ケータイの中だけの恋愛
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62 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 08:15:28 ID:DV3GgTKn
彼女とのメールは初めの内はルールがわからず戸惑うことが多かった。
設定としては恋人同士がするメールなのだが、彼女の仕事などの現在の状態について聞くのはNGらしい。
その代わり、「今何してるの?」といったような当たり障りのない内容なら無難な返事が返ってくる。
あとは彼女の現在の話はダメでも、過去の思い出話なら平気だということも分かってきた。
俺の方はと言えば、特に隠し立てするようなこともないので、実名や会社名こそ出さないものの、話したいことを どんどんとメールに書き連ねていった。
過去の恋愛、仕事の愚痴、最近見た映画、テレビの話。
メールの往復は一日数十回。
もし俺以外にも客がいるとしたら、彼女は一日何通のメールをやりとりしているのだろう。
キーボードならともかく 携帯でそんなに大量のメールをさばけるのだろうか。
しかし声の感じからすると、彼女は二十歳かそれ未満に感じられた。
この世代は中学校から携帯を持っててもおかしくない世代。
親指タイプ暦6年。
しかも中学生というもの覚えのいい時期から始めているんだ。そのくらい出来てしまうのかもしれない。
おそるべし、親指タイプライター。
64 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 08:30:50 ID:DV3GgTKn
彼女のメールは実にマメだった。
朝のオハヨウメールから始まり、通勤電車、仕事の休憩時間、家に帰ってから寝るまでの間。
返信は光の速さで返ってくる。待たされることはめったにない。1回のメールのボリュームも少なすぎず多すぎず、話の内容も楽しかった。
なんというか、彼女は聞き上手なのだろう。メールで『聞き』上手というのもおかしいかな。正しくは『読み』上手?
会社でも喫煙所で頻繁にメールをしている俺の姿が目立ったらしく、「彼女できたんですか?」とからかわれることが、たびたびあった。
さすがにそこで「彼女ができた」というのは はばかられ、「いや、友達ですよ」と返事をしていた。
だが暇さえあればメールをしている俺の姿から、社内では気がづけば すっかり彼女持ちとして認識されるようになっていた。一度も肯定してないんだけどな・・・・。
現在の彼女の素性を聞いてはいけないというNGはあったものの、それでも お互いのことはしだいに理解が深まっていった。
どちらかというと慎重派で穏やかであることを望み、我慢強い俺に対し、明るく自由奔放で、我慢をすることが嫌いな彼女。
人間、自分と似てない相手の方が魅力的に感じるのだろうか。自分と違って社交的な印象を受ける彼女に俺は どんどん好感を持っていった。
66 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 08:44:08 ID:DV3GgTKn
どこかで読んだ話によると、人間はその時、最も接触回数の多い異性に恋愛感情を抱きやすいらしい。
メールでのやり取りが『接触』と呼べるのかは定かではないが、俺が彼女に恋愛感情を抱くのは時間の問題だった。
顔も知らない、声だってほとんど聞いたことない相手なのにね。おかしいでしょ?
