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十年前から電話がかかってきた
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200 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:26:43.16 ID:4ZfHDWbX.net
「あー、やっぱ難しいな。勇気ってそう簡単に出ないよな。失敗したらとか考えちゃうと、怖くて踏み出せない」
「…………」
返事は返ってこなかった。
沈黙は怖い。
だから、俺は話すのをやめなかった。
一人で話し続けた。
201 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:01.38 ID:4ZfHDWbX.net
「あのっ!」
俺の声を遮って彼女が大きな声を出した。
「違うんです……私、違うんです」
「…………」
今度は俺が黙る番だった。
「私が……私が告白できなかった理由は……」
ダメだ。これ以上は聞いたらいけない。
そうわかってるのに、俺に彼女の言葉を止めることはできなかった。
202 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:38.87 ID:4ZfHDWbX.net
「その……先輩に会いに行ったんです。行ったのに、いざって時に、その……あなたの……」
止めなきゃいけないんだ。
でも、やっぱり俺には その涙交じりの声を遮ることはできなかった。
もしかしたら期待しているのかもしれない。
そんなのはダメなのに。
俺は卑怯だ。
203 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:55.16 ID:4ZfHDWbX.net
「あなたの……あなたのこと思い出して、それで……」
「わかってる! わかってるんだ。ごめん」
もう耐えられなかった。
自分の卑怯さに、ずるさに、汚さに。
そして、自分が満足するために俺は これからもっと最低なことを言う。
無責任で最低なことを。
204 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:28:13.60 ID:4ZfHDWbX.net
「ごめん……俺が言わなきゃいけないんだよな。それなのに……それなのに俺は、全部君に言わせて。自分が傷つくのが怖いから、だから、無責任なことは言わないって言い訳して……最低だ」
彼女の泣き声が聞こえた。
これ以上は言っちゃいけないなんてわかってるんだ。
でも、自分を抑えるのはもう無理だった。
「あー、やっぱ難しいな。勇気ってそう簡単に出ないよな。失敗したらとか考えちゃうと、怖くて踏み出せない」
「…………」
返事は返ってこなかった。
沈黙は怖い。
だから、俺は話すのをやめなかった。
一人で話し続けた。
201 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:01.38 ID:4ZfHDWbX.net
「あのっ!」
俺の声を遮って彼女が大きな声を出した。
「違うんです……私、違うんです」
「…………」
今度は俺が黙る番だった。
「私が……私が告白できなかった理由は……」
ダメだ。これ以上は聞いたらいけない。
そうわかってるのに、俺に彼女の言葉を止めることはできなかった。
202 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:38.87 ID:4ZfHDWbX.net
「その……先輩に会いに行ったんです。行ったのに、いざって時に、その……あなたの……」
止めなきゃいけないんだ。
でも、やっぱり俺には その涙交じりの声を遮ることはできなかった。
もしかしたら期待しているのかもしれない。
そんなのはダメなのに。
俺は卑怯だ。
203 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:27:55.16 ID:4ZfHDWbX.net
「あなたの……あなたのこと思い出して、それで……」
「わかってる! わかってるんだ。ごめん」
もう耐えられなかった。
自分の卑怯さに、ずるさに、汚さに。
そして、自分が満足するために俺は これからもっと最低なことを言う。
無責任で最低なことを。
204 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:28:13.60 ID:4ZfHDWbX.net
「ごめん……俺が言わなきゃいけないんだよな。それなのに……それなのに俺は、全部君に言わせて。自分が傷つくのが怖いから、だから、無責任なことは言わないって言い訳して……最低だ」
彼女の泣き声が聞こえた。
これ以上は言っちゃいけないなんてわかってるんだ。
でも、自分を抑えるのはもう無理だった。
205 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:28:31.50 ID:4ZfHDWbX.net
「俺も一緒だ。告白しようってときに君の声が、君のことが頭に浮かんで、言えなかった。
わかってる、無責任だって。俺は君と同じ時間にいられないのに、それなのに俺は君のことが……」
その先は言えなかった。
言う勇気なんてなかった。
206 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:29:24.83 ID:4ZfHDWbX.net
「なんでですかね……なんで。今、同じ場所にいるんですよね、私たち。
同じところにいるのに、同じ景色を見ているのに、同じ匂い、同じ音、同じものを感じているのに、それなのに私たちの距離は世界のどこよりも遠い。
こんなに想ってるのに私はあなたと同じ時間を生きられない。私だってわかってます。言っちゃいけないって。想ったらいけないって。でも、私もあなたが……」
彼女もその先を言わなかった。
二人ともわかってるんだ、この気持ちがダメだってことくらい。
同じ時間を生きられないのに、こんな気持ちになったらダメだって。
それでも この気持ちが消えることはなかった。
彼女との距離は世界で一番近いのに、世界で一番遠かった。
207 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:29:44.11 ID:4ZfHDWbX.net
