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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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321 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 11:14:29.44 ID:3y8Xfu8b.net
俺は時々休みながらも、Aの観察を続けた。

そして、そういう日には必ず記録をつけた。


3/13 Aいない。見逃した?

3/14 いなかった。

それから、日付が飛んで、

3/17 いた。前見たのと同じ時間で、コンビニ。

3/18 いない。


・・・・・・という具合に。



322 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 11:21:26.63 ID:3y8Xfu8b.net
記録は俺の大事な宝物、といっても過言じゃなかった。

俺は自信がなくなりそうになると、よくその記録を眺めた。

そうすると、そこには書き付けたままの事実が並んでいて、それは俺を安心させてくれた。

俺は もっと記録をつけたくなった。

それだけのために、早く明日になればいいのにとさえ思った。

記録が増えれば、それだけ俺は成長したんだ、そう思えるような気がした。


Aの出没パターンがわかったのは、俺の〈努力の跡〉が少しずつ増えていった、そんなころだった。



323 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 11:33:40.63 ID:3y8Xfu8b.net
それは、いつものようにAの後ろ姿を見送ったあとだった。

その日、俺はレイとのチャットで、

「多分、Aは火・木・土、が塾の日だと思うんだけど」

と、憶測の発言をして、

「だと思う、じゃ完璧とは言えないわ」

レイにそうダメ出しされていた。

「もちろん、Aが風邪を引くとか、予測不可能な不確定要素はある」

「でも、それ以外のことは きちんと確かめるべき」

「けど」

レイはこうも言った。

「そろそろ、場所や時機をうかがってもいい頃」

「目的達成の手段も」

「周囲の観察も始めるといい」

それを聞いて、やった! 俺は心の中でガッツポーズをした。



324 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 11:46:14.78 ID:3y8Xfu8b.net
次の段階へ進む許可。

それは俺が努力を続けた証拠で、同時にそれをレイが認めてくれた証拠だった。

俺はAが消え、ほかの塾生が消えたのも確認してから、そっと公園の外に出た。

それは初めてのことだった。

俺は自分が何だか無防備に思えてどきどきした。

いままで自分を隠してくれてたフェンスや植木がないと、こんなにも違うんだって、そう思った。



325 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 11:50:06.14 ID:3y8Xfu8b.net
それと、いままでと違うことは もう一つあった。

コンビニだ。

夜の中に煌々と輝くコンビニの光は、できるだけ暗闇に溶けていたい俺には少しまぶしすぎた。

それに何より、あそこには人間がいる。

俺は しばらくためらったあと、Aの去った方向に足を向けた。

もちろん、できるだけ暗い道の端を選んで。



326 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 11:54:35.75 ID:3y8Xfu8b.net
一度帰ったAが戻ってくる心配は、さしてしていなかった。

だって、いままでAが戻ってきたことはなかったし、それに戻ってくる理由もない。

さすがに塾は閉まってるんだろうし、ただでさえ遅いのに忘れ物を取りに戻るなんて、そんなことはしないような気がした。

・・・・・・そんな気がした、ってだけで うかつにうろつくとか、完全犯罪はどうしたんだよ、ってツッコミはこの際しないことにする。



327 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 11:56:38.68 ID:3y8Xfu8b.net
俺は、いつもAが消える曲がり角まで歩いた。

もう少し、Aの後を追ってみようかな。

そう思って、この先、Aがどの道を帰っているのか知らないことに気づいた。

レイの言ってた〈周囲の観察〉ってこういうことか。

俺は非常に低いレベルで、そう納得した。



328 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 12:07:37.08 ID:3y8Xfu8b.net
けど、どうやってAの詳細な帰り道を知るべきか。

怪しまれないように、とりあえずは歩きながら、俺は考えた。

Aを殺す、場所と手段。

それを考えるためには、どうしても それを知らなくてはならない。

なぜなら、公園とコンビニに挟まれたあの通りは大きく、人目があるし、曲がり角を曲がったこの通りもやはり明るく、いまにも人が通りそうだ。

それに、やっぱ捕まりにくいのは、通り魔的な殺人だろうしな。

観察を続ける間に、俺は殺しの手段を ほぼ刺殺に絞っていた。

なぜなら、いままでの観察の成果からは、毒殺や密室トリック(!)は できなさそうだったし、実際起きた事件を調べるうちに、その方法が一番いいと思ったのだ。



329 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 12:12:14.87 ID:3y8Xfu8b.net
近づいて、グサッ。

近づいて、グサッ、だ。

片手でナイフの素振りを真似ながら、俺は進んだ。

〈考えるより、行動〉

〈努力とは練習量〉

その二つの考えは、俺の中に かなり染みこんでいた。

本番前に、こうして素振りをすることも きっと糧になる。

俺は真剣だった。



330 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 12:20:20.59 ID:3y8Xfu8b.net
「そう」「わかった」

暗がりで、追い越しざまにナイフで殺す。

次の日、そんな計画を打ち明けると、レイはやっぱり冷静に言った。

「どう思う?」

「あなたができると思うなら、できる」

「このまま、きちんと手順を踏めば」


やった!