最初のひと月が経つ頃には、俺はメールだけのやり取りでは満足できなくなっていて、顔も知らない彼女への想いで胸を苦しませていた。
ある夜、恒例のオヤスミメールの時、俺は思い切って「オヤスミ、美紀。好きだよ。」と送ってみた。
返信は即座に帰ってきて「あたしも隆が好きだよ。おやすみ〜」と書いてあった。
自分でやっておいて こんなことを言うのもなんだが、虚しくなって後悔した。
恋人同士という設定での有料メールなのだ。「好きだ」と言えば「好きだ」と、「愛してる」と送れば「愛してる」と返事が来るに決まってるのだ。
「そうじゃない、顔も見たこと無いのに君のことが本当に好きになったんだ」
そんなメールは送れるはずもなく、俺の胸の苦しさは どんどん締め付けがきつくなっていった。
彼女とのメールは初めの内はルールがわからず戸惑うことが多かった。
設定としては恋人同士がするメールなのだが、彼女の仕事などの現在の状態について聞くのはNGらしい。
その代わり、「今何してるの?」といったような当たり障りのない内容なら無難な返事が返ってくる。
あとは彼女の現在の話はダメでも、過去の思い出話なら平気だということも分かってきた。
俺の方はと言えば、特に隠し立てするようなこともないので、実名や会社名こそ出さないものの、話したいことを どんどんとメールに書き連ねていった。
過去の恋愛、仕事の愚痴、最近見た映画、テレビの話。
メールの往復は一日数十回。
もし俺以外にも客がいるとしたら、彼女は一日何通のメールをやりとりしているのだろう。
キーボードならともかく 携帯でそんなに大量のメールをさばけるのだろうか。
しかし声の感じからすると、彼女は二十歳かそれ未満に感じられた。
この世代は中学校から携帯を持っててもおかしくない世代。
親指タイプ暦6年。
しかも中学生というもの覚えのいい時期から始めているんだ。そのくらい出来てしまうのかもしれない。
おそるべし、親指タイプライター。
64 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 08:30:50 ID:DV3GgTKn
彼女のメールは実にマメだった。
朝のオハヨウメールから始まり、通勤電車、仕事の休憩時間、家に帰ってから寝るまでの間。
返信は光の速さで返ってくる。待たされることはめったにない。1回のメールのボリュームも少なすぎず多すぎず、話の内容も楽しかった。
なんというか、彼女は聞き上手なのだろう。メールで『聞き』上手というのもおかしいかな。正しくは『読み』上手?
会社でも喫煙所で頻繁にメールをしている俺の姿が目立ったらしく、「彼女できたんですか?」とからかわれることが、たびたびあった。
さすがにそこで「彼女ができた」というのは はばかられ、「いや、友達ですよ」と返事をしていた。
だが暇さえあればメールをしている俺の姿から、社内では気がづけば すっかり彼女持ちとして認識されるようになっていた。一度も肯定してないんだけどな・・・・。
現在の彼女の素性を聞いてはいけないというNGはあったものの、それでも お互いのことはしだいに理解が深まっていった。
どちらかというと慎重派で穏やかであることを望み、我慢強い俺に対し、明るく自由奔放で、我慢をすることが嫌いな彼女。
人間、自分と似てない相手の方が魅力的に感じるのだろうか。自分と違って社交的な印象を受ける彼女に俺は どんどん好感を持っていった。
66 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 08:44:08 ID:DV3GgTKn
どこかで読んだ話によると、人間はその時、最も接触回数の多い異性に恋愛感情を抱きやすいらしい。
メールでのやり取りが『接触』と呼べるのかは定かではないが、俺が彼女に恋愛感情を抱くのは時間の問題だった。
顔も知らない、声だってほとんど聞いたことない相手なのにね。おかしいでしょ?
最初のひと月が経つ頃には、俺はメールだけのやり取りでは満足できなくなっていて、顔も知らない彼女への想いで胸を苦しませていた。
ある夜、恒例のオヤスミメールの時、俺は思い切って「オヤスミ、美紀。好きだよ。」と送ってみた。
返信は即座に帰ってきて「あたしも隆が好きだよ。おやすみ〜」と書いてあった。
自分でやっておいて こんなことを言うのもなんだが、虚しくなって後悔した。
恋人同士という設定での有料メールなのだ。「好きだ」と言えば「好きだ」と、「愛してる」と送れば「愛してる」と返事が来るに決まってるのだ。
「そうじゃない、顔も見たこと無いのに君のことが本当に好きになったんだ」
そんなメールは送れるはずもなく、俺の胸の苦しさは どんどん締め付けがきつくなっていった。
