三十路の喪女に彼氏ができたときのお話
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158 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:02:07.34 ID:LZSY7jKs.net
「俺、家族とは仲が悪いって話、前にしたっけ?」
「うん?……疎遠になってるって聞いたよ」
突然始まった独白に、知らないふりをする後ろめたさがチクチクと。
「疎遠っていうか、ほぼ絶縁だね。昔から家族とは全然相性が合わなくて大人になってから、もう無理だと思って家を出たんだけどさ」
あ、そこはずいぶん豪快にはしょるんですね。
「やっぱり一応子どものころは、親に気に入られたくてさ。それで、いろいろやってはみたんだよ。
そのころの自分が、村人に取り入るために必死に尽くすあの女と重なったんだ」
私にはあの主人公、そんなふうには見えなかったけどなあ。
「だからたぶん感情移入しすぎたんだろうな。ラスト、女が村人を全滅させるシーンで、やめろ!って思ってさ。そんなことしたら帰れなくなるだろ!って…
まだそんな気持ちが自分の中に残ってたってのが、ちょっとね。自分でもびっくりするくらいショックだった」
159 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:02:34.60 ID:LZSY7jKs.net
ああ………。
自分から家族を見限ったつもりでいたのに、まだ帰りたがってる自分を見つけちゃった、ってことか。
Sさんが言ってたとおりだ。M君は無意識に、まだ親に認められたがってる。
自分から絶縁はしても、気持ちは まだ絶つことができていないんだ。
そしてそれは彼にとって、吐くほど拒絶したい気持ちだったってことだ。
「ごめん、喪子は家族と仲がいいから、こういう話は不愉快だろ?この歳で家族がどうのって…カッコ悪いの通り越して、みっともないよなw」
「そんなことないよ、話してくれてありがとう。でも…つらかったんだね、おうちのこと」
「まあ、全部俺が悪いんだけどね。俺の反発で あの人たちの家庭壊しちゃったんだから。俺がいなければ、もっと平和で幸せな家だったんだよ」
ああ、本当だ。O君が言ってたとおり、本当に全部自分が悪いってことになってるんだなあ…
その言葉は、まるでテンプレのようにスラスラと出てきた。たぶん、自分の中でずっと繰り返しているんだろう。
「俺、家族とは仲が悪いって話、前にしたっけ?」
「うん?……疎遠になってるって聞いたよ」
突然始まった独白に、知らないふりをする後ろめたさがチクチクと。
「疎遠っていうか、ほぼ絶縁だね。昔から家族とは全然相性が合わなくて大人になってから、もう無理だと思って家を出たんだけどさ」
あ、そこはずいぶん豪快にはしょるんですね。
「やっぱり一応子どものころは、親に気に入られたくてさ。それで、いろいろやってはみたんだよ。
そのころの自分が、村人に取り入るために必死に尽くすあの女と重なったんだ」
私にはあの主人公、そんなふうには見えなかったけどなあ。
「だからたぶん感情移入しすぎたんだろうな。ラスト、女が村人を全滅させるシーンで、やめろ!って思ってさ。そんなことしたら帰れなくなるだろ!って…
まだそんな気持ちが自分の中に残ってたってのが、ちょっとね。自分でもびっくりするくらいショックだった」
159 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:02:34.60 ID:LZSY7jKs.net
ああ………。
自分から家族を見限ったつもりでいたのに、まだ帰りたがってる自分を見つけちゃった、ってことか。
Sさんが言ってたとおりだ。M君は無意識に、まだ親に認められたがってる。
自分から絶縁はしても、気持ちは まだ絶つことができていないんだ。
そしてそれは彼にとって、吐くほど拒絶したい気持ちだったってことだ。
「ごめん、喪子は家族と仲がいいから、こういう話は不愉快だろ?この歳で家族がどうのって…カッコ悪いの通り越して、みっともないよなw」
「そんなことないよ、話してくれてありがとう。でも…つらかったんだね、おうちのこと」
「まあ、全部俺が悪いんだけどね。俺の反発で あの人たちの家庭壊しちゃったんだから。俺がいなければ、もっと平和で幸せな家だったんだよ」
ああ、本当だ。O君が言ってたとおり、本当に全部自分が悪いってことになってるんだなあ…
その言葉は、まるでテンプレのようにスラスラと出てきた。たぶん、自分の中でずっと繰り返しているんだろう。
160 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:03:06.97 ID:LZSY7jKs.net
「自業自得だよ。自分で自分の帰る場所をなくしたんだ。いまさら帰りたがっても、もう手遅れなんだよ」
自分に言い聞かせているような言葉が、なんだか虚しかった。
いまさらって。手遅れって。初めから、大人の都合で帰る場所を奪われてしまったんじゃないか。
「だから、こんな気持ちは なかったことにするしかないからさ。………うん、やっぱり話せてすっきりしたかな。聞いてくれてありがとう」
……………違うな。
せっかくM君が封印bオていた無意識bェはっきりと出bトきたのに ここで、そんな結論で、終わりにさせちゃいけない。
そんなだったら、私、何のためにO君ちに行ったのかわからなくなる。
でも私は、Sさんみたいに上手く説明はできないし、O君みたいにビシッとも言えない。
「………あのさ、私いま、M君をハグしてあげようと思ってるんだけどさ」
