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三十路の喪女に彼氏ができたときのお話
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162 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:04:21.62 ID:LZSY7jKs.net
M君は私の体を押し離した。

「ちょっと大袈裟に話しすぎたかなー。別に、そんなに寂しい子ども時代だったわけじゃないよw 心配してくれたのは嬉しいけど今日のことは気にしないで、もう忘れてよw」

そうか。

彼はいつもこうやって、自分の子ども時代をなかったことにしてきたのか。

涙ぐむでも怒るでもなく、いつものにこやかな顔のままでさ。

だからそれだけなら、私の勘繰りかも、となるだろうけど。


でもさー、映画見て吐くほど心が葛藤するなんて事態は忘れてしまっていいはずはないよねえ。

メープルシロップの時と、この日と。

私はもう二回も、子ども時代のM君が消される現場に立ち合っている。

それなのに、私はあまりにも無力だった。

「人は人を変えることはできない」という言葉の意味を実感していた。



163 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:04:56.14 ID:LZSY7jKs.net
そんなこんなで、やがて問題の一年が過ぎようとしていた。

けれど、M君タイマーが発動される気配はちっともなくて周りからは呆れ気味に「夫婦漫才か」と言われるようなバカップル的な楽しい付き合いを相変わらず続けていた。


M君とは、モラハラを仕掛けられるどころか喧嘩すらしたことがなくて少なくとも私は、彼と一緒にいることで、不愉快な思いをしたことはなかった。

そんなふうに、私たちはとても仲が良いカップルだった。

だけど言ってしまえば、私たちは ただ仲が良いだけのカップルだった。

男女としての行為はもちろんあったし、私って大事にしてもらえてるなあ…と、キュンとすることもあった。

けれど私たちの関係には、決定的に欠けているものがあった。



164 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:05:20.81 ID:LZSY7jKs.net
それは、なんと言うか、「深み」とでも言うのかな?

M君は感情の中でも、喜怒哀楽の、怒と哀を一切表現しなかった。

イラッとしたり、ウルッとしたりってレベルですら、見たことがなかった。

なので、嬉しいとか楽しいばっかりじゃない部分で本音でぶつかりあったり、相手の苦悩を受けとめたりするような機会が私たちの間には全くなかったんだ。

負の感情をさらけ出すことを極端に避けるM君の生き癖は私たちを「仲良し」止まりで固定し、それ以上の関係になることを拒んでいた。


そのことは知らず知らずのうちに私を焦らせていたのかもしれない。

私は自分の手で、M君タイマーの針を進めてしまうことになった。



165 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:05:44.02 ID:LZSY7jKs.net
ある日、私は同僚の結婚式に出席した。


私、結婚式って大好きなんですよ。自分がどうのこうのではなくて、行事として好き。

綺麗な服着て美味しいもの食べてみんなが幸せそうにしてる、あの晴れやかさがいいのね。

その日のお式も、とても温かい雰囲気のもので数日後にM君と会ったとき、私はそのことを話した。

すっごくいいお式だった、私、結婚式大好き!みたいに。

無神経だったかな、とは思う。

M君は、ちょっと困ったような顔をした。


「……喪子は、結婚したいの?」


「えっ!?あっ、別にそういう意味で言ったわけじゃないから!」


いつもなら「ふうん、そっか」と引き下がるはずのM君が、この日は違った。





166 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:06:11.33 ID:LZSY7jKs.net
「いや、どうなの?結婚したいの、したくないの?」

私、馬鹿だよねえ。そう問われて、ドギマギしてたんだから。

「そりゃ、…興味はあるよ」


「俺、結婚願望ないんだよね」


間髪入れずに返された。はあ…、左様でござるか。

「まあ私も、どうしてもってわけじゃないからな〜」


「でも、したいと思ってるんでしょ?」


「うん、いつかはしてみたいね」


「ふうん、そっか」


やっとM君の「そっか」が出た、と思ったら。


「じゃあ、別れようか」


…………へっ!?



167 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:06:41.11 ID:LZSY7jKs.net
「待て待て待て待て、ちょっと待ってよ!なんでそーなる!?」


「だって結婚したいと思ってるのなら、結婚願望ない俺と付き合っててもしかたないでしょ」


「べつにM君とどうとかってつもりで言ったわけじゃないよ!?」


「俺とどうとか思ってないのなら、余計俺と付き合っててもしかたないよね」


なにその「はい論破」!?

正論なのに、全然納得できないよ!



