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三十路の喪女に彼氏ができたときのお話
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91 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:51:05.82 ID:LZSY7jKs.net
「はーーーーー」と、M君が手で顔を覆ったまま 体がしぼむくらいに大きな息をついた。
「え、なに?まだなんかあるの?」
「いや……今ので気が抜けた…」
「そんな緊張してたの?」
「うん、絶対引かれて嫌われると思ってたからさ…人に話すのも初めてだし、どんな反応されるかわからなかったから。
だけど喪子とは、ちゃんと付き合いたかったから なおさらちゃんと話さなきゃいけないと思ってたんだ。
…どうもありがとう。これからもよろしく」
喪女にとって、これほどの告白の言葉はありませんでした。
こうして私は、M君の言ったことについて深く考えることもなく彼とのお付き合いを始めたのでした。
後々、泣くことになるとも知らずに…。
92 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:52:24.60 ID:LZSY7jKs.net
ただの友達だったあいだ、私はM君の邪魔にならないお付き合いを心がけていた。
M君は かなりの仕事人間で、不規則で忙しい業界ではあるけど私の知る中でも、彼は一、二を争うハードワーカーだった。
年末繁忙期に休んでたあれは、彼にしてみれば相当なことだったようだ。
けれど付き合い始めてからは私のために彼の方から仕事を調整してくれるようになった。
私はそれが嬉しいと言うよりも、ほっとしていた。
知れば知るほど、M君の私生活のメチャクチャさに驚かされていたから。
93 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:52:46.52 ID:LZSY7jKs.net
一番驚いたのは、彼に「一日三食」という習慣がなかったことだ。
朝食を抜くとか、忙しくてお昼とるヒマもないとか、そういうんじゃない。
普通はお腹が減ったら何か食べるっていうのが当たり前だよね。
でも彼の中では、お腹が減ったら我慢するのが普通のことだったんだ。
少食なわけでも、好き嫌いが多いわけでもない。
私は料理が好きで、よく彼の部屋で ちょっとしたものを作ったりしたけど出されたものは、美味しそうに平らげてくれるんだ。
だけど、自分から進んで何か食べようとすることは、あまりなかった。食事って概念がない、とでもいう感じかな。
冷蔵庫はいつも空っぽで、部屋の中の食べ物の気配は、いつも生ゴミすらなかった。
「はーーーーー」と、M君が手で顔を覆ったまま 体がしぼむくらいに大きな息をついた。
「え、なに?まだなんかあるの?」
「いや……今ので気が抜けた…」
「そんな緊張してたの?」
「うん、絶対引かれて嫌われると思ってたからさ…人に話すのも初めてだし、どんな反応されるかわからなかったから。
だけど喪子とは、ちゃんと付き合いたかったから なおさらちゃんと話さなきゃいけないと思ってたんだ。
…どうもありがとう。これからもよろしく」
喪女にとって、これほどの告白の言葉はありませんでした。
こうして私は、M君の言ったことについて深く考えることもなく彼とのお付き合いを始めたのでした。
後々、泣くことになるとも知らずに…。
92 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:52:24.60 ID:LZSY7jKs.net
ただの友達だったあいだ、私はM君の邪魔にならないお付き合いを心がけていた。
M君は かなりの仕事人間で、不規則で忙しい業界ではあるけど私の知る中でも、彼は一、二を争うハードワーカーだった。
年末繁忙期に休んでたあれは、彼にしてみれば相当なことだったようだ。
けれど付き合い始めてからは私のために彼の方から仕事を調整してくれるようになった。
私はそれが嬉しいと言うよりも、ほっとしていた。
知れば知るほど、M君の私生活のメチャクチャさに驚かされていたから。
93 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:52:46.52 ID:LZSY7jKs.net
一番驚いたのは、彼に「一日三食」という習慣がなかったことだ。
朝食を抜くとか、忙しくてお昼とるヒマもないとか、そういうんじゃない。
普通はお腹が減ったら何か食べるっていうのが当たり前だよね。
でも彼の中では、お腹が減ったら我慢するのが普通のことだったんだ。
少食なわけでも、好き嫌いが多いわけでもない。
