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三十路の喪女に彼氏ができたときのお話
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203 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:39:43.94 ID:LZSY7jKs.net
「あのー、俺さ」

「うん」

「俺さ、俺………えー…あのー………ね」


「うん?」

「あれなんだよ、ええと……そのー……俺さ」


「うん」

「えーーーーー」


「うーーーー?」

「…………………ああ…やっぱだめだ話せない…」


「話したくないなら無理しないでいいじゃんw」

「話したくないわけじゃない。わざわざ電話したんだし…ただ、頭ん中真っ白になっちゃって…なにも言葉が出てこない」



204 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:40:06.54 ID:LZSY7jKs.net
「じゃあさー、私が話してもいい?」


「どうぞ」

「たぶんいまM君は、私になにかを話しておかなきゃ!ってなってて、それで緊張しちゃってるんでしょ?

でも私、たぶんM君が思ってる以上に、M君のこといろいろ知ってると思う。

今さらだけど謝っとくね。黙っててごめんなさい」


「ん?どういうこと?」

「ずっと内緒にしてたけど、付き合ってたころね、私O君にM君のこと相談してたんだ」


「Oに?俺の?なにを?」

「一番は…M君のおうちのこと」

受話器の向こうが、一瞬だけ無音になった。





205 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:40:31.72 ID:LZSY7jKs.net
「………どうしてそんなことを?」


「M君が、ひょっとしたら子どものころ虐待受けてたんじゃないかな?と感じたから」

「あー……………なんだよ、それ…」

どういう意味なのか、絞り出すようにM君は言った。


「Oは なんだって?」

「養子のこととか、M君が家族と疎遠になった経緯とか、話してくれた」


「うん、そこらへんは あいつには話してあるから。そうじゃなくて、その、さっき喪子が言ったやつとか、そっち」


「ん?虐待のこと………??わからないけど、そうじゃないかと思ってるって」

「俺がそういうの受けてたって?」


「うん、たぶんって」

「俺、それはないから」



206 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:40:55.61 ID:LZSY7jKs.net
M君は、明らかに「虐待」という言葉を口に出すのを避けていて、このあとも「それ」とか「そんなこと」とか抽象的に言ってたんだけど

すんごいわかりにくいので、一応ちゃんと「虐待」って言葉で書いときます。


「そう…そうなんだ」

「そんなふうに見えた?」

「そんなふうって言うか…なんか私、M君に対していろんな違和感があってさ。

それで総合的に考えて、ひょっとしたらって思っただけ。違ってたのならごめん、変な勘繰りだったね」


「あの、俺いま、カウンセリング受けてるんだよ」


「えっ………!」

いきなりのカミングアウトに度肝をぬかれる私。


「さっき言いたかったのはそれ。ありがとう、言いやすくなった」


「ありがとう」とはほど遠い、強張った口調でM君は言った。



207 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:41:21.41 ID:LZSY7jKs.net
「俺さ、自覚ないんだよ。虐待とか言われても」


「んん…………?じゃあ、なんでカウンセリング受けようと思ったの? てか、なんのカウンセリング受けてるの?」


「ワーカホリックの」


ワーカホリックとは仕事依存症のこと。

表面的には「仕事を頑張ってる人」っていうプラスイメージがあるし アルコールやギャンブルの依存症とは、ちょっと性質が違うので本人も自覚しづらいし、周りからもわかりにくいやつ。

たしかに、以前のM君の働き方はそんな感じだった。M君、そこは自覚できたんだ…。




208 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:41:44.75 ID:LZSY7jKs.net
「そしたら、問題はワーカホリックなことじゃなくて どうしてワーカホリックになったかだ、と言われた。

たぶん、子どものころのことが影響してるんだろうって。

だけどさ、よくわからないんだよね。昔のことだし」


「記憶が曖昧になっちゃってるんだ?」


「うん。虐待された覚えもないから、別に問題ないと思ったんだ。

でも、"覚えがない"と"覚えてない"では、全然意味が違うって言われてさ。

俺は ちょっと忘れすぎらしくて…」


「忘れすぎって?何年のとき何組だったかとか?」


「あのー、そういうのじゃなくて………」


「じゃなくて?」



209 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:42:15.23 ID:LZSY7jKs.net
「小1のとき、自分が何組で担任が誰で出席番号が何番で誰と友だちで どんなことがあって…ていうのを、何も覚えてない」


「え?………遠足でどこ行った、とかは?」


「いや、そもそも、自分が小1だったことが思い出せないと言ったほうが早いかな。小1のだけじゃなくて、すっぽり記憶が抜けてるところが、ちょこまかあってさ」


「自分でおかしいなって思わなかったの?」


「単に俺が記憶力悪いだけだと思ってた。昔のことを忘れるのは当たり前のことだから」


確かにM君、「俺、忘れっぽいから」ってよく言ってた。解離性健忘という症状なんだそうだけど、このときの私は そんな言葉は知りませんでした。


「M君………はっきり言って、それは当たり前な忘れ方じゃないよ…」


「うん…」


「しかも、それを当たり前だと思っちゃってることが、なんて言うか……ごめん、私からすると、ものすごいヘンだ……」


「そっか…」



210 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:42:40.38 ID:LZSY7jKs.net
「でも、でもね、私いま、いきなり猛烈に納得できちゃったよ………!」


「え、何に?」


「私からすると ものすごいヘンなことでもM君は、それが当たり前な世界に住んでたんだね。

だったら、私がM君に違和感があるなんて、それこそ当たり前だったんだ…

だって私たち、住んでる世界が、見てる世界が、そもそも全然違うんだもん。

私、M君と付き合うってことは、M君と世界が同じじゃなきゃいけないんだと思ってた。

だけど そうじゃないから、もう付き合っていくことはできないんだって……


でも、それ違ったわ!人それぞれ、世界なんて違ってて当たり前だよね!

だって、M君はM君、私は私!それぞれがそれぞれに生きてるんだもん!

私、大切なことに気づけた気がする!ありがとうM君!

ねえ、よければ私ともう一度付き合ってください!!」


「はっ?えっ?」




>>次のページへ続く
 
カテゴリー:男女・恋愛  |  タグ:純愛, 相手の過去, メンタル, メンタル,
 


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