168 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:07:02.91 ID:LZSY7jKs.net
「そんなことないよ!?M君に結婚願望ないからって、それが別れる理由にはならないよ!?」


「あのさ、こういうのって、需要と供給なんじゃないかな」

今度は経済用語ですか!?

「結婚願望のある人同士が付き合うのが、効率いいんじゃない?」


「私、効率いいか悪いかで人と付き合ってないもん!」


「だけどいずれは結婚したいのなら、結婚願望のない俺なんかとは別れて他の男と付き合ったほうが喪子にとってはいいんじゃない?」


「結婚だけが付き合う理由じゃないよ!そんなの、付き合った結果で結婚するかどうかじゃん!」


「だから、結婚願望のない俺じゃ、その結果がはじめから見えてるでしょ」


ぐはっ! そうくるのか…



169 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:07:25.38 ID:LZSY7jKs.net
「でもそんなの、今しなくてもいい話じゃない。私が結婚したいと思ったら、そのとき考えればいいことで…」


「いずれしなくちゃならないなら、今してもいいんじゃないかな。俺、自分のわがままに喪子を付き合わせることはできない」


「なによそれ………M君の言ってること、なんかおかしいよ」


「どこが?」

「だってさ…私だってもういい歳だし、結婚話が出るのは自然じゃない。

でもM君は、自分に結婚願望ないことなんて、始めからわかってたでしょ?

なのに、どうして最初の時じゃなく、今なの?

しかもそれが私のためだって言うの?全然意味わかんないよ、そんなの。

ひょっとして、これはあれ?一年経つと別れたくなっちゃうっていうやつ?」



170 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:07:49.20 ID:LZSY7jKs.net
M君の顔から、すーっと表情が消えた。

わかってもらえるかな? それまでも無表情ではあったんだけど、なんていうか、無表情って表情まで消えた感じだった。

正直言って、怖かった。私、いまM君の地雷踏み抜いたんだってわかった。

「そうだね、最初に言っておいたよね、俺はこういうことするって。でも、それでもいいって言ったのは、喪子だよね?」

ん?どこかで聞いたな、このセリフ。

…………あー。

M君、それは言ったら駄目だよ。それを言ったら、おしまいになっちゃうよ…



171 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:08:15.29 ID:LZSY7jKs.net
「…よし!それじゃあ私、帰るわ!」

それ以外、なんにも思いつかなかった。

「そうだよ、私あのとき言ったもんね、これは私の選択だって。だからM君は、なんにも悪くないもんね!」

こういうのも売り言葉に買い言葉って言うのかな。

私は とにかくその場から離れたくてしかたなかった。初めて見るM君の冷たい態度が怖かったし、悲しかったし

それに最初の話からすれば、いま彼は、私を憎悪してるんだから。

……………どうして私が憎悪されなくちゃならないのかなあ……?



172 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:08:43.29 ID:LZSY7jKs.net
家に帰ると、母から「あれ、早かったね」とかなんとか声をかけられた。

その瞬間、私の涙腺は信じられないほど大爆発した。

「なに!?どうしたの!」

「ぎゃーす!ぎゃーす!」

「なにがあったの!?どうしたの!?」

「ぎゃーす!ぎゃーす!」

「………あーあーまったく…そんな子どものときみたいな顔して泣いてー」


何十年かぶりで母に抱きしめられた。





173 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:09:09.84 ID:LZSY7jKs.net
「おがあざん!ぐやじいよー!!!」

「うんうん、付き合ってれば色々あるよねえ」

「でも、もうだめだー!おわりだー!!!」

「うんうん、人の心は難しいよねえ。

でもお母さんは知ってるよ、喪子はとっても頑張ってたよ。

M君と付き合ってから、喪子はうんときれいになったよ」


三十女が、母親にしがみついて泣いた。

もうグロ注意って感じ。ほんとごめんなさい。

しかも一部親バカ発言も書いた。ほんとごめんなさい。

でも、母親って本当に偉大だよね。

そうされてると、たいしたこと言われたわけでもないのに落ち着いちゃうんだ。

さすがお母さん、私を産んだ人。


そしてM君は、この安心感を知らずに生きてきたんだなあ…。



174 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:09:47.17 ID:LZSY7jKs.net
O君は、電話口で声を詰まらせている私を、また家に呼んでくれた。

私は二人に謝った。

せっかくあんなにアドバイスもらったのに、なにもできませんでした。ごめんなさい…

「そんなことがあったんですかー。でもそれ、喪子さんは何にも悪くないですよねえ」


「そ、そうでしょうか…」


「喪子さん、あんなに気をつけてたのにMさんに乗せられちゃいましたね。すごい、感心しちゃう。あざやかだなあ」


「そんなところに感心しないでくださいよお。私は これまでの彼女と違って、いろんなこと知ってたはずなのに…一年のジンクス、破れなかったなあ…」



175 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:10:11.16 ID:LZSY7jKs.net
「やっぱり別れるんだ?」

