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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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524 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:52:27.37 ID:XaM2as0z.net
どこをどう走っているのかわからないほど、俺は闇雲に夜の町を駆け抜けた。

なんで、なんでだ、なんでだ、なんでなんだ!!!!

声にならない声で叫び、垂れてきた鼻水を手の甲で拭った。

その拍子に、まだ俺の右手が包丁を握ってることに気づいたけれど、そんなことも構わずに、俺は走った。とにかく走った。


525 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:58:46.31 ID:XaM2as0z.net
こんなにも苦しくて辛いのに、俺の足音は やけに軽快で、鼻水垂らした俺の顔を、オレンジ色の街灯が容赦なく照らし出した。

もうこのまま死んでしまえ!!!!

俺は自分自身に向かって叫んだ。

お前みたいな何もできないクズは、クソみたいに死んじまえ!!!!

その右手の包丁を腹にぶっ刺して、頸動脈を切り裂いて、血まみれになって死んじまえ!!!

死ね、死ね、死ね、死ね、こんなクソ野郎は死んじまえ!!!!!!


526 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:07:16.02 ID:XaM2as0z.net
どれくらい走ったのか、とうとう俺の足は止まった。

これ以上は無理だと心臓が悲鳴を上げていて、ひっきりなしに垂れてくる鼻水のせいで ろくに呼吸もできなかった。

俺は その場に座り込んだ。

そして、やっぱり包丁を握ったまま、頭を抱えて泣いた。

漏れる嗚咽を押し殺して、泣いた。

バカみたいに泣きじゃくった。


こんなことしてたら誰かに・・・・もしかしたら警察に気づかれるかもしれない、そう思った。

でも、それなら それでいいと思った。

むしろ、誰かに気づいて欲しいとさえ思った。

俺はこんなに辛いんだってことを。

不幸で、可哀想で、憐れまれるべき俺が、ここにいるんだってことを。




527 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:15:09.11 ID:XaM2as0z.net
俺はしばらく そうしていた。そんな人間の出現を待っていた。

『本当にあなたは可哀想だ、こんなに不幸な人間はほかにはいない』

そう言って、俺の頭をなで、抱きしめてくれる人を、その辛い境遇のせいで時に暴言を吐く俺を許し、暴れる俺をなだめ、甘やかし、どんなときも傍にいて、俺を幸せにしてくれる人を。

俺は待った。

待ち続けた。


528 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:19:27.42 ID:XaM2as0z.net
いつのまにか星は消え、空は白み始めていた。

それでも俺は待っていた。

その待ち人が来なければ、俺は一生このまま座り込んでいるんだと思った。

だって、俺は もう動けない。

一人の力じゃ、立ち上がれない。

誰かが俺を助けてくれなきゃ、俺はここから動けないんだ。


529 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:26:39.03 ID:XaM2as0z.net
けど、それは嘘だった。

どこからか誰かの足音がし、俺ははっと包丁を隠して立ち上がった。

犬を連れたじいさんが、突然立ち上がった俺に驚いたように、びくっとした。

俺はできるだけ顔を伏せ、その場から足早に立ち去った。

馬鹿みたいだ、俺はそう思い、同じ台詞をリアルに口でつぶやいた。

「・・・・・・馬鹿みたいだな、俺」


530 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:33:21.26 ID:XaM2as0z.net
俺は、自分が座り込んでいた土手の斜面を振り返った。

そこでは、じいさんの連れた犬が、俺の座ってた場所にションベンをかけていて、俺はもう一度、「馬鹿みたいだ」とつぶやいた。


それから、どうしてだか忘れたが、俺も犬が欲しいと思ったことを思い出した。

でも、犬はウンコもションベンもするのか、俺はそう思って、けど俺もするからな、と思った。

そして、三度目の「馬鹿みたいだな」」をつぶやいた。


531 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:38:15.22 ID:XaM2as0z.net
俺は犬を見るのをやめて、歩き出した。

歩きながら、どうして俺は歩いてるんだろうと思った。

鳥がさえずってるような平穏な朝を、それに似合わない黒ずくめの作業服を着て、カバンに包丁を隠し持ったまま、どうして俺は歩いてるんだろう。

計画をやり通せなかったっていうのに、Aは まだ生きてるっていうのに、どうして。


532 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:46:55.92 ID:XaM2as0z.net
空はいよいよ明るく、まぶしく、俺の姿を露わにした。

地球ノ朝デス、目覚ましの音声を俺はつぶやいた。

俺が失ってしまった朝。

新しい一日の始まる時間。

朝日に思わず目を細めて、俺は気がついた。

・・・・・・Aを殺さなければ、俺の世界に朝は来ない。

俺はずっと そう信じ込んでいたんだってことを。




533 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:52:12.97 ID:XaM2as0z.net
けど、それも嘘だった。

俺は立ち止まり、もう一度、土手を振り返った。

さっきまで俺は、あの土手に座り込んでいた。

助けてくれる誰かを、待ち望んでいた。

そうしないと立ち上がれないと思っていた。

でも、それは嘘だった。


534 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:56:07.56 ID:XaM2as0z.net
犬とじいさんが来たら、俺はさっさと立ち上がった。

誰の助けも必要とはせずに、歩き出した。


歩き出したら、朝が来た。

Aはまだ生きてるっていうのに、朝日は俺を照らし出した。


俺の思うことは、全部嘘だった。

それは全部、俺の思い込みだった。


535 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 12:02:27.41 ID:XaM2as0z.net
〈あなたはもう、自分の力で立ち上がることができた〉

昨日のレイの言葉が蘇った。

〈だから、大丈夫〉

〈あなたは〈答え〉を探す準備ができた〉

〈だから、あとは探すだけ〉

〈ねえ〉

〈あなたは、どう在りたいの?〉


536 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 12:07:43.04 ID:XaM2as0z.net
「俺は・・・・・・」

自分の中に〈答え〉を探し、俺は思いを巡らせた。

どう在りたいのか。

どう生きていきたいのか。

どこの高校を受験したいとか、どこの大学に行きたいとか、就職するだとか、夢を追いかけるだとか、そういうことじゃない、俺の生き方。


537 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 12:11:38.89 ID:XaM2as0z.net
俺は考えた。

ない知識を振り絞った。

けど、〈答え〉なんて見つからなかった。

どうやったら見つかるのかさえ わからなかった。


俺は安易に考えた。

家に帰って、レイに謝ろう。

そして、どうしたらいいか教えてもらおう。

一緒に考えてもらおう。


538 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 12:23:10.24 ID:XaM2as0z.net
家に着くと、俺は いつもの窓から内側を覗いた。

時計を見ると、時間はちょうど六時だった。けど、リビングに親は見当たらない。

まだ起きてないのかな、俺は思って、窓を開け、中に忍び込んだ。

「きゃっ!」

すると、ちょうどトイレから出てきた母親と鉢合わせた。

「・・・・・・って、あんた、何して・・・・・・何その格好・・・・・・」

「・・・・・・おはよう」

俺は とっさに小さく言うと、幽霊を見たみたいに青ざめた母親の横を通り抜けた。

脱兎のごとく、自分の部屋に駆け込む。

そうして、ほっと胸をなで下ろしてから、何だかおかしくて少し笑った。

だって、泥棒みたいに朝帰りする俺と、それ見て、年甲斐もなく「きゃっ」と悲鳴を上げる母親だぞ。

いま思い出しても、ふふってなる。。。



>>次のページへ続く
 
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