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134 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:06:20.61 ID:lhRyNcnF.net
「そんなの…… そんなのいくらだってありますよ。小さい頃からなりたかった。誰かに聴いて欲しかった。まだまだ、たくさんあります」
彼女は泣きながらも しっかりとした声でそう言った。
「だったらさ諦めない理由としては十分なんじゃないかな」
彼女はただ泣いていた。
その声は夜の海に吸い込まれていくようだった。
135 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:06:37.86 ID:lhRyNcnF.net
「ねぇ、歌ってよ」
「えっ」
「聴きたいんだ、君の歌」
「でも……」
「お願い」
「……わかりました」
136 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:06:54.58 ID:lhRyNcnF.net
スッと息を吸う音がして、聞こえてきたのは俺でも知っている曲だった。
かつて、日本中の高校生に愛された曲。
137 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:07:19.95 ID:lhRyNcnF.net
『広い宇宙の数ある一つ 青い地球の広い世界で
小さな恋の思いは届く 小さな島のあなたのもとへ
あなたと出会い 時は流れる 思いを込めた手紙もふえる
いつしか二人互いに響く 時に激しく 時に切なく
響くは遠く 遥か彼方へ やさしい歌は世界を変える
138 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:07:53.66 ID:lhRyNcnF.net
ほら あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの
ただ あなたにだけ届いて欲しい 響け恋の歌
ほら ほら ほら 響け恋の歌
「そんなの…… そんなのいくらだってありますよ。小さい頃からなりたかった。誰かに聴いて欲しかった。まだまだ、たくさんあります」
彼女は泣きながらも しっかりとした声でそう言った。
「だったらさ諦めない理由としては十分なんじゃないかな」
彼女はただ泣いていた。
その声は夜の海に吸い込まれていくようだった。
135 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:06:37.86 ID:lhRyNcnF.net
「ねぇ、歌ってよ」
「えっ」
「聴きたいんだ、君の歌」
「でも……」
「お願い」
「……わかりました」
136 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:06:54.58 ID:lhRyNcnF.net
スッと息を吸う音がして、聞こえてきたのは俺でも知っている曲だった。
かつて、日本中の高校生に愛された曲。
137 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:07:19.95 ID:lhRyNcnF.net
『広い宇宙の数ある一つ 青い地球の広い世界で
小さな恋の思いは届く 小さな島のあなたのもとへ
あなたと出会い 時は流れる 思いを込めた手紙もふえる
いつしか二人互いに響く 時に激しく 時に切なく
響くは遠く 遥か彼方へ やさしい歌は世界を変える
138 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:07:53.66 ID:lhRyNcnF.net
ほら あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの
ただ あなたにだけ届いて欲しい 響け恋の歌
ほら ほら ほら 響け恋の歌
139 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:08:14.92 ID:lhRyNcnF.net
あなたは気づく 二人は歩く暗い道でも 日々照らす月
握りしめた手 離すことなく 思いは強く 永遠誓う
永遠の淵 きっと僕は言う 思い変わらず同じ言葉を
それでも足りず涙にかわり 喜びになり
言葉にできず ただ抱きしめる
141 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:08:41.19 ID:9FeM9uJP.net
ほら あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの
ただ あなたにだけ届いて欲しい 響け恋の歌
ほら ほら ほら 響け恋の歌
142 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:08:57.84 ID:9FeM9uJP.net
夢ならば覚めないで 夢ならば覚めないで
あなたと過ごした時 永遠の星となる
143 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:09:14.90 ID:9FeM9uJP.net
ほら あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの
ただ あなたにだけ届いて欲しい 響け恋の歌
144 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:09:30.76 ID:9FeM9uJP.net
ほら あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの
ただ あなたにだけ届いて欲しい 響け恋の歌
