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十年前から電話がかかってきた
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125 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:02:24.25 ID:lhRyNcnF.net
「私、歌手になりたいんです」

「え?」

泣き止んだ彼女の言葉は、俺の予想を全部壊すほどの予想外の言葉だった。



126 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:02:40.71 ID:lhRyNcnF.net
「歌手って、歌手? 歌を歌う人?」

思わず意味のわからないことを言ってしまった。

「はい、知らないんですか? 歌手」

「知ってるけどさ、少し意外だなと思って」

本当は かなり意外だ。



127 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:03:13.59 ID:lhRyNcnF.net
「だけど、それがどうしたんだ?」

それが泣いてた理由なのか?

よくわからなかった。



128 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:03:36.23 ID:lhRyNcnF.net
「歌手になりたいってまだ誰にも言えてなかったんです。自分にできるかどうかわからないから秘密にしてました。

でも、最近あなたと話しているうちに勇気がでてきて、それで、さっき電話を切った後、初めて親に言ったんです。

歌手になりたいって。

そしたら『現実を見ろ』って言われちゃいました。ありきたりな言葉ですよね。話も聞いてくれませんでした」




129 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:04:13.51 ID:lhRyNcnF.net
「それがすごい悲しくて、どうしていいかわからなくて、気づいたら家を飛び出してました。

それでここに来て、それでも悲しいのは全然変わらなくて、今度はあなたに電話してました。

本当に迷惑ですよね、ごめんなさい」



130 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:04:40.43 ID:lhRyNcnF.net
「でも、あなたに話したらスッキリしました。

本当にありがとうございます。

人に話すとキッパリ諦めがつくものなんですね。

家、帰ります。本当にありがとうございました」

彼女は一人で話して、一人で完結しようとしていた。

そんなのは納得いかない。



131 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:05:02.27 ID:lhRyNcnF.net
「待って! 諦めるの?」

気づいたら声を出していた。

「ええ、結局、最初から無理だったんですよ」

どっかで聞いたようなことを彼女は言う。

「君はそれでいいの?」

「よくないですよ、でもしょうがないんです。好きな人と結ばれる何倍も難しいことなんですよ? 不可能なんですよ」



132 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:05:25.79 ID:lhRyNcnF.net
「たとえそれがどんなに難しくても諦める理由にはならないよ」

何偉そうに言ってるんだろうな。

でも俺にはわかる、彼女の本当の気持ちが聞こえる。

だから俺はこの言葉を使うんだ。



133 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:06:00.37 ID:lhRyNcnF.net
「君が言ったことだ。だけどさ、俺は別に諦める理由なんていくらでもあると思うんだ。難しい、不可能、時間、お金、年齢、それこそ掃いて捨てるほどある」

「だったら――」

「だけどさ、諦めたくない理由だっていっぱいあるんだ。たとえどんなに難しくたって、絶対に諦めたくない理由があるだろ?

俺は諦めなくて良かったと思ってるよ。そして俺が諦めなかったのは君のおかげだ。

君はどうなの? あるんじゃないの? 絶対に諦めたくない理由がさ。そっちの方が諦める理由より大事なんじゃないの?」



134 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:06:20.61 ID:lhRyNcnF.net
「そんなの…… そんなのいくらだってありますよ。小さい頃からなりたかった。誰かに聴いて欲しかった。まだまだ、たくさんあります」

彼女は泣きながらも しっかりとした声でそう言った。

「だったらさ諦めない理由としては十分なんじゃないかな」

彼女はただ泣いていた。

その声は夜の海に吸い込まれていくようだった。



135 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:06:37.86 ID:lhRyNcnF.net
「ねぇ、歌ってよ」

「えっ」

「聴きたいんだ、君の歌」

「でも……」

「お願い」

「……わかりました」



136 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:06:54.58 ID:lhRyNcnF.net
スッと息を吸う音がして、聞こえてきたのは俺でも知っている曲だった。

かつて、日本中の高校生に愛された曲。




137 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:07:19.95 ID:lhRyNcnF.net
『広い宇宙の数ある一つ 青い地球の広い世界で

小さな恋の思いは届く 小さな島のあなたのもとへ

あなたと出会い 時は流れる 思いを込めた手紙もふえる

いつしか二人互いに響く 時に激しく 時に切なく

響くは遠く 遥か彼方へ やさしい歌は世界を変える



138 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:07:53.66 ID:lhRyNcnF.net
ほら あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの

ただ あなたにだけ届いて欲しい 響け恋の歌

ほら ほら ほら 響け恋の歌



139 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:08:14.92 ID:lhRyNcnF.net
あなたは気づく 二人は歩く暗い道でも 日々照らす月

握りしめた手 離すことなく 思いは強く 永遠誓う

永遠の淵 きっと僕は言う 思い変わらず同じ言葉を

それでも足りず涙にかわり 喜びになり

言葉にできず ただ抱きしめる



141 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:08:41.19 ID:9FeM9uJP.net
ほら あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの

ただ あなたにだけ届いて欲しい 響け恋の歌

ほら ほら ほら 響け恋の歌



142 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:08:57.84 ID:9FeM9uJP.net
夢ならば覚めないで 夢ならば覚めないで

あなたと過ごした時 永遠の星となる



143 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:09:14.90 ID:9FeM9uJP.net
ほら あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの

ただ あなたにだけ届いて欲しい 響け恋の歌



144 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:09:30.76 ID:9FeM9uJP.net
ほら あなたにとって大事な人ほど すぐそばにいるの

ただ あなたにだけ届いて欲しい 響け恋の歌

ほら ほら ほら 響け恋の歌』



145 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/05/31(火) 23:10:55.70 ID:9FeM9uJP.net
「ブラボー」

「やめてください。初めてだったんですよ、誰かに聴いてもらったの」

「すごい上手だったよ」

言葉の通り、彼女の歌はうまかった。

俺は専門的なことがわかるわけじゃないけど、それでも ずっと聴いていたいと思うような歌だった。




>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 


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