71 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 09:28:48 ID:DV3GgTKn
最初の1ヶ月が経ち、2月目をどうするかという話になった。毎月10日は契約更新の日。支払はお早めに。
当然のことながら、この有料メールの生活に はまってしまっていた俺は契約の延長を申し込んだ。そして彼女にちょっと無理なお願いをした。
有料メルカノは今後も続けたい。でも美紀の顔写真が欲しい。ピンボケしててもいいし、遠くから写して漠然としか顔が分からなくてもいいからと。
当然彼女は断ってきたが、相手のイメージすら全く分からないのでは、擬似恋愛に感情移入がしきれないと説明し、俺は交渉を粘った。
今にして思えば、偽者の恋愛に感情移入をすることは愚かな行為でしかないわけだが。
しばらく考えさせてと彼女は言い、1時間後、写メが添付されたメールが送られてきた。
写真はピンボケもしてなくて、顔がはっきりと写っていた。
もっと派手な感じを想像していたが、大人し目の髪の色と、可愛いというより美人系の整った顔立ち。
72 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 09:43:28 ID:DV3GgTKn
「本当に本人なのかな」と疑いながら送られてきた写メを眺めていると、そんな俺の心を見透かしたかの様に、2つ目の写メが送られてきた。
今度の写メでは さっきの写真と同じ女の子がメモを持っている。
『8/10 美紀(ハートのマーク)』
これで本人確定。
俺は すぐにお礼のメールを送った。
そして自分で要求しておきながら「こんなちゃんと顔が写ってる写真送って大丈夫なの?」と彼女を心配するメールを送った。
矛盾する言動。馬鹿丸出し。
彼女が言うには、写真を送ってそれがネットとかに出回らないかが心配だったのだと言う。
でも このひと月メールをしてみて、俺は そういうことはしない人間だと判断してくれたのだという。顔を見せること自体は別に嫌ではないらしい。
信用してもらえたのは嬉しかったけど、それでもやっぱり無用心すぎると思った。ひと月やそこらで、しかもメールだけのやりとりなんかで相手を信用しちゃダメだ。
自分の彼氏だって結構危険。でないと、ネットに出回る数々のハメ撮り写真の説明がつかない。
付き合った相手だって、別れ際がこじれたら、何をしでかすかわからないっていうのに。
その夜は彼女にオヤスミメールを送った後も、なかなか寝付けず、彼女の写メをベッドの中で眺めて、メールの相手が思いのほか美人であったことに、なんだか得した気分を味わっていた。
74 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 09:59:53 ID:DV3GgTKn
その頃 俺は、よく「恋愛感情とはなんなのか」についてよく考えていた。何をもって、その対象を「好きだ」と人は感じるのだろうか?
顔だろうか。内面だろうか。生物学的には性交できる確率が高いとそうなるんだろうか。
だとすれば、俺が彼女とセックスできる確率は果てしなくゼロに近いわけだが、それでも その時点での俺の交遊範囲のなかで、もっとも交流の頻度が高い美紀を、俺の脳は最もセックスできる確率の高い相手としてはじき出し、彼女に対する恋慕の情を生み出しているのかもしれない。
そんな風に、どんなに考えて彼女への恋愛感情を正当化しようとしても、一歩下がって客観視すれば、俺は金で買ったメールを喜んでいる寂しい男なのだ。
そんなことは ずっとわかっていて、だから彼女が俺のことを「信用」して、顔写真を送ってくれたことが よほど俺には嬉しかったのだろう。
このメールのやり取りは、初め思っていたほどビジネスライクなドライなものではない。
やり取りを重ねていくうちに向こうも段々と情を通わせてきている。
まあ情と言っても恋愛感情とは程遠いかもしれないけど。
キャバクラに通う人の気持ちが少しわかった気がした。
そして自分の嬉しさの表現と、写真の俺をかねて、俺は翌日3万円を振り込んだ。
79 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 16:44:10 ID:DV3GgTKn
こうしてメールを媒介とした俺と美紀の擬似恋愛生活は2ヶ月目を向けた。
実際に会ったことがないことと、彼女の素性が分かるようなことには触れてはいけない。
この2点を除けば、俺と彼女のやりとりは本当の恋人同士と何も変わらなかった。
まさかお金を払ってる相手と喧嘩まですることになるなんて。ちょっとこのオプションはリアリティを追求しすぎだと思わない?