ほら ほら ほら 響け恋の歌』
145 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:10:55.70 ID:9FeM9uJP.net
「ブラボー」
「やめてください。初めてだったんですよ、誰かに聴いてもらったの」
「すごい上手だったよ」
言葉の通り、彼女の歌はうまかった。
俺は専門的なことがわかるわけじゃないけど、それでも ずっと聴いていたいと思うような歌だった。
146 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:11:19.99 ID:9FeM9uJP.net
「好きなの? モンパチ」
「昔、嫌なことがあった時、ラジオから『小さな恋の歌』が流れてきたんです。それを聴いてると不安とかが だんだんなくなって、その時思ったんです、私もこんな風に誰かに届く歌を歌いたいって」
「だったらそれは成功したな。今、俺の心に確かに届いた」
147 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:12:34.08 ID:zH3wHCLa.net
「ずるいですよ、なんでそんな嬉しいこと言ってくれるんですか」
「本心だよ。俺は思ったことを言っただけだ」
「そういうところがずるいんですよ。でも、ありがとうございます。なんか歌ったら、悩んでるのがバカらしくなっちゃいました。私は私のやりたいようにやることにします」
ここ何日かで彼女のいろんな声を聞いてきたけど、やっぱり今みたいな明るい声が一番好きだな。
悲しい声をこの声に変える手伝いが少しでもできたなら良かったんだけど。
148 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:12:49.80 ID:zH3wHCLa.net
「じゃあ明日、というより今日ですけど、お互い頑張りましょう。成功を祈ってます」
明日、そうだ明日……
ここまできたんだ、今更気持ちが揺らぐはずないんだ。そう、絶対ないんだ。
だから俺も同じことを言った。「お互い頑張ろう」と。
149 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:13:04.91 ID:zH3wHCLa.net
その後 家に帰って布団に入ると、彼女の歌声が頭について離れなかった。
それが何を意味するのかを考える勇気は俺にはなく、そのうち意識がぼやけて眠りについた。
150 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:13:38.32 ID:zH3wHCLa.net
*
「あれ、おーい!」
後ろから望んだ声が聞こえたので振り返った。
「やっぱり、君だ。奇遇だね」
美咲さんは少し息を切らして、俺の方まで走ってきた。
151 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:13:55.30 ID:zH3wHCLa.net
告白決行日、彼女のレクチャーの通りストーカーギリギリの『美容室の前で待ち伏せ作戦』を実行した。
結果、見事成功し、今、俺の隣には美咲さんがいる。
152 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:14:11.61 ID:zH3wHCLa.net
「今、帰りですか?」
わかってるくせに、白々しく聞いてみた。なかなかの演技力だと思うよ。
彼女が歌手を目指すなら俺は役者にでもなろうかな。
うん、わりといける気がする。
153 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:15:50.15 ID:b4mXH4pv.net
「そーだよ。君は?」
「俺は、そこのコンビニまでちょっと。でも大変ですね、こんな遅くまで」
今はもう夜の十時くらいだろうか、学生からしてみれば こんな時間まで仕事なのは遅いと感じる。
「うん、店が閉まっても練習とかいろいろあるからね。でも、好きなことやってるんだから、不満はないよ」
154 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:16:11.41 ID:b4mXH4pv.net
「いいですねそういうの。俺は自分がやりたいこととか全然わからないんで」
彼女にしても俺と同じ歳で もう歌手になるという夢がある。
美咲さんだって美容師という夢を叶えている。
それに比べたら俺は、何がしたいかと決まらずにふわふわ生きてるだけだ。
急にそんな自分が嫌になってきた。
155 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:16:31.91 ID:b4mXH4pv.net
「そんなのこれから決めればいいんだよ。まだ時間はいっぱいあるんだからさ」
「そんなもんですかね」
「そんなもんだよ」
あっさりそんな風に言われると、余計自分の将来が不安になるんだけど。
でも、今はそれより大事なことがあった。
156 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:16:52.55 ID:b4mXH4pv.net
それから、他愛もない話をしながら少し歩いて、別れ道に差し掛かった。
「じゃあ、私こっちだから。バイバイ」
「待って!」
その時が近づいてきた。
前に進む時間が。
157 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:17:17.20 ID:b4mXH4pv.net
「どうしたの?」
美咲さんはキョトンとした顔で振り向いた。
「あの……」
なかなか続く言葉が口から出ない。
俺は何を戸惑っているんだろうか。
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