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涙の色は赤がいいだろ?
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98 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:05:00.60 ID:msabUvV8.net
「まぁ、貴方がなんで そう思ったのかはわかりませんが、一つだけわかるとしたら貴方に何か悲しいことがあったってことですかね」

「へっ?」

俺の口から間抜けな声が漏れていた。

どういうことだ?

「だってそうでしょ、悲しいことがなかったら涙の色の話なんてしませんよね?」

男性の言葉に一人の少女の顔が頭をよぎった。



99 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:05:31.73 ID:msabUvV8.net
「そうか、そうだ、そうだったんだ」

今度は大きな声が俺の口から出た。

「どうしましたか? 急に?」

男性は、突然叫んだ俺に驚いたようだ。だがそんなことはどうでもいい。



100 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:05:56.61 ID:msabUvV8.net
そうだよ、そうだったんだ。悲しくなかったら涙の話なんかしないんだ。

涙の話なんかどうでもよかったんだ。彼女は俺にSOSを出してたんだ。

助けて、と。



101 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:06:28.00 ID:msabUvV8.net
彼女の顔を思い出す。

すると その笑顔の裏に、真剣な顔の裏に、得意げな顔の裏に、いろんな顔の裏に隠したその目には、赤い涙が流れていた。

彼女は いつも赤い涙を流してたんだ、ずっと。

何が言葉は嘘をつく、だよ。涙だって我慢しちゃうんじゃないか。




102 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:07:08.50 ID:msabUvV8.net
「どうしました? 大丈夫ですか?」

男性が俺に話しかけていた。

「はい、貴方のおかげでわかりました。ありがとうございます」

俺は早口で そう返した。

一刻も早くここから去りたかったからだろう。

「そうですか、なんのことかわかりませんが、力になれたのならよかったです」

男性は少し戸惑いながらも そう言った。



103 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:07:39.78 ID:msabUvV8.net
「本当にありがとうございます、あの、お名前聞いてもいいですか?」

「私は磯崎です。これは私の想像ですが、多分貴方にはこれから大変なことが待っているんでしょう。どんなことかはわかりません。でも、私も応援してます。頑張ってください」

磯崎さんは とても優しい顔でそう言った。

「ありがとうございます、磯崎さんですね。それじゃあ自分はもう行きます、本当にありがとうございました」

俺はそう言いながら、もう走っていた。

彼女のもとに行くために。

彼女のSOSに応えるために。



104 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:08:30.93 ID:msabUvV8.net
俺はどこに向かっているんだろうか?

自分でもわからなかった。

彼女がどこにいるかなんて、見当もつかない。

もし俺が青春映画とかのかっこいい主人公だったら、ここで今までの会話から彼女の居場所を導き出してかけつけるんだろう。

だが、生憎俺の青春と呼べる時期はとっくに終わっているし、かっこいい主人公というわけでもない。



105 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:09:34.09 ID:msabUvV8.net
でも、それでもいい。かっこよくなくても、主人公じゃなくても、彼女の居場所がわからなくてもいいんだ。

それでも俺は走り続ける。

彼女を見つけるまで走り続ける。

必ず彼女を見つけ出してみせる。



106 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:09:52.43 ID:msabUvV8.net
見つけ出した後どんな言葉をかけたらいいかなんてわからない、どうすれば彼女の赤い涙を止められるのかだってわからない。

それでも走るしかないんだ、俺は。



107 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:11:00.58 ID:msabUvV8.net
彼女を探し始めてから一時間、俺に主人公になるチャンスが与えられた。



108 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:11:24.75 ID:msabUvV8.net
「どうして ここがわかったんですか?」

彼女は涙で腫れた目を拭いながら、弱々しい声でそう言った。

「ここで俺は それらしい理由を言って かっこよくきめるべきなんだろうな、だけど残念ながら、適当に走り回って やっと見つけたんだ。俺にかっこよくきめるなんて無理みたいだ」

言葉の通り、俺には なんで彼女がこんな廃ビルにいるのか見当もつかない。

ただ、このビルの近くにぐしゃぐしゃになった、上から落ちてきたであろう看板があって、少し気になったから入っただけだった。

彼女を見つけられたのは看板のおかげだな。




110 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:12:37.66 ID:msabUvV8.net
「なんですか……それ。なんで追いかけてきたんですか? 私のあなたをお金で買ってたんですよ。最低な人間なんですよ? なのにどうして……」

彼女の目からは涙がこぼれていた。

俺にはその涙は、血のように濁った赤色に見えた。



111 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:13:08.47 ID:msabUvV8.net
「やっと見せてくれたな、涙」

「えっ?」

彼女は驚いたような顔で俺の方を見てきた。

「最初に会った時言ってたろ、悲しくないって強がったり、誤魔化したりしちゃう言葉の代わりに涙があるって。そんなこと言ったくせに泣かなかったじゃないか、ずっと我慢してただろ? 涙を」

そう、彼女はずっと嘘をついていた。ついてた嘘はバイトのことなんかじゃない。そんなことはどうでもいい。

彼女がついてたのは私は悲しくなんかないという嘘。この嘘だけは見逃すわけにはいかない。



112 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:14:13.11 ID:msabUvV8.net
「ずっと気付けなかった俺が言えることじゃないのかもしれない、でも言わせてくれ。

たとえ涙の色が赤じゃなくても、いや、涙すら我慢していたとしても、俺が必ず気づいてみせる。

お前が悲しんでいるなら、俺が必ず気づいてみせる。

だから、悲しい時は一人で抱えるんじゃなくて、俺に一緒に抱えさせてほしい。

バイトの嘘なんてどうでもいい、でも自分の悲しいっていう気持ちに、寂しいっていう気持ちに嘘はつかないでほしいんだ。

悲しい時は俺にも一緒に悲しませてくれないか?」


ここに来るまで彼女に何を話すのか ずっと考えていた。

でも、結局何を話していいのかわからなかった。

だから自分が思っていることを全部言うことにしたんだ。

飾らない俺の気持ち、かっこ悪くても これが俺の本心だ。



113 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:15:43.63 ID:msabUvV8.net
「なんなんですか……本当に…… ずるいですよ。

私のこと走り回って探してくれて……そんなこと言ってくれて……かっこよくないわけないじゃないですか。

なんでそんな……ずるいですよ……」


そう言った彼女の目から流れた涙は透明だった。



114 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:16:24.84 ID:msabUvV8.net
「なぁ、名前教えてくれよ、まだ知らないんだ」

「倉敷です……倉敷彩乃です」

「そうか、俺は楠――」

「知ってますよ、あなたの履歴書見ましたから」

彼女は涙でくしゃくしゃになった顔で、少し口元を緩めて、またいたずらっぽく笑った。

俺はその顔にまた見惚れた。



115 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 21:17:10.27 ID:msabUvV8.net
「なぁ、彩乃」

「なんですか」

「やっぱり俺の勝ちだな」

「なにがですか?」

唐突に切り出した俺に、彩乃は戸惑ったような顔で聞き返した。

「涙の色だよ、赤よりそっちのほうが綺麗だ」

「ホントずるいですね……雅也さんは」




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カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 


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