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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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491 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 14:07:01.11 ID:tUla2ho3.net
『俺のことなんか、これっぽっちも考えてくれてなかった』

口に出すと、文字にすると、事実は いとも簡単にその形を変えた。

レイは、俺と何時間もチャットをしてくれた。

レイは、俺の罵倒に耐えてくれた。

レイは、この部屋から出る方法を教えてくれた。

レイは、目標を達成する方法を教えてくれた。


それが記録のできる、客観的な事実であったはずなのに、それは全部吹き飛んで、あとに残ったのは「裏切り者のレイ」だけだった。

「裏切り者のレイ」は最低だった。

俺は自分で創り出したその幻影を見ていたくなくて、こう書き込んだ。



492 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 14:10:37.26 ID:tUla2ho3.net
「俺は、一人でも計画をやり遂げる」

「やってみせる」

「もし、捕まっても、君の名前は出さない」

「約束する」



「だめ」「お願い」

レイの言葉が間に挟まれたが、俺は それを無視した。

「警察が来たら、このパソコンを壊す」

「だから、安心して」

「俺は一人で計画を思いついて、一人でやり遂げた」

「そう言うよ」



493 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 14:16:17.09 ID:tUla2ho3.net
俺の台詞は、いちいち芝居がかっているように見えるだろう。

けど、それは許して欲しい。

あのとき、俺は精一杯だった。

自分を信じて理解してくれた人を突き放し、計画を実行する。

そんなのは、中学生じゃなくたって荷が重すぎる。


「計画は間違いよ」

「実行してしまったら、取り返しがつかない」

「あなたは もう自分の人生を生きることができる」

「それだけで いいじゃない」

レイの言葉が次々と画面に並んだが、それは どれも俺の心に響くことはなかった。

俺は時計を見上げた。




494 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/16(水) 15:38:55.05 ID:tUla2ho3.net
午後11時半。

ちょうどいい時間だった。

「行ってくる」

そう書き込み、俺は少し画面を見つめた。

いってらっしゃい、そう言ってくれるレイを期待したのだ。

けど、どうやら俺の願いは叶わないようだった。


「〈答え〉を探して」

代わりにレイはそう言った。

だから、俺は手早く作業服に着替えた。手袋をして、カバンの中に千枚通しとナイフを忍ばせる。

そんなに俺を止めたいなら、ここに来れば良い。不遜にも、そんなことを思いながら。



499 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:00:39.89 ID:XaM2as0z.net
画面の中で、レイは懲りずに言葉を発し続けていた。

でも、それは俺のためじゃなくて、レイ自身の保身のためだ、そう思うと吐き気がした。

「消えろ」

出かけようとした俺は、やっぱりカタカタ音を立てるパソコンが気になって、手早く そう書き込んだ。

「俺の邪魔をするな」

スクロールは、ぴたりと止んだ。

レイは黙った。

俺は部屋を出た。



500 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:07:23.35 ID:XaM2as0z.net
本音を言えば、レイが気になった。

裏切り者だ、そう思ってレイをシャットダウンしたつもりでも、すぐに気持ちを切り替えられるわけがなかった。

人間は機械じゃない、当然だ。

けど、それでも俺は行かなきゃならなかった。

行って、Aを殺さなきゃならなかった。


〈なぜ?〉

〈あなたには もう その必要はないのに〉


頭にレイの声がよぎった。

さっきまでの感情的なレイとは違う、いつもの、冷静で無機質で、なんの感情も持たないような、俺が見てきたレイだった。



501 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:12:05.41 ID:XaM2as0z.net
〈なぜ?〉

冷淡な声を聞きながら、俺は窓から外に出た。

〈なぜなの?〉

暗い夜道を早足で歩いた。


〈なぜ、あなたは行くの?〉

公園の明かりを見た。


〈なぜ? ねえ、なぜなの?〉

そのまま公園には向かわずに、塾の通りに足を向けた。




502 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:25:29.30 ID:XaM2as0z.net
煌々と明かりのついた4階建てのビルの2階。そこがAの通う塾だった。

1階の駐輪場には、たくさんの自転車が止まっていて、俺はそれを横目に、少しゆっくりと歩いた。

〈なぜ?〉

今日は水曜日で、Aはいないはずの日だった。

だから、俺は予行演習のつもりでカバンから千枚通しを取り出し、パンクさせるふりをしようとした。

〈なぜなの?〉

努めて声を聞こうとせず、千枚通しの握りをつかむ。適当なタイヤに刺すふりをする。

〈ねえ、なぜ――〉

と、その手が止まった。



503 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:31:04.52 ID:XaM2as0z.net
俺は千枚通しを持った手を引いた。

けど、〈なぜ〉、そう問い続ける声に耳を傾けたわけじゃなかった。

俺の目は一点を凝視していた。

確かめるように、何度も瞬きをした。

けど、それは見間違いなんかじゃなかった。

そこに止まっていたのは、Aの自転車だった。



504 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:38:44.18 ID:XaM2as0z.net
その瞬間、アドレナリンが噴出した。

静けさの中に俺の鼓動が響き、汗がどっと噴き出した。

狙うべきAの自転車のタイヤだけが大きく見え、そのほかのものは小さく縮んだ。

あのタイヤをパンクさせるあのタイヤをパンクさせるあのタイヤをパンクさせる

あのタイヤをパンクあのタイヤをパンクさせあのタイヤをパンクさせる――

頭がそれだけに集中し、レイの声は聞こえなくなった。


俺は千枚通しの先を、Aのタイヤに刺した。



505 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 03:41:22.62 ID:XaM2as0z.net
力が入りすぎていたせいか、家で実験したときよりも手応えは軽かった。

パンクしたか?

したのか??

俺はわからないまま、そこを通り過ぎた。振り返ってみたかったが、そこは我慢した。

けど、結局堪えきれず、曲がり角で振り返った。当然だが、パンクしたかどうかは よくわからなかった。




>>次のページへ続く
 
 


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