私は料理が好きで、よく彼の部屋で ちょっとしたものを作ったりしたけど出されたものは、美味しそうに平らげてくれるんだ。
だけど、自分から進んで何か食べようとすることは、あまりなかった。食事って概念がない、とでもいう感じかな。
冷蔵庫はいつも空っぽで、部屋の中の食べ物の気配は、いつも生ゴミすらなかった。
94 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:53:28.47 ID:LZSY7jKs.net
その他にも、エアコンが壊れっぱなしなのにヒーターや扇風機がないとかテレビが地デジ化してなかったりとか。
彼の部屋で、現代的で文化的で平均的な、つまり常識的生活をしようとすると、いつも何かが足りない。
仕事に夢中な独身男性の部屋なんて、きっとこんなもんだろうな〜。………て思おうとしたけど、日が経つにつれて、段々と違うことに気づいた。
一言で言えば、彼は自分を大事にできない人だった。
私と一緒だと、私が快適にすごせるように、いろいろと気を使ってくれる。だけど一人になると、たちまち自分が快適になることを放棄してしまう。
バリバリと仕事をこなし、ゲラゲラ笑いながら おしゃべりしてくれる、その裏でM君は、嘘のように無気力な生活を送っていた。
暖房のない部屋で、冷たい体のまんま空腹をやり過ごすような、そんな生活。
95 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:53:53.45 ID:LZSY7jKs.net
心配というより、気がかりでしょうがなかった。
だって彼は、ものすごいナチュラルに、さも当たり前というふうに そんな修業中の僧侶みたいな生活をしていたんだ。
私は、なんだか彼がいつの間にか消えてしまうような、漠然とした不安を感じていた。
すごく身近にいるのに、掴み所のない距離の遠さみたいのを感じていた。
一体何が、彼をそんな生活に駆り立てるんだろう?……きっとM君は、ちょっと変わった人なんだ。
彼のおかしい部分は、私が陰でフォローしてあげよう。もしかしたら、それが私の役目なのかもしれない。
せっかくこうして付き合えるようになったんだ。そういう部分で私が世話を焼いても、もうおかしくはないはずだ。
心配してるくらいなら、そうやって少しずつ生活を改善してあげればいいんだ。
そう考えることで、私はその漠然とした不安を拭おうとしていた。
96 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:55:42.91 ID:LZSY7jKs.net
ある日のこと。
私はM君の部屋で、ホットケーキを作っていた。するとM君が、私が買ってきたメープルシロップを片手に呟いた。
「子どものころ、これ一ビン舐めて気持ち悪くなったことがあったなあ…」
「一ビンも!?プーさんかwww」
「いやー。なんだか、甘けりゃなんでもよくってさ」
「挑んだねえwほかに何かおやつがなかったんかいw」
「うん、なかった」
「あー。甘いもの禁止だったんだー」
「いや、おやつの習慣自体がなかったから」
「へえ、変わってるね。でもそれじゃ、お腹空いちゃわなかった?」
97 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:56:10.45 ID:LZSY7jKs.net
私としては、子どもは胃が小さいから間食が必要、というのが世間の常識だと思ってたので、純粋に不思議になってそう聞いたんだった。
だけど それに対するM君の答えは、とても不自然なものだった。
「ま、その時はたまたま、おやつがなかったんだよ。 要するに、こんなもん一ビン舐めちゃうようなアホガキだったってことですなw」
……でもさっき、自分でおやつの習慣がなかったって言ったんじゃん?というツッコミは絶対させない雰囲気で、この会話は終わった。
私としては、おやつのことなんか、どーでもよかった。それより、何故あんなわかりやすい誤魔化しをされたのかが気になった。
98 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:56:39.57 ID:LZSY7jKs.net
彼は会話中に、そういう誤魔化しをすることが時々あった。
それまでは なんとなーく流してしまっていたけれど この会話は、何故か私をやたらザワザワさせた。
よく考えてみると、子ども時代や家族の話をしているときに ああやって誤魔化されることが多かった。
そう言えば、以前、家族の年齢の話になったとき。彼は誰の年齢も答えられなかったっけ。
生年月日を聞いたら しどろもどろになり、干支を聞いたら「忘れた」と言っていた。
例えば、親の年齢が曖昧になるくらいのことは、まあ、あるとして。
でも家族全員の、誕生日や干支すら全然出てこないなんてこと……あるかなあ?
