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今日、彼女の父親は死ぬ
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70 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:59:45.97 ID:7//OxQ26.net[62/87]
何回も何回も繰り返した。

それでも僕は彼女を助けることはできなかった。

何回やっても彼女は父親を殺した。

沖縄まで連れて行っても、縛って監禁しても、何をしても彼女は父親を殺した。



71 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:00:28.93 ID:7//OxQ26.net[63/87]
それで何回目かな、もう途中で数えるのもやめたからね、何百、いや何千かな。

そう何千回目かの巻き戻しが終わった時、もう僕は何をすればいいかわからなくなっていた。

いや、本当はわかってたんだ。

だって、よくある話だからね、結末だって簡単なんだ。

ただ、僕はそれをやりたくなかった。

だから、現実から逃げて何回も時を巻き戻してたんだ。



72 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:00:56.64 ID:7//OxQ26.net[64/87]
でも、もう逃げるのは止めにした。

これしかないんだと理解した。

もう終わりにしよう、そう思った。



73 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:01:15.46 ID:7//OxQ26.net[65/87]
「私が死ねばよかったんだよね」

彼女の言葉が頭の中をこだました。



75 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:02:24.66 ID:7//OxQ26.net[66/87]
僕は四年前に時を巻き戻した。

せめて彼女が虐待の痛みを知らない頃にしてあげたいと思ったんだ、ケリをつけるならさ。





76 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:02:50.15 ID:7//OxQ26.net[67/87]
街中を探し回った結果、彼女は父親と一緒に公園に来ていた。



77 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:04:41.21 ID:7//OxQ26.net[68/87]
僕は迷わなかった。

手に持った包丁で一切の迷いなく刺した。

彼女の悲鳴が響く。

それでも僕は戸惑うことなく何回も刺した。

刺した、刺した、刺した、刺した、刺した、

刺した、刺した、刺した、刺した、刺した、

刺した、刺した、刺した、刺した、刺した、

刺した、刺した、刺した、刺した、刺した。

そうして動かなくなった。



78 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:05:00.02 ID:7//OxQ26.net[69/87]
それから僕は医療少年院に送られた。

彼女を傷つけた罰をしっかり受けたかったんだけど、このときの僕の歳だと無理だったんだ。



80 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:05:40.95 ID:7//OxQ26.net[70/87]
そして時は流れ四年後の九月十七日、今、僕は昔住んでいた街に来ていた。

本来僕がここにいるのはありえないことなんだけどね、それなのに僕がここにいるってことは、多分僕の推測が当たっているからなんだろう。



81 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:06:16.21 ID:7//OxQ26.net[71/87]
僕の推測が正しければ僕は今日、また人を殺さなきゃいけない。



82 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:06:49.65 ID:7//OxQ26.net[72/87]
僕が殺人を犯した公園はすっかり寂れていた。

彼女とソフトクリームを食べた時は、わりと活気付いていたのに、今は人っ子一人もいなかった。

やっぱり人が死んだ公園っていうのは人が寄り付かなくなるもんなんだね。



83 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:07:30.14 ID:7//OxQ26.net[73/87]
それから僕はいろんなところをまわった。

懐かしいところがたくさんあったよ、僕は実際の歳よりもはるかに長い時間この街にいたからね、彼女との思い出もたくさん蘇ってきた。



84 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:08:33.96 ID:7//OxQ26.net[74/87]
そして九時、僕は橋の上から川を見ていた。

彼女が虐待のことを打ち明けてくれた河川敷の川だ。




86 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:09:50.84 ID:7//OxQ26.net[75/87]
五分くらいした頃かな、後ろから声が聞こえてきた。

「やっと、見つけた」

その声は、僕が何をしてでも助けたかった人の声、振り返ると彼女がそこにいた。



87 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:10:35.59 ID:7//OxQ26.net[76/87]
やっぱり僕の推測は当たったみたいだね。

結局、運命は僕と彼女を赦してくれなかった。

まったく、神様がいるとしたら相当性格が悪いやつなんだろうな。






88 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:10:55.14 ID:7//OxQ26.net[77/87]
「ねぇ、どうして、どうしてお父さんを殺したの? ねぇ、なんで?」

「……」

彼女の目は悲しみと怒りが混ざったような目だった。

ただ、明らかな敵意が僕に向けられていた。



89 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:11:24.00 ID:7//OxQ26.net[78/87]
「答えないならいい。この時のためにいつも持ち歩いてた、私はあなたを許さない」

彼女はカバンの中からナイフを取り出して僕に向けた。



90 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:11:42.77 ID:7//OxQ26.net[79/87]
すごくおかしな話なんだけどさ、今、確信したよ。

ずっと考えてもわからなかった答え、あの感情がどこから来るのか、その答えが今わかった。



91 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:12:56.15 ID:7//OxQ26.net[80/87]
僕は彼女が好きだ。



92 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:13:13.64 ID:7//OxQ26.net[81/87]
どうしようもなく彼女が好きなんだ。

何をしてでも守りたい、どんなことをしてでも。

これがきっと好きってことなんだ。



93 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:13:58.25 ID:7//OxQ26.net[82/87]
だから僕は殺す、彼女に殺させるわけにはいかない。

僕が殺さなくちゃいけないんだ。



94 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:14:23.40 ID:7//OxQ26.net[83/87]
「ねぇ、聞いてる――」

彼女の言葉を遮って僕は口にしていた。

「好きだ」

最後にこれを言うくらいのわがままは許してくれよ、僕はこれで満足だからさ。



95 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:14:48.80 ID:7//OxQ26.net[84/87]
次の瞬間僕は橋から飛び降りた。

腕時計を見ると針は九時十二分十六秒を指している。

僕が彼女を助けるまであと五秒。

ようやく僕の長い長い九月が終わる。

これが僕のハッピーエンドだ。



96 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:15:19.32 ID:7//OxQ26.net[85/87]
最後にもう一つだけ言っておこうかな。

あの性格が悪い、僕が大嫌いな奴にさ。

時計の針が九時十二分二十一秒を指したその瞬間、僕は勝ち誇った顔で、満面の笑みで言ってやった。



97 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 21:16:08.67 ID:7//OxQ26.net[86/87]
「神様、ざまあみろ」




>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 


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