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俺を拾った女の話を書く
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64 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:13:33.48 ID:AvmYbN9t.net
よく眠っているみどりの顔を眺めながら、そう考えていた。



65 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:14:07.64 ID:AvmYbN9t.net
俺は眠れない時間を埋めるべく、今朝諦めた本を手にとってみどりが起きるまで読みふけっていた。



66 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:14:53.09 ID:AvmYbN9t.net
「あ、生きてた」

みどりが目を覚ますと、俺は笑いながら言った。

「特製黒酢ジュース飲む?二日酔いには最適だよ。」

俺は得意げに言った。



67 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:15:33.50 ID:AvmYbN9t.net
ありがとう、そう言う代わりに みどりは俺を抱きしめた。

みどりは俺に口づけをし、彼女の求るがままに俺たちは ひとつになった。


俺たちの交際はこうして始まった。



68 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:16:20.70 ID:AvmYbN9t.net
それから、俺とみどりは同棲生活を送った。

俺は仕事の少ない時期にかかっていたので退屈な時間を彼女の部屋で過ごした。

必要なものを購入して、食事の準備をして みどりの帰りを待った。

初めて居酒屋に行った時にみどりが注文していた料理から好みを推測し、そこから味を組み立てていった。

時には朝に食べたいものをリクエストしてもらい、少しずつみどりの好きなものの傾向を学んでいった。




69 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:16:52.41 ID:AvmYbN9t.net
彼女は いつも喜んでくれた。

調味料が少しずつ増えていった。増えていく調味料を眺めるのが何故だか誇らしく思えた。

食材にかかった費用は頑なに断わった。

俺は彼女に必要とされている事を感じたし、それに応えられる自分が嬉しかった。



70 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:17:56.58 ID:AvmYbN9t.net
食事が終わると いつも2人で借りてきた映画を見た。

映画はみどりが選んだ。彼女が選ぶ映画はどれも面白かった。

普段映画など見ない俺には全て新鮮に映ったし、そんな映画を知っているみどりを凄いとも思っていた。

2人で映画の感想を話したり、たまには酒も飲みにいった。



71 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:19:07.50 ID:AvmYbN9t.net
楽しかった。



72 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:20:10.38 ID:AvmYbN9t.net
こんな生活がずっと続けばいいと、心の底から思った。

彼女の淋しさを埋められたら、何て思っていた自分が恥ずかしく思えた。

必要とされているのかどうかなど、もう、どうでも良かった。

彼女との時間は失う訳にはいかない、大切なものに変わって行った。俺が彼女を必要としていたのだ。


けれども物事は そういつも上手く運ぶわけではなかった。



73 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:21:24.26 ID:AvmYbN9t.net
その日は何の不穏の予感もない、いつもと変わらない普通の日だった。

みどりを仕事に送り、掃除をすませ、買い出しに出かけてひと息ついた時のこと。


Dから電話がかかってきた。恐らく練習の打ち合わせだろう。電話に出ると相変わらず要件を伝えるだけの簡素な内容だった。

今度の音合わせに新曲を持ってくるから、〇〇というバンドの〇〇というアルバムの何曲目を聴いておけ、とのことだった。

俺たちの音楽の意思疎通は いつもこんな感じだった。Dがリズムのイメージを既存の曲で指示をする。

俺はそのイメージにアレンジを加えたものを複数用意してくる。あとは、Dが勝手に気に入ったものを選択して曲に組み込む。

音合わせをして思い描いたものと違えば、また別の曲を聴けと指示をする。



74 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:22:15.12 ID:AvmYbN9t.net
俺は経験からドラマーは主張しない方がバンドはうまく行くことを知っていた。

バンド内の力関係は だいたい曲を作る奴が握っている。

そしてドラマーがアートを主張し始めるとだいたいギターと衝突する。

慢性的な人手不足のドラムというポジションで、ドラマーがバンドを辞めさせられると言うことは、下手くそか、主張が強いかのどちらかだ。



75 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:22:54.49 ID:AvmYbN9t.net
俺はDから指定されたアルバムを借りにレンタルショップに行ってみようかと考えたが、みどりの部屋のCDもなかなかの品揃えだ。

もしかしたらあるかも知れない、と普段見向きもしない棚に同じタイトルを探した。



77 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:25:11.77 ID:AvmYbN9t.net
そこで、ふと違和感を感じるCDがあった。

綺麗に揃えてあるCDの中に、タイトルが見えないように逆さにしまってある一枚があった。

しまい間違えたのかな、と表に直すために手にとったCDのタイトルを見て俺は驚愕した。




80 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:28:25.36 ID:AvmYbN9t.net
俺たちのバンドのアルバムだった。

何故こんなものが ここにあるのだろう。



81 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:29:17.91 ID:AvmYbN9t.net
このCDは先日のライブ会場で販売されたものだった。レコード屋に置いてあるものではない。

そもそも、俺はみどりに自分のバンド名を明かしていなかった。元彼がバンドマンということでバンドの話は極力しないように努めていたし、聞かれもしなかった。

友達からもらったものなのかも知れない、そう考えてもみた。

けれども、それでは何故この一枚だけ隠すように裏側にしまってあったのかと考えると明らかに不自然だった。

このCDはあの日、つまりみどりと出会った日のライブに来ていなければてに入らないものだった。

様々な憶測と逡巡の末に辿り着いた結論。



82 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:29:55.90 ID:AvmYbN9t.net
それは、みどりは俺のことを知っていた、ということだった。



83 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:30:45.65 ID:AvmYbN9t.net
けれども何故それを隠しているのだろう。それが分からなかった。

隠すからには隠すだけの理由があるのだろう。

その理由は自分の知ってる情報だけでは推測すら出来なかった。


しかし、一点、みどりと付き合うに至ったきっかけ、見ず知らずの男を部屋に泊めたこと、この部分は少なくとも見ず知らずではなかったということだ。

合点がいった。

やはり そんなことなどあり得ないのだ。



84 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:31:28.37 ID:AvmYbN9t.net
正直に言えば、気にはなった。

気にはなったが隠していることを問い詰めても、それで分かった事実が真実とは限らない。

話すべき時が来たら話すだろうし、話さないならそれは大した話ではないのだろう。

取り出したCDを裏向きにしたまま元の位置に戻した。



85 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:32:39.41 ID:AvmYbN9t.net
そして自分は どうだと考えた。

特に何かを隠しているつもりはない。ただ敢えて言わないでいることはある。

正直、その話は聴かされて楽しい話ではないし、みどりの興味がある話でもないと考えていた。

でも、彼女が聞きたいか聞きたくないか、興味があるかないか、その判断を俺がするのは やめようと思った。

話した上で判断して貰えば良いと考え直した。



86 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:33:26.94 ID:AvmYbN9t.net
みどりが帰ってきたら話してみよう、俺が夢にうなされる原因となった話を。

過去に犯した些細な過ちが、人生に少なからず影響を及ぼす、そんな話を。

みどりの隠し事が過ちを孕んでなければ それでいい。

けれども、後ろめたさを感じているならば、自らの意思で話したほうが良いのだ。

彼女が いつか話をしてくれる。

その呼び水になってくれるのなら、そう考えていた。



88 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:34:30.12 ID:AvmYbN9t.net
遅くなってごめんと、みどりが帰ってきた。

食事の準備をする気になれなかった俺は、今日は飲みに行かない?と誘ってみた。

行く行く、とふたつ返事で はしゃぐ彼女を見ると心が重くなった。




>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:泣ける話, 修羅場・人間関係,
 


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