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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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254 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 11:27:08.97 ID:s7iJPSG6.net
「〈努力は申告制〉・・・・・・?」

「そうよ」

涼しげなレイの言葉に、俺は ぽかんとした。

〈努力した〉という言葉が他人に受け入れられないなら、それなら、〈努力〉するは無駄なことなのか?

つまり、結果が出なければ、どんなに努力したって無駄だって言いたいのか??


「そうは言っていない」

俺の疑問を、レイは否定した。



255 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 11:42:24.34 ID:s7iJPSG6.net
「〈努力〉は目標への道のり」

「積極的にするべき」

「けど、そんなのやっぱおかしいよ」

俺は言った。

「だって、君が言ってるのは、結果が出なきゃ〈努力〉を認めないってことだろ? 世の中には結果が出なくても、本当に〈努力〉を人だっているはずだ」

もちろん、それは俺だ!なんて言うつもりはないけど、例えばオリンピックに出たくて努力してる人たちが、全員、そこに出られるわけじゃない。選考から漏れる人が必ずいる。

そして、それは(たぶん)才能とかの差であって、努力の差じゃないはずだ。

でも、出場できなければ、結果は出たことにならない。

レイはそういう人の努力まで否定するつもりだろうか。



256 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 11:49:07.84 ID:s7iJPSG6.net
「オリンピック選手ね」

レイは俺の質問に答える前に、少し皮肉を言った。

「あなたは もう少し身の丈に合った想像をしたほうがいいと思う」

「すぐにトップの人たちと自分を並べるのは、いいことだとは思わない」

「目指すべき位置に彼らを置くならいいのだけれど」


「・・・・・・どうせ俺は底辺の人間だよ」


「そうやって、自分を貶めるのもあなたの悪い癖」

「トップはいても、底辺はいない」

「私はそう思ってる」


俺の自嘲を、レイは真面目に諭した。




257 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 11:59:54.47 ID:s7iJPSG6.net
「それで、あなたの質問だけど」

レイはすぐに話を戻した。

「結果がすべてだとは思わない」

「努力しても報われないことは多い」

「けど、その努力は認められるべき」


「さっきと言ってることが違うだろ」

俺は顔をしかめた。

「さっきは、結果=努力が可視化した状態って言っただろ。結果が出ない努力は計れないって。その計れない努力を、どうやって認めるんだよ」

「〈自己申告制〉の努力をさ」



258 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 12:15:35.61 ID:s7iJPSG6.net
「努力を計る術はない」「正確には」「それは本人にしかわからないこと」


「じゃ、やっぱり・・・・・・」


「けど、努力には見えるものもある」「他人は、そういうものを指標にするしかない」「受験勉強なら、解き終えた参考書の数」「スポーツなら、練習量」「それが他人に見える努力」「本当に努力をしているなら、必ず記録としてあとに残るもの」



259 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 12:25:07.57 ID:s7iJPSG6.net
「でも、じゃあ俺の努力はどうなるんだよ」

俺は今朝の自分を思い浮かべた。

確かに、約束の時間には間に合わなかった。けど、俺は努力した。

引きこもってた部屋を飛び出して、ほとんどパニックになりながら公園に行った。

「その俺の努力はどうなるんだよ。何の記録も残らないし、結果も出せなかった。なら、俺はなにもしてないってことになるのか? 俺の努力は全部無駄だったのか?」



260 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 12:30:51.82 ID:s7iJPSG6.net
「無駄なはずがないわ」

レイは言った。それは いつになく優しい言い方だった。

でも、俺はそれに反発した。

「何でだよ。君は俺の努力を認めてくれないんだろ? 見えないから」


「ええ」「私はあなたが努力したことを知らない」「あなたは現れなかったから」


「じゃ、やっぱり無駄・・・・・・」


「無駄じゃない」「そう言ってるでしょう」

レイは続けた。


「確かに、私はあなたの努力を知らないかもしれない」


「けど、あなた自身は?」「あなたは誰よりも知っているはず」「自分が努力して、その結果行動が起こせたことを」「その部屋から出たことを」



261 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 12:36:51.75 ID:s7iJPSG6.net
「他人に認められない努力もある」

