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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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485 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:55:14.31 ID:tUla2ho3.net
「そんなこと わかるかよ!」

レイの言葉を、俺は撥ねつけた。

「そのときは そのときだよ!殺すかもしれないし、殺さないかもしれない。そんなの、誰にだってわかんないだろ!!!」

叫びながら、何か空恐ろしいことを言っている気がした。けど、そんなことは どうでもよかった。


486 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 11:58:51.01 ID:tUla2ho3.net
そう、そんなことは どうでもいい。

俺は一度 深呼吸をした。

俺が一人で立ち上がったんだとか、計画が俺にとっての杖だったんだとか、レイの祝福に聞こえない祝福の言葉だって、その全部が どうでもいい。

それより大事なことを、いま、俺は確かめなきゃいけない。

俺は汚れた切り抜きを横目で見た。

「それよりさ」「建前はいいから、本音を言えよ」「レイ」


487 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 13:30:13.98 ID:tUla2ho3.net
「本音?」

レイは戸惑ったように、けれど慎重に聞き返した。

当然だろう、そう俺は思った。ここは戸惑ったふりをするべきだ。

なぜなら、レイの考えなら、俺は何にも気づかないはずだからだ。

何も気づかず、おめでとう、レイの祝福をありがたがって受け取るはずだからだ。

けど、そうはいかない。

レイへの尊敬を無理矢理憎しみに変換しながら、俺はキーを叩いた。

そうしながら、心では まったく逆のことを思っていた。


俺の味方だと、俺を手伝いたいんだと、レイはそう言ってくれたはずなのに。

裏の意味を読む必要のない、真っ直ぐな言葉をくれたはずなのに。

どうしてなんだ、どうしてレイは いまになって嘘をつくんだ。




488 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 13:39:47.11 ID:tUla2ho3.net
「本音だよ、本音」

「本当に思ってること」

「いまさら隠さないでくれ」

「俺は全部知ってるんだから」

「知ってるって・・・・・何を?」


レイはやはり わからないふりをする。

しらを切り通すレイに絶望さえ感じながら、俺は切り抜きを見た。

相も変わらず、インターネットが青少年に与える影響を論じるその記事。

その記事には、こんな小見出しが踊っていた。

「続・インターネットの闇――絶えぬ少年への誘惑 殺人教唆で逮捕者も」


殺人教唆。

殺人を そそのかすことへの罪。

少年へ、殺人を そそのかすことへの・・・・・・


489 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 13:49:18.88 ID:tUla2ho3.net
「計画中止だなんて言い出したのは、これが理由だろ」

俺はできるだけ感情を抑えて言った。

「もし俺が失敗して、警察に捕まったら。

俺がしゃべらなくても、パソコンの履歴からレイの名前が出る。

あの〈証拠〉だってある。

だから・・・・・・君は怖くなったんだ」


レイを責める言葉は、俺自身を切り裂くような気がした。

それは まだ俺がレイを信じている証拠だった。信じたいと思ってる証拠だった。

けど、それはもう無理だった。無理だと思った。

だって、そのレイが俺を信じてくれてないんだから。


490 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 13:57:12.35 ID:tUla2ho3.net
「それは、違う」

しかし、レイは言った。

「そんなこと、考えたこともない」

「事実じゃない」

「嘘だ」

けど、俺も言い返した。

「俺のためとか、俺に必要だとか言って、本当は全部嘘だったんだ。レイは俺のことなんか、本当はこれっぽっちも考えてくれてなかったんだ!」

俺の目には、いつのまにか涙がにじんでいた。その涙を、俺は拭った。


491 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 14:07:01.11 ID:tUla2ho3.net
『俺のことなんか、これっぽっちも考えてくれてなかった』

口に出すと、文字にすると、事実は いとも簡単にその形を変えた。

レイは、俺と何時間もチャットをしてくれた。

レイは、俺の罵倒に耐えてくれた。

レイは、この部屋から出る方法を教えてくれた。

レイは、目標を達成する方法を教えてくれた。


それが記録のできる、客観的な事実であったはずなのに、それは全部吹き飛んで、あとに残ったのは「裏切り者のレイ」だけだった。

「裏切り者のレイ」は最低だった。

俺は自分で創り出したその幻影を見ていたくなくて、こう書き込んだ。




492 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 14:10:37.26 ID:tUla2ho3.net
「俺は、一人でも計画をやり遂げる」

「やってみせる」

「もし、捕まっても、君の名前は出さない」

「約束する」



「だめ」「お願い」

レイの言葉が間に挟まれたが、俺は それを無視した。

「警察が来たら、このパソコンを壊す」

「だから、安心して」

「俺は一人で計画を思いついて、一人でやり遂げた」

「そう言うよ」


493 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 14:16:17.09 ID:tUla2ho3.net
俺の台詞は、いちいち芝居がかっているように見えるだろう。

けど、それは許して欲しい。

あのとき、俺は精一杯だった。

自分を信じて理解してくれた人を突き放し、計画を実行する。

そんなのは、中学生じゃなくたって荷が重すぎる。


「計画は間違いよ」

「実行してしまったら、取り返しがつかない」

「あなたは もう自分の人生を生きることができる」

「それだけで いいじゃない」

レイの言葉が次々と画面に並んだが、それは どれも俺の心に響くことはなかった。

俺は時計を見上げた。


494 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 15:38:55.05 ID:tUla2ho3.net
午後11時半。

ちょうどいい時間だった。

「行ってくる」

そう書き込み、俺は少し画面を見つめた。

いってらっしゃい、そう言ってくれるレイを期待したのだ。

けど、どうやら俺の願いは叶わないようだった。


「〈答え〉を探して」

代わりにレイはそう言った。

だから、俺は手早く作業服に着替えた。手袋をして、カバンの中に千枚通しとナイフを忍ばせる。

そんなに俺を止めたいなら、ここに来れば良い。不遜にも、そんなことを思いながら。


499 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:00:39.89 ID:XaM2as0z.net
画面の中で、レイは懲りずに言葉を発し続けていた。

でも、それは俺のためじゃなくて、レイ自身の保身のためだ、そう思うと吐き気がした。

「消えろ」

出かけようとした俺は、やっぱりカタカタ音を立てるパソコンが気になって、手早く そう書き込んだ。

「俺の邪魔をするな」

スクロールは、ぴたりと止んだ。

レイは黙った。

俺は部屋を出た。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, 修羅場・人間関係, ためになる話, これはすごい, ためになる話, ちょっといい話,
 


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