O君の声が、心なしか沈んでいる。


「だって、別れるしかないもん…」


「でも喧嘩して仲直りするって、男女の付き合いの基本じゃないか」


「だけど、普通の喧嘩じゃないんだよ?私、いまM君から憎悪されてるんだから…」


「今回、あいつは自覚的に変わろうとしてたわけだし いまごろ、やっちまった!ってなってるんじゃないかね?」


「でも、別れることで彼の不安は解消されるんでしょ?だったら私、M君のために別れるよ……」



176 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:10:47.31 ID:LZSY7jKs.net
「喪子さん!」

Sさんが、強い口調になった。

「別れるのなら、Mさんのためじゃなくて、自分のためになさい!」

「ふお!?」

「Mさんは、いつものMさんのセオリーどおりに動いています。でも喪子さんが、それにあわせなきゃならない決まりなんてありません。

別れるなら別れるで、喪子さん自身が納得できる理由で別れればいいんです。

納得できない消化不良のまま別れてしまうと、その消化不良を解消しようとして他の人と同じような恋愛を繰り返すことになっちゃいますよ?」


「だ、だめんずうぉーかー…」


「そういうことです。喪子さんが、あんな顔だけの屁理屈男、もういいやってのならいいんですけど」

うわあ…Sさんにかかるとひどい言われようだな、M君。



177 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:11:13.35 ID:LZSY7jKs.net
「………私、本当はこのままM君と別れたくなんかないです。

悲しいし悔しいし、何より納得いかない…。どうして私が憎悪されなきゃならないの?

別れるなら別れるで、こんな一方的な形じゃなくてちゃんと話し合って、二人で決めたいんです」


「だったら、その気持ちをMさんにぶつけてみたら?」


「でも…………怖いんです。私、憎悪されちゃってるわけだし… あんな冷たいM君には、もう会いたくないんです…」


「あー、それ…。普段穏やかな人が急に機嫌悪くなったら誰だってビビって、自分が悪いんだって思っちゃいますよねー」


「はい…」


「そうやって自分を悪者にしておけば相手がどんなに理不尽でも、立ち向かわなくて済みますもんねー」


「あああああ………はい…」



178 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:11:44.77 ID:LZSY7jKs.net
「あのね、ずっとそうやって逃げ続けてきたわけですよ、Mさんも」


「………あ〜。」


「親は悪くない。自分が悪い。そういうことにしておきたいんです。 だって、親が悪いと気づいてしまうことは親が自分を愛していないと気づいてしまうことになるから」


グサッときた。ああ…。

言い換えれば、私がM君が悪いと気づいてしまうことはM君が私を愛していないと気づいてしまうことになるのか…。


察してくれたのか、Sさんはちょっと優しい声になった。

「喪子さんに変わりたいと言ったMさんの気持ちは、嘘じゃないでしょう。

だけど、今回彼は、変わらないことを選んだ。ただそれだけの話なんです。

だったら喪子さんだって、どうするかは自分で選んでいい。Mさん基準で行動する必要は どこにもないですよ」



179 :1@\(^o^)/:2017/01/03(火) 21:12:36.40 ID:LZSY7jKs.net
その言葉ではっとした。

そうだ。私はいつも、自分がM君に合わせるべきなんだと、どこかで思ってた。だってM君は不幸な生い立ちなんだから。

だから私が我慢しなくちゃって、ずっと思ってた。

でもそれって、M君を見下してることにならないか………? 私はM君が可哀想だから好きになったんじゃない。

彼にはいいとこがいっぱいあって、私はそこを好きになったんだ。

その気持ちこそが私の原動力で、一番最初は生い立ちなんて関係なかったはず。

言いたいことは言っちゃわなきゃ気が済まないはずなのに いつの間にか、私は自分の気持ちを どこかに置き去りにして、自分を誤魔化していたんだ。

M君のやり方に、いつの間にか倣っていた。


よし、戻ろう。

こんなの私じゃないや。本来の私に戻ろう。

初めのころの目線の高さで、もう一度M君に向き合おう。もう逃げないで全力でM君にぶつかろう。

もしこれで最後になっても、思い残すことのないように。




>>次のページへ続く
 
カテゴリー:男女・恋愛  |  タグ:純愛, 相手の過去, メンタル, メンタル,
 


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