彼女から怒りのメールが届いたのは、お金を振り込んだ翌日の昼だった。
「なんか3万円振り込まれてるけど何で?」
俺は顔写真を送ってくれたお礼だと言ったが、それが彼女を怒らせたらしい。
写真を送ってくれたのは俺を喜ばそうとした彼女なりの善意であって、それに対してお金を払われたことが彼女には不愉快だったのだ。
俺は彼女がこの契約関係をやめると言い出すのではないかとハラハラした。恋人に別れ話を切り出されるのではないかと心配するかのように。
こんなサービスいりませんから。
81 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 16:55:32 ID:DV3GgTKn
俺の謝罪メールに対して、彼女は返事をくれなくなり、ハラハラしながら その日は仕事を終え、家路についた。
帰りの電車の中と、家についてからと俺は謝罪のメールを出し続け、彼女からのメールを待ち続けた。
その日、0時を過ぎた頃、ようやく彼女から返事が来た。
感謝の気持ちを表すのに、俺たちの関係上、お金という手段をとってしまったのは仕方がないじゃないかという俺の主張を、向こうは ある程度納得してくれたらしい。
ただ、感謝の気持ちを表すのにお金を使うというのは もう止めてくれと彼女は言ってきた。
俺は彼女の要求を全面的に受け入れ、傷つけたことを再度謝罪した。
これに対し、彼女が「仲直りのしるし」と「罰ゲーム」として要求してきたのは俺の顔が はっきりと写った写メールだった。
その夜、俺は風呂上りの頭を真夜中にセットしなおし、できるだけ男前に写るよう、夜中の2時まで自分の携帯と格闘することとなった。
84 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 17:09:16 ID:DV3GgTKn
この事件がきっかけで、俺の彼女に対する想いはより一層深まった。
通勤電車、会社の喫煙所、家のベッドの中。俺は彼女の写真を始終眺め、ため息をついては胸の苦しさを感じるのだった。
あとは この事件のお陰で、彼女は「怒る」という感情を示すほど、俺との関係をちゃんとした人間関係として認めてくれているということがわかり、俺は ちょっとだけ彼女との未来に希望を抱いたりしていた。
だってそうでしょ?本当にお金の為だけにメールのやりとりをしていたのなら、お金を多く振り込まれても怒るはずがない。
そんな風に俺は彼女との今後に期待感を膨らませ、この頃から彼女の気を引くように色々と小細工をしはじめた。
メールだけの関係でも色々と方法はあるんだよ?メールの返事を少し遅らせてみたり、たまには そっけなく、ちょっと冷たい返事をしてみたり。
そしてその後は、うんと優しく「愛してる」と伝えたり、感謝の気持ちを綴ったり。
88 :名無しさんの初恋:2005/10/29(土) 17:16:35 ID:6Pw2sUaY
ドキドキ。名スレの予感
89 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 17:20:44 ID:DV3GgTKn
でも一番努力したのは、彼女の聞き手にまわろうとしたこと。
これまでは一方的に自分の話したいことを話し、彼女はひたすら聞き役にまわり、俺を慰め、生活に潤いを与えてくれていた。
今後は そうではなく、自分も彼女のよい聞き手になれるよう、自分なりに努力し始めた。
一方的に彼女を必要としてる関係ではなく、彼女にも自分を必要として欲しかったのだ。月2万のお小遣い以外にもね。
メールの件でも分かるように、この頃には俺と彼女の間にある程度の信頼関係がなりたっていた。だから彼女に自分の話をさせるよう仕向けることはそんなに難しくはなかった。
もちろん最初から彼女がペラペラと自分のことを書いてくるはずもなく、俺はメールの中に少しずつ質問を織り交ぜ、少しずつ彼女の周りの壁をとりはらっていった。
素性が知れるようなことは いつまでたっても教えてくれないものの、昔の思い出話、最近面白かったテレビ、その日の予定、楽しかったこと、頭に来た事など、少しずつ彼女は自分から話すようになっていった。
俺はそれに対し、彼女の中で世界一よい聞き手になれるよう、熱心に耳を傾け、練りに練った返信メールを彼女に対して送り続けた。
>>次のページへ続く
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