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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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500 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:07:23.35 ID:XaM2as0z.net
本音を言えば、レイが気になった。

裏切り者だ、そう思ってレイをシャットダウンしたつもりでも、すぐに気持ちを切り替えられるわけがなかった。

人間は機械じゃない、当然だ。

けど、それでも俺は行かなきゃならなかった。

行って、Aを殺さなきゃならなかった。


〈なぜ?〉

〈あなたには もう その必要はないのに〉


頭にレイの声がよぎった。

さっきまでの感情的なレイとは違う、いつもの、冷静で無機質で、なんの感情も持たないような、俺が見てきたレイだった。


501 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:12:05.41 ID:XaM2as0z.net
〈なぜ?〉

冷淡な声を聞きながら、俺は窓から外に出た。

〈なぜなの?〉

暗い夜道を早足で歩いた。


〈なぜ、あなたは行くの?〉

公園の明かりを見た。


〈なぜ? ねえ、なぜなの?〉

そのまま公園には向かわずに、塾の通りに足を向けた。


502 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:25:29.30 ID:XaM2as0z.net
煌々と明かりのついた4階建てのビルの2階。そこがAの通う塾だった。

1階の駐輪場には、たくさんの自転車が止まっていて、俺はそれを横目に、少しゆっくりと歩いた。

〈なぜ?〉

今日は水曜日で、Aはいないはずの日だった。

だから、俺は予行演習のつもりでカバンから千枚通しを取り出し、パンクさせるふりをしようとした。

〈なぜなの?〉

努めて声を聞こうとせず、千枚通しの握りをつかむ。適当なタイヤに刺すふりをする。

〈ねえ、なぜ――〉

と、その手が止まった。




503 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:31:04.52 ID:XaM2as0z.net
俺は千枚通しを持った手を引いた。

けど、〈なぜ〉、そう問い続ける声に耳を傾けたわけじゃなかった。

俺の目は一点を凝視していた。

確かめるように、何度も瞬きをした。

けど、それは見間違いなんかじゃなかった。

そこに止まっていたのは、Aの自転車だった。


504 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:38:44.18 ID:XaM2as0z.net
その瞬間、アドレナリンが噴出した。

静けさの中に俺の鼓動が響き、汗がどっと噴き出した。

狙うべきAの自転車のタイヤだけが大きく見え、そのほかのものは小さく縮んだ。

あのタイヤをパンクさせるあのタイヤをパンクさせるあのタイヤをパンクさせる

あのタイヤをパンクあのタイヤをパンクさせあのタイヤをパンクさせる――

頭がそれだけに集中し、レイの声は聞こえなくなった。


俺は千枚通しの先を、Aのタイヤに刺した。


505 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:41:22.62 ID:XaM2as0z.net
力が入りすぎていたせいか、家で実験したときよりも手応えは軽かった。

パンクしたか?

したのか??

俺はわからないまま、そこを通り過ぎた。振り返ってみたかったが、そこは我慢した。

けど、結局堪えきれず、曲がり角で振り返った。当然だが、パンクしたかどうかは よくわからなかった。


506 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:48:20.39 ID:XaM2as0z.net
どうする?ちゃんとパンクしたか、確かめるか??

俺は迷った。

もう一回同じ通りを通ったら怪しまれるだろうか?いや、誰にも見られなかったんだから、大丈夫か??

俺は散々迷った挙げ句、、、、、

結局もう一度、それを確かめに戻った。


通り過ぎざまに素早くタイヤを触ると、ぐにゃりとした感触が伝わってきた。

やった!!!!

俺は心の中でガッツポーズをした。


507 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:52:47.66 ID:XaM2as0z.net
よし、よし、よし、よし!!!

計画の第一段階をクリアした俺は ほっとした。よし、これで次はAを・・・・・・


〈なぜ?〉

気が緩んだせいか、レイの声が頭に戻った。

勝利に水を差された気分になり、俺は いらっとした。




508 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 04:00:09.11 ID:XaM2as0z.net
〈なぜ?〉

けど、頭の中の声が空気を読むことはなかった。


〈なぜ、あなたはAを殺さなければならないの?〉

もう、うるさいな。

俺は心の中でつぶやきながら、身を潜める予定のゴミ捨て場に向かった。

〈なぜ? 教えて〉

うるさいな。そんなもん決まってるだろ。

〈わからない〉

〈どうして?〉

どうしてもこうしてもないだろ、だってさあ・・・・・・

〈どうして?〉

〈あなたはもう、その必要がないのに〉

必要はあるよ。

〈なぜ?〉

なぜって、だって・・・・・・

〈なぜ?〉

なぜって・・・・・・


509 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 04:08:15.97 ID:XaM2as0z.net
しつこい声にいらいらしながら、俺はゴミ捨て場の横に座り込んだ。

ここでAを待ち、あとは この包丁で・・・・・・


カバンを開けると、まだ箱に入ったままの新品の包丁が銀色に光った。

俺はそのプラスチックの包装を解くと、素手でその柄を握った。

白木の柄は思ったよりも しっくり手に馴染んで、俺はこのまま、手袋をせずにAを刺そうと思った。

指紋だのなんだの、そんなことは もうどうでもいい。そのほうが うまくいくような気がしたからだ。


510 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 04:15:02.74 ID:XaM2as0z.net
俺は包丁をカバンに戻すと、体育座りでAが来るのを待った。

Aが引いてくるだろう、自転車の音に耳を澄ませた。

その瞬間までは、三十分くらいだと思われた。それまで身動きせずにいようと思った。

けど、背中をつけたコンクリの塀が冷たくて、俺はすぐに身体を前に傾けた。


511 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 04:23:22.56 ID:XaM2as0z.net
長かったな。

俺はAを待つ間、感慨深く考えた。

ここまで来るまで、大変だった。

部屋を出て、Aを見つけて、観察をして、計画を練って、筋トレまでして・・・・・・

こんなに ちゃんと努力したのは初めてだ。

俺は ため息に似た息をついた。

勉強だって、運動だって、俺は努力をしたことがなかった。

いや、そのときは努力したって思ってたけど、いま思えば、あんなの全然努力じゃない。

中間テストの範囲を書き出し、復習の予定を立てる、それだけで満足して何もやらない、結果、テストはぼろぼろ。

・・・・・・なんて当たり前だったしなあ。。。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, 修羅場・人間関係, ためになる話, これはすごい, ためになる話, ちょっといい話,
 


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