99 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:57:09.26 ID:LZSY7jKs.net
彼は以前、家族とは疎遠になってると言っていた。私はそれを、喧嘩でもしてるのかな?程度に思ってたけど。
それならそれで、家族の愚痴くらいは出てもいいんじゃない?でも、彼には それすらなかったんだ。
子どものころに見てたテレビとか、家族旅行でどこ行ったとか。
こんなことして叱られたとか、すごくほしかったオモチャとか。
親の田舎はどこかとか、イトコのダレソレがどーしたとか。
気づくとM君はそういう話を一切したことがなくて 私は彼のバックグラウンドを、全然、なんにも知らないんだった。
その日の話だって、子ども時代によくあるような、他愛のない失敗談だよ。
誤魔化して途中で切り上げなくちゃならないことなんて、別になんにもないじゃないか。
私は確信した。彼は子ども時代や家族の話をすることを、徹底的に避けている……
100 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:57:54.52 ID:LZSY7jKs.net
そうやって考え始めたら、他のいろいろが次々湧き出してきた。
いつもは穏やかで笑顔を絶やさない彼が ふとした瞬間に、ものすごく暗い目をしてること。
物音に敏感で、大きな音にビクッとすること。
たまにじーっと黙りこんで無反応になること。
「変な奴だなー」だけで流してしまおうとしてたけど、私はもうずっと、彼への違和感をひそかに抱いていたんだ。
彼の、よく言えばストイック、悪く言えば貧しい生活。
ひょっとして、あれは子どものころからの習慣なんじゃないか?
M君の裏側に張り付いている、正体不明の何か。
私はそれを、貧乏なんだと思おうとしたり ゲイなのではと疑ったりして、なんとか正体を暴こうとしてきた。
けど、その姿がやっと見えてきたような気がした。
「虐待」の二文字が浮かんでいた。
101 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:58:25.08 ID:LZSY7jKs.net
言いたいことは言っちゃわないと気が済まない私ですが このときばかりは、さすがに慎重になりました。
ここはやっぱり、O君に話を聞くのが一番だと思って さっそく飲み会の時に交換したメアドにメールしてみた。
「M君のことで、ちょっと聞きたいことがあります。M君には内緒にしてほしいんだけど、いいかな?」
その日の夜に「どうぞ」と返信があった。
「M君って、ご家族とは どういう関係なんだろう? 疎遠だって聞いてるけど、喧嘩してたりするの?」
しばらくしてから、「違う」と返ってきた。
「喧嘩じゃないのか…。何があったのか、知ってる?」
「知ってる」とだけ送られてきた。
………電報かよ!
102 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 19:58:54.31 ID:LZSY7jKs.net
「よかったら教えてもらえないかな?ちょっといろいろ、気になっちゃっててさ」
「Mと何かあった?」
少しだけ長いメールが送られてきた。
そこで、M君に漠然とした違和感や不安を感じていること、それは もしかしたら、家族との関係からきてるんじゃないか? と思っていることを送信したら。
「ちゃんと話したいから、今度うち来て」
「そんなご迷惑をおかけするわけには…電話じゃ駄目かな?」
「長電話の方が迷惑。それと、Mについてはカミさんが詳しい」
「え?奥さん、M君と親しいの??」
「違う」
「じゃあなに?」
「来ればわかる」
メール打つの面倒でごさるの構えか……
こうして私は、O君宅へお邪魔することとなった。
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