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数年前、自殺しようとしてた俺が未だに生きてる話
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208 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 10:18:20.05 ID:e4i9ERjX.net
「同じことをしていたら、二の舞を舞うだけ」

「この計画も実行せずに終わる」

「あなたはどうしたい?」

「も、もちろん、最後までやるさ」


言いながら、「俺が何か最後までやり通したことなんてあったっけ・・・・・・」

そう思ったような気もする。

だって、部屋のそこら中に、組み立てないままのプラモデルや、やりかけの参考書なんかが転がってんだ。

そう思わない方が不思議だろう。


「あなたに必要なこと」

「それはとにかくやってみること」

「考えるのはそれから」


「わかったよ。やればいいんだろ」

半ばやけになって、俺は言った。

けど、Aを尾行して観察するなんて、そんなことができると思えるわけがなかった。



209 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 10:24:25.42 ID:e4i9ERjX.net
その夜は、早々にレイとの話を切り上げて、俺はベッドに寝転がった。

行動を起こす?

そして、Aを観察する?

無理だろ。はっきり言って、めんどくさいことになったなと俺は思った。

Aを殺すって思いつきは、怖いけど最高だと思った。あいつがこの世から消えてなくなる、こんな愉快なことはないだろう。あいつの苦しむ顔をどうやって眺めるか、考えるのは幸せだった。


なのに、だ。

レイは考えるより、行動を起こせという。

この部屋を出て、Aを観察しろという。

Aを殺すためでも、そんなことしなきゃならないんなら、はっきり言って自殺の方が数倍簡単に思えた。



210 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 10:30:01.63 ID:e4i9ERjX.net
俺は穴の開いた壁を見上げた。

そこに結んであった首つりヒモは、いつまでもぶら下がってても不気味だから、束ねて壁の穴に押し込んでいた。

あれを、もう一度使う?

ちらっと考え、俺は首を振った。自殺なんかいつでもできる、自分にそう言い聞かせた。

気づかないふりをしていたが、俺はたぶん このとき、もう死にたくなくなっていた。

なぜって、理由は簡単だ。レイが俺のそばにいてくれるから。



211 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 10:35:19.01 ID:e4i9ERjX.net
一人じゃなく、誰か向き合ってくれる人がいるって、ほんと重要なことだと思う。俺だけじゃなく、きっと誰にとっても。

レイは いつでも あんなふうに冷たかったけど、俺を見捨てることはしなかった。

絶対に見捨てない、そう確信を持てたわけじゃないが、何時間も俺の話につきあい、明日の約束をしてくれた。

それは存在の肯定だった。

俺がここにいることを、レイは許してくれたんだ。



212 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 10:40:08.02 ID:e4i9ERjX.net
少しだけ、外に出てみようか。

ほんのわずかだけだけど、俺はそう思った。

何もAの観察なんかしなくてもいい。

久しぶりに外に出るのもいいんじゃないか?

〈あなたに必要なことは、とにかく行動を起こすこと〉


レイの言葉が頭の中で繰り返された。

俺はベッドから起き上がった。

少しだけ、ほんの少しだけだ。

ドアノブに手をかける。

そして、俺はその行動の問題点に気づいた。



213 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 10:47:40.42 ID:e4i9ERjX.net
バイクのエンジン音が近づき、カタン、郵便受けが音を立てた。

俺は時計を振り返った。

午前五時四十五分。

普通の人たちが目を覚まし、活動を始める時間だ。

普通のサラリーマンや、普通の学生、普通の主婦が起き出して、一日を始める時間だ。



214 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 10:55:34.34 ID:e4i9ERjX.net
だめだ。

俺はドアを背に床に座り込んだ。

心臓が ばくばく音を立てている。

手のひらがじっとり汗でぬれて、足が小刻みに震えている。


〈あなたは自分が望んでも、そこから出ることができなくなる〉


レイの声が頭に響いた。

「うそだろ・・・・・・」

俺はリアルにつぶやいた。

だって、引きこもる前には、俺だって「普通の学生」だったわけで、「普通の暮らし」をしていたはずだ。

それに、不登校を始めた頃は、普通にコンビニくらい行ったこともある。

だってのに、なんで俺はここから動けない?



215 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 10:58:38.08 ID:e4i9ERjX.net
やばい、やばい、やばい、やばい・・・・・・

ぐるぐると そんな文字が頭の中を回った。

これがレイの言ってた〈呪い〉ってやつか?

ってか、これ以上〈呪い〉が強くなったら どうなっちまうんだ?

俺はおびえた。

そういえば、重度の引きこもりはトイレにさえ行けないって話を聞いたことがある。

俺もいずれ そうなっちまうのか・・・・・・?



216 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 11:07:34.65 ID:e4i9ERjX.net
だめだろ、そんなの!

俺は思ったが、だからといって どうしたらいいのかわからなかった。

「レイ、俺、ここから出られない」

すがるようにパソコンに飛びつき、そう打ち込んだが、反応はない。

「レイ・・・・・・」

家の外に出て、他人の視線にさらされる。そう考えただけで、動悸はひどくなった。


〈見えもしない、聞こえもしない他人の心なんて どうでもいい〉

必死な思いでログをたどると、そんなレイの言葉が見つかったが、やっぱり俺は どうでもいいだなんて思えなかった。


結局、俺はいつものように毛布をかぶり、暗闇に逃げた。

この毛布をかぶるという行為も、部屋の中から さらに引きこもっているのだと考えると、どうしようもなく辛かった。



217 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 11:14:38.37 ID:e4i9ERjX.net
「出られない?」

次の夜、チャットに俺が大騒ぎした跡を見つけて、レイは言った。

「そうなんだよ」

俺は感情を込めて言った。

少々大げさに言っているという自覚は・・・・・・認めたくないけど、少しはあった。

でも、当然だろって気持ちも同時にあった。

だって、外に他人がいるって思うだけで、部屋から出られないんだぜ?

明らかに異常だ。それを認めてほしかった。



218 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/09(水) 11:21:08.04 ID:e4i9ERjX.net
「動悸がして」「冷や汗が出て」「足なんか、もう震えちゃってさ」「全然止まらないんだよ」

ここぞとばかりに俺は力説した。

すると、レイは意外なことを言った。

「午前六時に出てこれる?」

「○○公園で待ってるわ」

「ブランコのところ」

「それじゃ」

「え、それって」

動揺した俺が何度もタイプミスしているうちに、その日のレイは消えてしまった。



>>次のページへ続く
 
カテゴリー:人生・生活  |  タグ:すっきりした話, 修羅場・人間関係, ためになる話, これはすごい, ためになる話, ちょっといい話,
 


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