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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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517 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 05:08:11.23 ID:XaM2as0z.net
「だから・・・・・・」

続けて そうつぶやこうとしたときだった。

誰かが自転車を引く、カラカラという音が聞こえた。

同時に、急ぐでもない足音。

Aだ。


ゴミ捨て場の隙間から、俺はそっちの方向を覗き見た。間違いなく、俺がパンクさせた自転車を引く人影が、こちらに向かっている。

ついに、来た。

早くも震え始めた手で、俺はカバンを探った。手探りで、包丁を握る。

俺がそこに潜んでいることも知らず、Aがゴミ捨て場に差しかかる。

そして、俺の前を通り過ぎた瞬間、俺は後ろ手に包丁を隠して立ち上がり、Aの名を呼んだ――。



519 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:19:36.37 ID:XaM2as0z.net
「――A」

俺は彼の名を呼んだ。

・・・・・・その声に、Aは驚き、振り向くだろう。

その一瞬の隙を、俺は突く。


両手で包丁をしっかりと握りしめ、思い切りAめがけて突っ込む。

Aの体内深くまで切っ先が達するように、とにかく何も考えずに突進する。


それが、終わりのときだ。

俺と、Aの決着がつくときだ。



520 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:22:45.40 ID:XaM2as0z.net
俺は人影に向かって その名を呼んだ。

声は掠れて奇妙だったが、それでも計画通りに彼を振り向かせるには十分だった。


Aは振り向いた。

俺は突進しようと構えた。

やっと終わる。

そう思った。



そのときだった。




521 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:30:25.71 ID:XaM2as0z.net
「え?」

振り向いたAが、驚いたような声を発して・・・・・・

・・・・・・その声を聞いた俺も、反射的にあとずさった。


怖くなったわけじゃない。

決意を固めてきたんだ。

土壇場でビビるなんて、そんなことするはずがない。


ただ・・・・・・予想外の出来事に、俺は背中で包丁を握ったまま、固まった。



522 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:38:23.19 ID:XaM2as0z.net
なぜなら、俺の耳に聞こえたのは、女の声だった。

驚いて思わず正面から見上げた顔も、背が高く、髪こそ短いが、Aに似ても似つかぬ女の顔だった。

と、暗闇の俺を認めた女の顔が、変なものを見るようにしかめられた。

「あ・・・・・・」

俺は よろめくように後ずさった。

Aと俺との決着の場所、そこに第三者が現れたことに、頭の中はパニックを起こしていた。


だれだ? これはだれだ?

いや、けど、これはAじゃない、Aじゃない女だ。

女? なんで女がこんなところに?

どうしてAの自転車を、俺がパンクさせた自転車を引いてるんだ・・・・・・????



523 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:47:19.34 ID:XaM2as0z.net
「誰なの?」

強気な女の声が、俺をさらなるパニックへ導いた。

「Aの友達?」

女は言った。


こいつもAの知り合いか??

なら、計画を邪魔するこいつも殺して・・・・・・・


一瞬、俺はそう思った。

けど、そのときには、殺意なんて もうすっかり萎えて、欠片も残っていなかった。


「あ、いや、いえ、あ・・・・・・・」

俺はバカみたいに口をぱくぱく動かしながら、言葉にならない声を漏らした。

自分が何をするべきなのか、俺にはもうわからなかった。


俺は、そこから逃げ出した。



524 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:52:27.37 ID:XaM2as0z.net
どこをどう走っているのかわからないほど、俺は闇雲に夜の町を駆け抜けた。

なんで、なんでだ、なんでだ、なんでなんだ!!!!

声にならない声で叫び、垂れてきた鼻水を手の甲で拭った。

その拍子に、まだ俺の右手が包丁を握ってることに気づいたけれど、そんなことも構わずに、俺は走った。とにかく走った。



525 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 10:58:46.31 ID:XaM2as0z.net
こんなにも苦しくて辛いのに、俺の足音は やけに軽快で、鼻水垂らした俺の顔を、オレンジ色の街灯が容赦なく照らし出した。

もうこのまま死んでしまえ!!!!

俺は自分自身に向かって叫んだ。

お前みたいな何もできないクズは、クソみたいに死んじまえ!!!!

その右手の包丁を腹にぶっ刺して、頸動脈を切り裂いて、血まみれになって死んじまえ!!!

死ね、死ね、死ね、死ね、こんなクソ野郎は死んじまえ!!!!!!




526 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:07:16.02 ID:XaM2as0z.net
どれくらい走ったのか、とうとう俺の足は止まった。

これ以上は無理だと心臓が悲鳴を上げていて、ひっきりなしに垂れてくる鼻水のせいで ろくに呼吸もできなかった。

俺は その場に座り込んだ。

そして、やっぱり包丁を握ったまま、頭を抱えて泣いた。

漏れる嗚咽を押し殺して、泣いた。

バカみたいに泣きじゃくった。


こんなことしてたら誰かに・・・・もしかしたら警察に気づかれるかもしれない、そう思った。

でも、それなら それでいいと思った。

むしろ、誰かに気づいて欲しいとさえ思った。

俺はこんなに辛いんだってことを。

不幸で、可哀想で、憐れまれるべき俺が、ここにいるんだってことを。



527 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:15:09.11 ID:XaM2as0z.net
俺はしばらく そうしていた。そんな人間の出現を待っていた。

『本当にあなたは可哀想だ、こんなに不幸な人間はほかにはいない』

そう言って、俺の頭をなで、抱きしめてくれる人を、その辛い境遇のせいで時に暴言を吐く俺を許し、暴れる俺をなだめ、甘やかし、どんなときも傍にいて、俺を幸せにしてくれる人を。

俺は待った。

待ち続けた。



528 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:19:27.42 ID:XaM2as0z.net
いつのまにか星は消え、空は白み始めていた。

それでも俺は待っていた。

その待ち人が来なければ、俺は一生このまま座り込んでいるんだと思った。

だって、俺は もう動けない。

一人の力じゃ、立ち上がれない。

誰かが俺を助けてくれなきゃ、俺はここから動けないんだ。



529 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/17(木) 11:26:39.03 ID:XaM2as0z.net
けど、それは嘘だった。

どこからか誰かの足音がし、俺ははっと包丁を隠して立ち上がった。

犬を連れたじいさんが、突然立ち上がった俺に驚いたように、びくっとした。

俺はできるだけ顔を伏せ、その場から足早に立ち去った。

馬鹿みたいだ、俺はそう思い、同じ台詞をリアルに口でつぶやいた。

「・・・・・・馬鹿みたいだな、俺」




>>次のページへ続く
 
 


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