俺は またしても喝采をあげた。

物事は一度うまく転がり出せば、ゴールまで一直線に進む。

怖いくらい順調に進む計画に、俺は満足だった。



331 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 12:29:46.39 ID:3y8Xfu8b.net
「でも、いざ現場が見つかったとして」

「解決すべきことは いろいろある」

喜ぶ俺に、レイは ほんの少したしなめるように言った。

「えっと、それって・・・・・・」


「例えば、刃物の調達先」
「その処分方法」
「返り血をどうするか」

「ああ・・・・・・」


返り血。

その言葉は少し生々しく、俺はごくりと唾を飲み込んだ。

「それから一番の問題としてだけど」

レイは続けた。

「あなたは自転車に乗ってる相手を、どうやって刺すつもり?」



332 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 12:35:08.19 ID:3y8Xfu8b.net
・・・・・・。

・・・・・・それは・・・・・・たしかに。

ぐうの音も出ず、俺は黙った。

そうだ。

あいつは自転車に乗ってたんだ。。。

ああああ、どうして俺の考えることって、こんなだめなことばっかりなんだ。。。。



333 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 13:54:27.37 ID:3y8Xfu8b.net
「落ち込む必要はない」

俺の落胆を見取ったように、レイは言った。


「いまは計画の段階」

「誰も最初から完璧にはできない」

「少しずつ、進めればいい」

「違うと思ったら、引き返せばいいだけのこと」



「そうかもしれないけど・・・・・・」

俺は頭をかきむしった。

間違ったら引き返せばいい、そうは言っても、一度決めたことを変えるのは、嫌だった。

それも、簡単に決めたわけじゃない。

俺が確かな努力の結果、何日もかけて決めたことだ。



334 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 14:01:56.07 ID:3y8Xfu8b.net
「引き返すことを恐れる必要なんて、なにもない」

しかし、珍しいことに、レイは俺を説得するように言った。

「例え、何かに失敗したとしても、それは同じ」

「それは決してゲームオーバーじゃない」

「あなたは何度でもやり直せる」



「いまから失敗だなんて言うなよ」

俺は顔をしかめた。

「縁起が悪いだろ」


すると、なぜかレイは少しの間、黙り込んだ。



335 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/12(土) 14:07:05.52 ID:3y8Xfu8b.net
「それは、悪かったわ」

ややあって、レイが口を開いた。

「もう言わない」

「そうしてよ」

なぜ、レイが黙り込んだのか知らず、俺は言った。

「わかってるよ。ちゃんと行動して、観察して、いいやり方を考えるから」

「いってらっしゃい」

いつになく寂しげに、レイが言った。

「行ってきます」

やっぱりなにも感づかずに、俺は夜の散歩に出かけた。



339 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/13(日) 04:01:20.70 ID:uGHuDPhd.net
いつも通りの時間、いつもの道のりではあったが、俺の足はいつもより早かった。

なぜなら、俺は焦っていた。

あと一週間もすれば、学校は春休みに入る。

行動パターンが変わらなければそれでいいが、もし変わってしまったら、決行のチャンスは遠のく。

春休みが過ぎるのを待って、新学期に入ってからまた、調査をし直さなければならない。

それは嫌だった。

俺は一刻でも早く、Aがこの世から消えてなくなることを望んでたんだ。



340 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/13(日) 04:09:00.71 ID:uGHuDPhd.net
暗がりで、ナイフを使う。

目的を達成するためには、手段の変更も必要だということは理解していたが、その方法以外、俺の頭には浮かばなかった。

一時は、Aをどこかに捕らえ、俺の恨みをぶちまけてから殺したい、そんな願望もあったが、現実的に考えれば、そんな機会も場所もあるはずがない。

もしあったとしても、俺よりでかいAを捕らえるのは難しいだろう。

抵抗されて、逆にやられてお終いだ。



341 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/13(日) 04:15:36.97 ID:uGHuDPhd.net
だから、ナイフの一突きで すべてを思い知らせる。それが俺にできる精一杯だと思った。

けど・・・・・・レイの言ったとおり、Aは自転車に乗っている。

と、そのとき、向かいから自転車に乗ったサラリーマンがやって来るのが見えた。

あれをAに見立ててみよう。

俺はうつむき加減で歩道の端に寄り、怪しまれないよう、速度をそのままに歩き続けた。



342 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/13(日) 04:19:55.92 ID:uGHuDPhd.net
サラリーマンが近づいてくる。

急いでいるのか、スピードはAより早いかもしれない。

すれ違った瞬間、ナイフを突き出す。

実際にやるわけにはいかないから、俺は最大限に想像力を使ってシミュレーションした。


すれ違った瞬間だ、すれ違った瞬間・・・・・・

あと1メートル。


俺はタイミングを計り、想像の中でナイフを持った手を突き出した。



343 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/13(日) 04:25:16.61 ID:uGHuDPhd.net
さっと風が俺の横を通り抜けた。

その瞬間、立ち止まった俺を残して、サラリーマンを乗せた自転車が遠ざかっていく。

俺は唇を噛んで、上着のポケットに入れた右手を握りしめた。

・・・・・・無理だ。


実際より、想像の方が簡単だというのに、俺の想像のナイフはサラリーマンを捕らえることはできなかった。

それどころか、いろいろ問題が判明する結果となった。



344 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/13(日) 04:29:40.25 ID:uGHuDPhd.net
まず、自転車の動きが予測できない。

さっきのサラリーマンもそうだったように、俺という歩行者に気づいた自転車は、それを避けるように大きく車道へはみ出した。

これじゃ、物理的に手が届かない。


それから、自転車は意外と速い。

勝負は ほんの一瞬だ。

引きこもりで なまってる上に、元々運動神経がいいとは言えない俺が、その一瞬に急所を狙えるとは思えない。

それに、それらをしのぐ、根本的な問題があった。



>>次のページへ続く
 
 


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