「他人は所詮他人。あなたじゃないから」

「だから、それは仕方がないこと」

「あなたの努力は、あなた自身が一番認めてあげるべき」

「その努力は あなたを裏切らない」

「あなたの中で着実に積み上がっていく」

「例え、誰もそれに気づかなくても」


珍しく、レイの言葉からは熱のようなものが感じられた。だから、俺は言い出すことができないでいた。

でも、俺は認めて欲しい。俺じゃなく、他人に。・・・・・・というよりも、君に。

そんなことを言ったら、甘えてるみたいでかっこわるいと思った。



262 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 12:44:13.64 ID:s7iJPSG6.net
でも、そんな俺の気持ちを察してくれたのはレイだった。黙ってる俺に、レイはこう言った。

「あなたの努力を認めない、そう言ったけれど」

「私は あなたのことを信じてる」

「あなたは努力して部屋から出た」

「そして、公園に来てくれた」

「会えなかったけど、私はそう信じてる」


「だから」

「私も証拠を残してきた」

「ブランコから見て右の植木の根元」

「土に埋まった青い小瓶」

「探してみて」


それだけ言うと、レイはチャットから消えた。




263 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/10(木) 14:21:50.75 ID:s7iJPSG6.net
レイは本当に来てくれたんだ。


俺は驚いて、何度もその言葉を読み返した。

信じてなかったわけじゃない。

でも、まさか、本当に・・・・・・・・・・・


「それから」

そのとき、突然文字が現れて、俺は覗き見されたようにびくりとした。

もちろん、言葉の主はレイだ。


「忘れないで」

「今回の外出は目標への第一歩」

「あなたがしなければならないのは、彼の観察」

「記録をつけて」

「その記録が、あなたの努力を可視化する」

「それじゃ」


一方的に言うと、今度こそレイは画面から消えた。

俺が口を挟む暇なんて、少しもなかった。



265 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 03:30:58.18 ID:cSmjjL1b.net
その言葉で、レイの優しさ?に浮かれてた俺の気持ちは、途端に引き締まった。

俺は目先のことに一喜一憂して、すぐに目標を忘れてしまうところがあって、このときも その状態だった。

そうだった。

とりあえず、レイの〈証拠〉は置いておいて、俺はごくりと唾を飲み込んだ。

俺は、Aを殺すために行動を起こしたんだ。



266 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 03:35:06.83 ID:cSmjjL1b.net
そう考えると、何だか不思議な気分だった。


俺は部屋をゆっくりと見回した。

そして、思った。

俺は、ここから出たんだ。


それは俺にとって本当に不思議なことだった。

だって、俺はここから出られないと思ってたんだ。

出られるわけがないと、出たら死ぬってくらいの勢いで。


けど、俺は出た。ここから出たんだ。



267 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 03:39:50.28 ID:cSmjjL1b.net
〈あなたの努力は、あなた自身が一番認めてあげるべき〉

レイの言葉が、いまさら胸を熱くした。


俺、できたんだよな。

やり遂げたんだよな。


大げさかもしれないけど、ガッツポーズしたいような気分がこみ上げた。

けど、そのときだった。


「ホント、大げさね」

誰かが俺の中でくすりと笑った。

俺が勝手に創り上げた、頭の中のレイだった。



268 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/11(金) 03:47:51.92 ID:cSmjjL1b.net
「部屋から出たくらいで、なにそんなに喜んでるわけ?」

頭の中のレイは嘲笑した。

「引きこもりが部屋から出て、醜態さらして、それの一体どこが偉いわけ? 努力なわけ?」

「あなたの姿なんて誰も見たくないのよ」

「気持ち悪いったらありゃしない」

「ああ、ホント気持ち悪い」


頭の中のレイは俺を見下すように嫌な目で見た。彼女の目論み通り、身体を強ばらせた俺を。






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