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今日、彼女の父親は死ぬ
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51 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:47:59.07 ID:7//OxQ26.net[44/87]
「ごめんね……こんな話しして、迷惑だよね」

彼女は目に涙を滲ませながらそう言った。

「そんなことない、話してくれてありがとう。なぁ、明日、家に行っていいか?」

「えっ、私の家?」

「ああ」

もうこれしかないと思ったんだ、明日、彼女が父親を殺す日、直接家に行って彼女を止める。

いや、彼女の父親の虐待を止める、そうしようと思った。



52 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:48:22.51 ID:7//OxQ26.net[45/87]
「でも……」

彼女は言い淀んだ

多分僕に迷惑をかけたくないと思っているんだろう。

「これからとても無責任なことを言うけどいいか?」

「……」

彼女の返事を待たずに僕は続けた。

「多分、このことについて、お前はずっと悩んでたんだと思う。

僕があれこれ口を出していいことじゃないんだと思う。でも、僕はお前の力になりたい。

だから、 僕にお前を助けさせてほしい。そしてお前の笑顔をもう一度見させてほしいんだ」



53 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:48:48.50 ID:7//OxQ26.net[46/87]
こうやって話すと、僕は相当かっこよく見えるだろうけど、多分僕は何回か噛んだし、実際はこんなにスラスラ言えてなかったと思うよ。

とにかく必死だったんだこのときは。



54 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:49:51.01 ID:7//OxQ26.net[47/87]

こうやって話すと、僕が相当かっこよく見えるだろうけど、多分僕は何回か噛んだし、実際はこんなにスラスラ言えてなかったと思うよ。

とにかく必死だったんだこのときは。






55 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:50:38.52 ID:7//OxQ26.net[48/87]
「うん……ありがと。私を……助けて……」

僕の必死の叫びに彼女はそう答えてくれた。

僕に助けてほしいと言ってくれた。

それだけで僕は嬉しかったんだ。



56 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:51:02.59 ID:7//OxQ26.net[49/87]
「それから、今日は家に帰るな。僕と一緒にいよう」

もう彼女を家には帰したくなかった、

今日家に帰ってなにか暴力を受けるのが耐えられなかった。

「うん」

彼女は頷いてくれた。

そして、少しだけ笑ってくれた。

僕はこの笑顔を守らなきゃいけない、そう誓ったんだ。



57 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:51:34.43 ID:7//OxQ26.net[50/87]
この日は公園に移動して、一晩中話した。

このとき、やっと久しぶりに本当の彼女と会話できた気がしたな。



59 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:52:10.10 ID:7//OxQ26.net[51/87]
次の日、事件が起こった日、朝から彼女の家に向かった。

彼女が父親を刺したのは、九月十七日の朝九時頃だと聞いていた。

そして、彼女の家に着いたのが八時五十分、彼女が父親を刺す正確な時間はわからなかったが、とにかくここから二十分くらいが勝負だった。



60 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:52:44.00 ID:7//OxQ26.net[52/87]
ただ、僕はこのときほぼ勝利を確信してたんだ。

このときの彼女の様子から父親を殺すとは思えなかったからね。



61 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:53:07.63 ID:7//OxQ26.net[53/87]
家に入ると、大きな男の声で怒声が響いた。

「おまえ、どこ行って……」

酒で焼けた声の主は僕を見て言葉を止めた。

「誰だ、お前」

「友達です、彼女の」

「何しに来た?」

彼女は僕の後ろで、僕の袖を掴んで震えていた。

だから僕は彼女を安心させるためにも、できるだけはっきりした声で目的を口にした。

「彼女を助けに来ました」

そう口にした次の瞬間、頬に激しい衝撃と痛みを感じた。

彼女の父親は、床に倒れこんだ僕の腹を続けざまに蹴り飛ばした。



62 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:53:56.25 ID:7//OxQ26.net[54/87]
情けないことに僕の身体能力は、酒に溺れた中年にさえ劣るようだった。

彼はなにか喚きながら僕を蹴り続けた。

何を言っているか聞き取る余裕はなかったよ。

まぁ、聞く価値もなかっただろうけどね。





63 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:54:25.12 ID:7//OxQ26.net[55/87]
彼女の父親の暴力は一秒の休みもおかずに続けられた。

毎秒生きているのが嫌になるくらいの激しい痛みが続いた。

僕は、とりあえず彼女に逃げてもらわなくてはいけないと思ったんだ。

もう声も出ないかもしれない、それでも目でだけでも逃げろと伝えたかった。

だから、暴力の嵐の中、彼女がいた場所を見た。



64 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:55:06.15 ID:7//OxQ26.net[56/87]
でも、そこに彼女はいなかった。

気付くと、僕への暴力は止まっていた。

いや、止めさせられていた、だな。

そしてすぐに、暴力の主の叫び声が響く。

彼の身体には包丁が突き立てられていた。

彼女は一度刺さった包丁をぬき、また刺した。

何回も何回も刺した。

時計の針は九時十二分二十一秒を指していた。



65 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:55:56.30 ID:7//OxQ26.net[57/87]
数分が経ち、全てが終わった後、僕は彼女に近づいた。

僕が何も言えないでいると、彼女が口を開いた。

「ごめんなさい……私のせいで、私が余計なことを言ったから、そんな傷を……本当にごめんなさい。お父さんじゃなくて私が死ねばよかったんだよね。私が死ねば……私さえいなければ、みんな……」

彼女は荒れた息で、血まみれになって、涙を流しながらそう言った。



66 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:56:21.38 ID:7//OxQ26.net[58/87]
僕は失敗したんだ。

彼女を助けられなかった。

それどころか彼女に助けられた、助けられてしまった。

彼女は僕のせいで父親を殺したんだ。



67 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:57:01.46 ID:7//OxQ26.net[59/87]
自分を呪ったよ、やり直しのチャンスを与えてもらって、それなのに僕は失敗したんだ。

もう一度戻らさせてくれ、そう思った。

今度はもう少しだけ前に戻してくれ、と。

そうしたら今度こそ彼女を助けてみせる。

だから戻らさせてくれ。



68 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:57:38.09 ID:7//OxQ26.net[60/87]
そして奇跡が起きる。

僕はもう一度時を巻き戻すことに成功した。

しかも、今度は事件が起きる一ヶ月前に。



69 :名も無き被検体774号+@\(^o^)/:2016/03/26(土) 20:58:02.30 ID:7//OxQ26.net[61/87]
だが、彼女を助けるという誓いが守られることはなかった。

僕はまた失敗した。

そしてまた戻った。

そしてまた失敗した。

また戻った。

また失敗した。




>>次のページへ続く
 
カテゴリー:読み物  |  タグ:青春,
 


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