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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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512 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 04:32:14.14 ID:XaM2as0z.net
それが、いまやちゃんと計画を立てて、〈努力の可視化〉を続けてる。

学校のノートとは桁違いに、黒く埋まった記録ノートを、俺は思い浮かべた。

あれが努力だ。

間違いない、努力だ。

一つずつは小さくても、〈現実〉を変え、俺を変えてくれた。

俺は変わったんだ。変われたんだ。

〈おめでとう〉

さっきのレイの言葉が、やっと俺の心に染みこんだ。

〈あなたはもう、一人で立ち上がることができたのよ〉

〈おめでとう〉


513 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 04:34:49.39 ID:XaM2as0z.net
ありがとう。

俺は その祝福を素直に受け入れた。

ありがとう、全部レイのおかげだ。

レイがいなかったら、俺は何もできないままだった。

だから、ありがとう。


514 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 04:39:28.42 ID:XaM2as0z.net
〈さあ、そこから立ち上がって〉

レイは少し優しい調子で言った。


〈あなたはもう大丈夫〉

〈そこから立って、歩き出して〉

〈あなたの〈答え〉を探して〉

〈幸せになって〉

そのとき白い光が差して、俺は本当にレイがここに現れたのかと思った。

天使のように微笑むレイが、綺麗な白い光を その身にまとって。


けど、それは違った。

向こうの角を、一台のバイクが曲がっていっただけだった。




515 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 04:48:33.89 ID:XaM2as0z.net
「ありがとう」

「でも・・・・・・俺は、行けない」

バイクの音が遠ざかるのを聞きながら、俺は小さくつぶやいた。

本当に小さく、それは自分の耳にも聞こえないくらい微かな声だった。

「俺は、Aを殺さなきゃ」

〈どうしてなの?〉

レイもつぶやいた。


「どうしても」

俺は答えた。

「Aを殺さなきゃ、俺は前に進めないんだ」


516 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 04:55:24.57 ID:XaM2as0z.net
〈そんなことない〉

〈あなたは もう大丈夫〉

〈Aなんかのために、手を汚す必要はない〉


「違う」

「大丈夫とか、そういう問題じゃないんだ」

俺は自分で自分を抱きしめるように、腕に力を入れた。

そのときには、もうどうして自分がこんなにもAを殺すことに固執しているのか、その理由を理解していた。

「ここで逃げたら、俺はまた同じになる」

俺はつぶやいた。

「Aから逃げて、学校から逃げて、部屋にこもって、いままでと何にも変わらなくなっちまうんだ」

それが、俺が計画通りにAを殺そうとしている、たった一つの理由だった。


517 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 05:08:11.23 ID:XaM2as0z.net
「だから・・・・・・」

続けて そうつぶやこうとしたときだった。

誰かが自転車を引く、カラカラという音が聞こえた。

同時に、急ぐでもない足音。

Aだ。


ゴミ捨て場の隙間から、俺はそっちの方向を覗き見た。間違いなく、俺がパンクさせた自転車を引く人影が、こちらに向かっている。

ついに、来た。

早くも震え始めた手で、俺はカバンを探った。手探りで、包丁を握る。

俺がそこに潜んでいることも知らず、Aがゴミ捨て場に差しかかる。

そして、俺の前を通り過ぎた瞬間、俺は後ろ手に包丁を隠して立ち上がり、Aの名を呼んだ――。


519 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:19:36.37 ID:XaM2as0z.net
「――A」

俺は彼の名を呼んだ。

・・・・・・その声に、Aは驚き、振り向くだろう。

その一瞬の隙を、俺は突く。


両手で包丁をしっかりと握りしめ、思い切りAめがけて突っ込む。

Aの体内深くまで切っ先が達するように、とにかく何も考えずに突進する。


それが、終わりのときだ。

俺と、Aの決着がつくときだ。




520 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:22:45.40 ID:XaM2as0z.net
俺は人影に向かって その名を呼んだ。

声は掠れて奇妙だったが、それでも計画通りに彼を振り向かせるには十分だった。


Aは振り向いた。

俺は突進しようと構えた。

やっと終わる。

そう思った。



そのときだった。


521 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:30:25.71 ID:XaM2as0z.net
「え?」

振り向いたAが、驚いたような声を発して・・・・・・

・・・・・・その声を聞いた俺も、反射的にあとずさった。


怖くなったわけじゃない。

決意を固めてきたんだ。

土壇場でビビるなんて、そんなことするはずがない。


ただ・・・・・・予想外の出来事に、俺は背中で包丁を握ったまま、固まった。


522 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:38:23.19 ID:XaM2as0z.net
なぜなら、俺の耳に聞こえたのは、女の声だった。

驚いて思わず正面から見上げた顔も、背が高く、髪こそ短いが、Aに似ても似つかぬ女の顔だった。

と、暗闇の俺を認めた女の顔が、変なものを見るようにしかめられた。

「あ・・・・・・」

俺は よろめくように後ずさった。

Aと俺との決着の場所、そこに第三者が現れたことに、頭の中はパニックを起こしていた。


だれだ? これはだれだ?

いや、けど、これはAじゃない、Aじゃない女だ。

女? なんで女がこんなところに?

どうしてAの自転車を、俺がパンクさせた自転車を引いてるんだ・・・・・・????


523 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:47:19.34 ID:XaM2as0z.net
「誰なの?」

強気な女の声が、俺をさらなるパニックへ導いた。

「Aの友達?」

女は言った。


こいつもAの知り合いか??

なら、計画を邪魔するこいつも殺して・・・・・・・


一瞬、俺はそう思った。

けど、そのときには、殺意なんて もうすっかり萎えて、欠片も残っていなかった。


「あ、いや、いえ、あ・・・・・・・」

俺はバカみたいに口をぱくぱく動かしながら、言葉にならない声を漏らした。

自分が何をするべきなのか、俺にはもうわからなかった。


俺は、そこから逃げ出した。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, 修羅場・人間関係, ためになる話, これはすごい, ためになる話, ちょっといい話,
 


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