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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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237 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 03:41:57.13 ID:s7iJPSG6.net
突然、告白するが、実は俺はお化け屋敷が大嫌いだ。

白塗りお化けの中身がただのバイトだって知ってても、だめ。

パニックになってとにかく叫びながら、出口に突進していく。(それが入り口の場合もある)

だから遊園地バイトの方々には、まあ迷惑な人間なんだが、このときの俺の状況もそんな感じだった。

家の外は、俺にとって、でっかいお化け屋敷だった。

通行人は全員お化けで、俺をとり殺そうと追いかけてくる。

だから、俺は逃げなきゃいけなかった。

レイのいるその出口、つまり公園に。

辛うじて奇声は押さえながら、俺は走った。便所サンダルで。



238 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 03:48:38.08 ID:s7iJPSG6.net
そのせいか、それとも引きこもって体力が落ちているせいか、足は思うよりも重く、全然前に進まなかった。

すぐに脇腹が痛くなり、息が苦しくなった。

それでも、お化けから逃れようともがくうちに、緑色のフェンスが見えた。

公園だ。

赤信号を無視して道を横切ると、俺は公園に飛び込んだ。

入れ違いに、今度はおばさん&犬が通り過ぎたが、安堵の気持ちからか、俺はそこまでパニックにはならなかった。



240 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 03:56:17.98 ID:s7iJPSG6.net
俺は足を緩め、遊具の方へ向かった。

この公園は広くはないが、常緑樹の木と岩?でエリアが遮られている。

手前は滑り台が一つだけ設置されたエリアで、道なりに進むと真ん中に岩?のエリア(なんか謎だけど岩が並んでるんだ・・・・・・)と右側にタイヤでぐるぐるするやつ、その向こうに、公園内のどこからでも見える時計台が設置されてる。

ブランコは、その時計台のある広場の一角にあったはずだ。



241 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 04:01:12.74 ID:s7iJPSG6.net
気は進まない。

けど、一応、ここはレイのためにも、きちんと公平を期すために言っておく。

そのとき、時計台の時計、その長針は数字の「4」を指していて、つまり、時刻は午前六時二十分だった。

レイの言った時間は、午前六時。

俺は約束に二十分も遅れていた。




242 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 04:06:11.36 ID:s7iJPSG6.net
でも、俺はそこにレイがいると信じて疑わなかった。だって、そうだろ?レイは約束してくれた。

どこか遠くに住んでるかもしれないのに、わざわざこの公園まで来てくれるって。

それが、二十分遅れたくらいで、さあ。


どきどきしながら、俺は木陰からその方向を覗いた。

広場では、何人かのじいさんばあさんが体操をしていて、その向こうのブランコには人影がなかった。



243 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 04:08:59.24 ID:s7iJPSG6.net
いない。

そう思った瞬間、さああっと全身から血の気が引く音が聞こえたような気がした。

いない。

俺は目をこらして、まるで間違い探しでもするみたいにブランコのあたりを見た。

いない。

木陰の俺を、一人のばあさんが見とがめた気がして、俺は顔を引っ込めた。



244 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 04:13:42.86 ID:s7iJPSG6.net
いない、レイがいない。

俺の体をここまで引っ張ってきた力が急激に失われて、俺はふらふらと踵を返した。

けど、そのままじゃ やっぱり帰ることもできなくて、何回も場所を変えてブランコの方を見た。

けど、結果は同じだった。



レイはいない。

来てくれなかった。

約束したのに、俺はそれを信じたのに、レイは嘘をついたんだ。



245 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 04:18:38.43 ID:s7iJPSG6.net
このとき、あの広場で体操してた じいさんばあさんに一言聞いていれば、

「誰かを待ってる風な人がいませんでしたか」

そう勇気を出して聞いていれば、と俺は今でも悔やんでいる。

そうすれば、レイが本当は何者で、なぜ俺の前に現れたのか、少しはその理由がわかったかもしれないと思うからだ。

もちろん、わかってどうなるってこともないかもしれない。

けど、すべてが過去になってしまったいま、俺はそれだけを悔やんでるんだ。



246 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 04:30:54.50 ID:s7iJPSG6.net
まあ、それから・・・・・・公園に放置された格好の俺がどうやって家まで帰ったのか、それはあんまり面白くもないから端折ることにする。