もうどうしたらいいかわからない。
彼女になんて言えばいいのかわからなかった。
「ねぇ、いま何が見えますか?」
彼女が突然聞いてきた。
それが何を意味するのかわからなかったけど、それでも俺にはその問いに答える以外の選択肢は浮かばなかった。
208 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:30:01.75 ID:4ZfHDWbX.net
「何って、海と――」
「桜、ですよね」
確かに桜が見える、海と桜、不思議な光景だ。
「珍しいですよね、海と桜が一緒に見れるの。だからお気に入りの場所なんです。前にも言ったでしょ、『さくら』は私にとって特別だって、その理由わかりますか?」
209 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:30:20.12 ID:4ZfHDWbX.net
理由、それはきっと、「名前?」
「正解です。あなたがいま見てる桜、それが私の名前です。多分これから言うのは すごい勝手なことだと思います。でも、少しだけわがまま言ってもいいですか?」
「そんなのいくらだってきくよ」
それが俺にできることならなんだってする。
「じゃあ、桜を見たら少しでいいんです、私のこと思い出してもらえませんか? ほんの少しでいいから私がいたって、春になるたびに、少しだけ私がいたことを思い出して欲しいんです。桜が見える間だけ、私をあなたの心においてください。お願いします」
210 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:30:47.00 ID:4ZfHDWbX.net
「思い出すよ、何回だって思い出す。少しだけなんかじゃない、もっと、もっと」
うまく話せない。
目には多分涙がにじんでいた。
「ありがとうございます。じゃあ覚えててもらえますか? 私の名前は、さくら――」
彼女が言い終わる前に、ツーツーという電話が切れる音が耳に響いた。
211 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:31:02.76 ID:4ZfHDWbX.net
それから何度かけ直しても電話はつながらなかった。
212 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:31:46.21 ID:4ZfHDWbX.net
*
あの日から一週間がたった。
あれから俺は一歩も外に出ず、ずっと部屋に引きこもっていた。
213 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:32:04.13 ID:4ZfHDWbX.net
なぜ電話がつながらなくなったのか、彼女が自分の名前を言おうとしたから、彼女と俺があの感情を持ってしまったから、理由は何個か想像できたけど そんなことはどうでもよかった。
大事なのは俺は彼女と話す手段を失った、それだけだ。
214 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:32:20.69 ID:4ZfHDWbX.net
わかってるんだ、引きこもっててもしょうがないって、前に進まなくちゃいけない、それが俺にずっとあたえられている課題だってさ。
でもさ、そんな簡単にはいかないんだよ、そんなすぐに割り切れたら最初から苦しくなんかないんだ。
215 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:32:36.13 ID:4ZfHDWbX.net
結局どうしていいかなんてわからず、俺は引きこもり続けた。
216 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:32:54.07 ID:4ZfHDWbX.net
それからまた何日かたって、俺は一つ思い出した。
そんなことをしても意味なんかないとわかっているよ、でも思い出してしまったからには我慢なんてできない。
だから、それを確かめるために電話をかけた。
217 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:33:15.09 ID:4ZfHDWbX.net
そいつは電話がかかってきたことに驚いているみたいで、「今まで何してたんだよ」と聞いてきた。
俺はその問いには答えず ただ一言だけ言った。
多分これだけで伝わる。
218 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:33:33.04 ID:4ZfHDWbX.net
「冒険しようぜ」
219 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:33:58.62 ID:4ZfHDWbX.net
*
「お前、なんで急に掘る気になったんだよ? タイムカプセル。もしかしてお前も櫻子ちゃんのこと気になったのか?」
桐島がおどけたように聞いてきた。
「いいから、掘れよ」
我ながら勝手だなと思う。
桐島があんな風にふざけるのは、俺に気をつかってるからだってわかってる。
俺が気をつかわないように、気をつかってくれてるんだ。
220 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:34:13.86 ID:4ZfHDWbX.net
「いや、ごめん……」
俺はそれくらいしか言えなかった。
本当はもっとしっかり事情とかを説明するべきなんだ。
それがこんな夜遅くに付き合ってくれているやつへの礼儀なのに。
221 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/06/01(水) 19:34:29.18 ID:4ZfHDWbX.net
「別にいいよ。そもそも俺が言い出したことだしな。でも、夜の学校ってなんかいいよな。なんか、珍しく星もよく見えるし、プラネタリウムみたいだ」
桐島の話ではタイムカプセルは学校に埋まってるということだった。
だけど、うちの高校の警備のゆるさはどうなんだろうか?
こんな簡単に忍びこめるなんて、安全面とかどうなってるんだろうか? 急に心配になった。
>>次のページへ続く
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