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俺を拾った女の話を書く
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90 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:37:12.94 ID:AvmYbN9t.net
いつもの居酒屋に着いて軽く乾杯をかわし、料理もあらかた食べた頃合いを見て、俺は聞いて欲しい事がある、と切り出した。

なにを改まってと笑ったみどりの顔に微かな緊張が見てとられた。

俺は夢にうなされる、その理由について掻い摘んで話し始めた。



91 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:38:03.82 ID:AvmYbN9t.net
高校の時、好きな娘ができた。初恋だった。

彼女は俺の親友の事が好きだった。けれども、親友には他に好きな娘がいた。

結局、俺と彼女は それぞれの思いを遂げることなく、高校時代が終わった。

「なにそれ、よくある話じゃん」

みどりは笑った。

続きがある、と俺は話した。



93 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:39:00.29 ID:AvmYbN9t.net
高校卒業後、その娘は職場の上司と不倫をした。

上司は親友に似ていた。

幼い恋を上手に終わらせられなかった彼女は、親友の影を上司に重ねて不倫に溺れていった。

やがて不倫は露見する事となり、彼女は上司と別れさせられた。

上司との子の堕胎を条件に訴訟を免れた彼女は、心の傷を埋めるべく他の男達の間を転々としてゆく。


男達と関係を結ぶたび彼女は子を宿した。子を宿すたび彼女は堕胎を迫られた。堕胎をさせると男達は彼女から逃げていった。

3人目は堕胎をさせられる事はなかった。けれどもやはり男は逃げていった。

彼女は子を産むと、やがて子供の存在は彼女の家計を圧迫していった。

そして身体を売り生計を立てねばならぬ程に彼女は身をやつしていった。



94 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:41:38.17 ID:AvmYbN9t.net
「その娘は気の毒かもしれないけど、たかお君 関係ないじゃん。」

みどりは擁護してくれた。



95 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:42:31.47 ID:AvmYbN9t.net
「実は卒業後 その娘と2回会ってるんだ。不倫発覚直後と転落してしまった後に」



96 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:43:23.39 ID:AvmYbN9t.net
一度目に会ったとき、俺は その娘の転落を予感した。いや、誰が見てもそう感じただろう。

俺は助けたいと思った。方法は問わない。彼女が望む通りにしてやりたいと思った。

けれども彼女は それを拒んだ。

彼女にとって俺の存在など何の助けにもならないことを、俺はこの時 思い知った。



97 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:44:27.43 ID:AvmYbN9t.net
二度目の時、彼女は金を借りに来た。

いや、正確には身体を売りに来たのだ。

俺は彼女の希望通りに金を渡した。

勿論、彼女を抱くことはなかった。

そして その時に初めて彼女の転落を知った。

外れるべき俺の予感は、俺の予想を超えた悪い形で当たってしまっていた。



98 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:46:44.40 ID:AvmYbN9t.net
一度目、二度目に共通して彼女に頼まれたこと、それは、彼女が好きだった俺の親友にだけは、話が漏れないようにしてくれ、ということだった。

彼女にとって親友は いつまでも特別な存在である事に、俺は人知れず傷ついていた。



99 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:48:25.86 ID:AvmYbN9t.net
俺は彼女の頼みを一度目は守った。

けれども、二度目は裏切った。

拭いきれない親友への劣等感と嫉妬を事あるごとに思い出させる彼女の願いに、俺は冷静な判断を失っていた。

そして、彼女を傷つける目的で彼女との約束を破った。

やがて その目的は、彼女の自殺という形で果たされる。

無論それは俺が望んだ形からは かけ離れていた。



100 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:49:10.29 ID:AvmYbN9t.net
みどりは押し黙ったまま真剣な表情で話を聞いていた。



101 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:50:11.24 ID:AvmYbN9t.net
「その娘との最期のやりとりが少し形を変えて、今も時々夢に出てくるんだ。

彼女は電話をかけてきて俺を罵倒する。

弁解をしようとするが、俺の思いは声にならない。

声を出せないうちに呼吸も出来なくなっていく。

このままでは不味いという焦りから、ひたすらに声を出そう、声を出そうと繰り返す。

それでも やはり声は出ない。

そうしているうちに やっと目が覚めるんだ。」



102 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:51:14.96 ID:AvmYbN9t.net
「あの、アーーッ!ってやつだよね」

そう、と俺は答えた。

「でも、その娘は本当に自殺だったの?死因は分からないって言ってたよね?」



104 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:52:13.31 ID:AvmYbN9t.net
死因は分からない、と俺は答えた。

ただ彼女の死が、彼女との最後のやりとりから一週間後であることは偶然とは思えなかった。

仮に彼女の死が自殺でなかったとしても、変わらない事実がひとつだけある。

それは、俺の悪意が彼女の人生の最期の出来事になってしまった、ということだった。

その負い目を俺は未だに拭いきれないでいる。




105 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:53:48.12 ID:AvmYbN9t.net
「嫉妬や劣等感に心が蝕まれたとき、その隙をついて悪意が生まれる事がある。

そのほんの少しの悪意が思いもしない結果をもたらすこともある。

その教訓だけは彼女との記憶の形見として持ち続けなければならない。

今はそんな風に考えているんだ。」



106 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:54:27.43 ID:AvmYbN9t.net
そう話すと、みどりの顔は暗く沈んでいった。目には涙が滲んでいた。

しばらく沈黙が続いた。



107 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:55:16.83 ID:AvmYbN9t.net
「正直、たかお君は悪くないとは思うけど、ごめん、今日は一緒に居られない。

うまく言えないけど・・・ごめんね」



109 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:55:47.05 ID:AvmYbN9t.net
突然、彼女は席を立って帰ってしまった。



110 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:56:32.81 ID:AvmYbN9t.net
俺は あまりに突然の出来事に動揺した。

動揺のあまり みどりを追うこともできなかった。

確かに気持ちの良い話ではない。人殺し、と思ったのだろうか。

あるいは昔のことを いつまでも女々しい奴、と呆れたのだろうか。

仕事で疲れて帰ってきたら こんな重たい話を、と腹を立てたのだろうか。


けれどもみどりは、俺は悪くないと言ってくれた。

何故 彼女は帰ってしまったのだろう。



111 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:57:18.26 ID:AvmYbN9t.net
そっとしておいた方がいいのかもしれない、そう考えたとき、みどりからのメールが来た。



112 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:58:07.84 ID:AvmYbN9t.net
「私たち、しばらく会わない方がいいかも。ごめんなさい。気持ちの整理ができたら きちんと話します。それまで待って下さい。」


頭が真っ白になった。



113 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2017/05/21(日) 01:58:54.60 ID:AvmYbN9t.net
久しぶりに自宅に戻ってみると、部屋は まるで他人の様に俺を迎えいれた。

こんな部屋だったであろうか、微かな未視感を覚える。


部屋には必要なものが必要な分だけ置いてあった。

この曲のこのフレーズを聞いておけ、とDから渡された十数枚のCD。ドラムスティックと練習用パット。酒が数本。

あとは、冷蔵庫、ベッドなどの生活用家具。

飾りなど一切ない。事務所よりも無機質な空間はまるで自分自身を投影しているかの様だった。




>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:泣ける話, 修羅場・人間関係,
 


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