時間が経ち、人が増えてきた町を、俺が胸を張って帰れたはずもない、ということだけ。

とにかく、それが運がよかったのか悪かったのか、考えられないような時間をかけて俺が家にたどり着いた頃には、親はとっくに会社に出かけて、家はもぬけの殻だった。

家の鍵は開けっ放しにして出て行ったが、まさか俺が外に出たとも思わずに、自分が閉め忘れたとでも思ってくれたんだろう。

鍵は閉まっていたが、俺は外に置いてある合い鍵で中に入った。

くたくたに疲れてはいたが、眠れそうになかったので、冷蔵庫の中からビールを一缶拝借してみた。

初めて飲んだビールは、まずくて酔っ払えるようなもんじゃなかった。

俺はそれ半分以上残したまま、眠った。



247 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 04:35:43.01 ID:s7iJPSG6.net
次の夜。

寝ても起きても、俺の心は傷ついたままだった。

俺はパソコンの前でレイを待った。

そして、最低の言葉を選りすぐった。


俺が傷ついたのと同じくらい、レイを傷つけてやろうと思ったんだ。




248 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 04:40:09.61 ID:s7iJPSG6.net
ぽーん

音がして、レイが現れた。

「この嘘つき」
「クズ、クソ」
「裏切り者」
「俺を操って楽しいか?」
「俺がどんな思いであそこまで行ったと思う?」

書きためておいた言葉を、怒濤のようにコピペした。



249 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 04:46:51.82 ID:s7iJPSG6.net
「俺が苦しむのを、笑ってみてたのか?」

「おまえもAと同じなのか」

「俺を馬鹿にして、こそこそ陰で笑って」

「最低だ!」

「人間としてやっていいことと悪いことがあるだろ」

「俺は約束を信じたんだぞ!」


コピペし終わると、俺は一息ついた。

言ってやったぞ、変に満ち足りたような気分だったかもしれない。

言い返せるもんなら言い返してみろ、そんなふうに思ってたかもしれない。

けど、レイの反応はいつもとあまり変わらなかった。



250 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 04:58:57.51 ID:s7iJPSG6.net
「謝罪を期待した私が馬鹿だったかしら」

「謝罪?」

「なんで俺が」

嫌な感じがした。

レイを前にすると、なぜだか いままで見えなかったものが見えるようになる気がする。

それはきっと、レイは俺に感情を抜きにした、〈現実〉を見せてくれるからだった。

そして、このときのレイもそうだった。


「約束を破ったのは、あなた」

「午前六時、私はあそこにいた」

「あなたは姿を見せなかった」

「私が知っているのは、それだけ」


淡々と言われて、俺は詰まった。

だけど、俺はまだ言い足りてなかった。



251 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 11:03:35.68 ID:s7iJPSG6.net
「俺だって、行ったよ!」

「すげえ一生懸命努力してさ」

「俺、ずっと家の外なんて出たことなかったんだぞ」

「それを、君が待ってるからってさ」


「でも、あなたは現れなかった」


にべもなく、レイは言った。

その思いやりのない言葉に、俺は少しキレた。


「俺だって努力したんだ!」

「実際、公園にも行った!」

「そりゃ、結果的には遅刻したかもしれないけど」

「俺がどれほど大変だったか、少しは考えてくれてもいいんじゃないか?!」



252 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 11:08:52.16 ID:s7iJPSG6.net
「その努力は私には見えない」

しかし、レイの返事はさらに思いやりのないものだった。


「私にとっての事実は、一つ」

「私は行った。あなたは来なかった」

「それだけ」


「俺の努力は見えない? 努力なんて見えるもんじゃないだろ!」

俺は怒鳴った。・・・・・・怒鳴るような勢いでエンターキーを打ち込んだ。



253 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 11:19:36.83 ID:s7iJPSG6.net
けど、やはりレイは動じなかった。

「あなたが私の前に現れること」

「それが あなたの努力が可視化したということ」


「どういう意味だよ!」

俺はやはり怒っていた。

しかし、レイはいつもの調子で続けた。


「〈努力をした〉」

「人はその言葉をよく口にする」

「他人に認められたいから」

「その欲求を否定するつもりはない」

「けど、その言葉を聞くたび、私はこう思っている」

「〈努力は申告制〉」

「その本人の感じ方次第」

「日に一時間、何かしたことを〈努力した〉と言う人もいれば」

「十時間やって〈努力した〉と言う人もいる」

「どれだけ集中しているのかもわからない」

「だから、努力は本人の申告制」

「他人である私に、あなたがどれだけ〈努力した〉かを計る術はない」






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