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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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185 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/08(火) 12:28:55.41 ID:diu5J1c8.net
もちろん、悪いのはAだけじゃない。その取り巻きも同罪だ。

だけど、Aに比べれば そいつらはまだましと言えた。

「A、ね」

レイは言った。

このときばかりは、その冷たい言い方が気に入った。レイがAを見下してるように聞こえたからだ。

俺は千人の味方をつけたような気分だった。



186 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/08(火) 12:34:18.08 ID:diu5J1c8.net
「彼の家を知っている?」

レイは聞いた。

「なんで?」

間抜けにも俺は聞き返した。

俺は〈頭の中の世界〉から、やっと鼻の先を出してるに過ぎなかった。

つまり、殺す殺すとわめいていても、トリックだ何だ考えていても、現実の実行可能性なんて、これっぽっちも考えてなかったんだろう。

いまじゃ笑えるような、そうじゃないような。



187 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/08(火) 12:37:58.67 ID:diu5J1c8.net
「彼の家を知っている?」

レイは二度、同じ質問を繰り返すことになった。

「○○地区だと思ったけど・・・・・・」

「知らないのね」

「どこ、ってのは・・・・・・」

「誰かに聞けば知ってるかもしれないけど」



188 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/08(火) 12:46:27.23 ID:diu5J1c8.net
「誰かって誰?」

「あなたに それを聞けるような人がいるの?」

レイの放った氷が胸に刺さった。

・・・・・・レイの職業は魔法使いなのかもしれない。


「いないけど・・・・・・」

うなだれた俺に、

「じゃ、調べる必要があるわね」

レイは あっさり言ってのけた。



189 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/08(火) 12:55:54.23 ID:diu5J1c8.net
「でも、調べるってどうやって・・・・・・」


「やりようは いくらでもある」

「本人を尾行する」

「その家を探してるふりをして、近所の人に尋ねる」

「SNSから情報を拾う」

「世帯主名から検索する」

「家が自営業をしていれば もっと単純」

まじか。


ほかにも つらつらと並べるレイに、俺は驚いた。

個人情報って、意外とパソコンがない昔の方が堅かったりして。



190 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/08(火) 13:05:52.79 ID:diu5J1c8.net
「○○県○○市○○区○○○番地」

そのとき、ぱっと見覚えのある住所が並んだ。

とはいっても、途中までだ。うちの住所じゃない。

「これって・・・・・・」

俺はおずおずと聞いた。


「お望みの住所」

「彼の祖父は県会議員をしてるのね」

「自宅の隣が事務所になってたわ」


Aの祖父が県会議議員をやってたなんて、知らなかった。あいつ、いいとこの坊ちゃんだったのか。取り巻きも、それを知って金魚の糞をしてるんだろうか。

衝撃は徐々に苛立ちに変わった。



191 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 03:24:31.47 ID:e4i9ERjX.net
「じゃあ、無理だろ」

少しでも気に入らないと、すぐに放り出したくなるところからも、どんなに俺の意思ってやつが あやふやか、わかるだろう。

「県会議員の子供なんて殺したら、俺が社会的に抹殺されるじゃん」

完全犯罪を狙ってる段階で、この発言も解せない。

「子供ではなく、孫、ね」

レイは冷静に間違いを正した。

「それに、怖いならやめる?」



192 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 03:29:25.44 ID:e4i9ERjX.net
「別にやめるとは言ってないけどさ」

俺は やっぱり日和見だった。きっと、意思なんてない俺は、何でも強い方に流される。この場合は、つまりレイの意思に。


「じゃ、続けるわ」

レイがそう言ってくれたことに、俺は ほっとした。もし、「続ける?」と疑問形で聞かれたら、俺はどうしたらいいのかわからなかったから。



193 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 03:40:13.11 ID:e4i9ERjX.net
「家の場所を、ストリートビューで確認して」

「わかった」

俺は言われたとおりにした。ネット時代ってのは便利だ。部屋から一歩も出ないで、やつの家が見れるんだから。


「この、白い家?」

都会風の、小ぎれいな一軒家。

それを睨んだ俺に、レイは首を振った。

「違う、その右隣」

「これ?」

俺は画像を見直した。

そこには ほかとさして変わらないような、田舎の家が鎮座していた。

これが県会議員の家?



194 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 03:47:31.68 ID:e4i9ERjX.net
「一口に県会議員といっても、いろいろある」

さしたる興味もないような口調で、レイは言った。

「中には本当のお金持ちもいるかもしれない」

「それとは逆に、負債を抱えた人も」

「破綻するまで誰も気づかないなんて、よくある話」

「そうなんだ・・・・・・」

俺は馬鹿みたいにそう言った。

それから、願わくば あいつの家が破綻して一家離散してしまえばいい、なんて思った。



195 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 03:52:49.34 ID:e4i9ERjX.net
「もし、俺がハッカーとかだったらさ」

俺はここでも馬鹿っぷりを発揮した。

「あいつのじいさんのコンピューターとかに入り込んで、ちゃちゃっと不正の記録なんか見つけて、あいつらを社会的に葬ってやれるのに」

・・・・・・何言ってんだかわからんが、馬鹿だということだけはわかるな。

「住所一つ、調べられなかった人が?」

レイも間違いなく、いまの俺と同じ感想を抱いたらしい。



196 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 04:01:44.52 ID:e4i9ERjX.net
「それから」

レイはさらに冷たく言った。

「目標をはっきりさせて」

「あなたは何をしようとしているの?」


「何を・・・・・・って?」


「あなたの目標は、なに?」

「Aではなく、Aの祖父を破綻させることなの?」

「目標を変えることは構わない」

「けれど、変えたなら教えてくれないと困る」


「えっと・・・・・・・」

ちょっと言ってみただけじゃん、俺は思った。少しの冗談も許されないのかよ、って。レイが誰のために聞いてくれてるのか、考えもせず。



>>次のページへ続く
 
 


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