでとう」

「あとは〈答え〉を見つけるだけ」

「あなたの〈生きる目的〉を」


481 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:27:55.00 ID:tUla2ho3.net
「どういうことだよ・・・・・・」

レイの冷たい涙の雨が直接心に入り込んだかのように、すうっと胸が冷たくなった。

「俺が、もう一人で立ち上があることができた?」

「何言ってんだよ、俺はまだ あいつを殺してない」

「あいつを殺さなきゃ、俺は立ち上がることなんかできない!」

「俺の命か、あいつの命か。どっちかをこの世から消さなきゃならないんだ!」


そうなのに。絶対にそうしなきゃならないのに。

どうして、どうしてなんだ。

どうしてレイはそんなことを言うんだ。


482 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:36:32.67 ID:tUla2ho3.net
「Aの命を奪う必要は、もうない。

あなたも、それに気づいているはず。

あなたは あなたの人生を生きて――」


「違う。Aを殺さないと、俺は生きていられないんだ!Aを殺す、Aを殺すために俺は!」


「違うわ!」

レイが叫んだ。初めてのことだった。

「違う」

気圧された俺の隙を突いて、レイは続けた。

「計画は、あなたが立ち上がるために必要だっただけ。

弱ってしまった身体で立ち上がるために、必要な杖であっただけ。

「でも、足元を見て。

あなたは もう杖なしで立ってる。

もうそれは必要ないものなのよ!」


483 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:38:58.92 ID:tUla2ho3.net
「違う違う違う違う!!!!!」

俺は思いきり叫んだ。

「この計画は そんなもんじゃない!俺はAを殺したいんだ。あいつを殺すためだけに、いままで努力してきたんだ!」

「これは杖なんかじゃない!俺が生きるために必要な手順なんだ!!!」


484 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:46:48.96 ID:tUla2ho3.net
「必要な手順?そんなはずないでしょう!」

レイは またしても叫んだ。

もはや いつものレイはどこへ行ってしまったのか、俺にはわからなかった。


「じゃあ、聞くけど、あなたがAを殺したとする。

あなたの世界には、いっとき平和が戻る。

けど、そのあとは?」


「そのあと?」


「そうよ」

レイは少し落ち着きを取り戻したようだった。


「世界は いつまでも平和じゃない。必ず、あなたは また誰かと衝突することになる。二度とあなたがいじめられない保証もない。そのときは?」

「第二、第三のAが出てきたとき、あなたは どうするの?そのたびに あなたは〈必要な手続き〉として その人たちを殺すの?」

「あなたが歩く後に、屍を積み重ねていくの?」



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, 修羅場・人間関係, ためになる話, これはすごい, ためになる話, ちょっといい話,
 


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