「うん?」
「私がこれからハグするのは、今のM君じゃなくて、子どものころのM君だからね?」
「………はい?」
161 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:03:40.34 ID:LZSY7jKs.net
怪訝な顔をしたM君を、構わずぎゅーっとした。
「は?え?なに?なんで突然?」
「あ〜あ、こんなに痩せちゃって、まあ…」
「おい」
「………お父さんやお母さんに気に入られたくて、頑張ったんだねえ」
「ああ、そういうプレイなんだw」
「でもどうにもならなくて、辛かったねえ…」
「え、俺は ばぶーとか言ってればいいのか?w」
「さっき、帰る場所がなくなるって思ったのは、そうやって頑張ってきたM君だよね?」
「いやちょっと…あのー喪子さん……?」
「今のまんまじゃ、辛いよねえ。諦めらんないよねえ」
「………………」
「その上、大人の自分にまでなかったことにされちゃったら、もっと報われないよねえ」
「………………はい、おしまい」
162 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:04:21.62 ID:LZSY7jKs.net
M君は私の体を押し離した。
「ちょっと大袈裟に話しすぎたかなー。別に、そんなに寂しい子ども時代だったわけじゃないよw 心配してくれたのは嬉しいけど今日のことは気にしないで、もう忘れてよw」
そうか。
彼はいつもこうやって、自分の子ども時代をなかったことにしてきたのか。
涙ぐむでも怒るでもなく、いつものにこやかな顔のままでさ。
だからそれだけなら、私の勘繰りかも、となるだろうけど。
でもさー、映画見て吐くほど心が葛藤するなんて事態は忘れてしまっていいはずはないよねえ。
メープルシロップの時と、この日と。
私はもう二回も、子ども時代のM君が消される現場に立ち合っている。
それなのに、私はあまりにも無力だった。
「人は人を変えることはできない」という言葉の意味を実感していた。
163 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:04:56.14 ID:LZSY7jKs.net
そんなこんなで、やがて問題の一年が過ぎようとしていた。
けれど、M君タイマーが発動される気配はちっともなくて周りからは呆れ気味に「夫婦漫才か」と言われるようなバカップル的な楽しい付き合いを相変わらず続けていた。
M君とは、モラハラを仕掛けられるどころか喧嘩すらしたことがなくて少なくとも私は、彼と一緒にいることで、不愉快な思いをしたことはなかった。
そんなふうに、私たちはとても仲が良いカップルだった。
だけど言ってしまえば、私たちは ただ仲が良いだけのカップルだった。
男女としての行為はもちろんあったし、私って大事にしてもらえてるなあ…と、キュンとすることもあった。
けれど私たちの関係には、決定的に欠けているものがあった。
164 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:05:20.81 ID:LZSY7jKs.net
それは、なんと言うか、「深み」とでも言うのかな?
M君は感情の中でも、喜怒哀楽の、怒と哀を一切表現しなかった。
イラッとしたり、ウルッとしたりってレベルですら、見たことがなかった。
なので、嬉しいとか楽しいばっかりじゃない部分で本音でぶつかりあったり、相手の苦悩を受けとめたりするような機会が私たちの間には全くなかったんだ。
負の感情をさらけ出すことを極端に避けるM君の生き癖は私たちを「仲良し」止まりで固定し、それ以上の関係になることを拒んでいた。
そのことは知らず知らずのうちに私を焦らせていたのかもしれない。
私は自分の手で、M君タイマーの針を進めてしまうことになった。
165 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:05:44.02 ID:LZSY7jKs.net
ある日、私は同僚の結婚式に出席した。
私、結婚式って大好きなんですよ。自分がどうのこうのではなくて、行事として好き。
綺麗な服着て美味しいもの食べてみんなが幸せそうにしてる、あの晴れやかさがいいのね。
その日のお式も、とても温かい雰囲気のもので数日後にM君と会ったとき、私はそのことを話した。
すっごくいいお式だった、私、結婚式大好き!みたいに。
無神経だったかな、とは思う。
M君は、ちょっと困ったような顔をした。
「……喪子は、結婚したいの?」
「えっ!?あっ、別にそういう意味で言ったわけじゃないから!」
いつもなら「ふうん、そっか」と引き下がるはずのM君が、この日は違った。
166 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:06:11.33 ID:LZSY7jKs.net
「いや、どうなの?結婚したいの、したくないの?」
私、馬鹿だよねえ。そう問われて、ドギマギしてたんだから。
「そりゃ、…興味はあるよ」
「俺、結婚願望ないんだよね」
間髪入れずに返された。はあ…、左様でござるか。
「まあ私も、どうしてもってわけじゃないからな〜」
「でも、したいと思ってるんでしょ?」
「うん、いつかはしてみたいね」
「ふうん、そっか」
やっとM君の「そっか」が出た、と思ったら。
「じゃあ、別れようか」
…………へっ!?
>>次のページへ続く
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